宇宙人などいない! ~IS学園潜入計画~   作:岸寄空路

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思ったよりも長くなりました。
最後が無理矢理ですが早く原作本編まで進めたいと思った結果こうしました。




偽物

 目の前にいるもう一人の自分に束は驚きを隠せずにいた。予想外の事態に束は何が起きているのかまるで理解できていない。思考すら止まり動けずにいた。

 だがそれは一瞬だけであり、束はすぐに目の前にいるもう一人の自分が何者なのか見当がついた。

 

(ピュアブリードかハイブリッドだね)

 

 他に思いつかない。先入観もあるが束の頭では考えられる可能性はそれしかなかった。

 

 ハイブリッドは宇宙人と地球人の両方の血が流れている者を指しどういうわけか戦闘に長けた能力に目覚めやすい性質がある。対してピュアブリードは純血を意味しここでは純粋な宇宙人を指す。人種だけでも地球とは比べ物にならないほど存在し、俗に言う超能力を持っている者もいれば圧倒的な科学力を持つ者まで多岐にわたる。

 どちらであったとしても束は全く見抜けずにいた。それほど目の前にいるもう一人の束は自分と瓜二つで――

 

「どうしたのかなー? そんなに束さんがいることに驚いちゃった?」

「喋るな」

 

 嘗ての狂っていた、いや狂ったふりをした自分、邪悪とも言えるほどに堕ちようとしていた時の言動そのもので、束にとっては自身の黒歴史を目の前で朗読されているに等しい。

 

「そんなに自分そっくりな存在は気に食わない?」

「それ以前の問題だ。私を知った気になっている奴に『これがお前だ』と言われることほど不快な事はない」

「ありゃりゃー」

 

 どこまでもふざけた言動。それがより束を苛立たせる。エリカに会う前の全ての人間を見下しているかの様な態度。その時の自分の複雑な内心を知らない癖に完璧に演じられているのが余計に束の怒りが膨れ上がらせる。

 

「何が目的でここにいる? 内容次第では――」

「えーそれが素? さすがに怖すぎないかな~」

「黙れ」

「やだ」

 

 もう一人の束が煽るような気の抜けた態度で接するために、今の束は血管に亀裂が入りそうなほどイライラしている。その所為で口調も荒くなっているのだが、もう一人の束は恐らく分かっていて怒りを煽っている。

 

(もう力尽くで良いよね? 私、頑張ったよね?)

 

 怒りが頂点に達した束は「殴ってから話を聞く!」と中の人繋がりな交渉術に踏み切ろうとした。

 

「……さーて、さすがにそろそろ普通に話そうか」

「!」

 

 取り押さえようと動き出す直前にもう一人の束の口調が変わった。暗くやる気の無い話し方で、間近で聞いている束でも男女の区別がつかない中性的な声に変った。同じ顔だがはっきりと別人と言えるほどに雰囲気が変わった相手に束は怒りを鎮め再び警戒心を露にする。

 

「そんなに警戒しないでよ。僕は何もしないよ」

「……信じられるわけないでしょ」

「それもそうだ」

 

 本気で信じてもらおうと思ってなかったのか、一人称が僕となっている束は椅子に座り込んで面倒くさそうに溜息を吐きながら頰杖を突いた。

 

「そもそも人の姿を真似ている癖に図々しいんだよ。信じてほしいならすぐに正体を現したらどう?」

「まあ、言われて当然だけど僕にも事情があってね。それはできない」

「何なら私が無理矢理その顔から皮を剥ぎ取ってあげるよ」

「さらりと恐ろしい事を言うね。今は名前を教えるから勘弁してもらえないかな?」

 

 そう言うと座り込んだ束は近くの紙に何かを書き込んでそれを立ったままの束に見えるように掲げた。

 

「ヨトミ?」

「意味は自分で考えてね? 天才なら気づくと思うけど」

 

 やる気の無い声で挑発的な事を言うもう一人の束――ヨトミを束は鋭い目で見つめる。

 

「で、そのヨトミさんは何の目的で私のラボに侵入したのかな? わざわざ人の姿形まで真似て」

「上司の命令でISのデータを貰いに来た」

「……それだけ?」

「そうだよ」

 

 あっさり理由を口にするヨトミ。しかし、束にはそれだけとは思えなかった。目の前にいるこいつはただの下っ端じゃない。自分を完全に模倣していた相手の立場はその能力を考えれば決して低くはない、だから他にも目的が有るはずと束は確信に近い思いを感じていた。

 

「まあ、疑問は分かるよ。でも今回の事件を起こした人間の目的の一つなのは間違いないよ」

「その言い方だと君は違う目的があるみたいだね」

「うん」

「それも教えてくれると嬉しいかな」

「別に構わないよ」

「……え?」

 

 ダメもとで目的を教えてもらえないかと聞いたら了承されるという予想外の事態に束は戸惑いを隠せないでいる。そんな束を無視してヨトミは語り始める。

 

「僕の目的はただ一つ」

 

 

 ――篠ノ之束、君に成り代わることさ。

 

 

 ヨトミが笑顔を浮かべる。瞬間、嫌な予感を感じた束はヨトミの目を見る。ヨトミの視線が自分に、正確には自分の背後にある何かに視線を向けていることに気づいた束は横っ飛びに跳んだ。

 

 直後に銃声がラボ内に響き渡り先程まで自身の頭部が有った場所を銃弾が通過した。あと一瞬遅ければ自分の命は無かった。その事実に束は冷や汗をかく。

 

「あら、まさか避けられるなんて」

 

 知らない女の声がラボ内に響いた。束に発砲した人物だろう。束が声の聞こえた方に目を向けるとそこには金髪の眼鏡を掛けた神経質そうな女がいた。

 

「お前は、確か急進派のキャサリン・K・キャンベル」

「おや私の名前をご存知で、しかも急進派という事も……既に接触した者がいるという事ですか」

 

 キャサリンの言葉を聞き束は自身の迂闊さに内心で舌打ちをした。まだ自分が『ガーディアン』と関わっていることを知られてなかった。そのアドバンテージを自分で潰してしまったのだ。エリカが穏健派の方で『ガーディアン』内で情報規制をしたことと、まだ所属して一ヶ月という短い時間だったために束が地球の現地協力者だとは急進派には知られていなかった。

 

「でしたら、これ以上はマズいですね」

「そうね。でも問題ありません。ここでMs.篠ノ之を処分すれば良い話。私のプランに変更はありません」

 

 そう言ってキャサリンは銃口を束に向けた。同じようにヨトミも懐から銃を取り出し束に向ける。二人は同時に引き金を引く。

 

「――なめるな!」

 

 しかし束は超人的な動きで銃弾を躱す。床を蹴り、天井から跳ね、壁を走りヨトミに近づいていく。その間、キャサリンとヨトミの銃に狙われ続けているが全て回避している。

 

「ああもう、当たりなさい!」

「さすが天然ものというわけか。当たる気がしない」

 

 キャサリンがヒステリックに文句を言い、ヨトミは感心しながらも冷静に引き金を引いている。束はそんな二人の声を無視してヨトミの背後に回る。

 

(こいつを捕まえれば計画を台無しにできるはずだ!)

 

 自身に成り代わろうとしているヨトミが計画の要だと束は判断したのだ。

 

「ほっ」

「!?」

 

 ヨトミは動揺することなく束を後ろ回し蹴りで退けた。束は腕でガードしたため、体勢を崩したがすぐに持ち直して距離を取った。

 

「くっ……!」

 

 予想外の反撃に束は自身の失策を認めるしかなかった。なぜならガードした腕が痛みで動かせなくなったからだ。恐らく骨に罅が入った、最悪折れたと束は判断した。

 

(これは……身体能力も私と同じ、むしろちーちゃんと互角かも……!)

 

 無意識に相手は自分以下と判断して行動した結果がこれだ。模倣しているのは見た目や性格だけでなく身体能力すらも含まれているのだと考えるべきだった。あるいは身体能力が高いから選ばれたのか、どちらにしてもそこまで想定しなかった束の落ち度が束自身を追い詰める結果となった。

 

「よくやりましたヨトミ。ですが次は逃げられないように足を狙いなさい。可能なら仕留めなさい」

 

 称賛の言葉を口にするキャサリンだが、その顔は苛立たしそうに束を睨みつけている。

 

「了解ボス。――というわけで僕としては生きてようが死んでようがどちらでも構わないんだけどこれも命令だから」

 

 やばい。束の頭に浮かんだのはその言葉だけだった。ヨトミの予想以上の身体能力、その所為で動かなくなった片腕。絶体絶命とも言える状態にキャサリンは笑みをこぼす。ヨトミもどこか余裕そうにしている。

 

「ところでさ」

「ん?」

「私って、所謂マッドと言われる類の技術者なんだけど」

「だからなに?」

 

 唐突によく解らないことを話し始めた束に首を傾げるヨトミ。キャサリンも訳が分からないと言わんばかりに不信感が表情に出ている。

 

「一回言ってみたいセリフが有るんだよ。こういう土壇場で」

「辞世の句みたいなものかい? それぐらいなら待つよ?」

「それじゃ遠慮なく――」

 

 束の手が素早く背後にある壁に偽装されていたスイッチを押した。

 

「こんなこともあろうかと、ってね!」

「な――」

 

 ヨトミとキャサリンが何が起きたのか認識するよりも早く束の足元の床が跳ね上がり、それと同時に天井が正方形に開かれる。飛び上がった束はその中に入り込むと天井は閉じられた。

 

「Shit! 逃げられるなんて!」

「まさか絡繰り屋敷みたいな仕掛けを用意しているとは……」

「感心してないですぐに追いかけなさい!」

「そうしたいけどあれはもう使えないよ」

 

 ヨトミはそう言って束が使った仕掛けに向かって指をさす。どうやら一回限りものらしく束を脱出させた床下のバネが伸びきっている。元に戻せば使えるかもしれないがそうしている間に束には逃げられるだろう。

 

「私のプランがこんな下らない仕掛けで……!」

 

 悔しそうに地団駄を踏むキャサリン。それをヨトミは冷めた目で見ていた。

 

 

 

 その後の結果だけ話そう。束は無事逃げ切りエリカ達と合流。再度、束のラボに向かうがそこは既に蛻の殻であり、ISのデータも全て抜き取られていた。

 更に電波ジャックを行った急進派によって束の造った白騎士がミサイルと戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基を撃墜する映像が流れた。この映像を発表後、篠ノ之束、いやヨトミはこの事件においての死亡者は0と語っている。撃墜されているものの数を考えればあり得ないのだが、その事について後に束は語る。

 

「『ガーディアン』の装置で解析してみたけど合成の可能性が高いね。まあ、恐らく今の地球の技術じゃ見破れないし、キャサリンが細工したから皆信じるだろうね」

 

 束の言うとおりこの過剰演出された『白騎士事件』は真実として認識されることとなった。キャサリンの持つ異能『洗脳』によって「ISを倒せるのはISだけである」というヨトミの言葉を世界は無抵抗に受け入れISは世界最強の兵器となった。

 

 この余りにも突飛な急進派の起こした事件の目的を穏健派が掴むまでには暫しの時間が必要となる。その結果、全ての対応が後手に回り急進派の狙いに気づいた時には手遅れだった。急進派の地球への影響力は無視できないものとなっていた。

 

 だが彼らは諦めず急進派の反撃の準備をし続けた。地球を急進派の魔の手から守るために。

 

 そして、穏健派が反撃の狼煙を上げるチャンスを得るまで十年の歳月が必要となった。

 

 




苦情はいくらでも受け付けますので勘弁してください。

次回からこの作品の主人公が登場(予定)です。
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