コンドルは飛んでいく   作:りふぃ

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予定になかった飛び入り出走者が多くなり、賑やかな有馬になったと思います
一方でコンドルちゃん被害者の会の会員も一気に増えました(´;ω;`)ウッ…


15.冬に至る夢

その日、東条ハナは荒れていた。

決してそのすさみようを表に出しはしなかったが、東条ハナは荒れていた。

 

(JCはエアグルーヴの三位とスペシャルウィークの四位。マイルCSのマルゼンスキーは二位、タイキシャトルが三位か……)

 

ウマ娘達のレースにおいて、一着とそれ以外は歴然とした差がある。

極論するなら二着以降は全て負けなのだ。

その厳しい世界に身を投じるウマ娘達が勝てるように導くことがトレーナーの使命である。

この秋リギルのトレーナーとして、彼女の戦績は決して喜べたものではなかった。

 

(此処までのGⅠレースでリギルが勝ったのはスプリンターズSと秋天のみ……最早年間最多勝利記録がどうなどと言っていられん)

 

東条ハナは陰鬱なため息をついたが、一方で周囲におけるウマ娘達の評価は決して下がったわけではない。

レースとは一位の者が一人で作るものではなく、其処に参加した多くのウマ娘達の敗北があって成立するもの。

当然ながら見る者はその内容も重視する。

そう考えた時、今秋のレースは決してリギルのウマ娘が弱いから勝てないという単純な話ではなかった。

 

(コメットには今期無敗の化け物がいる。スピカにも3000で世界最速のウマ娘がいた。キングヘイローはGⅠこそ勝っていなくても菊の前にはスペシャルウィークを差し切った)

 

所属ウマ娘全員が勝ち上がりを果たした奇跡の世代。

その底辺が例年より高い事は既に証明されている。

しかしそんな世代を代表する上位陣の実力は尚すさまじいのが今期のジュニアCクラス。

ままならない現実に、この日東条ハナは酒に逃げた。

最も悪酔いするつもりはない。

沈みがちな気分を変える為、一人で少したしなむ程度。

だからあまり大衆が寄り付かない、はっきり言えば高い店に入ったのだ。

にもかかわらず……

 

「あれ、奇遇だねおハナさん」

「なんで貴方がこんな店に現れるのよ」

 

東条ハナに声を掛けたのは、普段間違いなくこんな店には金銭的な事情で近寄れない筈のスピカのトレーナーだった。

場違いな男を半眼で睨みつけたリギルのトレーナー。

それに対し、睨まれた男は肩をすくめて隣に座る。

 

「誰が相席を許可したわけ」

「誰って言われると……マルゼンスキーとしか言いようがないんだけど」

「はぁ?」

「ハナちゃんがそろそろ荒んで酒に走るころだから見ててって。ウマ娘が隣にいたら気分転換にならないだろうからと」

「うぐっ」

「あ、送り狼やったらNSXに括って引きずり回すって脅されてるから、そっちは心配しないでいいよ」

「……まぁ、事情は分かったわよ。だけどなんであんたを寄こしたのかしら」

「あれ、俺じゃ不満?」

「だってあんたが隣にいたんじゃ、結局話題はウマ娘しかないじゃない」

「……そりゃそうだ」

 

これならウマ娘が隣にいても変わらないと笑う東条ハナ。

男は思った程には気落ちしていない同業者の姿に安堵する。

それから二人はしばらくの間雑談に終始した。

それぞれのチームの事。

ウマ娘達が出走したレースの振り返り。

トレーニングや、チームの様子。

 

「それじゃ、スペシャルウィークはどっちかっていうとリギルの先輩が仕込んでいるんだ?」

「いつの間にかね。ある日突然私が教えていない妙な……でも何処かで見た事のある事をやりだすのよ。聞き出すと大体誰かが吹き込んでいるの」

「それ、使えるの?」

「にわか仕込って言いたい所なんだけどね……レースの展開によっては十分選択肢に入る程度には練り込んでくるのよ」

「すげぇな……」

「出来る事が多すぎても迷うんじゃないかと心配しているんだけどね。その点、スズカは真逆でしょう」

「あいつはあれで良いんだよ。スズカの大逃げは最高の個性だ」

 

トレーナー達はそれぞれに苦労話の風を装って自分のウマ娘の惚気話を聞かせていた。

お互いにこの業界に携わる人間であれば内情も分る。

その話には共感できる部分も多く、話は弾んだ。

 

「そろそろ今年も終わりじゃない、そうなるとさ……年度代表ウマ娘ってどうなるかな?」

「今年はまた難しい所よね」

「春はシニアクラスの誰かだと思っていたんだけどなぁ」

 

今春のレースで活躍したと言えるシニアクラスの強豪たち。

大阪杯を獲ったエアグルーヴ。

天皇賞春を獲ったメジロブライト。

安田記念で復活してきたタイキシャトル。

そして自身初のGⅠタイトルに宝塚記念を制したサイレンススズカ。

 

「……そんなウマ娘達が、秋で勝ち星ゼロなんだぜ……信じられないよ」

「私だって信じられないわよ」

 

トレーナー達は複雑な思いをため息に乗せて吐き出した。

それは決して悪いだけの事ではない。

シニアクラスが勝てていない反面で、ジュニアCクラスのメンバーは勝っているのだ。

スピカにもリギルにも、そうやって活躍している若いウマ娘達は確かにいる。

 

「秋の初戦だった毎日王冠と京都大賞典……此処から秋天、ジャパンカップと全部今年はジュニアCクラスが勝ち取っているわ。まぁ……秋天のグラスワンダーは強かったかと言えば疑問符が付くでしょうけれど」

「間違いなく強かったよ。あんなに絡まれていたのに、自由に走っていた他のウマ娘より早かったんだぜ?」

「……そうね」

 

東条ハナは苦虫を噛みつぶした表情で同意する。

あの一戦以来、グラスワンダーの中で何かが狂った。

何処かで精神的な苦手意識を持ってしまったのだろう。

左回りの時、走り方がぎくしゃくするようになったまま戻らない。

 

(本当にGⅠ一つ獲った程度じゃ割に合わないわ……)

 

トレーナーはかつてこの世代で最もまぶしく輝いていた才能が、少しずつ痛んでいく事が辛かった。

以前の骨折といい、あの秋天といい、グラスワンダーは本当に運がないと思う。

しかし最終的に、あくまで結果論としてグラスワンダーの出走を決めたのは自分である。

原因が何処にあろうとも、結局の所自責にさいなまれるのは東条ハナ自身だった。

あまり強くない酒を煽る。

息を吐く。

 

「今この瞬間に年度代表を選ぶとすれば、まぁNHKマイルカップとJCを無敗で獲ったエルコンドルパサーか、クラシック二冠でダービーも二位のセイウンスカイよね」

「ああ。しかも、秋のジュニアCクラス大躍進の急先鋒がこの二人だ。実績を考えれば、頭一つ抜けてると思っていい」

「……でも、エルコンドルパサーはないわね」

「……そうだね、無いな」

 

エルコンドルパサーは春のマイル戦を制しながら、無敗のまま中距離に出た。

そのタイミングでタイキシャトルが復帰してきたのは不運だったが、秋にタイキシャトルが負けた事によって以前ほど二人の対戦が望まれる機運はなくなった。

しかし今回、JCを制した後の有馬記念回避は残念に思うファンは多くいる。

またその点も含めてレースの主催側から、当人と所属チームのトレーナーに出走依頼が行ったものの拒否してしまった。

関係者からの感情は著しく悪くなったはずであり、この時点であればセイウンスカイが選ばれるだろう。

 

「エルコンドルパサーは同期には結構内情を話しているみたいじゃない。セイウンスカイから何か聞いていない?」

「いや、ある程度の話は聞いているみたいだけどチームでは話していない。そっちは?」

「うちもそうよ。スペシャルウィークもグラスワンダーも、エルコンドルパサーの事には口が堅いわ。まぁ、別のチームの事情だし聞き出すような事ではないから」

「そうなんだよなぁ」

 

この年頃の女子に多い秘密の共有というには、あまりにもガードが堅いスペシャルウィーク達。

だからこそエルコンドルパサーも内情を話しているのだろう。

更にどの程度まで公開しているかは不明だが、Cクラスの中からも情報が出てこなかった。

今期のCクラスの結束の固さは例年の比ではないらしい。

トレーナーとしては気になるが、経験から想像がつく部分もある。

 

「エルコンドルパサーはこの若さでシニアと戦って無敗……しかも此処で有馬記念を獲ったらGⅠ三勝目だぜ」

「そうね。恐らく、ウィンタードリームトロフィの内定の話は入っていると思うわ」

 

トゥインクルシリーズ最高峰にして夢のレース、ドリームトロフィ。

その参加条件は非公開であり明らかになっていない。

しかしジュニアCクラスではシンボリルドルフが無敗の三冠ウマ娘に輝いた年に出走した例がある。

それらの前例から様々な角度で条件を予想した場合、エルコンドルパサーが有馬記念を獲れば招かれる可能性は大いにあるとの予想はされていた。

 

「……それにしたって日程が恐ろしくタイトだけど」

「だから拒否したんだと思うわよ。エルコンドルパサーは定めた目的に対して、効率よくレースを選んでそれ以外は切り捨てているもの」

「おハナさんには好みだろ、そう言うウマ娘は」

「そうね。コンディションも作りやすいし……逆に貴方はスペシャルウィークみたいなウマ娘は好きでしょう?」

「勿論! ただ、だからこそ意外なんだよね。菊花賞であれだけ使った後にJCって……当人が望めば俺ならやるけど、おハナさんなら回避させると思ってたよ」

「身体を考えればそうしたかったわよ。だけど出さないともっと悪い事になる可能性があるなら、少しでもリスクが低い方を取るしかないでしょう」

「リスクか」

「メンタル面でね。約束していたらしいから」

 

東条ハナはカクテルグラスを傾けながらスペシャルウィークに思いを馳せる。

秋にエルコンドルパサーと戦うと約束していたとは聞いていた。

しかし当のスペシャルウィークも、頭に出来ればとつく口約束だとも話していた。

決してそれが叶わなかったからといってやる気をなくすということは無いだろう。

そう思う一方で、やはりあのJCはスペシャルウィークに必要な一戦だったと思うのだ。

 

「憧れの背中を追いかける……そんな純粋な子だったのよ。サイレンススズカとエルコンドルパサー……後セイウンスカイかしらね。この辺りと一緒に走る時は、あの子目の色が変わるのよ」

「純粋な子だった……っていうと?」

「JCの内容は不本意だったらしいわ。菊花賞で負けたのにファンは期待してくれた……にも拘らず、展開に流されて受け身になった」

「……大逃げしたスズカに早いうちから鈴を着けに行ったウマ娘が出たんだ。毎日王冠の前例もあった。後ろ残りのレースになるって考えるのは間違ってないはずだ」

「私もそう思った。でもスペシャルウィークは違ったのよ。潰れて大負けする事になっても、自分からスズカとエルコンドルパサーに挑まなくちゃいけなかったって。今のスペシャルウィークは憧れを追いかけるだけじゃない。そんな背中に並び、追い抜いていく気概が育ちつつあるわ」

「……こりゃ次が大変だな」

「ええ。覚悟する事ね」

 

スピカのトレーナーはライバルチームがまた手強くなりつつある現状を認識して息を吐いた。

 

「まぁ、話を戻して……年度代表ウマ娘がどうなるかだっけ? 現状割と横並びなのよね」

「現状セイウンスカイが候補だが……あいつ以外で一冠取ってる奴が有馬記念に勝ったら、そっちになる可能性も高い」

「スピカだとセイウンスカイが出るのよね。リギルからはエアグルーヴとグラスワンダーが出るけれど」

「後、スズカだな」

「……でるの?」

「ああ。今季三戦目だから、そう無茶でもない」

「意外ね……てっきり次はアメリカかと思っていたわ。JCで負けたと言ってもあの内容なら十分だし」

「俺もそう言ったんだが……スズカの奴、あの時何かコツを掴んだっていうんだ。確実にものにする為に、こっちでもう一走したいって」

「……へぇ」

「覚悟してよおハナさん。スズカはまだまだ強くなるぜ」

 

面白くなさそうな表情で酒気をたしなむリギルのトレーナー。

サイレンススズカは元リギルのウマ娘である。

彼女の個性を見抜けずに手放す事になった一件は、東条ハナにとっては近年最大の失敗といえた。

 

「ままならないわね……ほんとうに」

「ほんと、だからこそトレーナー冥利に尽きるってもんさ」

「……そうね」

 

東条ハナはアルコールのまわった頭で息を吐く。

スピカのトレーナーは同業者の限界を感じ、予定通りマルゼンスキーに連絡を入れた。

ありがたい事にリアシートのあるWRXで迎えに来てくれたウマ娘の送迎により、この日の飲み会はお開きとなった。

 

―――

 

酒に酔い、所属チームのウマ娘に車送迎させるという醜態を晒した翌日もトレーナーの仕事はある。

しかしこの日の東条ハナの仕事は、年末に向けた書類の整理が主だった。

トレセン学園側からトレーナーに割り当てられた一室では、部屋主が朝から引き籠っていた。

 

「……」

 

東条ハナは酒に酔っても記憶が飛ぶタイプではないが、眠くなる。

マルゼンスキーの車に乗った事は覚えているが、其処からは眠ってしまったらしい。

今朝学園で行き会ったスピカのトレーナーからは、お互い命が無事であったことを祝われたが彼女には思い当たる節がなかった。

東条ハナとマルゼンスキーは長い付き合いではある。

しかしトレーナーとして、昨日の自分は他に示しがつかない事は赤面する程に理解していた。

 

「やっちゃったわ……」

 

反省はしても手は止めない。

むしろ書類整理に逃避する勢いで仕事を片付ける東条ハナ。

正午を回り、デスクから首を巡らせる。

研究室には泊まり込みが出来る最低限の設備がある。

その一つであるキッチンコンロには片手鍋が置かれていた。

中身は昨日のうちにマルゼンスキーが作り置きしていったお味噌汁。

 

「……果報者よね自分」

 

その気遣いをありがたく思いながら、トレーナーとしても女としてもプライドが粉々にされていく東条ハナ。

悔しい事に二日酔いの胃に味噌汁は染みわたった。

午後も書類整理をしたかったが、余す書類はすでにない。

時間を持て余していた所に一人のウマ娘がやって来た。

 

「Howdy Honey! 毎日楽しいデスか?」

「嫌味か貴様」

「What?」

「……いや、何でもない。悪かった」

 

ノックもせずに飛び込んできたのはタイキシャトル。

マイルCS後はかなり落ち込んでいたようだが、元よりこのウマ娘はメンタルの浮き沈みが激しい。

落ち込んだ後をしっかりケアしてやれば戻るのも早く、今は高テンション期に入っている。

 

「それで、どうした?」

「ン~、Grandmaがね? Honeyがちゃんとお昼食べてるか見ておいてッテ!」

「保護者か奴は」

「やっぱりHoney、少し元気ナイみたいデース!」

「……唯の二日酔いだ。心配には及ばない」

「Honeyが深酒するってよっぽどだからネ~…………あ、そうだ!」

「どうした?」

 

良いことを思いついたとばかりに手を打ったタイキシャトル。

正直二日酔いの身体にこのテンションは厳しかった。

しかし愛バには何の罪もない以上、これも自分への戒めと受け入れるしかない。

 

「Honeyを元気づける良い方法! ワタシ、考えましタ!」

「元気づける方法?」

「Yes! 今年のXmas,Surprise Present、期待しててネ!」

 

そう言って、タイキシャトルは用事が出来たと研究室を後にした。

突然やってきて騒ぎ、あっという間に去っていった冬の嵐。

一人残された東条ハナは先程の会話を吟味して苦笑した。

 

「……此処で言ったらサプライズプレゼントにはならないだろうが」

 

しかし何と言おうとも、先に楽しみが控えているという事は嬉しいものである。

タイキシャトルの明るさに引っ張り上げられた東条ハナは、やっと精神的なダメージを回復させつつあった。

その夕方、研究室で休憩していた東条ハナは薄型テレビでタイキシャトルの有馬記念参戦の報を知る。

この日、トレセン学園でもっとも有名なトレーナーが胃潰瘍で病院に搬送された。

 

 

 

§

 

 

 

有馬記念前の追い込みにも小休止はある。

この日サイレンススズカとセイウンスカイは学園外で待ち合わせをしていた。

それぞれ私服に身を包み、帽子をかぶって簡単な変装も忘れない。

菊花賞以前ならばそれほど気にすることは無かったが、今は二人とも街を歩けば人を集める人気のウマ娘なのだ。

 

「お待たせしました、先輩」

「大丈夫よ」

「それじゃ、行きましょうか」

 

二人は前日の練習で、トレーニング用シューズの紐が同時に切れるアクシデントに見舞われた。

転倒などはなかったがこの時期に不吉極まりない。

そこでジンクスや縁起担ぎを真剣に考えてくれるチームメイトの勧めを受け、いっそシューズを新調する事にしたのである。

セイウンスカイとしては靴紐だけでなく、本体も買い替え時であったから丁度良い。

しかしスズカは違うのか、あまり気が乗らない様子であった。

 

「スズカ先輩?」

「ん?」

「いや、なんだか気が重そうに見えたんですけど……」

「あ、ごめんなさいね。せっかくソラちゃんと出かけているのに」

「それは良いんですけど……」

「こうしている事が嫌なんじゃないのよ。ただ、縁起とか運とか……そう言った事に拘るのは気が進まなくて」

「まぁ、悪いより良い方がいいんじゃないですかねー」

「……私の同期に、そう言うことを凄い拘る子がいたのよ」

「へぇ……どんな方だったんですか?」

「……ごめんなさい、何でもないの。二度と会う事もないんだから気にしても仕方ないわ」

 

そう語ったスズカにセイウンスカイが眉を寄せる。

何かを振り切るような声音に最悪の別れを予想したセイウンスカイ。

さりげなく道の内側にスズカを誘導して別の話題を切り出した。

 

「それにしても、スズカ先輩が有馬記念に来るとは思いませんでしたよ」

「ごめんなさいね。ソラちゃんとはシニアになってから……そう思っていたんだけれど……」

 

サイレンススズカがセイウンスカイの顔を覗き込む。

思わず仰け反ったセイウンスカイ。

スズカの顔は薄い微笑が浮かんでいる。

笑顔とは本来攻撃的なものらしい。

少なくとも今スズカが見せているのは、捕食者の笑みであった。

 

(本当に勘弁してほしい所なんだけど……)

 

仰け反ったセイウンスカイだが、目は逸らさずに見据え返す。

何処かで超えなければならない相手であるのは間違いない。

それが何時になるかは分からなかったが、直接対決する舞台が整った。

お互い今期三戦目。

準備期間もほぼ同じ。

これで負けたくないセイウンスカイである。

 

「ソラちゃん、強くなっちゃったなー」

「えぇ?」

「前はすぐ目を逸らしちゃったのに」

「み、見たくないモノを無理に見なくても良いかなって」

「……見えなくても其処にある事は変わらないわ。なら、見ない振りをしていると後々辛い事になるわよ」

「ええ。それは分かっています」

 

サイレンススズカが歩き出す。

いつの間にか歩道の内側を歩かされていたセイウンスカイ。

しかしもう一度入れ替えるのも面倒になり、そのまま二人で目的地に向かった。

 

「今年の有馬記念はどんなレースになるのかしらね」

「分かっている所だと私達の他は、リギルからグラスちゃんとエアグルーヴ先輩とタイキシャトル先輩が出るらしいですね」

「同一チームが三人とか、出て良いのかしら……」

「なんか、グランプリだと人気投票が優先されるんで二人以上出た例もあるんですよ。私達、ジュニアBの頃そう言うの調べていたんで」

「へぇ……ソラちゃんは物知りね」

「それにしてもタイキシャトル先輩の中距離って想像できないんですけど……」

「そうね……」

 

元リギルのサイレンススズカだが、タイキシャトルとは面識がほぼない。

スズカの在籍当時はタイキシャトルが完全個別メニューの調整をしていた時期であり、引き籠っていた時代でもある。

しかし失調以前のタイキシャトルの走りはスズカとしても興味があり、レースの映像は確認していた。

出走していたのは短距離からマイルだったのは間違いない。

ならばそれ以上が走れないのかと問われれば首を傾げるスズカである。

 

「マイラーだけど、レースで走った後に疲れ切っている印象も無かったのよね」

「距離延長は対応できると?」

「出来ても2000までだと思うんだけど……有馬だからなー」

「中山の2500はマイラーが強いって言うのは、割と有名ですからね」

 

距離にしては長い2500㍍の中山レース場有馬記念。

しかしこのレースでマイルから2000までと言われるウマ娘が好走した例は少なくない。

合計6回のコーナーを回るテクニカルなコース。

実は息を入れるポイントは多いため、走者の技量によっては体力の消耗を抑えられる。

 

「でもまぁ、誰が来ても関係ないか」

「此処は逃げウマ娘のワンツー共演と行きたい所ですね」

「そうね……そうなるように頑張りましょう」

 

サイレンススズカとセイウンスカイはトレセン学園のウマ娘御用達のレース用品を取りそろえた店に入った。

其処はウマ娘に関する様々な商品を取り扱う大型のショッピングセンターである。

機能美以外に拘りのない二人は早々に買い物を済ませて帰路につく。

 

「ソラちゃんとこうしてゆっくりできるのも今のうちだけなのね」

「スズカさんは来年アメリカですからね」

「ソラちゃんも来ない?」

「私は海外とか、あまりピンとこないですね……」

 

時刻はまだ正午前。

このまま帰れば午後は新しいシューズの慣らしも出来るだろう。

特に寄り道をする事もなく最寄りの駅からトレセン学園に向かおうとする二人のウマ娘。

しかしこの時彼女ら……正確にはその一人に声がかけられた。

 

「あっれーーーーー!? スズカさんじゃないですかー!」

 

セイウンスカイは最初、変装を見破ったファンがいたのかと思っていた。

第一声でスズカを見破りながら自分は無し。

人気の差に内心でふてくされかけたセイウンスカイ。

 

「やれやれ、モテますねスズカ先輩は」

「……」

「先輩?」

 

やっかみ半分で隣のスズカをみる。

其処にはセイウンスカイが知らないサイレンススズカがいた。

顔いっぱいに脂汗をかき、色も青い。

その青は服の下で全身に波及している証拠のように体を震わせるスズカ。

自分では見たことが無いモノの、セイウンスカイはそんな状態に覚えがある。

それは自身が仲間達に対してスズカの事を語る時。

到底信じられないが、あの時の自分と同じ心境だとしたらスズカは今地獄にいる。

 

「スズカさーーーん! あっれー聞こえないのかなー? おーい! 貴女のだぁーーーい好きなフクちゃんですよーーーーーー!」

「……お知合いですか?」

 

油のキレた蝶番よりも軋ませた首を捩るサイレンススズカ。

掛けられた声を視線で手繰れば、予想通りのウマ娘の姿がある。

 

「どうして」

「……え?」

「どうして貴女が此処にいるのマチカネフクキタル」

「嫌ですねぇ。自分で一番よく分かっているくせに私の口から言わせたいんですかぁ?」

 

陽気な声とは裏腹に、いやらしい笑みを浮かべたウマ娘。

スズカの言葉から出た固有名詞はセイウンスカイにも覚えがあった。

春の間は苦戦したが夏に突如台頭し、秋のクラシックを勝ち取った経歴がある。

夏の上がりウマ娘。

そんな言葉の代名詞として、近年のトレセン学園ではある程度有名だった。

 

(なんか入院したって噂聞いたんだけど元気になったのかな)

 

とりあえず声を聴く限りでは体調の不良はうかがえない。

その事に安堵しながらスズカの視線を追いかけるセイウンスカイ。

探すまでも無く、マチカネフクキタルはこちらに向かって歩いてきた。

道行く人もいなくはないが、全てそのウマ娘を避けている。

何せ服装が尋常ではない。

上半身ほどもある巨大な招き猫を背負い、手には一抱えほどもある謎の壺。

その姿はセイウンスカイの記憶にあるマチカネフクキタルの勝負服姿とほぼ同じである。

レース場ならばともかく、街中で出会えば正気を疑われるだろう。

正に神話の海割りを人波で再現したそのウマ娘は、神のごとき不遜な目つきでサイレンススズカを見据えていた。

 

「さぁスズカさん、言い訳があるなら今のうちにどうぞ?」

「……トドメは差したと思ったんだけどね」

「……あんたまた何かやらかしたんですか?」

「まってソラちゃん! そんな目で見ないで? 確かに彼女の存在は私の恥部そのものだけど」

「あっはっはー……その辺気は合いますねぇ」

「事情を知れば、ソラちゃんだって私の事を責めない筈よ! 話を聞いて」

「年若いウマ娘よ、貴女もスズカの傍にいるならわかるはず。さぁいらっしゃい、共に悪魔を亡ぼしましょう」

「むぅ……」

 

セイウンスカイは困ったようにスズカとフクキタルを交互に見た。

セイウンスカイにとってサイレンススズカは正に天敵。

フクキタルが言うように浄化できるならお払いも辞さない覚悟はある。

しかし自分を誘うマチカネフクキタルの格好も尋常ではないのだ。

街中を勝負服で出歩けるウマ娘の言うことなど聞いていいものか。

咄嗟に判断がつかずに喉の奥で唸る。

 

「ねぇフクキタル……ソラちゃんを悪の道に引っ張り込むというのなら、私は彼女を守るためにもう一度手を汚す事も辞さないわよ」

「手を汚すっていうのはリョテイやダンディ、ジャスティスらにも手を回して、何の罪もない私を精神病院にぶち込んでくれたことを言っているんですかねぇ? お生憎様、しっかりお医者様からは退院の許可をいただいて合法的に此処にいますぅ」

「バカなっ……この国の法は巨悪を野放しにしたというの!?」

「貴方たちの措置入院手続きが不当な要請だったという事です。正義は必ず勝つのですっ」

「やっぱりスズカ先輩が悪いんじゃないですか」

「だから聞いて!? 私だってこんなのに関わりたかったわけじゃなくて……」

「それでマチカネフクキタル先輩ですか? 初めましてセイウンスカイです。これからよろしくお願いします」

「これはご丁寧に、凛々しい後輩よ! さぁ共に悪魔を亡ぼして、貴方自身の人生を取り戻すのですっ」

「フクキタル先輩……もっと早くお会いできていたらっ」

「ちょっとソラちゃん! 洗脳されないで」

「黙れ悪魔め! 私は正気に戻った」

「戻ってない! 目が、目がシイタケになってるわよっ」

 

サイレンススズカはふらふらとマチカネフクキタルの方へ歩み寄る後輩を抱えるように押しとどめた。

勝ち誇ったようなフクキタルの顔がスズカの神経を逆なでする。

其処へ信じがたい力でスズカを引きずりかけたセイウンスカイ。

驚きながらもスズカが憎々し気にフクキタルの顔を睨んだ時、その目の前で横っ面に水晶球がめり込んだ。

 

「ぐはっ!?」

「クソが。勝手に消えてんじゃねぇ」

「――はっ!? 私は何を……」

 

セイウンスカイの瞳が正常の輝きを取り戻す。

深い息を吐いて空を仰いだサイレンススズカ。

彼女はひたすら面倒な事態に巻き込まれた事を悟って泣きそうになる。

先程の声もスズカには聞き覚えがあった。

 

「すまねぇな。ツレが世話になった」

「……そんな劇物を街に連れ出さないで」

「さっきまで比較的おとなしかったんだよ。それがススズの波動を感じるとかぬかして飛び出していきやがった。まさかマジでいるとはな」

 

失神したマチカネフクキタルを抱え上げたのはトレセン学園の制服を着たウマ娘。

サイレンススズカもセイウンスカイも知った顔である。

最もセイウンスカイは本当に顔を知っているだけ。

秋の天皇賞でグラスワンダーに絡んだ不良の先輩。

その名をキンイロリョテイといった。

 

「リョテイ……どうして貴女が此処に……彼女と一緒に此処にいたの?」

「……ちと騒がしくなっちまった。場所を移すぞ。そっちの若いのは帰ってもいいが、ススズは私についてきな」

「私も帰りたいんだけど……」

「無理強いはしねぇが此処で帰れば……」

「もっと面倒な事になるのよね。分かっているわよ」

 

サイレンススズカは諦めたように肩を落としてセイウンスカイと目を合わせる。

 

「ソラちゃん、どうする?」

「そのまねき猫と壺と水晶、全部持たせるわけには行きませんよ」

「……ありがとう」

 

スピカの二人は手分けしてマチカネフクキタルの私物を回収する。

心の底から嫌そうに同期の菊花賞ウマ娘が持ってきた壺を拾ったサイレンススズカ。

このまま地面に打ち付けて割ってしまいたい衝動に耐え、キンイロリョテイの背中を追いかけた。

 

 

 

§

 

 

 

外で話すには肌寒い12月の事。

4人のウマ娘はキンイロリョテイに案内されて都心を外れた喫茶店に入る。

年の瀬とはいえ店内には自分たち以外の客がいない。

スズカ達は遠慮なく奥のテーブルの一つを占領した

 

「落ち着いた良いお店ですね」

「私のお気に入りだ。フク助とススズに知られちまったのは残念だがな」

「こんなにガラガラでやっていけるんですかねぇー」

「引退したウマ娘が道楽でやってんだよ」

「なるほど、そんな第二の人生もあるのね」

 

注文を取りに来たスタッフにそれぞれが軽食と飲み物を注文する。

その背が見えなくなった時、サイレンススズカが口火を切った。

 

「見損なったわよキンイロリョテイ」

「貴様の都合で生きてねぇが、一応聞いておいてやる。何がだ?」

「貴女は癖ウマ娘だけれど、人の心はあった筈。それが犯罪者の片棒を担ぐなんて落ちたものじゃない」

「……」

 

スズカの主張には答えず、眉間にしわを寄せたキンイロリョテイ。

 

「はっはっは。かつての味方は既になく、今は私の忠実な下僕なのです。キンイロリョテイは我が軍門に下りました!」

「いつ私が貴様の軍門とやらに下ったんだ?」

「なーにを仰いますぅー。私達は親友にしてチームメイトじゃないですかぁ」

「そうだな。チームメイトだ。貴様が入院中にチームが解散してて行く当てがなくて拾ってくれと私の脚に縋りついて頼み込んできたから、私達はチームメイトなんだ」

「どうしてそこで拾ってしまったのよ! 貴女にはその精神的汚物感染源を処理する機会があったって事じゃない」

「……」

 

キンイロリョテイはスズカとフクキタルの顔を交互に見てから息を吐く。

 

「更生の機会は平等に与えられるべきだ」

「……」

「そんな風に、思ってしまったんだよなぁ」

 

キンイロリョテイの言葉に沈痛な表情で俯いたサイレンススズカ。

事情が分からないセイウンスカイと自分の事だと思っていないマチカネフクキタルは互いに顔を見合わせる。

 

「リョテイもスズカも何を話しているんでしょう?」

「聞き取れる単語を拾うだけでも相当な言われようですけど……スズカ先輩」

「なに?」

「そろそろその……お二人をご紹介いただけませんかね」

「……そっちの柄が悪いのがキンイロリョテイ。私と同じ年に生まれたという以外の接点は何もない赤の他人よ」

「キンイロリョテイだ」

「あ、セイウンスカイです」

「……そっちのシイタケがマチカネフクキタル。私と同じ年に生まれたという以外の接点は何もない赤の他人よ」

「先輩、嘘を吐くな」

「スズカさんの大々大親友のマチカネフクキタルです」

「断じて違うっ、名誉棄損で訴えるわよ」

「おいフク助、話が進まねぇから混ぜっ返すな」

「むぐぅ」

 

キンイロリョテイに半眼で睨まれたマチカネフクキタルは不満そうにしたが口を結んだ。

チームメイトを一睨みで黙らせた黒髪のウマ娘は、この中で一番若いセイウンスカイに声を掛ける。

 

「若いの、貴様はこのアホウの事をどれくらい知っている?」

「えっと……私の一つ上で皆さんと同期で……夏の上がりウマ娘として有名。菊花賞を取った後は脚の病で入院したとか」

「概ねあっている。ただし入院は脚の都合じゃねぇ」

「……どうもそうみたいですね」

 

此処までの話からそんな気はしていたセイウンスカイ。

キンイロリョテイは後輩の見識を満足そうに頷くと、スズカを一べつして黙り込んだ。

後は自分で話せという事だろう。

サイレンススズカは三人の視線を受けながら、居心地悪そうに身じろぎする。

 

「ソラちゃんも知っているみたいだけど、彼女のクラシックは夏から始まったようなものよ。トライアルを立て続けに連勝して、本番の菊花賞も獲った。直後にウマ娘特有の脚の病……いくら私が彼女の事が苦手でも気の毒だとは思ったわ」

 

このウマ娘特有の病気とは人間には見られない、ウマ娘のみが発症する病状のやまいである。

多くの場合は日常生活に支障をきたすほどではないが、レース競技者生命としては死にも繋がる病気。

原因不明であり根治は難しく、一度治ったように見えても再発する可能性がある。

セイウンスカイは聞きながらマチカネフクキタルの様子をうかがう。

実際に走っている所を見てはいないが、少なくとも足を庇う様子は一度もなかった。

 

「だけど発症してしまったものは仕方ないわ。早期に治療を受ければ今の医療なら日常生活は送れるし、レース自体に復帰してくる例だって少なくない。だというのに彼女は……」

 

此処で注文の品が運ばれてきた。

一時会話を中断してスタッフが遠ざかるのを待つ一同。

スズカはリンゴジュースで喉を潤し、半眼になってマチカネフクキタルを睨みつける。

その視線は単なる侮蔑だけに留まらず、少なくない哀惜を孕んだ複雑なものになった。

当のマチカネフクキタルは涼しい笑顔でスズカの視線を無視し、軽食のサンドイッチを摘まみ始めた。

 

「……続けるわ。彼女、医療よりも迷信に嵌まり込んでいったのよ。自分の病気をスピリチュアルな方向で治そうとしたの」

「うっわ」

「身体を病んだ上に心まで病んで……この時点では私も周りも止めようとしたのよ」

「なるほど」

「だけど菊花賞の賞金全部使って、開運の壺なんか買っちゃった時に悟ったわ。あぁ、私達の同期は……一人減ったんだなって」

「確かにススズがフク助を諦めたのはこの時か。今思えば早い方だな」

 

セイウンスカイはサイレンススズカとマチカネフクキタルを交互に見た。

今のスズカが嘘をついているとは思わない。

もう一方の当事者がおり、どちらの味方ともいえないキンイロリョテイまで此処にいる。

しかしどうしてもセイウンスカイにとって話の中と現実にいるマチカネフクキタルが重ならないのだ。

 

「あの……それでどうしてこちらに元気なフクキタル先輩がいらっしゃるので?」

「そりゃ、治ったからに決まっているじゃないですかー」

「えぇっと?」

「私はお医者様じゃないから、本人と周りから聞いただけなんだけどね…………本当に治したらしいのよ。壺に祈って、壺を磨いて、壺に縋って」

「……その壺って本当に開運の壺だったんですか?」

「そんなわけないじゃない。プラセボよ」

「プラセボ?」

「偽薬っていうか……薬と思い込んで唯の白粉を飲むと本当に効いてしまう事があるって聞いたことが無い? あれよ」

「……そんなばかな。そんなことで治せるならコレで引退したウマ娘があまりに……」

「誰にでも出来る事じゃねぇ。フク助のメンタルが無けりゃ自殺と一緒だ」

「私は本物の開運の壺を持っている。それを毎日拝んでる。だから必ず治るんだ……そんな危うくも強靭なメンタルで本当に病気を駆逐したらしいわ。少なくとも医療機関で検査して異常なしと出るほどに」

「ふむ……」

 

そう語ったサイレンススズカは疲れたように肩を落として息を吐く。

セイウンスカイはにわかに信じられなかった。

一応当人が今も磨いている壺を指さして確認すると、間違いなくその時に買ったのがこの壺らしい。

 

「此処までなら、奇跡の復活を遂げた良い話だったんだけどね?」

「まだ何かあるんですか?」

「彼女は善意で……本当に悪意の欠片も無く自分の幸運を周りにおすそ分けしようとしたのよ」

「……ん?」

「言葉を飾らずに言いましょうか……彼女は一片の悪気も無しに、マルチまがい霊感商法の手先になったのよ! 最悪な事に、自分自身という成功例を持ち出してっ。クラスメイトは勿論、果てはそのチームメイトまで……あっという間に広がりかけたんだから」

「ひえぇ……」

 

薄ら寒い怖気が背筋を這いあがってくるのを感じたセイウンスカイ。

きょとんと首を傾げているマチカネフクキタルから、先程までは分からなかった狂気を感じる。

このウマ娘が精神的な化け物である事に今更ながら気づいたのだ。

 

「菊花賞を取って一番注目が集まってた時に、クラスメイトが見ている前で本当に病気になって、本当に治った実例を作っちまったからな。最悪の成功体験を得たフク助はススズの言った通り……いや、少し違うか。こいつは利益なんざ受け取ってねぇ。ただ頼られた時に自分が壺を買った先を親切から教えただけさ。だからこそ性質が悪いんだが」

「ちゃんと効き方には個人差があると思いますよ、とはお伝えしましたよ?」

「個人差ってレベルの話じゃないでしょう!?」

「なんで皆さんそんな大げさに騒いでいるのか、当時も今も良く分からないんですよねぇ……スズカやリョテイの知らない世界だってあるんですよ? 医学だって全能じゃないんですから、お医者様が治せない病気でも開運の壺が治してしまう事だってあるじゃないですか」

「ねぇよ」

「……万事これよ。私は当時、まだこのシイタケの精神汚染をうけていなかった同期達と手を組んで最悪の疫病神と戦ったわ。具体的にはキンイロリョテイが腕力でクラスメイト達の解約と払い込み阻止。実家の強いメジロブライトが壺の販売元を公的機関に告発。私とシルクジャスティスとエリモダンディーで当人を鉄格子のついた病院に押し込んだの」

「全くもって不当な入院でした。出てくるの大変だったんですから」

 

セイウンスカイは上の世代である三人のウマ娘を一人一人見渡した。

そして自分がいかに平穏で優しい世代に生まれたかを悟る。

気が付けば瞳から涙があふれていた。

自分が幸せだったことを心の底から噛み締めたセイウンスカイ。

感謝感恩の涙は当人の意思を超え、こらえることが出来なかった。

 

「スズカ先輩」

「なぁにソラちゃん」

「私、スズカ先輩ほど無邪気で邪悪なウマ娘っていないと思っていたんですけど」

「うーん……」

「それにもまして、社会の為に生きてちゃいけない……そんなウマ娘もいるんだなって初めて知りました」

「それについては同意するわね。それじゃあ事情も分かった所で、ソラちゃんは私と彼女のどちらをとるの?」

「なんでそこで癖ウマ娘の二者択一をしなきゃならないのかなって」

「……もう。肝心な時に正気を失わないんだから」

「あはは」

「うふふ」

 

殺伐とした方向でいちゃつくスズカとセイウンスカイに息を吐くキンイロリョテイ。

仲が良いですねぇとのたまうチームメイトのわき腹に肘を入れて黙らせた。

冷めたコーヒーを不味そうに飲み干し、サイレンススズカに声を掛ける。

 

「まぁ、出てきちまったものは仕方ねぇ。誰かがこいつを見てねぇと、私らの世代の恥が公開されちまう」

「それに関しては同意するけれど……貴女まで汚染されないでよ?」

「そうなのさ。だから、私は現状を知るものを残して置かねぇといけないって危機感が、ここ最近募る一方だった」

「……ん?」

「貴様だススズ。私が正気を失ったら、責任をもって後始末をしろよ」

「はっ!? 何を言っているのリョテイ。私は来年にはアメリカに…………ソラちゃん!」

「お断りします。貴女の世代の癌でしょうが」

「むぐっ」

「情けねぇぞススズ。あんまり後輩に迷惑かけてんじゃねえ」

 

から揚げとフライドポテトにスティックサラダの皿が空になった。

現役競技者としては今少し栄養に拘りたい所だが、出先ではノーカンというのが多くのウマ娘にとっての共通認識である。

セイウンスカイは先程から話していて、このキンイロリョテイというウマ娘のイメージが実像とかなり違う事に気づく。

 

「あの、キンイロリョテイ先輩」

「なんだ」

「先輩ってなんで秋天でその……グラスちゃんに絡んだんですかね。どうもお話をしていると、そう言うことはしなさそうな方に感じるんですけど」

「魂が吠えたんだよ。蒼を殺せと」

「……あぁ、先輩も中身が勝手にやっちゃうタイプですか」

「そう言うことだ。実際に噛みつかねぇように抑えるのが大変だったんだぜ? あの秋天はよ」

 

ウマ娘にはこのように、中に宿った魂の影響がレースや性格に出るケースがある。

実はセイウンスカイはキングヘイローの首が下がらない事に関して、このケースではないかと睨んでいた。

それが正しいとすれば、簡単に治しようのない部分である。

 

「ちょっと待ちなさいよリョテイ……まさか貴女は、そんな爆弾を抱えさせるために私を此処に呼んだの?」

「その通り。まぁ、詫びに此処の代金くらいは持ってやるさ」

「おお、流石我がソウルメイト! 太っ腹ですねぇ」

 

マチカネフクキタルは心残りが晴れたというようにキャロットジュースを飲み干すと、多量の私物を抱えて席を立った。

 

「んじゃ、少し外の空気を吸ってきます」

「あんまり遠くに行くんじゃねぇぞ」

「まーた水晶球で張り倒されたくないですから自重しますよー。病院よりはマシなんですが、やっぱり屋内の空気は合いません」

 

ひらひらと手を振りながら外に向かうフクキタル。

その背を三人のウマ娘が見送った。

 

「割に合わない」

「そもそも、私は最初に自分を犠牲にしているんだぜ? むしろ貴様ら同期達は感謝すべきだろうが」

「……何も言えないわ」

 

肺を空にするほど深いため息を吐いたサイレンススズカ。

キンイロリョテイは苦笑して言葉を続ける。

 

「そんな顔をするなススズ。はっきり言えば貴様のせいだ」

「意味が分からないんだけど」

「貴様があいつを社会的に葬ったのはダンディが骨折する直前だったな」

「そうね」

「其処から奴は半年ほどで退院している。そして比較的最近までくすぶっていたんだよ」

「……」

「私の所に来たのだって、貴様が毎日王冠で敗れた後だ。なんと情けない姿でしょう、これは私が後ろから、スズカのケツを蹴り上げてやらねばなりませんね……だとさ」

「……復帰は有馬記念かしら」

「一年以上間が空いたが、去年の菊花賞ウマ娘だ。脚の病気からの復帰というストーリーもある。期待する声はそこそこ聞くぞ」

 

サイレンススズカは二の句を告げずに天を仰ぐ。

その視界は天井に遮られ、スズカの好きな空は見えなかった。

 

「しがらみって一回絡むと取れないのね」

「不可能だとは、言わないんだな」

「あの子が絶好調なら出来るかもしれない。でも運試しで調子が変動する不安定な走り方で、今の私が捕まるとは思わないでと伝えておいて」

「知っていた所でどうしようもない事だから教えて置くぞススズ。今のあいつは昔のように、おみくじの結果で自分の性能が左右されることは無い」

「え?」

「最近開き直ったか、大吉を引くことが大事ですとかほざいてな。おみくじの中身を全て大吉にしてそれを引くんだよあのバカ野郎。レースこそは出ていないが、練習ではかつての京都新聞杯のような末脚を好き勝手に使っているぞ」

「……そんなバカな」

「あいつはバカなんだよ。知っているだろう」

「そうね……バカだったわあの子」

 

スズカは腹を抱えながら、テーブルに伏して小さく笑う。

あくまで声は小さいがそれは間違いなく爆笑だった。

ひとしきり笑ったスズカは肩を震わせて起き上がる。

 

「……で、他人の世話ばかり焼いている貴女のオープン初勝利は、何時お祝いできるの?」

「む……あと一歩という感触はあるのだがな」

「私と宝塚で勝ち負けしておいて、なんで最後の勝ち星が条件戦なのよ」

「一着以外全て負け……本当に世知辛い世の中だ」

「早くしてよ。その時は、私が奢ってあげるから」

「……その言葉を忘れるな」

 

キンイロリョテイはぼやきながら伝票を持つ。

一度店内から外をみてチームメイトが大人しくしている所を確認した。

 

「それでは、私も有馬に向かう事になる。中山レース場で会おう」

「楽しみにしているわ。ね、ソラちゃん」

「はい。精一杯頑張りたいと思います」

 

感情のない声でテンプレートを読み上げた後輩。

怖い敵は隣にいる先輩だけではない。

今年度代表ウマ娘に最も近いと言われているセイウンスカイは、それを現実にすることの困難さを肌で感じる思いだった。

 

 

 

§

 

 

 

有馬記念が近づくにつれ、トレセン学園の中でも雰囲気が変わって来た。

それはジュニアCクラスも例外ではない。

ウマ娘達はそれぞれに集まって出走者の情報を交換し、自分が推すウマ娘の事を語り合う。

今年ジュニアCクラスから出走するのはセイウンスカイ、グラスワンダー、キングヘイローの三人。

エルコンドルパサーははっきりと回避を宣言し、スペシャルウィークはJCの疲労と自チームの出走者の兼ね合いから回避する事になっていた。

 

「……」

 

スペシャルウィークは年末独特の熱気を持ったトレセン学園の様子に胸が高鳴る。

何処へ行ってもウマ娘達が有馬記念の事を話しているのだ。

しかしこの日、校内の話題は有馬記念一色ではなかった。

ほんの三日前に公表された、コメットとリギルの合同練習。

その中でスペシャルウィークとエルコンドルパサーの草レースが行われることが決まったのである。

JCから一月近くの時が経ち、懸念されていたスペシャルウィークの疲労も抜けた。

今ならあの時のような醜態は晒さない。

 

「草レースかぁ」

 

スペシャルウィークは思わずにやけそうになる口元を締めた。

彼女はCクラスから転入してきたために仲間内の草レースをしたことが殆どない。

唯一の経験はリギルの選考レースだが、アレもスターティングゲートまで用いた本格的なもの。

それが悪いとは言わないが、スペシャルウィークが憧れているのはそういうものではなかった。

チームメイトのグラスワンダーから聞いていた、彼女らのジュニアB時代。

ある事情から既存のチームへ参加する心算の無かったグラスワンダー以外の仲間達は、何のしがらみもない自由な草レースを楽しんでいたという。

 

「皆もうさぁ……ズルいとは言わないよ? 言わないけどさぁ」

 

羨ましいと思う気持ちは止められなかった。

現在はそれぞれがチームのトレーナーの管理を受ける身であり、完全な自由はない。

それでも草レースをやってみたいスペシャルウィークはトレーナーに申し入れた。

スペシャルウィークの疲労は比較的早期に時計から消えた上、有馬記念に出る予定もない。

東条ハナは一旦保留にし、合同練習に合わせてコメットのトレーナーに打診してくれた。

そしてエルコンドルパサーの耳に届き、二つ返事で合意に至る。

エルコンドルパサーはJCの後のインタビューで、国内のウマ娘との勝負付けは済んだと語った。

しかし決して誰とも勝負をしないという意味ではない。

 

「凄いなエルちゃん……WDTに出たくないから内定条件の有馬記念から回避するとか、発想がなかったよ私」

 

トゥインクルシリーズの頂点にして、全てのウマ娘の憧れだと思っていたドリームトロフィ。

トレーナー達が予想していたように有馬記念の勝利を前提とした出走内定の話は、確かに来ていたという。

スペシャルウィーク達は当人からその事を聞いている。

そこから更に踏み込んだ、エルコンドルパサーの想いと共に。

 

「……目標も路線も年代も違うウマ娘が自分の意思で選んだレース。その一つ一つ交わった全部がドリームレースかぁ」

 

エルコンドルパサーは見知らぬ他人によって日程を決められ、不透明な基準で集められた強いウマ娘を並べて、さぁ感動しろとばかりのドリームトロフィに懐疑的だった。

それよりも菊花賞の後、強行ローテになる事を承知でJCに来たスペシャルウィークの意思と選択の方がエルコンドルパサーは尊いと感じる。

怪鳥はそんな思いをジョークに込めて教えてくれた

 

『あのJCがワタシのドリームレースだヨ。それに比べたらWDTより、スぺちゃんのうちで食べる蟹が大事デース』

 

エルコンドルパサーはWDTの為に有馬記念に出るつもりはない。

そして同時に、夢のために足踏みをする心算もない。

結局のところ今年の有馬記念はエルコンドルパサーにとって利に沿わなかったのだろう。

東条トレーナーが語っていた、エルコンドルパサーの取捨選択と意志の強さが其処にあった。

勿論追い風だけでなく、逆風も伴ってきたが。

 

「……」

 

スペシャルウィークが校舎を出る。

途中で幾人かのウマ娘やトレーナーとあいさつを交わして、トレーニング用のトラックに向かう。

思った通り、既にかなりの数のウマ娘が見学に集まっていた。

しかし彼女らの様子はスペシャルウィークの予想と違った。

 

(おぉ……みんな凄い盛り上がってる)

 

そのせいで後から来た自分に気付く者はいない。

人垣の隙間から覗き込めば、埒の内側にはリギルとコメットのメンバーが数人集まっていた。

そして両チームのトレーナーが少し離れた所で話し合っている。

スペシャルウィークはチームメイトと合流する為に足を向けつつ、エルコンドルパサーを探す。

何時ものマスクを着けた怪鳥はすぐに見つかった。

エルコンドルパサーはトラックを走っている。

 

「ん!?」

 

それはスペシャルウィークが知る、彼女のほぼ全力疾走。

3バ身程遅れて一人のウマ娘が追走している。

背は低いながらも女性的な肉付きに恵まれたそのウマ娘の事は、スペシャルウィークも見覚えがあった。

 

「あの人は……JCに出てたっけ?」

 

記憶をたどったスペシャルウィークは、直ぐにシルクジャスティスという固有名詞を引っ張り出した。

JCで最後の直線を自分より後ろから追い込んできたウマ娘。

ギリギリの所を首差粘って凌いだものの、脚色は自分より良かった気がする。

 

「スペシャルウィークさん」

「あ、えっと……?」

 

考え事をしている所、横から声を掛けられたスペシャルウィークは慌ててそちらに向き直る。

其処には長身痩躯で見た事のないウマ娘が温和な笑みで立っていた。

 

「初めまして、私はシニアクラスのエリモダンディーです。今走っているシルクジャスティスと同じチームで……」

「あ、初めましてエリモダンディー先輩。スペシャルウィークです」

 

挨拶を交わしながら競争の様子を伺う二人。

 

「ごめんなさいねスペシャルウィークさん。シルクが……エルコンドルパサーさんに絡んでしまって」

「いや、あの……何がどうなっているんでしょうか?」

「あの子、JCで同期のスズカさんと年下のお二人に負けた事を悔しがっていたんです。絶対有馬でやり返すって意気込んでて……最初は回避の事情を伺いに来ていたんですが、エルコンドルパサーさんが来たらちょっと……絡んじゃって」

「ああ、成程」

「エルコンドルパサーさんも、それならアップがてら捻ってやるって。後はお互いに売り言葉に買い言葉が……」

「エルちゃんらしいなぁ」

「そうなんですか? 私はもう少し、彼女は走る所を選ぶ子なのかなって思っていました」

「基準と発想が少し普通と違っているんですエルちゃん。その上、切る時はバッサリいくからそう見えるんだと思います」

 

最終コーナーを回った直線でシルクジャスティスが追い込んでくる。

しかしエルコンドルパサーはじっくりと引き付け、相手が自分を抜きかけた瞬間にスパートを被せた。

一息に突き放したエルコンドルパサーがそのままゴールに飛び込んでいく。

足を溜めた時間の長さが、そのまま結果に出たかのようだ。

 

「いっちばーん……デース!」

「ま、まぐれで一回勝ったくらいでさぁ! 調子に乗ってんじゃないわよっ。もう一回!」

「JCはノーカンなんデース? 確か二回勝ってたと思うんですケドー」

「細かい事言ってんじゃないわよ可愛くないガキねっ」

「ちっちゃくて可愛い先輩にそう言われちゃうと、返す言葉が無いデースね!」

「頭なでんなぁああああああ」

 

シルクジャスティスとエルコンドルパサーが言い合いながら歩いてくる。

途中スペシャルウィークとエルコンドルパサーの目が合い、苦笑しながら手を振り合った。

 

「エリー!」

「シルク、今日はこの辺にしとこ?」

「い、今の無しっ。私の実力はあんなもんじゃないんだから」

「うん。そうだね」

「JCだってエリーと一緒だったらこいつにもスズカにも負けてなんかいないんだからっ」

「私はちゃんと分かっているわ。だから今日はこのくらいで――」

「大体こいつ後輩の癖に生意気じゃない!? 私の事こと見て樽体形とか言いやがったのよ!?」

「先にマスクの事で弄ったのはシルクだから――」

 

見た目一呼吸も置かずに話し続けるシルクジャスティスと、相槌と突っ込みを入れるエリモダンディー。

二人の間では何時もの事なのか、エリモダンディーは会話をしながらスペシャルウィーク達に黙礼する。

そして徐々にシルクジャスティスを誘導しながら遠ざかっていった。

 

「なんか面白い先輩デース」

「絡まれたって聞いたんだけど、エルちゃん大丈夫?」

「絡まれたっていうか……本当はスぺちゃんのお客さんだったんですヨ」

「……そうみたいだね」

「うん。ワタシと走ったら都合よく忘れちゃったみたいだけどネ」

 

エルコンドルパサーとスペシャルウィークは離れていった先輩達の背に視線を送る。

 

「リギルにスぺちゃんの有馬記念回避について聞きに来ててサ」

「エリモダンディー先輩に聞いたんだけど、なんで私も入っていたんだろ?」

「あ、スぺちゃんわかんない?」

「うん」

「あの人サ~……クラシック時代にダービー二着だったんダヨ」

「凄いね」

「その上、今回JCでスぺちゃんに……今年のダービーウマ娘に競り負けたんダヨ? 同じ距離、同じコースで」

「あっ」

「悔しかったと思うヨ~? しかもあの背が高い方の先輩怪我明けでサ……JCも観に来てたんだって。勝つ所見せたかったんだろうネ」

 

エルコンドルパサーは歩き出したが、スペシャルウィークは二人が消えたほうを見続けた。

少し先に進んだ所で振り向いた怪鳥が声を掛ける。

 

「あの二人、今度は揃って有馬記念に出るみたいダヨ」

「シルクジャスティス先輩は……今年取ったら連覇だよね」

「獲れればネ。無理だと思うけど」

 

傲慢に言い放ったエルコンドルパサーに苦笑するスペシャルウィーク。

このような言い方をするから余人は彼女を誤解するのだろう。

エルコンドルパサーは先程倒した相手だから勝てないと言ったわけではない。

有馬記念に勝つのは同期三人の誰かだと心から信じているから断言するのだ。

その事を良く知っているスペシャルウィークは、あえて何も言わず会話を続けた。

 

「グラスちゃんが勝つからね」

「イエース! あぁ……だけどウンスも調子良いしナ~。あ、でも中山2500だったらヘイローちゃんだって足がもつかも」

「一応練習始まったら、グラスちゃんヨイショするんだよ?」

「スぺちゃんもね。グラスは、怒ると本当におっかないんデスから」

 

二人は秋に見た石抱き拷問と、猛禽を従えた魔王の姿を思い出す。

其処へ両チームのトレーナーから指示が飛んだ。

本命のマッチレースが始まる。

 

「エルちゃん、疲れてない?」

「むしろスぺちゃんは少しアップしなヨ」

 

挑発的な笑みを交換したエルコンドルパサーとスペシャルウィーク。

互いに拳を突き出すと、間で一度打ち付ける。

 

「返り討ちにしてあげマース!」

「あの一回で勝負付けが決まったと思うなよ!」

 

二人は同時に踵を返し、チームメイトの元を駆けだした。

冬晴れの空。

師走の一日。

そこでエルコンドルパサーとスペシャルウィークの二度目の対決が行われた。

トレセン学園の練習用トラック。

観客は学園所属のウマ娘達。

トゥインクルシリーズの定めた華やかなグレードレースなどではない。

しかし二人にとっての夢舞台は確かに此の日、此処にあった。

 

 

 

 

 




あくまでこの作中世界における人気です
幻の馬券を握りしめてお待ちください
なお作者がプレッシャーに耐えきれなかった場合も払い戻しはありません

第■■回有馬記念人気一覧

1番人気セイウンスカイ
2番人気グラスワンダー
3番人気サイレンススズカ
4番人気エアグルーヴ
5番人気メジロブライト
6番人気シルクジャスティス
7番人気キングヘイロー
8番人気タイキシャトル
9番人気マチカネフクキタル
10番人気エリモダンディー
11番人気キンイロリョテイ
12番人気ユーセイトップラン
13番人気オースミタイクーン
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