綾己「どうも、織部綾己です。種族の違いがある分、色々大変ではあるけど、楽しいのは確実だよな」
政実「だね。まあ、こんな事を思えるのはそういったモノ達に興味があって、その上で好意を持っているからなんだろうけどね」
綾己「そうだな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・綾己「それでは、第4話をどうぞ」
すねこすりの紬が家族に加わった数日後の朝、いつものように妖狐の
「ふぁ……朝ご飯を食べたばかりだからなのかなんだかスゴく眠たいかも ……」
「ふふ……まあ、気温もだいぶ春らしくなってきたし、こんなに良い天気だからその気持ちは分かるかな。もし、本当に眠いなら店に着くまで寝てても良いぜ? 店に着く頃にはちゃんと起こすからさ」
「ううん……だい、じょうぶ……だよ。僕だって……しっかりと色々な事を学ばないといけないから、このまま頑張って……起きてるよ」
「……うん、分かった。でも、無理だけはするなよ?」
「う……ん」
ウトウトとしながら答える紬の様子にクスリと笑いながら愛用のショルダーバッグに物を次々と入れ、出発の準備が出来たと感じた後に俺はショルダーバッグを背負ってから紬の事を静かに抱き上げた。
「よし……それじゃあ行こうか、紬」
「うん……」
そして、部屋を出た後に居間にいた両親に「行ってきます」と声を掛け、俺達は玄関を通って外へと出た。その瞬間、部屋でも感じていた春らしい気候で、俺の口からも小さな欠伸が漏れた。
「ふあぁ……紬じゃないけど、確かに少し眠くなってくるな」
「……うん、こんなに良い天気だから、日なたぼっこをしながら眠りたくなるよね」
「はは、確かにそうだな。それか友禅さん達を誘って近くの裏山にピクニックに行ったり、その辺を世間話でもしながら散歩をしたりしたくなるな」
「ふふ、そう……だね」
そんな事を話しながら笑い合った後、俺達が『福来和裁店』へ向かって歩き出そうとしたその時、「……ほう」と少し驚いたような声が聞こえ、背後をゆっくりと振り返った。すると、そこにいたのは和服姿のお爺さんだったが、その『異常に飛び出た後頭部』と微かに感じる妖気からこのお爺さんがただのお爺さんではないのがハッキリと分かった。
この姿……どこかで見た事がある気がするんだけど、何の妖怪だったかな……?
「えっと……貴方は?」
「む……若いの、もしやワシの姿が見えとるのか?」
「あ、はい。一応、知り合いの陰陽師から貰った霊力の籠もったペンダントがあるので、余程の力で姿を隠している妖怪達以外なら視る事が出来ます」
「ほう……なるほどのぅ。若い者にしては珍しいと思ったが、その様子を見るにワシが何の妖なのかまでは分かっていなそうじゃな」
「そう……ですね。ただ、その特徴的な姿はどこかで見た事がある気がするんですが……」
お爺さんの姿に見覚えがありながらも中々その名前を思い出せないでいると、お爺さんはそんな俺の様子を見ながら楽しそうな笑みを浮かべた。
「……まあ、そうじゃろうな。この『人間世界』では、知らない人間の方が少ないかもしれぬし、結構ワシが出てくる物語なども多いようじゃしな」
「……それは、ヒントみたいな物ですか?」
「そんなところだ。さて、すねこすりを伴った人の子よ。ワシの正体を見破る事は出来るか?」
挑戦的な視線を向けるお爺さんを前に、俺はここまで様々な本などで手に入れてきた知識をフルに使ってお爺さんの名前を探った。そして、それから程なくして俺の頭の中にある一つの名前が浮かんだ。
「『ぬらりひょん』……ですか?」
「……正解だ。ワシはぬらりひょんの
お爺さん――景虎さんは、苦笑いを浮かべながら手を軽く顎に当てつつ視線を空へと向けた。ぬらりひょん、この妖怪は現代では妖怪達の総大将というイメージが強いが、実はこのイメージというのは誤伝・俗説に過ぎず、実際のところはつかみ所の無い正体不明の妖と言える。因みに、民間伝承の中にもその名前は登場しており、秋田県では
そういえば、他にも夕方頃に民家に突然現れては、まるでそこが自分の家かのように振る舞い、家の人もぬらりひょんをこの人は家の主だと思って追い出せなかったり、そもそもその存在を認識できなかったりする話もあるみたいだけど、これも民間伝承には見られない特徴なんだっけ。
ぬらりひょんという妖怪について本などで手に入れた知識を何となく思い返していたその時、景虎さんは「……む」と何かを思い出したように声を上げると、俺と紬の事を興味深そうに見始めた。
「えっと……何か?」
「お主……もしや、
「そうですけど……あれ、どこかで会った事がありましたか?」
「いや、会った事は無いが、聞いた事ならある。綾己、お前にその首飾りを贈ったのは、彼奴――
「はい、そうです」
「やはりそうだったか。宝雅はワシの友人でな、宝雅から妖と絆を結ぶ人間と知り合ったと聞き、一度会ってみたいと思っていたのだ。昨今、妖の姿を見る人間ですら珍しい上、好んで妖と友人になろうとする人間など更に珍しいからな」
「あはは……やっぱりそうですよね。それに加えて、今はすねこすりの保護者もしてますから、更に珍しい人間になったかもしれませんね」
「そうだろうな。少なくとも、ワシが知る中ではお前のような人間は殆ど聞いた事は無い。昔、まだ人の世の中に妖などの人ならざるモノ達が混じっていた頃ならば、そういった人間もいなくはなかったが、今となっては『陰』も『闇』も徐々に無くなり、妖共も潜んで生活するようになっていった。よって、必然的に妖と交流を持つ人間もいなくなっていったのだ」
「人間と妖怪の交流……」
景虎さんの言う通り、俺や宝雅さんのように友禅さん達のような妖怪達と仲良く話したり、一緒に食事をしたりしたという話は周囲の人間達から聞いた事が無い。それはもちろん、霊力などが無い事で妖怪達を視る事が出来ないからというのもあるんだろうけど、ウチの両親のようはそういった力が無くても紬の事を見る事が出来、仲良く暮らす事が出来ている。つまり、その妖怪によるけれど、今でも人間と妖怪はお互いの存在を認め合い、仲を深め合えるという事だ。しかし、ぬらりひょんさんが言うように妖怪達と交流を持つ人間が減少しているのは、妖怪達の中にも人間とは相容れない種類がいるだけじゃなく、人間達が妖怪達を始めとした『違うモノ』達を弾こうとしているからなのかもしれない。自分達とどこか違うところがあるだけで、それを異物として集団の中から排除してしまう。ただ、これは人間や別の生物同士でも行われている事で、言ってしまえば生物が持つ防衛本能の一種なのかもしれない。けれど、どこかで折り合いをつけられれば、この現代でも人間と『違うモノ』達は仲良くなれると俺は思っている。いや、出来るなら仲良くなって欲しいと願っている。友禅さん達や紬、そして『福来和裁店』の常連客達のように人間に対してとても友好的なモノ達だっているのだから。
まあ、無理強いは出来ないしするつもりもない。けれど、妖怪達との出会いで俺は今まで知らなかった色々な事を知る事が出来たし、人間としても少しは成長出来たと思っている。だから、『違うモノ』との交流は決して無駄なんかでは無い。少なくとも、俺はそう感じている。
未だウトウトとしている紬を静かに撫でながらそんな事を思っていると、景虎さんは何かを見定めるように目を細めながら俺達の様子をジッと見つめ、それと同時に発していた妖気が強くなった気がした。その瞬間、自然に俺の手は紬を守るために一度撫でるのを止め、まるで包み込もうとするかのような形に動いた。すると、景虎さんは「……なるほどな」と少し安心した様子で呟き、妖気を収めながら柔らかな笑みを浮かべた。
「……さて、それでは行くとするか、綾己よ。お前とワシの目的地は同じ場所なのだからな」
「行くって……俺の行こうとしてる場所が分かるんですか?」
「無論だ。妖狐が営む店に通う人間としてお前はこの地域の妖の中では有名だからな。それに加え、そこの主とお前が公園で待ち合わせをしている様子も何体もの妖達が目撃している。よって、先の質問は愚問だったというわけだ」
「な、なるほど……」
そっか、気付いていないだけで俺達の様子って意外と見られてるんだな……。というか、さっき何体もの妖怪達って言ってたけど、今のところは友禅さん達以外で商売をしてる妖怪の話は聞いた事が無いし、店で長い時間話をしていく妖怪も多いし、この地域の妖怪達って実は結構暇人揃いなのか……?
地域の妖怪達事情について少し考える事が出来た気がしたが、すぐに友禅さんとの待ち合わせの事が頭を過ぎり、俺はその事を頭から追い払った。そして、気持ちが切り替わった事を確認した後、出来る限り揺らさないようにしながら紬を抱え直した。
「さて……と、それじゃあ行きましょうか」
「うむ」
「うん……」
こうして俺達は、景虎さんという新しい仲間を加えて友禅さんとの待ち合わせ場所へ行く事になった。その道中、景虎さんは今までに出会った様々な妖怪の話をしてくれた。有名な妖怪からちょっと名前を知られていない妖怪まで様々で、友禅さん達のように人間に対して友好的な妖怪もいたようだが、やっぱり人間に対して非友好的だったり、人間に危害を加えたりするものもいたようだった。
そういう意味では、俺はスゴくラッキーだったのかもしれないけど、全ての妖怪が人間とわかり合うのはどうやっても無理なんだろうか……。
「妖の中には、古来より人間を喰らう事で生きてきた者もおるし、性質上から人間と共に過ごせぬ者もおる。だから、全ての妖がというのは、本当に難しい話じゃ。しかし、一番重要なのは……『種の壁』じゃよ」
「『種の壁』……」
「ああ。人間と妖、やはりその二つの間にある壁というのはとても厚く、限りなく不透明な物なのじゃ。もちろん、そんな壁を越えられる綾己や宝雅のような人間、友禅やワシのような妖もおるが、その壁に阻まれる者や壁に見向きすらせん者もおる」
「……やっぱり、そうですよね」
「お主の気持ちも分からなくはないが、それを実現するのは非常に困難じゃ。特に人間達は、容姿や能力にほんの小さな差があるだけで、態度などに大きな差をつけてしまう。よって、妖狐や天狗のような人型ならまだしも、
そう語る景虎さんの表情はとても険しかったが、その裏には全ての人間と妖怪がわかり合えない事への哀しさのような物があるような気がした。思えば、景虎さんの話を聞きながら歩いていた時、その途中で出会った近所のお爺さんやお婆さんは、その誰もが景虎さんに親しげに話し掛け、その光景はまるで人間の友達同士で会話をしているような感じにも見えた。つまり、あのお爺さんやお婆さんにとっては、景虎さんはただの妖怪ではなく、人間の友達と同じくらい仲の良い妖怪という事になるんだと思う。
確かに景虎さんが言うように全ての人間と妖怪がわかり合うのはどうやっても難しいのかもしれない。けど、俺や宝雅さんが友禅さん達と一緒に話をしたり、食事をしたりしているように何か一つのきっかけで人間と妖怪が『種の壁』という物を乗り越え、仲良く話をしたりお互いに手を取り合ったりするような未来が来て欲しいと俺は願っている。
「すぐそばにいるのに手を伸ばしあえないというのは、やっぱり寂しすぎるからな……」
軽く俯きながら思わずそんな事を呟いていたその時、少し先の方から覚えのある妖力の気配が近付いてくるのを感じ、俺はハッとしながら顔を上げた。すると、いつものように見ている人を安心させるような柔らかい笑みを浮かべながらゆっくりと歩いてくる友禅さんの姿を見つけたが、それはあまりに突然の出来事だったため、俺は驚いてその場に立ち止まってしまった。
「友禅さん……どうしてここに?」
「ふふ、今朝ちょっと面白そうな事が起こる『予感』がしたので、公園には寄らずに綾己君達をお家まで迎えに行こうとしていたんですよ。まあ……その結果、本当に面白そうな事になってましたけどね」
友禅さんが目の前で止まりながらクスリと笑っていると、景虎さんはやれやれといった様子で首を横に振りながら友禅さんに話し掛けた。
「友禅……お主のその予感は、そろそろ予知と言っても良いのでは無いか?」
「いえ、予知のように具体的な何かが分かるわけでは無いので、これはあくまでも予感の範疇ですよ」
「そうか」
「ええ。ですが……まさか貴方が綾己君と一緒にいるとは思いませんでしたよ」
「まあ、そうじゃろうな。じゃが、ワシは綾己に対して何かをするわけでは無いから安心せい」
「ふふ、その心配は元からしてませんよ。むしろ、
「……ほう?」
友禅さんの言葉に景虎さんが不思議そうな声を上げると、友禅さんは俺達の方へ視線を向けた。
「綾己君、紬さんの件についてはどこまで話をしていました?」
「あ……そういえば俺が紬の保護者だという事以外は、まだ話していなかったです」
「分かりました」
友禅さんは静かに頷くと、また景虎さんの方へ視線を向けて「実は――」と、紬や結さんの事について話を始めた。そして、友禅さんの話を聞き終えると、「……なるほどのぅ、そういう事か」と景虎さんは納得顔で頷き、とても真剣な様子で俺達の方へ顔を向けた。
「……綾己、紬、お前達に少し話をしたい事があるが、まずは店へ行くとしよう。この場で話すのは、
「あ、はい……」
「分かりました……」
景虎さんの表情や雰囲気から、俺達が気付いていない何かを感じ取っている事を悟り、俺達は大人しく頷いた。そして、「さて、それでは行きましょうか」という友禅さんの言葉に従い、俺達は再び『福来和裁店』へ向かって歩き始めた。
店に着いた後、俺達は双子の妖狐の店員である
「ふぅ……この店は、いつ来ても落ち着くのぅ……」
「そうですね。ところで、景虎さんはここには何の用事があったんですか?」
「なに、こことは別の世界――『妖世界』に住む兄に渡したい物があっただけじゃ。なんでも、部下の一人に初孫が生まれたから、お包みが欲しいという事でな」
「なるほど……」
「まあ、綾己も知っておると思うが、向こうにも腕の良い仕立屋はおる事はおる。しかし、前々からワシがここの話をしていた事を思い出し、ここなら良い物を仕立ててくれると思い、今回依頼をしたと言っておった」
「ふふ、友禅さん達からすれば、その言葉はスゴく嬉しいでしょうね」
「そうじゃろうな。さて……それでは、そろそろ話をするとするか」
その瞬間、景虎さんの雰囲気が一変し、その妖怪らしい威圧感に俺達は気圧されそうになったが、どうにかそれをぐっと堪えながらコクリと頷くと、景虎さんはとても冷たい視線を向けながら静かに話を始めた。
「……先日、ある地域で妖や霊能力者達が次々と殺されるという事件が起きた。その犯人はある一人の陰陽師らしいのだが、其奴は妖や妖と関わりを持つ者を忌み嫌い、中には無理やり使役させられた上、飼い殺しのような形で今も其奴の元にいる妖や怨霊もいるという」
「それってまさか……」
「ああ、お前が考えとる通りじゃ。もちろん、その犯人というのは宝雅の事では無い。しかし、あの宝雅の事じゃ、犯人のおおよその予想は付いておるんじゃろうのぅ」
「それは……同じ陰陽師だからですか?」
「そうじゃ。加えて、此度の件には確実に陰陽道以外の術も用いられている。よって、彼奴ならば犯人の特定などは極めて容易じゃ」
「けど、まだその事について宝雅さんが話をしていないという事は、その犯人をまだ見つけられていないという事ですよね?」
「ああ。じゃから、あの場で話す事は危険だと判断したんじゃ。この店は周囲を特殊な結界で囲っているから安心できるが、あそこは普通の道じゃからな」
「そうですよね……」
結さんから紬を託されたあの日、犯人はどこかに身を潜めながら俺達の事を怨霊から守っていたお札を奪い去り、バラバラに引き裂く事ですねこすりである紬と紬達の味方だった俺の命を奪おうとした。しかし、結さんが身を呈して守ってくれた事で、俺達は今もこうして生きているが、恐らく犯人は俺達の命を奪う事を諦めていないはずだ。
「……そして、俺達を自分の手で殺すまで絶対に俺達の事を追い続ける。たとえ、俺達が世界のどこにいたとしても……」
「恐らくな。まあ、自身の信念を貫き通すのは決して悪くはないが、ワシらのような妖や綾己達のような人間を狙っているというなら話は別だ。ワシらの事を襲おうというのならば、一切の容赦はせん。たとえ、泣いて詫びようともな」
そう淡々と言う景虎さんの目は、さっきまでとは比にならない程冷たく、その目を見ているだけで震えが来るほどだった。そして、景虎さんはその目のままで俺の目をジッと見つめると、同じくらい冷たい声で話し始めた。
「さて……綾己、ここでお前に一つ質問がある」
「質問……ですか?」
「ああ、そうじゃ。そのすねこすり――紬を手放す気はないか?」
「……は?」
「……え?」
その景虎さんの質問の意味が分からず、俺達が揃って疑問の声を上げる中、景虎さんはそれには構わずに淡々と続けた。
「犯人が綾己を狙うのは、あくまでもお主が妖と絆を紡ぐ人間だからだ。よって、紬を手放した上で友禅達とも関わりを絶てば、お前だけは狙われる事が無くなるかもしれん。言ってみれば、妖との関係を切り捨てる事でお主の命を――」
「ちょっと待って下さい!」
「……なんだ?」
「そんなのおかしいですよ……自分の命を守るために誰かの事を切り捨てるなんて、絶対に間違ってる!」
「間違ってはおらん。犠牲や囮などは、昔から様々な場面で使われてきた手段だ。それに、お主は元から妖などと関わっていたわけでは無く、友禅との出会いがきっかけで今のような生活になったに過ぎん。ならば、元の生活に戻るだけなのだから、何も拒む事は無かろう?」
「それは……!」
「綾己、ワシらに関わるというのはそういう事だ。お前は人間と妖が分かり合い、手を取り合うような未来を望んでいるようだが、さっきも言ったようにそれは非常に困難だ。そして、それを実現する前に自身の命を落とす可能性もある。それならば、妖などとの関わりを一切絶ち、宝雅から貰った物も捨ててしまい、人間達の中で暮らしている方がよっぽど幸せに長生きできると思うぞ? お前は
「…………」
正直、景虎さんの言う事は間違っていない。俺は生まれつき霊力を持っていたわけでも無いし、小さい頃から妖怪や幽霊に囲まれて来たわけでも無いただの人間だ。だから、このまま関わりを絶ってしまったところで、何も気に病む事は無い。今日までの出来事を
「……そんなの絶対におかしい」
「む?」
「綾己さん……?」
「確かに、俺は宝雅さんから貰ったペンダントやお札が無ければ、友禅さん達以外の妖怪や幽霊の姿を見る事が出来ないいたって普通の人間です。だから、妖怪や霊能力者達の命を奪っている犯人がいつ襲ってくるかと気を張っているよりは、関わりを絶ってしまった方が楽なのかもしれない」
「そうだ、だから――」
「でも、俺は関わるのを止めない。せっかく手を繋ぎ合えたのにその手を自ら離すなんて真似はしたくない!」
「綾己、自分が言っている言葉の意味が分かっているのか?」
「分かってます。でも、俺は友禅さん達や宝雅さんとの関わりを絶ったり、結さんとの約束を破ったりする気は一切ありませんよ。この妖怪達との『縁』は、俺にとって本当に大切な宝物ですから。だから、犯人が襲ってきたとしても俺は全力で戦います。たとえ、その時に自分の命を失う事になったとしても」
「……それがお前の答えか?」
「はい。この選択に後悔はしていません」
俺の奥で熱く燃える決意の炎を感じながら答えると、「……そうか」と景虎さんは呆れたような表情で呟き、やれやれといった様子で口を開いた。
「綾己……お主は相当な大馬鹿者じゃな」
「あはは……やっぱりそうですよね……」
「ああ。じゃが、ワシはお主のような人間は決して嫌いでは無いぞ」
「景虎さん……」
景虎さんの目から冷たさが無くなった事に安堵し、それと同時に体の力がスーッと抜けていくのを感じていたその時、「……やはり、綾己君ならそう答えますよね」と言いながら穏やかな笑みを浮かべた友禅さんが依頼の品である麻の葉柄のお包みを手に持って床の間へと入って来た。
「友禅さん……まさか景虎さんの話の内容や俺がそれに対してどう答えるかが分かっていたんですか?」
「ええ、もちろん。あの日も言いましたが、私は綾己君という人間がどういう人なのかは分かっているつもりですし、綾己君が紬さんとの生活を続け、いずれこのお店で働いて頂く上で、景虎さんの問いは本当に必要な事でしたからね」
「……そうですね。でも、俺は自分の言葉を引っ込める気はありませんよ。妖怪達と関わり、紬を育て上げると決めた以上、俺は最後までこの信念を貫き通します。俺にとっては、妖怪達のような『人ならざるモノ』達は大切な仲間で友達ですから。だから、これからもお世話になります、友禅さん」
「……ふふ。はい、こちらこそ朱子や綸子共々お世話になりますね。お店の事もあの子達の将来の事も」
「友禅さん……だから、それは展開が急すぎですって……」
友禅さんの言葉に対してため息交じりに答えていると、それを聞いていた景虎さんが大きな笑い声を上げた。
「はっはっは! 良いではないか、綾己よ。男にとって父親に認めて貰うのが一番の難関なのだから、そのままあの二人を娶ってしまえばよい! まあ、人間達の法が気になるのならば、『妖世界』で祝言を上げてしまえば良いしな」
「景虎さんまで……はあ、もう……」
どこまでが本気でどこまでが冗談なのか分からない景虎さんの言葉に軽く溜息をつきながらも俺はこの『いつも通り』に安心感と安らぎを覚えていた。
この大切な毎日をこれからも送っていくためにも結さん達の命を奪った犯人は、絶対にどうにかしないといけない。もちろん、俺の力だけじゃどうにも出来ないかもしれないけど、
膝の上に乗っている紬の事を優しく撫で、奥底から湧き上がってくる温かな物を感じながら俺は心からそう思った。
政実「第4話、いかがでしたでしょうか」
綾己「予定だと、今回が折り返しになるわけだけど、後3話で本当に終われるのか?」
政実「終われるようには考えてるから、一応は大丈夫」
綾己「分かった。そして最後に、今作品への感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
綾己「ああ」
政実・綾己「それでは、また次回」