Fate/Apocrypha - Romancia -   作:己道丸

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大変ご無沙汰しております。
FGO、Apocryphaコラボ復刻しましたね。その勢いで一念発起し、途中だったものを仕上げてまいりました。不定期更新で大変情けないありさまですが、お目にかかったときに呼んでいただければ幸いです。

しかし“赤”の陣営のマスターの活動を書いた作品、というのも我ながら珍しい方なのでは無いか、と思いますね。実質オリキャラみたいなもんですが。


02:彼と彼女について e

     ※※※

 

 

 

 

 

 拓かれた山があった。

 石と煉瓦。

 鉄と硝子。

 木と塗料。

 山を埋める岩と樹を掻き分け、それが人が住むに良い場所を作っている。

 街だ。

 ここには街がある。

 当世にあって古めかしい、中世の街並みがここにはある。

 煉瓦を敷き詰めた道。

 華やかに塗られた壁。

 手入れされた窓硝子。

 そうした家々の屋根は三角形を描き、所々に窓と煙突が穿っている。それらは画一的であったが、家毎の壁はそれぞれ一軒ごとに色が異なり、戯画のような彩りの豊かさを見せている。

 統一された屋根の下の、華やかな街並み。

 その間を刻む街路は、うねりを描き丘陵を登っていく。

 丘陵の頂きに向け、幾つもの道が集約されたところにそれはあった。

 尖塔を頂く建物だ。

 ほのかに夕の朱色を残す壁。

 天を指す大三角の如き屋根。

 山の頂きから、少しでも高いところへ。

 より高いところを指し、崇めるように。

 その建物は、彼の者を讃え謳うための建造物として、ここにある。

 シギショアラ。

 その建造物がある街を、住む者と来る者はそう呼んだ。

 山上教会。

 そうした者達は、この建造物をそう呼んで訪れていた。

 屋根から鋭く伸びる塔の先、空の頂点から陽は既に傾きを進めていた。陽と空は今日一番の色濃さを見せ、赤く染まる前に精一杯の輝きを降らせている。

 風は涼やかである。

 穏やかでもあった。

 教会の前に拓かれた道に沿う並木は緩やかにさざめきを鳴らす。

 教会の前はほのかな静けさで満たされていた。

 しかし、

 

「――ふざけるな!」

 

 平穏とは破られる。

 それは、常に人の業だ。

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 

 叫びはあらゆるものを打ち据えた。

 緩やかに弧を描く天井。

 柱を埋め込んだ白い壁。

 陽光が差す四つの大窓。

 彫刻と絵画が組む祭壇。

 整然と並ぶ長椅子の群。

 そしてそれらに座る者達の体を、叫びは打ち据える。

 これらを一括して包み込む礼拝堂は震え上がっていた。

 山上教会の内側。

 人が尊ぶ宗教施設。

 多くが訪れることを望むその場所は、しかし少数人の悪感情で満たされようとしている。

 彼等は、長椅子に座すその者達は、誰も彼もが素知らぬ顔で他所を向いていた。

 ある者は天井を仰ぎ見てほくそ笑み。

 ある者は隣り合う者と顔を見合わせ。

 ある者は手にした書へ視線を落とす。

 誰も彼もが、叫ぶ者と目を合わせようとはしなかった。

 誰も彼もが、疎通を望もうとはしなかった。

 山上教会が悪感情で満たされようとしている。

 怒りと。

 嘲笑と。

 無関心に。

 たった一人の例外を除いて。

 それがシロウだった。

 

「……」

 

 シロウ・コトミネ。

 彼は精悍な若者である。

 逆立つ白い髪、活力を秘めた目つきと微笑み、鍛えられたことをうかがわせる確かな首筋には、金の十字架で結ばれた首飾りがかけられている。細くも芯の通った立ち姿は、その顔立ちと両手を除いて黒い祭服が包み込んでいた。

 そして祭服の上には、十字架の意匠を印した外套を羽織っている。祭服も含め、いずれもが厚手の布地だ。しかしシロウはそれを意に介した風もなく、汗一つ無い涼しい顔で祭壇の前に立っている。

 しかしその眉尻は僅かに下っているのを、この場にいる者達は気づいていなかった。

 

――さて、どうしたものでしょうね

 

 神父であるシロウは、その苦悩を表にすることは無い。

 悩める者を導くことが、課せられた役目だからだ。

 たとえ動じていたとしても、それを表に出すことは許されない。

 否、それを表に出すことを、自らに許そうとは思えない。

 教導する者、率いる者の務めであると、シロウはそう思っているからだ。

 不和から目を背けてはいけない。

 

「残念ですが事実です、ミスタ・センベルン」

 

 祭壇を背にしたシロウは、目を伏せてかぶりを振った。

 そうして見る。

 祭壇を掲げる段差の上、僅かばかりの階段の上から、長椅子の群に混じる者達を見る。

 男が立っていた。

 男は寝そべっていた。

 男と男は座っている。

 女は書を読んでいる。

 その傍らに、人ならざる男が立っている。

 礼服の姿、粗野な姿、理知に富む姿、時代錯誤の舞台衣装、その姿は様々だ。

 神父の装いであるシロウも含めて、この場の7人に共通点は無いように思われた。

 しかしこの一団は、ある目的のために集められた一団である。

 その呼び名を、シロウは思う。

 

――“赤”の陣営

 

 7対7の集団戦、聖杯大戦の片翼である一団こそが自分達であると。

 相対する“黒”の陣営に打ち勝つべく集められた一団である、と。

 第一に立場。

 第二に経歴。

 

――私は監督役ですが……

 

 この聖杯大戦の源流、聖杯戦争と呼ばれる戦い。

 遍く願いを叶える大魔術、聖杯を求め争う戦い。

 我が聖堂教会が尊ぶ主の遺物ではない、それは確かめられていた。

 しかし、その性能に疑う余地は無い。

 故に、聖堂教会は監督役を派遣する。

 60年前の聖杯紛失以来、世界中で粗製乱造された亜種聖杯戦争とは異なる。

 この聖杯大戦は源流に連なる戦いだ。

 だからこそ、シロウは派遣された。

 しかし眼下の彼等は異なる。

 

――彼らこそ、参加者たる魔術師

 

 礼拝堂に集う彼等こそ、聖杯大戦にてしのぎを削る魔術師達。

 本来ならば聖堂教会が仇敵とする、魔術教会・時計塔の走狗。

 しかし今回、聖杯を用いようとするユグドミレニア一門を滅ぼすべく共闘する者達。

 それだけに集められた彼等は、戦闘に秀でた選りすぐりの者達だ。

 監督役でありながら参加者でもあるシロウの方が異端なのである。

 

――しかし、ともすれば魔術使いとも呼ばれる者達まで集めるとは……

 

 魔術をもって実利を求む者達、それは魔術使いとも呼ばれる。

 魔術によって真理を望む者達、これが魔術師の本分とされる。

 魔術結社、時計塔では侮蔑される事もある。

 その時計塔が彼等を雇う。

 シロウには、聖杯への欲目以上に、造反したユグドミレニアへの怒りが強いと思われた。

 ともあれ、聖杯大戦を征すべく集められた者達だ。

 しかし誤算を得た。

 

「なぜ我が手に令呪が宿らない!?」

 

 集う誰もがその手に刻む令呪、それこそが聖杯大戦への参加権。

 持ち主の資質と力量を描く印、従者に対する三度の絶対命令権。

 しかし、

 

「――何故だ!?」

 

 立ち、そして叫ぶ男の手にそれは無い。

 男はフィーンド・ヴォル・センベルンといった。

 痩せぎすな男である。

 切り揃えられた短髪に髭一つない頬、高く細い体躯は皺のない英国仕立ての紳士服をまとい、どこをとって見ても整然とした紳士の姿をとっていた。しかし頬骨の浮いた顔立ちと、不機嫌な鷲を思わせる鋭い目つきが、彼の神経質で高慢な本質を表していた。

 事実、青筋も露わに激する彼の表情は、この怒りこそ正当だと疑わぬ心根が滲んでいる。

 

「貴様等にあるものが、どうして私にはない!?」

 

 とはいえ、彼が疑問するのも理解できた。

 

――経歴でいえば、彼が最も正しく魔術師であるのだから

 

 時計塔の一級講師、家柄もこの中で最も古く、その実力も一等級の実力者である。

 今や魔術の探求より組織内の権力闘争に腐心する時計塔だが、それでも実力は伴うものだ。

 魔術を司る上での在り方。

 己に至るまでの父祖の数。

 そして個人としての研鑽。

 これらのみをとって見るならば、確かにフィーンドは正しく魔術師だった。

 しかし彼の手に、それは無いのである。

 

「手違い、なのでしょうね」

 

 苦心して選び出した言葉は、奇しくも言葉遊びのような単語であった。

 

「手違いだと!?」

「そう言わざる何か、です」

 

 フィーンドが望む言葉ではなかっただろう。

 だが事はシロウの及ばぬところで果たされた。

 ならば事実を呑むことしか、シロウには許されない。

 

「監督役に与えられた、サーヴァントの召喚を把握する礼装に反応があります」

 

 瞑目し、かぶりを振る。

 

「何者かが、先んじて召喚したとしか」

「ならば取り戻せ! 有象無象がこの私から掠め取るなど、許されない!」

 

 怒声が空気を叩き、振り抜く手の先が宙を掻く。

 

「腕を切り落とし、魔術回路から令呪を切除しろ! そしてあるべきところへ納めろ!

 ――令呪を我が手に!!」

 

 フィーンドは、その右手の甲をシロウに突きつけた。

 肉の薄い、骨の浮いた、傷一つ無い無地の手を。

 未だ手にしたことのないものが奪われたと、男の叫びがこだまする。

 

「おぅい」

 

 そこに、それを、嘲るような呼び声。

 

「おいおいおい、なぁ、おい。

 熱くなるなよ、なぁ、おい」

 

 沼に湧く泡のような。

 それが爆ぜて溢れた、瘴気のような声だった。

 

「そん時の報酬はよぉ、別払いだよなぁ?」

 

 悪臭を音に喩えられるならば、これこそそれである。

 長椅子に横たわっていた男は、沼の擬人化であった。

 だが男は人間である。

 肘掛で組んでいた2本の足を解き。

 くたびれた汚れた革靴の底が床を踏み。

 沼ならぬ男は、身を起してフィーンドへ向く。

 

「ミスタ・ベルジンスキー」

「ロットウェルで良いぜ神父様。魔術使いにゃ面映い」

 

 フィーンドは痩せぎすな男だったが、この男はやつれた男と言えた。

 頭蓋の浮く頭に背骨が突き出す首筋、母と神が血肉を分け与えるのを惜しめば、なるほどこうした風体になるのだろう。釣りあがった口角は頬まで裂け、眉の無い目元は色眼鏡越しでも嘲笑を伺わせる。

 そしてなにより、開襟された胸元だ。

 人にあるべき、その色がそこにない。

 銀色。

 微細な鱗で覆われた、鈍い白銀の胸。

 

――『銀蜥蜴』と渾名されるのも、また然り

 

 それが、男ロットウェル・ベルジンスキーの通り名だ。

 

「別払い、だと?」

「だってそうだろうよ、雇い主代表様」

 

 並びの悪い歯を覗かせたロットウェルに、フィーンドの眼光が閃く。

 

「俺達の仕事はよ、聖杯大戦で“黒”の陣営を皆殺しにすることだ。戦力の選別じゃない」

 

 首をかしげ、小刻みに体を痙攣させる男。

 それが、ロットウェルの笑い方らしかった。

 

「外れのあんたに先んじた誰かさんと組むのが、筋じゃねぇの?」

「――貴様!!」

 

 フィーンドの手に魔力が走る。

 シロウから見ても、類稀な精度と早さで魔術が組み上げられていく。

 だが、

 

――いけない

 

 ロットウェルは激昂に応えない。

 応える者が傍らにいるからだ。

 

――ロットウェル・ベルジンスキーは、既に召喚している……!

 

 この男は、向けられた敵意と武力に等しい応酬をする男ではない。

 嘲笑って、倍する以上の武力でそれを踏みにじる男だ。

 ロットウェルの隣で光が湧く。

 サーヴァントの実体化だ。

 秀でた魔術師フィーンド、だがそれが太刀打ちできない魔力の結実が応報せんと姿を現し、

 

「どちらでも良いのだけど」

 

 冷水に等しい怜悧が、男達に浴びせられた。

 

「探すのも、その上で令呪を移したって構わないけれど」

 

 フィーンドに応えんとした光は、しかし光のまま散った。

 実体化しようとしたロットウェルのサーヴァントは、徒な露見を好まなかったようだ。

 そして男達もまた、冷や水そのものといった声に動きを止めて、第三者を睨みつけた。

 

「どうあれ、共闘は維持してほしいものね」

 

 第三者、その者は女であった。

 座し。

 黙し。

 書の頁を送る、一人の女だ。 

 ここにいるただ一人の女は、この場にいる全ての者が見る中、しかし見返さない。

 それがジーン・ラムという女の性であったのだ。

 

――『疾風車輪』ジーン・ラム

 

 駆けようとした足を緩め、シロウもまた彼女を見つめる。

 飾り気の無い姿だった。

 古めかしい英国風のワンピース、首元から手首、足元までしっかりと包み隠し、豊かな髪はほつれなく結ばれている。毅然とした太い眉、黒縁の無骨な眼鏡、憮然とした熱い唇は、屹然とした不動の様相であり、しばしば妙齢の女性に見られる揺らめきめいたものは欠片も無い。

 ともすれば、ここにいる男の誰よりも確固とした姿だった。

 艶の無い唇が、小さく吐息をはく。

 書に栞を挟み、閉じて膝に下ろす。

 僅かに目を伏せ、そうしてようやく、女は男達を見るのだった。

 

「私のサーヴァントは、この通りだから」

 

「“期待はあらゆる苦悩のもと”でありますな、我がマスター!!」

 

 張りのある美声だ。

 ジーンを主と呼び、追従する男があった。

 彼女の傍らに立つ、時代錯誤の舞台衣装を着込む男だ。

 

「控えなさい、キャスター」

 

 耳を痛めたのか、ジーンは眉をひそめる。

 キャスター。

 サーヴァントのクラス名だ。

 即ち、掘りの深い髭面の伊達男こそが、魔術師の英霊としてジーンに召喚されたサーヴァントということになる。しかし黒い手袋に緑の衣装を着込み、左肩に外套、右胸に羽ペンを留めた姿は、それこそ舞台役者そのもの。

 礼拝堂に揃った魔術師達を越える、魔術師の英霊の姿とはかけ離れていた。

 そして、事実その通りであったと、シロウはジーンに打ち明けられていた。

 

「私は確かに、貴方の著作を触媒にした。でもまさか、作者の方が来るなんてね」

「――聖杯大戦!!」

 

 天を崇めるように、大仰な身振りを伴って、

 

「斯様な常ならざる催しを前にして、我輩が席を譲る理由がありましょうか!!」

「ならば魔術が使える霊基で来て頂戴。――ウィリアム・シェイクスピア」

 

 それは真名。

 秘すべき真名。

 しかしジーンはそれを明かし。

 キャスターも、いやさシェイクスピアもまた、満面の笑顔を崩さない。

 

「私のサーヴァントはこれだもの。

 私は、“黒”の陣営を全て脱落させたところで降りるわ」

 

 それが、彼女が従者を微塵も隠さぬ理由。

 キャスターを称するこの英霊は、しかし魔術らしい魔術が使えぬ英霊だったのだ。

 共闘するならいざ知らず、単騎の戦いになっては生き残れない英霊であったのだ。

 ならば。

 最低限の目標で見切りをつけそれ以後を望まない、というのがジーンの主張だ。

 “黒”の陣営を滅ぼした先、“赤”の陣営同士の戦いには参加しない、と。

 

「だからせめて、それぐらいまでは協調性を持って臨んでほしいものね」

 

 情の無い双眸に、フィーンドの憤りもロットウェルの嘲笑も熱を失ったようだ。

 令呪のない腕からは魔力が引いてき。

 肉の薄い顔は退屈そうに天を仰いだ。

 熱を、言葉を失い。

 礼拝堂に静けさが戻る。

 

――今ならば……

 

 話せるか、シロウはそう思った。

 黒い襟首に囲われた喉が空気を吸い、

 

「共闘なら、なぁ?」

「ああ、足並みを揃えてほしいものだな」

 

 続け様の声、それがシロウの機会を潰してしまった。

 

「お前達がそうしたように」

「俺達もそうしたいんだよ」

「サーヴァントを、召喚したい」

 

 瓜二つの二人組だった。

 褐色の肌をした男達である。顔立ちも、身長も、肩幅や体格まであつらえたように揃った男達。衣類に至ってはまさしく同じもので、個性らしいもののない薄灰色の服を着ていて、首から下に差異を見つけるはできなかった。

 違いがあるとすれば、髭の有無と髪の色。

 そして額に印した3つの点の化粧、その並びだった。

 髭のある黒髪の男は、縦一列を描き。

 赤黒い髪をした男は、逆三角を描く。

 酷似する男達。

 彼等がペンテルの姓で繋がる兄弟だと、シロウは知っている。

 

――兄、デムライト・ペンテル。弟、キャギィク・ペンテル

 

 『結合した双子』の二つ名で知られる、名うての魔術師であった。

 魔術とは一子相伝、一つの血族が正式に魔術回路を継承するのは本来1人である。

 しかしペンテル兄弟は、そうした魔術師の常に背を向けて生きる、異端の使い手。

 魔術回路を割って継ぎ、共鳴させることで通常以上の性能を得る、異端の使い手。

 “黒”の陣営との戦いを終えた後も共闘するだろう、特異な姿勢で臨む者達だ。

 

――それだけに、準備もあるようですが

 

 ロットウェルとジーン、そしてシロウは既に召喚を終えている。

 だが兄弟は儀式の段取りに手間取っているようだ。

 今回集うための召集でも、快諾とは言い難かった。

 だがそれは、時計塔が彼等に託した触媒への期待ゆえなのだろう、とシロウは思う。

 彼等がそれぞれ英霊の遺物。

 彼らがその通り英霊を呼ぶなら。 

、現状最大級の能力を持つ英霊が現れる筈だ。

 2人の物言いは、そうした期待から来る焦りがあった。

 この場を早く切り上げたい。

 期待を果たす儀式を進めたい。

 故に、2人は揃って不満を吐いた。

 

「そもそも、だ」

「ああ、そうだ」

 

 それは、この場に再び火を起こす一言。

 

「この場に、何故全員揃っていない」

 

 言われてしまった。

 言われ、ならば、言葉が続いてしまう。

 

「――そうだ!!」

 

 兄弟の言葉に続く、第三の声。

 それは再燃するフィーンドの激だ。

 

「そうだとも! そうだ、奴がいない! 何故奴はいない!

 召集はかけたんだろう、コトミネ神父!?」

「……彼は召喚を執り行う準備があるので、今回は無理だと」

「あの魔術師崩れめ!」

 

 一度は火を落とした男の激情。

 だがそれを向けてよいたった一人を得て。

 志向性を得て燃え上がるそれは一層の熱に思われた。

 

「栄えある時計塔を出奔した愚か者!

 重ねた代ならば有数だろうに……魔術の真理に背を向けた魔術使い!」

 

 遂に侮蔑として口をついた単語。

 ロットウェルも。

 ジーンも。

 ペンテル兄弟のどちらも。

 冷え切った目を向け、しかし激する男は気づかない。

 

「共闘! そうとも、我々の力を束ねるための、この場に奴はいない!

 何故こない! 或いは奴こそが、私の令呪を簒奪した首謀者なのではないか!?」

 

 来ない者。

 その名は。

 

 

「――獅子劫界離め!!」

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