綾己「どうも、織部綾己です。陰陽道か……陰陽師は物語の題材になる事があるけど、陰陽道ってよく調べてみると、結構難しそうな感じだよな」
政実「だね。けど、時間が空いた時にでも少しずつ調べてみるつもりだよ」
綾己「そっか。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・綾己「それでは、第2話をどうぞ」
翌朝、俺は両親に行ってきますと声を掛けてから昨日『
本当なら俺が一人で行くべきだから、何かしらの方法でそういう力を身に付けたいところだけど、友禅さん達は何か知ってるかな……?
そんな事を考えながら公園へ向かって走り出し、入り口を通ってあのベンチまで来たその時、木の陰からスッと見覚えのある人物が現れると、その人は穏やかな笑みを浮かべながら声を掛けてきた。
「こんにちは、
「はい、こんにちはです、友禅さん」
その人――友禅さんに対して微笑みながら挨拶を返した後、俺は友禅さんの格好に注目をした。昨日は藍色の着流しを自然に着こなしながら朱子さん達へのお土産が入った風呂敷包みを片手に持っていたが、今日は黒い着流しに銀縁の眼鏡という格好で、それによって友禅さんの立ち居振る舞いや顔のカッコ良さが際立ち、まるでモデルやドラマの撮影中の俳優のような雰囲気を漂わせていた。
「友禅さん、今日は眼鏡なんですね?」
「あ、はい。と言っても、目が悪いわけではなく、いわゆるところの伊達眼鏡という物ですけどね。仕事中は掛けないのですが、こういった外出中や読書中は気分を変えるために掛ける事があるんですよ」
「そうなんですね……俺はスゴく似合ってると思いますよ、何というか和服専門のモデルとか俳優とかみたいな感じに見えますし」
「ふふ、ありがとうございます。さて……それではそろそろ行きましょうか」
「はい!」
ニコリと微笑む友禅さんの言葉に大きな声で答えた後、俺は友禅さんの隣に並びながら『福来和裁店』へ向けて歩き始めた。
歩き始めてから数分が経った頃、吹いてきた穏やかな風に仄かな香りと気持ちよさを感じながら静かに歩いていると、隣を歩く友禅さんが不意に「……そういえば」と何かを思い出した様子で声を上げ、少し不安げな様子で俺に話し掛けてきた。
「この一ヶ月間のお店見学の件ですが、ご両親は納得されていましたか?」
「あ、はい。家に帰ってから話をしたら、ご迷惑にならないようにするなら、自分達から言う事は無い。このせっかくのチャンスである一ヶ月間を無駄にしないように、と言われました」
「……そうですか」
「あ……もちろん、友禅さん達が妖狐で、お店には様々な妖怪や『力』を持ったモノが訪れる事は内緒にしてます。両親はそういう事に偏見なんかは無いですけど、いらない心配は掛けたくなかったので」
安心した様子の友禅さんに対して微笑みながら言った後、俺は昨日店内で聞いた友禅さん達の事を思い返した。友禅さんや朱子達は、この世界――『人間世界』と呼ばれている世界の裏側にある『妖世界』という妖怪達の住む世界の出身で、どのような事情があったかはまだ知らないが、数年前に3人揃って今の場所に移り住んできたのだという。そして、友禅さんと朱子達は先に述べたように『妖狐』という狐の妖怪で、本来ならばまだ妖狐に成る事が出来ない年齢なのだが、『妖世界』では『人間世界』にはない特異性があるらしく、友禅さんと朱子達はその特異性によって生まれながらにして妖狐としての力を得た。だから、妖術も使えるらしいんだが、やはり
ただの人間の俺的には、友禅さん達でもしっかりとした妖狐に思えるけど、
そんな事を考えた後、微笑んだままで俺は言葉を続けた。
「当然ですけど、両親や友達にも友禅さん達がどういう人達なのかを言わないといけない時がいつか来るとは思います。でも、そう言う日がいつ来ても良いように、俺は友禅さん達のようや妖狐や他の妖怪達についてもこの一ヶ月間で学んでいくつもりです。それが、人間側である俺の役目であり仕事の第一歩だと思いますから」
「……綾己君、ありがとうございます。貴方は本当に優しい方ですね。まるで、
「彼……というと?」
「『妖世界』に住む私の友人で、老舗の呉服問屋件仕立屋の主です。彼とは昔からの付き合いで、彼の優しさにはいつも助けられてきたんです」
「そんな人がいたんですね……」
「はい。私は元々、『妖世界』にある薬種問屋の次男なのですが、今の商いを始めたのは彼や彼のお家の影響が強いです。薬は病に罹った妖を治せますし、健康にする事で本人や家族を幸せに出来ます。ですが、着物は病こそ治せませんが、健康な妖に限らず病気の妖も心の中から元気にし、幸せにする事が出来ます。そして、時には病気を治すための力にもなるのです」
「病は気から、という奴ですね」
「その通りです。もちろん、私は本来の家業である薬種問屋を尊敬していますし、誇りに思っています。けれど、私はそれ以上に着物が与えてくれる幸せや笑顔に魅せられ、こうして『福来和裁店』を営んでいるのです。私の仕立てた着物で、笑顔になって下さる方が増え、それと同時に幸せになって下さる方が増えるように祈りながら」
そう語る友禅さんの顔は、心から他人の幸せや笑顔を願っている物であり、まるで太陽のような輝きを放ちながら心をポカポカと暖かくしてくれているような気がした。
「……俺は、その考えがとても素晴らしい考えだと思います。今までそういった事は考えた事はありませんでしたけど、これから服自体や服屋についての考えが変わった気がします」
「ふふ、そうですか。そう言ってもらえて私も嬉しいですよ。あ、因みに……先程話題に出した彼とは、今飲みに行ったり茶飲み話をしたりするので、もしかしたら会う機会があるかもしれませんよ?」
「そうなんですね……因みに、その人も妖狐なんですか?」
「ええ。それと、彼には一人娘がいるのですが、朱子と綸子はその子ととても仲が良いので、朱子達にその子の話を振ってあげると、凄く喜んで話してくれると思いますよ」
「分かりました」
友禅さんの言葉に頷きながら答えた後、ふと視線を前方へ戻すと、目的地である『福来和裁店』が見えたと同時に、店の入り口に誰かが立っているのが目に入ってきた。
あれ……誰だろう?
そんな疑問を抱きながら近付いていくにつれて、その人物の姿が徐々に明らかになり、その人物の目の前まで距離が近付いたその時、その人物――黒い長髪の上から
「……おや、こんにちは。貴方がこうしていらっしゃるのは珍しいですね、
「貴方が普通の人間と仲良く話しているという話を昨日近くに住む妖から耳にした物で、どのような方なのか少し興味が湧いたんですよ」
「ふふ、そうでしたか」
友禅さんが穏やかな笑みを浮かべながら答えた後、宝雅さんは俺の方へ顔を向け、丁寧に一礼をしながら自己紹介を始めた。
「初めまして、私は
「宝雅さんですね。俺は
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
宝雅さんと握手を交わしていると、友禅さんがクスリと笑いながら宝雅さんの紹介をしてくれた。
「宝雅さんは、この『人間世界』に来た頃からの知り合いでして、古来から続く陰陽師の
「陰陽師……ですか?」
「ええ、まだ修行の身なので大した術は使えませんが、占術や簡単なお祓いくらいなら出来ますよ」
「そうなんですね……そういえば、陰陽師と言えば『
「一応はあったようですが、特に親密という事は無かったと伝え聞いています。ただ、狐に関する話では盛り上がっていたようですけどね」
「狐……あ、もしかして
「はい。どうやら、私の先祖は七尾の狐と親交があったようで、安倍晴明とは陰陽道以外にそういった話もしていたようです」
「安倍晴明と親交があった陰陽師の末裔……何というか、昨日今日と凄い出会いばかりしてるなぁ……」
この二日間にあった出会いを思い返し、頭をポリポリと掻きながら小さく苦笑いを浮かべていると、宝雅さんはニコリと笑いながら優しく話し掛けてきた。
「まあ、普通なら妖に会う事などは無く生活をするものですからね。私のような者や『力』を生まれ持った者は別として」
「……言われてみれば、確かにそうですよね。となると、この出会いもいわゆる
「そうですね。友禅さんや朱子さん達、そして私とこうして出会った事で、綾己君はこれから先の人生で様々な人ならざるモノ達と出会う事になるかもしれません。ですが、それらは必ずしも邪なるモノでは無いという事を覚えておいて下さい。私達人間にも各々に思いや考えがあるように、彼らにもそれぞれが抱えているものや考えがありますから」
「あ……はい、分かりました……」
宝雅さんの表情は、さっきまでの穏やかな物とは違い、どこか訴え掛けるような印象を受け、俺はそれに戸惑いながら宝雅さんの言葉に答えた。宝雅さんはそれを聞くと、再びニコリと笑いながら静かに頷き、今度は友禅さんの方へと顔を向けた。
「さて……それでは、私はそろそろ行きますね」
「おや、そうですか? いつものようにお茶とお菓子くらいならお出しできますが……」
「お言葉に甘えたいところですが、今日は他にも予定があったので、このまま失礼いたします。しばらくはこの街に滞在する予定なので、機会だけならいくらでもありますからね」
「……分かりました。それでは、次にいらっしゃる時までに、美味しいお菓子をご用意しておきますね」
「ありがとうございます。あ、それと……綾己君、ちょっと手を出してもらえますか?」
「あ、はい」
言われるままに手を出すと、宝雅さんは懐から何かを取り出し、それを出した手の上へ静かに置いた。見てみると、それは筆文字が書かれたお札と綺麗な丸い石に麻紐を通したペンダントのような物だった。
「宝雅さん、これは……?」
「邪なモノを寄せ付けない呪いが掛けられたお札と霊力が籠もったペンダントです。先程はああ言いましたが、余所の地方から邪なモノが流れてくる可能性も無くは無いので、お近づきの印ともしもの事があった時の御守り代わりになればと思いまして」
「ありがとうございます……けど、本当に良いんですか?」
「ええ。私は綾己君の事を人と妖、両方と心を通わせる事が出来る数少ない人間の一人だと考えています。これらは、そういった方に使ってもらいたいと思っていたので、遠慮せずにどうぞ」
「……分かりました。それでは、ありがたく頂きます」
頷きながらお礼を言うと、宝雅さんは微笑んだままで頷いた後、俺達の事を見回してから静かに口を開いた。
「では、私はこれで」
「はい、お気をつけて」
「宝雅さん、お気をつけて」
「はい、ありがとうございます。それでは……」
優しい笑みを浮かべながら去って行く宝雅さんを見送る中、俺はさっきの宝雅さんの言葉が少し気になっていた。
人ならざるモノ達は、必ずしも邪なモノでは無い、か……。宝雅さん、もしかして昔何かあったのかな……?
少し寂しげな宝雅さんの背中を見ながらそんな事を考えていると、同じく宝雅さんを見送っていた友禅さんが静かに口を開いた。
「……一応、私は宝雅さんがあのように仰っていた理由を知っています。ですが……」
「本人がいないところで話すわけにはいかない、そういう事ですよね?」
「はい、その通りです。綾己君には申し訳ないのですが、宝雅さんの許可無しに話す事は、宝雅さんの信頼に背く事になるので……」
「大丈夫ですよ、友禅さん。確かに気にはなりますが、俺もこの事は本人から聞くべき事であり、本人が話してくれるまで待つべき事だと思っていますから」
「……ありがとうございます、綾己君」
「どういたしまして。けど、そんな事を話してもらえるなんて、友禅さんは本当に宝雅さんから信頼されているんですね」
「ふふ、そうですね。綾己君と私達もそうですが、私と宝雅さんの間にも確かな絆があります。その絆の形は、多少違いはあるかもしれませんが、私はこれからも綾己君との絆や宝雅さんとの絆、そして朱子と綸子との絆も大事にしていきたいと思っています。絆は目には見えませんが、心を繋げ合った者達の間には確かにある物ですから」
「心を繋げ合った者達の間には確かにある物……ふふ、そうですね。そして、お互いの心をポカポカと暖かくしてくれているような物でもありますよね?」
「ええ、間違いなく」
そんな会話を交わしながらお互いの顔を見て笑い合っていたその時、店のドアが勢い良く開き、朱子さんと綸子さんの二人が揃って外へと出てきた。
「おや……2人とも、ただいま」
「はい、お帰りなさいです、友禅様! そして、こんにちは、綾己君!」
「お帰りなさいませ、友禅様。そして、綾己君、こんにちは」
「うん、こんにちは、二人とも」
2人に挨拶を返すと、朱子さんは少し不思議そうな様子で友禅さんに話し掛けた。
「友禅様、先程お話しされていたのは、もしかして宝雅さんですか?」
「そうだよ。もっとも、今日は他に予定があるという事で、帰ってしまわれたけどね。ただ、しばらくはこの街に滞在する予定だと仰っていたから、また近い内にいらっしゃると思うよ」
「そうだったんですね。ところで……綾己君が手に持っているそれは?」
「ああ、宝雅さんから貰ったお札と霊力が籠もったペンダントだよ。だから、これからは俺も一人でここまでは来れる事になるけど、友禅さんと一緒に歩くのは楽しいから、ちょっと残念ではあるかな?」
「ふふ、それならこの一ヶ月間は一緒に来る事にしましょうか。私も綾己君と一緒に歩いたりお話したりするのはとても楽しいですから」
「それじゃあ……お願いしても良いですか?」
「はい、もちろんです。さて……それでは、そろそろお店の中に入りましょうか」
「「はい!」」
「はい」
朱子達と一緒に返事をした後、お札を鞄へとしまい、ペンダントを早速首に掛けた。その瞬間、ペンダントを通じて
……よく分からないけど、これがこのペンダントに籠められている霊力……なのかな? 今の痛みは、たぶん元々無かった物が入った事による物なんだろうけど、こうして力が湧いてくるという事は、俺は
頭に浮かんだ疑問の答えを色々考えてみたものの、明確な答えはまったく浮かばず、その内に俺は考える事を止めた。
まあ……その内、自然に分かる事な気はするし、今は置いておいてもいいかもな。
頭の中の疑問についてそう結論づけていたその時、突然俺の右手が誰かに握られ、弾かれたようにそちらへ顔を向けると、俺の手を握っていた人物――朱子がニコッと笑いながら話し掛けてきた。
「さあ、早くお店の中に入ろう! 綾己君には、私達のお仕事の様子を見てもらわないといけないし、色々と話もしたいからね!」
「……そうだな。俺も妖怪や他のモノ達について知りたいと思ってたし、時間だって限りがあるからな」
「うん、そういう事! という事で、綸子も綾己君の手を握っちゃおうよ! ほら、綾己君のもう1つの手が空いてるよ!」
「……まったく、朱子は仕方ないですね。では、失礼しますね、綾己君」
「ああ」
返事をした瞬間、左手が綸子に握られ、それと同時に俺の両手には朱子と綸子から伝わってくる
……この温かさも俺にとっては、とても貴重で大事な絆の形の1つであるわけだし、ちゃんと大切にはするけど、宝雅さんやこれから出会う様々なモノ達ともしっかりとした絆を繋いでいかないとな。
そう考えながらクスリと笑った後、俺達の様子を微笑ましそうに見ていた友禅さんと一緒に俺達は『福来和裁店』のドアを開け、静かに店内へと入っていった。
政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
綾己「今回の話からすると、宝雅さんから貰ったお札と霊力の籠もったペンダントは、絶対に後で役に立つ事になりそうだよな」
政実「うん、そのつもりだけど、どんな感じに活かしていくかはまだ未定かな」
綾己「分かった。そして最後に、今作品と本編に当たる作品『妖世界の半人半妖』についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けたらとても嬉しいです」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
綾己「ああ」
政実・綾己「それでは、また次回」