「アルフォンス、既にこちらはガンダムを視認したがお前は今どこにいるんだ?」
「青いガンダムの方へと向かっているところだ」
司令部の情報によればAEUの受け持ち空域で足止めしているということらしいが、敵としては別ポイントで合流するために予め集合地点を決めているはず。そう確信して先回りするために機体を飛ばしている状況だった。
そしてその読みは正しく、前方に特殊粒子の反応を捉えたのだった。
「……違う、あれは標的のガンダムではない……!?」
確かに特殊粒子は捉えたのだが、それは
「……ははっ本当に……楽しませてくれるよ……!」
アルフォンスはペダルを踏み込み一気に機体を加速させる。その挙動に相手も答えるかのようにビームサーベルを展開させこちらへと振り下ろしてくる。
「ふっ!」
ビームサーベルを抜かずに肩のフィンスラスターで機体を急激に捻らせてギリギリで振り下ろしを躱し、その反転スピードをつま先に乗せて相手の背中を蹴り飛ばした。
蹴られた相手は吹き飛びながらも右手に装備したビームライフルでフラウロスに攻撃してくる。だが、苦し紛れの攻撃に当たるほどの腕でもなく機体を左右に揺らしながらどんどん距離を縮めていく。
「貰ったぞっ!」
ギリギリでビームサーベルを展開させ敵の胴体部へと突き刺す瞬間に横合いからの粒子ビームが飛んできた。咄嗟に腕を引き敵を蹴り飛ばしながら後退する。
「水入りか……」
そこに居たのは背中に大きなビーム砲を装備した機体だった。さっきまで相手をしていた機体はその新しく戦場に出てきた機体の横へと移動した。
「2対1か……やれなくはないが……」
その時、全方向に対しアラートが鳴った。急いでペダルとレバーを操作して機体を動かす。さっきまでいた位置に小型の何かが通って行ったのを確認することが出来た。
「……3対1かよ……」
エネルギーゲージはまだまだ余裕があるものの、さすがに未知の攻撃が多く確実に勝てるという確信は無かった。だが、こいつらを放置すると追っていたガンダムを助けに行くだろう。
何度か本部に連絡を取ろうとするも特殊粒子の影響下のためまったく通信が出来なかった。
(この状況で足止めをすればガンダムは他の部隊が落とすだろう……)
しばらく睨み合いが続き、そしてビームライフルを構えて大型のバスターソードを持った機体へ向けてトリガーを引いた。それに反応した機体が銃口から逃れるように視界から外れようとする。
その後に背中にビーム砲を持った奴がアルフォンスへ向けてビームを放つ。そしてビームをすり抜けるようにもう1機が距離を詰める。その攻撃を避けながらビームライフルで狙った敵に近接戦闘を仕掛ける。
相手は待っていたとばかりに両手でバスターソードを持ち横薙ぎに払う。アルフォンスはその剣をいなすように、左腕のシールドでバスターソードをはね上げた。
「隙だらけなんだよ!」
がら空きの胴体へ向けてビームライフルを向けるが次の瞬間、ビームライフルが爆散し機体が後ろへと押し流されてしまった。
「ちっ……あの小型兵器が厄介だ……」
ビームライフルを破壊したそれは再びアルフォンスへと不規則な機動を伴って迫ってくる。機体をジグザクに動かしながらその親機へと迫るが、他の2機の援護攻撃を受けているためどうにも対応ができない。
「……なんだ?撤退するつもりか……!」
大事なミッションがあるのか相手の3機は次第に後退していた。そうはさせじとスラスターを吹かして距離を詰めようとするがいつの間に居たのか2基の小型兵器がスラスターに突き刺さった。ちょうど、点火したタイミングだったため、背面で爆発が起き推力が低下する。
「ぐぁぁぁ!!」
すぐさまスラスターを封鎖するものの機体ダメージはそれなりに大きくこれでは戦闘が困難な所までしてやられた。気がつくと相手をしていた3機は既に索敵範囲外へと移動していたのだった。
「くそが……!」
アルフォンスは悔しさのあまりコンソールを殴りつけ次に戦う時はこの雪辱を晴らすことを誓うのだった。
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今回の三国合同軍事演習という名目のソレスタルビーイング殲滅作戦は、新たな3機のガンダムの存在により瓦解し、甚大な被害を負って終了したのだった。これにより、当初は難色を示したAEUの上層部もユニオン、人革連との同盟を結ぶ方向へと舵を切り世界は1つへとまとまろうとしていた。
また、とある場所にて、各国の代表者を集めた会堂がありそこでお披露目されたのはガンダムの動力源である『GNドライヴ』だった。なんと、これをそれぞれの国へ10基ずつ、計30基の無償提供及び機体の設計図の提供などがなされ、これも世界の統一化の流れの後押しとなった。
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「……まさかこんなことになるとはね……」
テレビの画面では国連軍の結成という題目でニュースがやっていた。あの後、世界は遂にひとつとなりソレスタルビーイングを殲滅するという大きな目標が立てられたのだった。
ガンダムと同等レベルの機体の設計図、そして動力源……これらが提供されたのだが、その裏には何かあるのではないかという勘ぐりを捨てることは出来なかった。
「……いずれにしたって世界がまとまるならそれでいいさ」
そう言いながら席を立つアルフォンス。
「おや、こんな時間にどこにいくんだい?」
「ちょっと約束がな」
時計を見れば既に深夜12時を超えており心配するビリーの声を背に部屋を出ていく。そして向かった先は自分の機体が格納されている格納庫だ。
「…………」
格納庫へたどり着くとそこには先客がいた。何人もの兵士がこちらへと銃を向けていた。
「……おやおやなぜこのような事を?」
「知らん、私達は命令に従ってやっているだけだ」
「そうですか……それは残念です」
そう言うとアルフォンスは携帯端末を起動させた。次の瞬間、フラウロスが起動し近くにいた兵士に向けて頭部のバルカン砲をばらまいた。突然の出来事に混乱する兵士たち。その隙を突いて物陰に隠れるアルフォンス。
「やってくれるよ、ほんとにな!」
アルフォンスは隙をついてフラウロスの脚部分に取り付く。それと同時にフラウロスの腕部バルカンを起動させて兵士を薙ぎ払う。
「ぐはっ……!こんなことで……!!」
瀕死の兵士がマシンガンを持ってアルフォンスに向けて引き金を引く。それを遮るかのようにフラウロスの腕がアルフォンスを守った。
「……残念だったな」
その兵士が事切れるのを見届けてコックピットに乗り込み完全に起動させる。
「ふん……そうか彼らは俺を不要としたか……」
アルフォンスは予備の武器である『バスターライフル』を取り出し右腕に装備して格納庫から飛び出した。それを逃すことは無く追っ手として数十機のフラッグがスクランブルで出撃してきた。
「悪いがもう、容赦はしない」
バスターライフルを構えてトリガーを引く。一瞬のため時間の後に極太のビームがフラッグの編隊の中心に突き刺さる。圧倒的な威力の前に為す術無く消し飛ぶフラッグに他の機体が硬直した。
「突破させてもらうぞ」
空いた陣形の穴を機体を変形させて一瞬で突破する。圧倒的な速度についてこれる訳もなく瞬く間に距離を開ける。
その時後ろから猛烈な勢いで迫る一機のフラッグがレーダーに反応した。
「……グラハムか」
「アルフォンス!なぜこんなことをした!!」
「殺されそうになったからな」
飛行形態のままグラハムの攻撃をかわす。
「そんなことが!」
「あるからこうなってるんだよ!」
痺れを切らしたグラハムがさらに攻撃を加える。思いのほか照準精度が高く機体にかすり始めた。
「……悪いなグラハム、ここで落とさせてもらう」
「くっ……!」
機体を変形させ、腰部からビームサーベルを抜き切りかかる。グラハムも機体を変形させて改良したプラズマソードを抜き受け止める。切り結んでいる部分からプラズマが迸り互いに拮抗した状態になる。
「奴らはガンダムと同等な性能のモビルスーツを得たから邪魔になったんだろう」
「そんなことをするはずないだろう……!」
「ふんどうだか」
1度機体を後ろに下げて腕部バルカンをばらまく。その牽制射撃を機体を揺らしてかわしこちらとの距離を詰めてくる。
「ここで決着をつけてやる!」
「いつぞやの模擬戦の続きか?今回はそういうものではない!」
フラッグが近づいてくるのに合わせて機体を滑らせ一瞬でフラッグの下半身をビームサーベルで切り裂く。
「なんと!?」
「さよなら、グラハム」
振り返ること無く機体を変形させてその場を立ち去るのだった。
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グラハムとの戦いから数日経ちアルフォンスは別荘に隠れていた。そこの近くにはユニオンの基地はなくまた、このような場所に別荘をもっているということは他の人には知られていなかった。
「これからどうするか……」
いっそのことソレスタルビーイングに合流するのもいいかもしれない。そんなことを考えていた矢先にアラートが部屋に鳴り響く。おまけにこの反応はソレスタルビーイングのガンダムだ。
「だがこれは……赤い色の粒子……ははっこの前の決着といこうじゃないか……!」
アルフォンスはすぐにフラウロスに乗り込むとその機体を追い掛けるべく出撃するのだった。追いかけることしばらくすると、敵は太平洋上のとある島へと降りていくのが見えた。仕掛けるためにそこに対して強襲をかけようとした所で、一機のイナクトがその島に降りていくのが見えた。
「……どういうことだ?」
怪しく思い機体を降下させるとそこでは1人地面に倒れ込み、ガンダム同士での戦いが起こっていた。
「奪われたのか……だが、これはチャンスだな」
その戦いに介入するためにバスターライフルを構え大剣を持った機体をロックオンする。その機体はロックオンされたことに気づいたのかいとも容易く射線から逃れる。
「そこの機体、援護を感謝する」
「残念だ、どちらの味方でもないのでな」
今度はランチャーを持った方に対してバスターライフルを撃った。相手は間一髪のところで回避し、追撃をしようとした所で後ろから大剣を持った機体が攻撃を仕掛けてきた。
「邪魔すんじゃねぇよ!」
「こっちの機体は……かなりの乗り手だな……!」
バスターライフルを腰に移動させてビームサーベルでその大剣を受け止める。敵はビームサーベルと切り結んだ瞬間に剣を引き右手のハンドガンでこちらのコックピットを狙ってきた。
その攻撃をフィンスラスターで回避し、その勢いで回し蹴りを繰り出すも剣の腹で受け止められる。
「もらった……!」
その隙に射撃型の機体がこちらを巻き込む射線を確保し極太のビームを発射する。瞬時に機体を変形させて射線から逃れ、剣を持ったやつも射線から外れた。機体を変形させたことで距離が離れてしまい、その隙に剣の機体が射撃型の機体を一刀両断した。
そして今度は逃げようとしていたもう1機に攻撃をしようとしていたが、横合いからのビームに邪魔をされて間合いをあけた。
「あの青いヤツか……!」
そして今度は青い機体と大剣の機体との戦いが始まるのだった。青い機体の方のパイロットも技量はそれなりに高いが動きがどこか直情的でまだ若いことが伺える。
「蔑ろにされるのは性にあわないが……」
エネルギーゲージを見ると既に半分を切っていて戦闘では少しばかり心元なかった。だが、それでもどこかで介入はしたいところだ。そして、戦いは赤い方の機体が青の機体の死角に回り込み切り伏せる寸前にまで推移していた。
「ちっ!」
フラウロスにバスターライフルを構えさせるが着弾が間に合う保証はなかった。だが、その攻撃をする必要はなかったみたいだ。
「なんだ……あれは……」
突然青い機体が赤く輝きだし残像を伴うレベルの機動性を発揮したのだった。あまりに突然の変化で有利だったはずの赤い機体は撤退することを選択したようだった。
「なるほどね……で、次は俺ってわけか」
あの機動性を相手に勝てる気はしないが食らいついては見せるという気概でビームサーベルを抜くが、相手の機体は元の色に戻り、背中の出力も落ちているように見えた。
「……今がチャンスか」
俺はサーベルをしまい、バスターライフルを下げると光通信で交渉をしたいという旨を伝えるのだった。