バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語   作:鳳小鳥

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少しスランプに陥ってしまい間が開いてしまいました。すみません。


問7 それぞれの思惑

ラブレターの待ち合わせといえば昼休み、もしくは放課後の校舎裏が定説だ。

そんなわけで、僕は四時間目の授業が終わると同時に木下さんの動向をじっくり観察していた。

今朝のラブレター。あれは間違いなく木下さんに好意を抱いた誰かによる犯行だろう。

ただでさえムサイFクラスの中で咲いている一輪の花を独り占めしようだなんて、断じて許せない行為だ。相手を確実に見つけ出して然るべき刑に処さねば。

ラブレターを出した相手に殺意を募らせながら様子を伺っていると、件の木下さんは鞄から袋を取り出して立ち上がった。

 

「美波、ご飯食べましょ」

「うん。いいわよ」

 

笑顔で同意して島田さんはお弁当を卓袱台の上に置く。いつのまにかあの二人もすっかり打ち解けているみたいだ。

 

「島田さん。木下さんと仲良くなったんだね」

「まあね。優子に授業でわからなかったところで悩んでる時に教えてもらってたのよ。彼女すっごく頭良くてびっくりしたわ」

「あはは、ありがとう。でも美波だって日本語がわからないだけで教えればすぐ理解してくれるからアタシも教え甲斐があったわ」

 

そういえば島田さんはドイツからの帰国子女なんだっけ。

だからまだ日本語に慣れてないだけで別に頭は悪くないってことなんだろうか。確かに去年も数学とかの理数系の点数はそれなりによかったし。

 

「へぇ、島田さんに勉強教えられるなんてやっぱりすごいね木下さんは」

「それどういう意味よ吉井」

「え? ち、違うよ! 僕は暴力的だけどFクラスの中で頭のいい島田さんに勉強を教えて上げられるのはすごいと言っただけで、別にバカにしたわけでは僕の肘関節が捻じ切れるように痛いぃーーーっ!?」

「余計な言葉まで付け足さなくていいのよーっ!」

 

おかしい! どうして褒めたのに怒られるんだ!?

 

「こら! 教室内で暴れないの! 他のクラスメイトに迷惑でしょう」

 

僕の腕に絡み付いている島田さんを見て注意する木下さん。

このクラスで常識的な台詞を聞いたのは初めてなような気がするな。

 

「そ、そうね。ごめん……」

 

怒られて冷静になったのか島田さんの動きが止まる。た、助かった……。

 

「ありがとう木下さん。おかげで助かったよ……」

「はいはい。でも吉井君も悪いんだからね。あんまり美波を挑発するんじゃないの」

「ご、ごめんなさい」

 

僕まで怒られた。なんだろうこの逆らえない雰囲気。今の木下さんは雄二よりも代表っぽい。

 

「ところで吉井、ご飯は? まあどうせ塩とか油なんでしょうけど」

「失礼な、そんなことないよ」

「あれ? そうなの」

「ちゃんと砂糖もある」

「吉井君、それは反論のつもりなの……?」

 

あれ、変だな。

 

「ま、まあそれはともかく、昨日木下さんがカロリーを分けてくれたからもうしばらくは大丈夫だよ」

「…………言っておくけど、今日はあげないからね」

 

持ってきたサンドイッチと紙パックの紅茶を両手で隠しながら木下さんは口を尖らせて言う。

木下さん、君は僕という人間を激しく誤解している。

 

「だ、大丈夫だよ。今日は一応ちゃんとした食べ物も持ってきたんだから」

「ふぅん、──それって、あんぱん?」

「うん。今日登校中にコンビニに寄ったんだ」

「……吉井、知ってる?」

「? 知ってるって……何を?」

「万引きって犯罪なのよ……?」

「知ってるよ! というかそもそもそんなことしてないから! これはちゃんと自腹を切って買ったんだよ!」

 

なんて失礼なことを! 僕は生まれてこの方万引きや盗みなんて働いた事はないというのに!

 

「へぇ。……あれ? でもどうして今日に限って普通の食事なの? 今日って何か特別な日だっけ?」と島田さん。

「うーん、特別といえば特別かもしれない」

 

何せ一日で3通もラブレター(一部不明)を見たぐらいだし。

 

「それはともかく──まあ偶には僕だって贅沢したいしね」

「吉井君、あんぱん一個は別に贅沢でもなんでもないと思うんだけど……」

 

価値観って人それぞれだよね。

 

「木下さんは? 今日はお弁当じゃないみたいだけど」

「ああ、これはね──」

 

「んむ? ワシを呼んだかの?」  

 

木下さんに質問をすると、別の場所から秀吉の声が聞こえてきた。

 

「秀吉、どしたの?」

「どうしたもなにも今ワシの名前を呼んだのではなかったのか?」

「? 別に呼んでないけど?」

「変じゃのう、今確かに木下と聞こえたのじゃが……」

「ああなるほど、そういうことか。僕が声を掛けたのはお姉さんの方だよ」

「なんと、そうじゃったのか」

「うん、それに秀吉を呼ぶときはちゃんと秀吉って言うじゃないか」

「それはそうじゃが全員が全員そう呼んでおるわけではないしのう……、一応ワシの苗字も木下じゃから。苗字で呼ばれるとつい反応してしまうのじゃ」

 

そういえばそっか。昨日島田さんも言ってたけど、クラス内に同じ苗字の人がいるとどっちがどっちだかわからなくなるよね。

双子ともなれば尚更だ。小学校や中学校の時とかでも双子って意図的に同じクラスにならないように調整されてたし。

困ったような顔をする秀吉に、お弁当の蓋を開いてる島田さんは双子を交互に見ながらポツリと言い放った。

 

「双子って大変なのねぇ」

「ええ。小学校の頃とかもよく秀吉と間違えられたりして困ったわ……」

 

溜息を吐きながら呟く木下さん。妙に感情が篭ってたけど余程のことがあったんだろうか?

 

「姉上はまだ良いほうじゃろう。ワシなんて男子便所や男子更衣室に入るたびに騒がれたり男だと認識されず同性に告白されたりと散々じゃ」

「それは今もだよね?」

 

秀吉は早く自分の魅力に気がつくべきだと思う。

 

「それは普段から女々しいことばかりしてる秀吉の自業自得でしょう。その所為でアタシまで迷惑してるんだからね」

「しかし姉上。ワシとて好きでやっているわけではないぞ。それにいくら頑張ったところで顔は変えられぬ」

「なら髪をばっさり切ってしまえばいいじゃない。そうすれば少しは男っぽくなるんじゃない?」

「それは無理じゃ。この髪は演劇に必要じゃから絶対に切れん」

「なによそれ。……はぁ、まったく面倒ね」

「それはワシの台詞じゃ」

「なによ」

「なんじゃ」

「ま、まあ落ち着いて二人とも。喧嘩は良くないよ」

 

微妙にギクシャクとしている姉妹の会話の慌てて口を挟む。

この二人、家ではあまり仲が良くないのかな?

 

「でも確かに面倒よね。今までは木下って呼んでたけど、ウチもこれから秀吉って呼んだ方がいいのかしら?」

「ワシはそれでも構わぬが」

 

ふむ、名前か。それなら間違えることもないな。

 

「じゃあ、僕は優子さんって呼べばいいってことだね」

「はひっ!?」

「ちょ!? 吉井、何言ってるのよっ!」

「え、なんで?」

「……明久、お主は自分が何を言ったのか理解しておらぬのか?」

 

何を言ってるんだろう秀吉は。

別に苗字が同じで間違えやすいなら名前で呼べばいいだけで──ってうぉおおおっっ!?

そういうことか! バカァ! 僕のバカ!!

何やってるんだ僕は! まだ友達になって間もない、しかも女の子に対していきなり馴れ馴れしく名前で呼ぶなんて失礼にもほどがあるじゃないか! 

現実に頭が追いついた途端、自分のしたことが猛烈に恥ずかしくなって慌てて口を開いた。

 

「違うんだよ木下さん! こ、これは秀吉と明確に区別するために思って試しに言っただけで決して邪な思いがあったわけではなくて──!」

「あ、アタシは別に……それでも、いいけど……」

「ゑ?」

 

予想外な返答に思わず間抜けな声が出た。

いいって、名前で呼ぶことが? ほんとに?

 

「あれ、いいの?」

「あ、あくまで秀吉と間違えないようにするためだからねっ! それだけだから!」

「う、うん……」

 

顔を赤らめてぷいっとそっぽを向きながら言い放つきのし──優子さん。

うう、自分から言ってしまった事とはいえなんとも照れくさい。ちゃんと慣れる事ができるかな。

 

「むー」

 

と、そんなやりとりを見ていた島田さんは何故か不満げな表情を浮かべていた。

 

「ちょっと吉井」

「ん、何島田さん?」

 

ポキリ

 

あ、嫌な音。

 

「がぁぁぁぁあぁぁああ僕の腕が曲がってはいけない方向に曲がってるぅーーっ!?」

「どうして優子は名前でウチは苗字のままなのよーっ!」

 

僕の腕を(締め付けるぐらい)強く抱きしめたまま顔を真っ赤にして声を荒げる島田さん。

意味が分からない! 彼女は一体何を言ってるんだ!

 

「だって島田さんは同じ苗字の人なんていないじゃないか! だから名前で呼ぶ理由もないしっ!」

「理由? 理由ですって? ……そう、理由があればいいのね……」

「へ?」

「吉井──いえアキ。──そう、ウチからこれからあんたのことアキって呼ぶからあんたはウチのことを美波と呼びなさい」

「なんでっ!?」

「なんでもよ! さもないと──」

「さもないと?」

「このまま腕を折るわ」

 

それは僕に選択肢がないじゃないか!

 

「わ、わかった! 美波! 美波って呼ぶからお願いだから腕を解放してぇっ!」

「ふん、……バカ」

 

ようやく美波の魔の手から解放されすっと腕が軽くなる。

腕の調子は──よし、なんとか無事だ。よかった。

途中で指先の感覚がなくなった時にはもう駄目かと思ったよ。

 

「……ねえ秀吉。吉井君と美波っていつもこんな感じなの?」

「まあ、そうじゃな。去年からずっとワシは見てたのじゃが、二人の間柄はいつもこんな感じじゃ」

「……ふぅん、吉井君も大変ね」

「それに関しては同意するのう」

 

僕と美波が言い争っていた傍で木下姉妹は静かに僕たちを観察しながらぽつぽつと感想を述べていた。

 

「相変わらずお前らは見てて飽きないな」

「…………(こくん)」

「あ、雄二、ムッツリーニ」

 

いつのまにか教室からいなくなっていた二人が僕達の傍にやってきていた。

 

「どこ行ってたの?」

「なに、ちょっとした敵情視察だよ」

「敵? 坂本君、どこかと戦ってるの?」

 

雄二の台詞に優子さんが首を傾げて問う。

多分だけど、雄二が言ってるのは試召戦争の件じゃないかな。

クラスの人数やクラス間の廊下の広さ、実戦を想定した守備配置の想定とか、きっといろいろ作戦を練っていたんだろう。

普段は堕落して何もしない癖に、こういうことに人一倍真剣なコイツらしい行動だ。

 

「まあな。代表は何かと忙しいんだよ」

 

それを曖昧に濁す雄二。

昨日、秀吉からお願いされたことを一応は守っているらしい。

優子さんの質問に横柄な態度で返した雄二は、そのままどっかりと畳の上に腰を下ろした。

そして、何故か僕の肩に手を置いて耳に囁きかけてくる。なんだ?

 

(で、そっちは何か進展あったのか?)

(進展? 何それ?)

(今更誤魔化すなよ。ずっとラブレターのことが気になってたんだろ?)

(ぶふぅっっ!?)

 

「ん? どうしたのアキ?」

「な、なんでもないよ!」

 

ちょ、雄二! どうしてそれを!

 

(なんだ、その様子だと何も進展なしか)

(……進展もなにも、ついさっきまですっかり頭から離れてたよ)

(ほぉ、つまりお前にとってもそれほど気になるレベルのことじゃなかったってことか)

(そういうわけでもないんだけど……)

 

痛かったり恥ずかしかったりで全然考えてる暇なかったからなぁ。

 

「……坂本君と吉井君。さっきから何をひそひそと話してるの?」

「あの二人にことじゃから、また何か悪巧みでも考えておるのじゃろうて」

「…………(パシャパシャ)」

「どしたの土屋。ウチらの写真なんて撮って」

「…………姉妹揃った品は珍しい。今ならまだプレミアとして価値あり」

「秀吉、彼は一体何を言ってるの……?」

「気にしたら負けじゃ姉上。あとムッツリーニ、ワシは男じゃぞ」

「…………戸籍上の性別に意味はない。目に見えているものだけが真実だ」

「かっこいいことを言っておるように見えるが全然違うからの! ワシは生物学的にも正真正銘の男児なのじゃから」

「…………俺は騙されない」

「駄目じゃ。これはもはや言葉では説得できん」

「……Fクラスって、わからないわ………………」

 

僕と雄二が話している脇で、みんなで各々の会話を繰り広げていた。

 

(雄二こそどうなのさ。試召戦争、随分やる気みたいだね)

(当たり前だ。Aクラスの勝つのは俺の悲願でもあるからな)

(へぇ……、雄二がどうしてそこまでAクラスに勝ちたいのか知らないけど、どれだけ前準備したって優子さんが参加してくれないとどのみち試召戦争で勝ち目はないんじゃないの?)

(わかっている。…………だが、それはあくまで上位クラスに挑む場合の話だろ?)

(へ?)

(別に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。)

 

ニヤリと口の端を吊り上げながら雄二は呟く。

 

(ど、どういうこと!?)

(そのうちわかるさ。それまで楽しみにしとけ)

 

意味深な台詞を最後に、雄二はまた教室を出て行った。

うむぅ、ラブレターも気になるけど雄二の目論見も見過ごせない。

一体、これからどうなるんだろう……。

 

 

 

 


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