望「何だそりゃ?」
前回より一ヶ月程過ぎた頃。
リインフォースは、はやてやシグナム達と平穏な日々を過ごしていた。
はやての足は順調に回復していき、今では松葉杖を使いながら自力で歩けるようになった。
シャマルは、はやての足の治療のサポートをしたり、料理の修行をしている……が、料理に関しては全く上達していない。
ヴィータは、子犬形態のザフィーラと散歩したり、町の年寄りの人達とゲートボールをして楽しんでいる。
シグナムは、剣の道場を開いてコーチをしている。最近では望、士郎と共になのはとフェイトの稽古の監督もしているとか。
ザフィーラは、殆ど狼形態で一日を過ごしている。たまに望が遊びに来ては、よく話をしている。近頃、望とユーノと一緒にカラオケに行ってるらしい(望に誘われたとか)。
全て丸く収まった……かに見えたが、問題が1つあった。
実はリインフォースには、ある悩みがあった。それは、望のことについてである。彼のことを考えたり、彼が遊びに来たりすると、胸が苦しくなったり、身体が熱くなったりするのだ。そこでそのことをはやてに相談した。すると、はやてはニヤニヤとして―――
「そういうことは、望さんに相談したらええよ。あの人なら、きっと何とかしてくれる筈や!」
と言った。それに納得したリインフォースは、望の元へ向かうことになった。
家を出て数分。リインフォースは望がいる部屋に着くと、意を決してドアをノックした。
「はーい、今行きまーす」
少し間延びした声が聞こえると、扉が開かれた。
「お、リインフォースじゃん」
出てきたのは望だった。
「こ、こんにちは」
望を見た瞬間、胸の鼓動が高鳴り、顔が赤くなっていった。
「こんにちは。今日は1人なのか?」
「は、はい……実は、その……望に相談がありまして……」
「え、俺に?」
リインフォースの言葉に、望は自分を指した。
「……何かわからないけど、とりあえず中に入って」
「はい。お邪魔します」
望に促され、部屋に入った。
リビングに着くと、2人は空いてる席に座った。室内には、2人の他に誰もいない。
「あの、他の方は?」
「ああ、フェイトとアリシアとアルフは、遊びに出かけたよ。はやて達と一緒に公園に行くってさ」
望の言葉を聞いて、そういえばそんなことを言ってたような。と、リインフォースは思った。
「プレシアは食材を買いにスーパーに行ってる。多分、もう少ししたら帰って来るんじゃないか? …っとそれより、相談って何だ?」
「はい。実は……胸が苦しいんです」
「胸が?」
リインフォースの相談を聞いて、望は首を傾げた。
「その、胸が苦しくなるだけでなく、体温も上がって熱くなるんです」
「ふむ……」
望は顎に手をあてると、リインフォースの顔をじっと見つめた。
彼の真っ直ぐな視線を受け体温が上がっていき、顔が赤くなっていった。
少しして、望が言った。
「風邪じゃないのか? 顔も赤いし……」
「あっ、いえ、風邪ではないんです。主にも違うと言われました」
「そうなのか? じゃあ何なんだ?」
困ったように唸る。
「一度病院に行ったらどうだ?」
「いえ、望に解決してほしいんです」
「んなこと言われてもな……俺、医者じゃないし……」
悩んでいる望に、リインフォースは言葉を続けた。
「胸が苦しくなるのは……望と一緒に居る時なんです」
「………………は?」
彼女の言葉を聞いて、望はポカンとした顔になる。
「望のことを想う時や、望と一緒にいる時だけ……胸がキュッとなって、苦しくなるんです」
両手で胸を押さえ、リインフォースは望に話した。
(プレシアが望と付き合ってると知った時も、こうやって胸が苦しくなった……。もしかして、私は―――)
「私は……貴方に恋しているのでしょうか?」
「えっ…えぇぇぇぇえええええ!?」
望は目を見開き、動揺して声を上げた。
「いや、ちょ、待て待て待て! 俺何かした!? 全っっ然自覚ないんだけど!! 冗談抜きで!! こういうのをフラグ立てたっていうらしいけど、いつフラグ立てた!?」
混乱し、叫ぶ望。
「あの……望?」
「うぇっ!? あ、ああ!」
リインフォースが声を掛けると、望は慌てて返事した。
「私のこの胸の苦しみは、恋なのでしょうか?」
テーブルに身を乗り出して、望に迫る。びっくりしたのか、望は椅子ごと後ろに少し下がった。
「あー、その……本当に、俺のことで胸が苦しくなるのか?」
「はい!」
力強く答えると、望の手を掴んでその手を引っ張り、自身の胸に押し当てた。突然のことに、望は仰天すると同時に顔を真っ赤にした。
「分かりますか? 私の胸の鼓動が?」
「あ…ああ……わかるよ。アンタの、気持ちも」
そこで間を開けると、望は何やら呟き始めた。
「……正直、アンタの気持ちは嬉しいし、できれば応えたいけど……俺には、その……プレシアがいるし……でも、アンタを悲しませたくはないから……俺、どうすれば―――」
葛藤している、その時だった。
「……何をしているの?」
「「っ!?」」
声がした方を見ると、買い物袋を手に下げたプレシアがいた。
「プレシア………はっ!? こ、これは違うんだ! 断じて、浮気なんかじゃない!!」
「そ、そうです! 望は、私の相談に乗ってくれただけで―――」
「相談? それって、どんな相談なのかしら?」
「そ、それは……」
「その……」
完全に言葉に詰まらせてしまう、望とリインフォース。特にリインフォースに至っては、顔の赤みが増していた。その様子を見て、プレシアは少し考えた後、何かを察したのかリインフォースの手を引いた。
「え? あ、あの……」
「リインフォース。2人だけで話したいことがあるから、来てくれない? 望はここで待ってなさい」
「わ、わかった……」
プレシアに連れられ、リインフォースは別の部屋に移動した。
「……それで、さっきのは何だったのか、怒らないから説明してくれる?」
「じ、実は……その……」
リインフォースは、自身の身体に起きてること、望に相談しに来、それがきっかけで望への想いに気づいたことを話した。
「つまり、あの日助けられてから、望のことが好きになったと?」
「は、はい……」
「まぁ好きになること自体は悪くないんだけど……」
「も、もちろん、望が貴女を好きな事は知っています。先ほども、望はそのことで悩んでいました……でも、私は諦めきれないんです……この想いが叶わないとしても、それでも……諦めたく、ありません……」
「……」
リインフォースの切実な想いを聞いたプレシアは、一度ため息をつくと、まっすぐ目を見た。
「……ちょっと来て頂戴」
「あ―――」
再びプレシアに引っ張られ、リインフォースは移動する。
「望、いいかしら?」
「えっ!? な、何が?」
戻って来て早々言われたことに、望は恐る恐る尋ねる。
「リインフォースのことよ」
「あ、ああ…そう、だよな。それで……俺にどうしろと?」
「……彼女の想いを受け入れてほしいの」
「「えぇぇっ!?」」
思いかげない言葉に、望はおろかリインフォースまでも驚く。
「ど、どういうことなんだ!?」
「……私もね、人を好きになる気持ちがよくわかるからよ。どんなことがあっても、諦められない……ずっと一緒にいたいって。それに、好きな人と結ばれないのは一番辛いことだわ…だから……リインフォースの想いも、受け入れてほしいのよ」
「……いい…のか?」
「ええ。ちゃんと平等に愛してくれるならね」
「……」
望は目を閉じ、しばらく考えた後、目を開けた。
「リインフォース」
「は、はい」
「俺は…アンタを悲しませることはしたくないし、アンタの事だって、嫌いじゃない。むしろ……好きだ。でも、俺はプレシアのことも好きだ。だが…どちらかに決めるなんて、俺にはできない。どちらかを悲しませることはしたくない。だから……俺はリインフォースとプレシア、2人と付き合う」
「え…あ……望……」
涙を流す、リインフォース。
「やっぱ……ダメか?」
「い、いえ……その…嬉しく、て……私のことを、好きって言ってくれて……」
「リインフォース……」
「望……」
倒れ込むように望に抱きつくリインフォース。それを、望は優しく受け止める。
2人の距離は必然と近くなり、更にどんどんと近づいていく。
そして……2つの影が、重なった。
「「…………」」
赤くなった顔で見つめ合う2人。そこへ―――
「ふふ、それじゃあ、次は私の番ね」
「は?」
振り向いた望にプレシアは不意打ち気味に、キスをした。
「なっ!?」
「ふふふ……言ったわよね? 平等に愛してくれるって」
唖然とするリインフォースを尻目に、そう言った。
「た、確かにそうだが……」
「なら、今度私とデートしましょう?」
「いや、あの……」
「なっ、ち、ちょっと待て! 私はまだ望と…その、デ、デートをしてないから、次は私とデートの筈です!」
「あら? さっきキスしたから、それで終わりだと思ってたわ」
「あ、あの~……」
「いいえ、私がデートしてからです!」
「そう……だったら、どっちが望とデートするか、勝負しない?」
「……いいでしょう」
「ちょ、勝手に話を進めるなぁぁぁぁぁ!」
魂の叫びが部屋に響くが、2人が戦うのは避けられそうにないらしい。
(で、でも、結局は丸く収まったし……いいか?)
2人の気迫に若干引きながら、望は考えた。
(……いや、これでいいんだ。みんなと一緒に平凡な日々を暮らしていく……これだけでも十分幸せなことなのに、こんなに美人な恋人が、2人もいるんだ。贅沢な毎日になりそうだ)
これからのことを想い、望はフッ、と笑みを浮かべる。
正直言うと、スカリエッティ一味への対処等、問題はまだ山積みだ。
それでも、当分は平和を満喫していきたい。
大切な家族と、愛する人達と共に―――
望「……リインフォースに惚れられるなんて、びっくりした」
罪作りですねぇ、望さんも。
望「でもさ、俺ホント何したんだろ? 好きになってくれることは嬉しいけど、惚れる要素なんてあるか?」
……腹立ちますね、この鈍感野郎。
望「何故罵倒!?」
さて次回は、おまけ話を投稿します。お楽しみに!