望「どうなることやら……」
どうぞ。
(とうとうこの日が来たか……)
心の中でため息をついた。俺達は今、マンションの屋上にいる。これからフェイトの母親であるプレシア・テスタロッサのところへ行き、これまでの報告をするのだ。無論、俺のことも。
フェイトの手にはケーキの入った箱がある。お土産のようだ。
「あの女がこんなもの、食べるかね?」
……そこまで言うのか?
「わかんないけど……こういうのは、気持ちだから」
母親思いの良い子だな、フェイトは。
ここまでで集めたジュエルシードの数は10個か……聞いた情報だと、この時期で集めたのは3個程らしいので、それに比べたらかなり集めただろう。これなら、体罰を受ける心配もない筈だ。
「それじゃあ、行くよ」
フェイトは魔法陣を展開し、転送魔法を発動させた。
俺達は、屋上から消えた。
「お゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」
転移が終わった時、何故か猛烈な吐き気に襲われた。いや、何で!?
「大丈夫……?」
「転移に酔ったみたいだねえ。望は初めてだし、仕方ないか」
いやいやいや! 俺既に未来で経験してるんですけど!! 何で酔って……あ、あのときデバイス展開してたんだった!! あれって関係あったのか……あ、やべ、吐き気が……
「す、すまないが、先に行っててくれ。落ち着いたら俺も行……うぇ」
「え、う、うん」
「迷わないように気をつけてるんだよ」
(ごめ、最後何言ってたのか……お゛ぼろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛!!!!)
「よ……ようやく……落ち着いた……」
どうにか吐き気が収まり、周囲を一瞥する。
「……何か魔王が出てきそうな雰囲気だな。正確には魔女だが」
絶対に初見で家とは思えない。
「行くか」
俺は建物―――時の庭園に入っていくが、ここで大変な事実に気がついた。
「2人はどこにいるんだ……?」
時の庭園の中までは俺も把握してなかった。はて、どうしよう。
「とにかく、歩くしかないか」
とりあえず、奥に向かって歩くことにした。
しばらく進んでいくと、やたら大きな扉の前でアルフを見つけた。が、どうも様子がおかしい。両手で頭を抱え、うずくまっている。
(これはまさか……!?)
嫌な予感がした俺は、アルフに近づいた。
「アルフ、どうしたんだ?」
声に気づいたのか、アルフは顔を上げ、こちらを見てきた。
「望……」
そして素早く立ち上がると、俺の肩を掴んできた。
「あ、アルフ!? どうし「望……お願いだ……フェイトを、あの子を助けて……!」何?」
アルフの言葉を聞いた瞬間、俺の中の疑念が確信に変わった。
俺は扉を押し開け、中に入った。
そこで見たのは、衝撃の光景だった。
フェイトが、広い部屋の中央辺りに倒れていた。体中に傷をつくった、フェイトが。
「フェイトォォォ!!」
急いでフェイトの元へ駆け寄り、抱き起こす。
「のぞ…む……?」
「いきなり入ってきて、どういうつもり?」
前から聞こえてきた声に顔を上げると、1人の女性が立っていた。紫の長髪で、手には鞭を持っている。
「アンタが……プレシア・テスタロッサか?」
「そうよ」
冷めた口調で、彼女はそう答えた。
「貴方はフェイトが言ってた、ガイアメモリの力を使う仮面ライダーね」
どうやら俺の事は、フェイトから既に聞いているようだ。
「何で、こんなことをした?」
「この子は、ジュエルシードをたったの10個しか集めてこなかった。だから躾けたのよ」
「何だと……!?」
ちっ、考えが甘かったか! プレシアのジュエルシードへの執着心は想像以上だ。くそ、完全に俺のミスだ!!
…………だが、まだだ。まだ終わりじゃない。
「アルフ!」
「フェイト!」
俺の声にアルフが飛び込んで来ると、フェイトを抱きかかえた。
「アルフ、別の部屋に移動してフェイトの手当てを」
「望は…?」
「俺は少し、話をしてくる」
「な、何を言って「早くしろ!」っ、わかったよ」
フェイトを抱え、アルフは部屋を出た。今ここには、俺とプレシア以外誰もいない。
「さて……少し話をしようぜ」
ゆっくりとプレシアに近づきながら、語りかける。
「話、ですって?」
「そうだ。話というよりは、交渉だがな」
「交渉?」
「そうだ」
歩みを止め、相手の目を見る。
「今後のジュエルシード集めについてだが、俺に任せてもらいたい。そうすれば、確実に全てのジュエルシードが手に入る」
「随分自信があるみたいね」
「……ああ」
よし……ここからが本題だ。
「ジュエルシードを早く集めれば、アンタの願い……『アリシア・テスタロッサ』を生き返らせることができる」
「っ!?」
その言葉を言った時、プレシアが動揺しだした。そりゃそうだろうな。娘のアリシアのことを、何故管理局でもない人間が知っているのかと思ってる筈だからな。
「……何が、狙いなの?」
「狙い? そうだな……俺の狙いと言うか、条件は1つ。フェイトを、アンタの家族として認めてもらうことだ」
「……何ですって?」
プレシアは目を細めた。おそらく、出来損ないの人形を家族として接しろだと? と思っているだろう。
「アンタにとってフェイトは、出来損ないの人形かもしれない」
「!?」
更に驚きの表情を見せる。俺は構わず話を続ける。
「だけどフェイトはな、アンタの為に一生懸命頑張ってるんだよ。自分が傷つくのも我慢して、アンタに喜んでもらう為に……」
そこで一旦間を開け、呼吸を整える。
「プレシア。アンタは何でフェイトが嫌いなんだ? 気に入らないところがあるのか?」
「……あの娘が、出来損ないだからよ」
「そう。それこそが間違いなんだ」
「え?」
「考えてもみろ。同じ人間の代わりなんて、作れる訳がないんだ。仮にできたとしても、それはよく似た別人。決して本人じゃない。……言わば、兄弟みたいなものだ。今回の場合だと、フェイトはアリシアの妹……ということになるな」
「妹…………?」
俺が『妹』と言った瞬間、プレシアは大きく目を見開いた。
その時、プレシアの脳裏には、以前アリシアと交わした約束が映し出されていた。
『アリシア。今度のお誕生日、何が欲しい?』
『う~ん………妹!」
『えっ!?』
『私、妹が欲しい! 母さん、私お姉ちゃんになりたい!』
『え、え~~っと、それは……』
『ダメなの?』
『いや、その……分かったわ』
『うん! 約束だよ! 私と、母さんと、私の妹、3人でいっぱい幸せになろうね!』
『ええ、約束よ』
埋もれた記憶が浮かび上がった瞬間、プレシアの中でアリシアへの、フェイトへの……本当の想いが、溢れ出てきた。
「あ……あ…あ…………」
何だ? まだ話は終わってないが……説得に失敗したか?
「あ…あ…あああああああああああああああああ!!!!」
お、おい! 一体どうしたんだ!? 混乱のあまり、精神が錯乱でもしたか!?
「私は……私は……私は……!」
何が起きてるというんだ……? 訳がわからないぞ。
「っ!ゴホッ、ゴホッ!」
突然、口元に手を当て、苦しそうに咳き込んだ。
「だ、大丈夫か!?」
急いで駆け寄り、背中をさする。プレシアが手を離すと、血がついていた。
「これは……」
「ふふ、大魔導師と言えど……不治の病には勝てないのよ」
どこか皮肉そうにプレシアは笑った。
「ありがとう……あなたのお陰で、大切なことに気づけたわ」
「え?」
「フェイトはアリシアの妹……こんな簡単なことを、今まで忘れていたなんて……私って、大バカね……」
うまくいった……のか?
「でも……全て遅すぎたわ。今更フェイトに、どう顔向けしたらいいっていうの」
「それは……」
「娘を痛めつける母親なんて、いなくなった方が―――」
「っ、バカ野郎!!」
大声で叫び、プレシアの顔をこちらに向ける。
「遅すぎることなんてない! 今ならまだ…まだ間に合う!! 自分の今の気持ちを、フェイトに伝えるんだ!!」
「だけど……」
「アリシアとアンタのことは、俺がなんとかする!! だからフェイトのことは、アンタがやるんだ! それが……母親としての、アンタのけじめだ」
一気に捲し立てた後、プレシアをじっと見つめる。
「……あなた、変わってるわね。初対面の人に、ここまで啖呵を切るなんて」
「こうでもしなきゃ、アンタの意志は変えられないと思ったからな」
「そう……」
「……俺の言ったことを、よく覚えておいてくれ。絶対に、死のうとするんじゃない」
念には念をと、言っておく。
「大丈夫よ……もうそんなことはしないわ」
「本当だな。なら、俺はもう行く」
そう言ってプレシアの元を立ち去ろうと―――
「待ちなさい」
―――して、呼び止められた。
「何だ?」
「あなたがどうしてアリシアのことを知っていたのかは、聞かないでおくわ。だから、一言だけ言わせて頂戴」
ブレシアは俺をまっすぐ見つめ、
「本当に、ありがとう……望」
優しい微笑みで、そう言ってきた。
「……俺は礼を言われるような人間じゃない。だけど、その言葉はありがたく受け取っておく……プレシア」
そして俺は、部屋を出た。
望「少し展開が急な気がするが、それは置いといて、劇場版設定が出てきたな」
はい。前に言っていた、プレシアさんの過去です。
望「娘との約束か……プレシアを気づかせるには十分だな」
むしろ十分すぎるぐらいですけどね。
望「それもそうか。……ところで、俺が吐いた原因って何?」
あれはですね、未来の転送装置には転送酔いしない為の機能がついている……ということにしといて下さい。
望「いまいち釈然としないが、ま、いいか。さて、雑談はここまでにしといて、次回は?」
次回はジュエルシードの回収と、なのはとの二度目の会合です。
望「だそうだ。読者のみんな、楽しみにしていてくれ」