【完結】吉良吉影のヒーローアカデミア   作:hige2902

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⑤ 言ってみたいセリフ 後編

 なんやかんやで体育祭当日。おあつらえ向きの晴天の中、会場のスタジアムは満員の観客、メディア、スカウト目的の関係者各位で満員御礼だった。期待と緊張感に満ち、ほのかに出店の飲食物のいい匂いが漂う。いかにもお祭りといった雰囲気。

 

 1-Aの挑発的な選手宣誓が終わり、司会のミッドナイトの進行で一年生の予選種目、障害物競走が始まろうとしていた。全三種目の内の一つ目とあって、どこか浮足立っているような雰囲気があった。

 

『いい? 個性あり、()()()()()()の自由形だけど、責任ってもんをよく考えてね! それじゃあこっからは実況のプレゼント・マイクでお送りしまーす』

 

 スタートゲートに前に200人を超える生徒が、開始前のマラソン選手のようにぞろぞろと向かって行く。

 

「あっ、吉良くん久しぶり」

 

 その途中で、聞き覚えのある声が投げかけられた。ちらと視線をやると、雄英指定の紺色の運動着が浮いている。スカウトも視野に入っているヒーロー科にしては、気楽な口調だ。

 

「葉隠か、相変わらずのようだな」

「吉良くんも、なんというか、その、相変わらずって感じだね」

 

 言って葉隠はあらためて周りから浮いている吉良の服装を、頭からつま先まで見やる。深い海色のリネンのサイドベンツの入ったジャケットに同色のスラックス、白のオックスフォードは似合わなかったが、運動着のカラーだから取り入れたのだろう。それとスエードのチャッカブーツ。ノータイである事からして一応は合わせているつもりなのだ。

 

「そんな目立ちたいって性格だっけ?」

「いや。一つ考えてみてほしいのだが、わたしがその運動着や学生服を着たところでどこか違和感が残るとは思わないか?」

「うーん、まあ正直、言っちゃ悪いけど大人が高校生の格好してるみたい、かな」

「うむ。そして違和感があるって事は目立つって事だ。ならいっそ奇異の目で見られてもジャケットスタイルにして違和感を無くした方がいいだろう。どのみち多少は注目されてしまうのなら、違和感は無い方がいいに決まっているからな」

 

 有無を言わさない圧倒的正論に、なるほどぉと葉隠は文句なく納得した。納得したのだ。

 

「そんな事より、きみはこんな後方に位置してていいのか?」

 

 スタートゲートが異様に狭いせいで、今から移動しても先頭に陣取る事はほぼ不可能そうだ。

 

 暗黙の了解というか、やはり実力派のヒーロー科の面々は前方にいる。では吉良はというと、編入を目指すと意気込んでいた割りには後方に位置取っている。もちろんこれは()()的なものだ。

 過去に編入を果たした生徒の成績を見るに、予選においてトップである事が必要条件ではなさそうだった。むしろ、力を出すべき場面を的確に計算するクレバーさも考慮されるのだろう。プロヒーローがチンピラ相手に全力を出して、いざ凶悪ヴィランに相対した時に体力切れでは話にならないからだ。

 

 となると最終種目で結果を出すにはやはり、予選から一桁台を目指して疲弊する訳にはいかない。それに、障害物競走である以上は、後続の方がギミックを知った上で走れるという情報アドバンテージがある。実況の音声や、スタジアムの至る所に設置されている大型スクリーンに映る映像から的確な対処を想定できるのだ。

 

 道とは! 幾人もの人が通った後に出来るもの。先んじて野を行く者と、その後に出来た道を行く者。長期的に見てどちらが有利かは自明の理。

 

「わたしはいいかなー、アレを躱せる気がしないし。ま、お互いライバルって事で、手加減なしでがんばろーね」

 

 そう言って葉隠は吉良から距離を取った。

 

 アレ、とは? という怪訝な表情を見せた吉良だが、開始の合図と同時に理解した。プレゼント・マイクの実況を聞くに、先頭陣の多くが『氷』によって足止めを食らったようだ。

 やはり後方を選んだのは正解だ。急速に冷えた足で走るのはかなりの負担だろう。

 すぐに誰かの何らかの個性で氷は溶かされ、あるいは砕かれて、『氷』を予見して回避した生徒以外はゆったりとした立ち上がりで予選は始まった。

 吉良の順位は中間より少し上程度。

 身体が良い具合に暖まる距離を走ると第一の関門、今年の入試で活躍した仮想敵が立ち塞がる。ただ、吉良が通るころには先兵の巨大0ポイントロボの殆どが、先頭組の爆豪を初めとする強個性の使い手やヒーロー科によって対処されており、残っているのは2ポイントのサソリ型が主だった。

 

 ここで中間層の振るい落としが行われる。ヒーロー科に落ちて他の科で受かった程度の実力を持つ学生や、アイテム持ち込みのサポート科の差が出るという訳だ。

 そして2ポイントの仮想敵が概ね排除されて1ポイントがまばらに残る頃、最後尾を走っているであろう、第一希望が経営・普通科の学生が通る。大味に見えてそれなりに設計されたレベルデザインなのだ。

 

 吉良にとってサソリ型程度はまったく問題にならない。入試と違って倒す必要も無いので、突き出された尾やハサミをキラークイーンで殴った瞬間に装甲の一部分だけを爆破し、そのまま殴り抜いて無力化していくだけ。

 戦闘の合間にちらとスクリーンを見ると、先頭は第二の関門を越えていた。

 

 ザ・フォールと名付けられた障害は綱渡りのようだ。だがスケールがさすがの雄英。幅数十メートルの深い崖に大小高低様々な石柱が無作為に配置されおり、子どもの腕程のワイヤーがアンカーボルトで固定されている。

 第一の関門から間髪入れずに設置されているのは、戦闘により噴き出た闘争心やアドレナリンのコントロールを試す為の障害だ。

 一見すると無秩序に配置された石柱とワイヤーの中には、比較的通りやすいルートが用意されている。冷静に全体を見渡せばなんとなく気付けるが、戦闘後の血の登った頭を意識的にリセットできるか、といったプロとしての実践的なテストも兼ねている。

 

 ある者は持ち前のバランス感覚で最短ルートを飛んで、個性でロープと自分を固定しながら次々と突破していく。

 ここで吉良は偶然にも遠回りだが踏破しやすいルートを取る。目に見えて通りやすそうな、あるいは最短ルートを選んでは後続に後ろから邪魔されかねる懸念と、今の順位は予定以上なので逸れたルートを選択しても問題はなさそうだったからだ。

 

 この場に端田屋のような奴はいないが、吉良は基本的に根拠無く他人を信用する事はしない。だからあえて遠回りのルートを渡る。いささか見てくれは悪いが、キラークイーンにおぶさる形で難なくクリア。

 

『なんとォ! 普通科の吉良吉影が上位陣に食らいつく展開! ここでダークホース登場かぁ!?』

 

 そしてなぜか後続もまた吉良のルートに続き、好タイムを出す。

 

『しかも続々と第二の関門を突破していくううぅ! どーなってんだ今年の一年は!』

 

 ここで思い出していただきたい。

 これは誰もが知っているベストジーニストの逸話の影響だ。自分のスタイルを貫く吉良にベストジーニストを重ね、ひょっとしたらこいつの実力は将来プロになるほどかもしれない。なら、こいつのルートを辿るのが最善手、と考えたのだ。

 その結果、吉良以降の第二関門の脱落者は驚くほど減った。

 

 クソ、後続の事はどうでもいい。先頭集団についての情報は……と吉良は設置されていたスクリーンを見上げる。そこには吉良の計画を揺るがすほどの映像が流れていた!

 

「な、にぃ」

 

 

 

――――――

 

 

 

 吉良が瞠目する少し前。心操もまた第二の関門に差し掛かっていた。そろそろペースアップして上位20パーセントくらい入るか、といった心境。

 ヴィラン向きの個性を、持ち前の正義感とヒーローになるという強い志でもってして悪用しなかったほどの彼だ。その辺の学生よりも心身に自信がある。

 底が見えないほど深い崖の恐怖を意識の外に追いやり、進むべきルートを弾き出す。意図せずして吉良と同じルート。もう少しで対岸、という所で踏み外す、いやありえない。だがこの抗いきれない重力と落下の感覚の正体。

 

『ああーっと、ここでアンカーが足場から崩れ落ちるまさかのアクシデント!』

 

 不幸中の幸いか、石柱側のアンカーが外れただけだ。反射的にワイヤーを掴んだ心操はさすがに肝を冷やして崖の底を見下ろす。よくよく見れば薄らとネットらしきものが確認できた。最悪の事態にはならなそうだ。

 

 見上げると数メートルで這い上がれる距離。何とかなりそうだったが、追い打ちをかけるかのように対岸側のアンカーが撃ち込まれている地面にも、音を立てて大きくヒビが入った。

 

「やべーな、さすがに」

 

 思わずそう零してしまう。

 

『っだああー! こんなバッドラックと玉突き事故が起きてしまっていいのかー! 絶体絶命のピィーンチ!』

 

 不運だけじゃねえんだよな。とプレゼント・マイクの隣でおとなしい解説を務めている相澤が内心で呟いた。ま、もう少しで対岸ってところで注意力を怠った心操の実力不足が8割くらいだが。と付け加える。

 

 たとえば目の前にギリギリ飛び越せそうな穴があったとする。多くの人間は距離を稼ぐためになるべく手前で踏み込んでジャンプするだろうし、着地もギリギリなのだから穴に近い場所になる。

 つまり負荷のかかる箇所はその始点と終点の二点に集中する。それが個性によるものならより大きな力が加わることになる。吉良の後に続いた多くの生徒により蓄積された負荷でアンカー付近の地面は脆くなっていたし、そうと気付けるほどの個性の爪痕は残っていた。相澤の指摘する注意力不足はそこだ。

 

 また、実はアンカーも雄英側が作為的に脆弱に打ち込んでいた。先行する者を追い続けるという思考は、時としてプロヒーローが他事務所と連携してヴィランを追う際に悪手だ。先頭が撒かれると全員が目標を見失う可能性を考慮して、後続は追いにくい道でもあえて選ぶ事が重要視されるという実践的理由がある。

 

 ここだけ聞くと理不尽なようだが、体育祭はプロのスカウトの場でもあると生徒に公言してある。

 結果だけではなく、無意識的プロ意識。一流事務所はこのような隠されたテストで有望そうな生徒を探し出すのだ!

 

 そうとは知らない心操はゆっくりと、細心の注意でワイヤーを登ろうとするが、少しでも動くと小さな欠片がころころと落ちていく。横目には別ルートで次々と関門をクリアしていく同級生。

 

 ここまでか、こんなところのここまでなのか。

 おのれの中で自虐的に薄く笑う。1-Aにあれだけ啖呵を切ってこのザマか。どうしようもない無念と、もっとヒーロー向きの個性だったらと生まれを呪う。こんな狡猾そうな個性じゃなく、純粋な筋力増加だったら絶壁を駆け上がれただろうし、炎なら噴射して上昇できたかも、飛べたならまさにヒーローといった感じ。

 こんな証拠も残らない、仄暗い個性よりも。

 

『な、な、な』

 

 と、諦観の念に沈んだ心操の耳に不自然な会場のどよめき。少し遅れて、わなついたプレゼント・マイクの動揺が響いた。

 

『なぁーにをやってんだコイツはぁああ! 信じらんねェェエ!』

 

 なんなんだ? とスクリーンに視線を向けると、ワイヤーにぶら下がる自分が切り替わり、驚愕の映像が映し出されていた。

 

『逆走してやがる! 全速力で! 戻ってきちまってんよ! 前代未聞だろこれええ!』

 

 ペース配分を完全に無視した速度で来た道を戻る生徒がいる。

 後続はその異様な行動に道を空け、あっという間に後ろに過ぎ去る背を一瞥するだけだ。

 

『おいおい、まさかだろ……』

 

 砂ぼこりを上げ滑るように止まると、外れそうなアンカーを見つけて駆け寄る。

 

『いやこれ競争だぞ……普通科のよしみっつったて……』

 あいつは、と相澤が眼光を鋭くする。たしか入試で秘密の個性を使ったおそれのある……

 

 心操の掴まるワイヤーが、力強く引っ張られた。見上げる先には、確かにそいつがいた。がっしりとワイヤーを掴んでいる。

 複雑だった。こんがらがっていた。心操はそんな情けなどいらなかった。わざわざ順位を落としてまで。助けられたおれはなんとも惨めだと。粘質で高温のドス黒い情感がゆっくりととぐろを巻くようだ。だが同時に、それとは逆の気持ちも確かにあった。

 

 そいつの体重が加わった事で、地面の亀裂が閃光のように大きく広がる。

 それを見て、心操は決断した。これが正しいかどうかは後で考えればいい。

 

『助けに戻るかぁ!? フツー!!!』

 

 全員が敵という競争の中、高順位を捨てて助けに戻るという予想外の展開に観客が湧いた。

 そんな中、暗い声で心操。

 

「吉良、てめー。ふざけてんのか。手、離せ」

「断る。わたしは至極真面目だ、それに」

「おれを見捨てて先に行け。拒否権ねーんだわ」

「な……」

 

 心操の身体が重力に引っ張られてゆく。吉良は自分の意識とは関係なく手を放した。いや、手放すことを強制させられたのだ。『洗脳』によって

 

「なんだとぉ~! 心操きさまッ!」

 

 手だけではなく、身体までもが障害物競走に戻るべく崖に背を向けだしている。頭の中で肉体に命じる行動とは別に突き動かされる操り人形のような違和感に、形容しがたい精神的苦痛。

 

「わりーな吉良。でもま、戻ッ!?」

 

 がくんと落下運動が制止され、舌を噛む。いや、それよりもなぜ? 引き上げられている!?

 

「ありえねぇ! おれの個性が作用しないだと!?」

「なるほど、これが『洗脳』か。やっと使ったな。明かした訳だ、手の内を。強力だが、やはりわたしとキラークイーンの敵ではないな。それが証明された」

 

 吉良は自分の中で再認識するようにそう呟き、キラークイーンのパワーで背負い投げのようにワイヤーごと心操を崖の底から救出する。同時に足場が崩れ落ちた。

 

『おいおいおい……やりやがった……やりやがったよ見せてくれちゃったよこれ』

 

「てめぇどういう!?」

「立て、行くぞ。きみと仲良しゴッコがしたい訳じゃあないんだからな」

 

 さっさと走りだす吉良を追い、心操も戸惑いを切り離して身体を動かす。しかしどうやって『洗脳』を……

 

『洗脳』を無視できた理由! それはスタンドの本質、精神によって操作される形あるヴィジョンである事が大きく起因する。

 確かに被洗脳中は肉体の自由は利かない。しかし利かない事は知覚できているし、抗うべきだという思考も存在している。つまり精神までもを洗脳できる訳ではないのだ!

 故に精神で操るスタンドに『洗脳』で干渉する事など不可能!

 よって心操人使は決定的な敵にならない! 吉良はそう判断した。

 

「……吉良、ヒーロー科に編入するんじゃなかったのかよ。こんな事してる暇がある程、1-Aは甘くねーぞ」

「あまりわたしを見くびらないでもらいたい。計画の遂行上、必要な行為だったから助けただけだ」

 

 吉良は不快な表情で続けた。

 

「体育祭第一学年の傾向としては、順に個人戦、集団戦、一対一の全3ステージで構成されている。予選は当然突破するとして、重要なのは集団戦だ。足手まといと組まされる事だけは何としても避けたいが、二回戦目の多くはヒーロー科が占めている。そんな中、普通科と組みたがる奴はまずいない」

「まあ、だろうな」

「となると、なんとか予選を抜けただけのあまり者をあてがわれるだけだ。だったら一人くらいは強力な個性持ちを入れておきたい」

 

「おまえ、あまり者って、そこまで言うかー」

 心操は若干引いた。

「ま、つまり、『洗脳』のおれを引き入れようって訳だ」

 

 心操は強く拳を握る。

 必要なんだな? このヴィラン向きの、悪事を働く奴らが喉から手が出る程欲しがる個性が、誰もが距離を取りたがる個性が、ヒーローになるという正義への将来へ向かう為。こんな、白い目で見られ続けてきた、自分でも嫌になる個性が。

 

「そうだ。1-Aに喧嘩を売るくらいだから予選は突破するだろうと考えていたが……」

「それは言うな。けどおれは吉良の個性をよく知らん。蹴るかもしれねーぜ」

「確かにな。だが助けてやった恩がある。仇で返すなら次の集団戦できみを狙う」

「脅してんのか」

 

「悪いが目的の為にはなり振り構っていられないのでね」

 

 なり振り構っていられない、か。心操はその言葉を心の中で小さな灯のように繰り返すと、誰も気づかない程小さく笑った。

 

「ああ、その通りだな。まあ、第二ステージに進めるか微妙な感じだが」

 

 吉良は趣味の悪い腕時計を手早く確認して言った。

 

「ボーダーは上位20パーセントだからな。きみがわたしの計画に必要とは言え、どっちかが落ちるとなれば遠慮はしないつもりだ」

「んじゃまあ、こっからは敵どう、あーその」

 と、首筋の裏を撫でて続ける。

「ラ、ライバルって事で」

「もとよりそのつもりだが、余裕そうだな。この状況で」

 

「とーぜん」

 心操は不敵に笑って、前方を走る一人に話しかけた。その度に順位は上がる。

 

『うぉおお! 普通科コンビ! 怒涛の追い上げだぁああっラッシャッセー! 今日イチの盛り上がりをサンキュー!』

 

 そうとも、まだ挽回は可能。

 心操は確信する。

 

 おれの自慢の、強個性なら!

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 息を切らしてゴールすると、ややあって心操の耳にようやく観客の歓声と称賛が聞こえ出した。

 

 オーディエンスに無関心な吉良が、医療スタッフから貰ったスポドリを口にして言った。

「まさか、ラストスパートであんな体力を残しているとはな」

「体作りはおれの方が上みてーだな」

 

 結局、順位は心操が一つ上だった。直前でヒーロー科を受けた吉良と、将来を見据えてコツコツとトレーニングをしてきた心操の差だ。

 

「どうでもいいがな。結局のところは最終ステージの順位なのだから」

 

 酸素スプレーを口にし、心操は浅い思慮に指を浸す。

 心操人使には言ってみたいセリフがあった。

 

「……一口でいいから、それ、おれにもくれ」

 

 吉良は自分の手元のスポドリと心操を順に見やり、正気じゃないといったふうな表情で、嫌そうに答える。

 

「なあ~それってきみが口を付けた飲み口でわたしが飲まなきゃあならないって事だよなあ? そういう男子校みたいなノリって、嫌いなんだよな。一口ってところもウザったい。断るとケチだと思われそうで」

「ケチ。個性使っちまうぞ」

 

 バカが。と吉良は内心で勝ち誇る。わたしのキラークイーンに『洗脳』は効かん。やはり理解こそがこの世で最も強力な力。能力とは理解されないように使うものなのだ! だから爆破というキラークイーンの無敵の能力もまた、秘匿の中にそっと置いておかなければならない。

 秘密ってのは武器なんだからな。大脱走でもクリントイーストウッドは壁を掘る道具を隠していたし、スティングじゃあポールニューマン達の切り札はとっておきの秘密だったものな~。

 

「あ~構わんよ。正直言ってわたしには、きみのその個性はたいした事ないしな」

 

 心操はそれで満足した。知れば、なんだそんな事か、で済まされるような。そんなどこにでもある、学生の友達同士がよく言う会話。けれど『洗脳』が言うには危険な、()()()使()()()()()という軽口。安っぽくてしょうもないセリフ。敵に対してしか言えないと思っていた。

 

 心操人使は言ってみたいセリフがあった。

 今はもう無い。

 

「冗談だよ、おれだって潔癖ってわけじゃねーけど回し飲みとかしたくねーし」

 

 なら最初から言うなという雰囲気を出し、吉良は不快そうにスポドリを飲み干した。

 

「どったの透」

 そんな二人の様子を遠くから眺めていた葉隠に、クラスメイトの耳郎響香が話しかけた。

「あー、なんか凄かったらしいね。普通科の。競争に手いっぱいで詳しく知らないけど」

 

「やー、わたしってまだまだだなーって」

「へ? なに急に。結果発表まだじゃん」

「USJの時もさー、助けてーって思ってるだけだったから。助ける方へ意識を持ってかないとなーって。ヒーロー科なんだし」

「おおう、かっこいいな」

「だよね。かっこよくなんなきゃなーわたしも。もっと自分の個性を研究して……」

「おーい、なんで予選落ちみたいな雰囲気になっちゃってんのさ。鎮静音楽、聞く?」

 

 にゅっと、耳郎の個性である耳たぶから伸びるイヤホン端子を差し出すと、スタジアムにマイク音が入る。

「お、結果かな」

 

『やー、いいもの見せて貰ったわー』

 と、司会のミッドナイトがしみじみと語った。

『胸にグッと来たよグッと。ま、それはそれとして! 結果発表していくよ!』

 

 ミッドナイトが大きく手を振ると、大型スクリーンにリザルトが表示された。

 会場全体が緊張の面持ちで、並ぶ顔と名前を確認する。

 

『以上、上位42名が第二ステージに進出! ……あー、わかる! 言いたいことはわかるけど、学生とはいえここは勝負の世界――』

 

「その、吉良? なんていうかその」

 と、心操はなんとなく歯切れが悪い。

 

「ウソ……」

 と、葉隠は自分の事のように絶句した。

 

「どっかで運ってもんを使い果たしちまったのかね」

 と、相澤を含めた入試の結果を知っている教師陣。

 

「あ、そういえばこれテレビとかじゃねーんだよな。ガチのやつだったわこれ」

 と、スタジアムを埋め尽くす観客は現実を再認識した。

 

 ざわめきの後に静まり返る場で、ミッドナイトの声だけが響いた。

 

『――誰もが限られた勝ちを掴もうとしている。けれど抱く腕、手の中、指の先と、その栄光の感触だけを残してすり抜けていくという感覚を味わう者は、故に確実に存在する』

 

 自分を奮い立たせて言葉を続ける。残酷だと思った。だが教師に身を置く以上は、言わねばならなかった。

 

『それはいつだって誰にだって、今日勝った者にも、勝てなかった者にも再び、例え勝負の外に居たとしても。想定外の角度で突き刺さり、時に致命的に抉られる。それでも……それでも、言わ()ければならない、し、言わ()なければならない。雄英に……雄英に在籍しているのならッ!』

 

 なぜだか声は震えていた。大きく息を吸い、それを隠すような声量で叫ぶ。

 PLUS ULTRA 、と

 

 

 

 吉良吉影。最終リザルト、予選43位で敗退。

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 吉良吉影という存在にかつて、「運命」は味方していた。

 どんな物事も冷静に対処すれば、チャンスとなって切り抜ける力を与えてくれた。

 そしてそれは「正義の心」に敗れ去った。

 敗れて、()()()

 去ってしまっていたのだ。

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 

 実況席で呆然とするプレゼント・マイクをよそに、相澤は静かに席を立った。

 残念だが、こいつが現実だと自販機でミネラルウォーターを買って口にする。

 

 ()()()()()()、だが責任は考えろとあらかじめ公言してある以上、たとえそれが誰かを助ける善行だとしても行動に対する責任はある。

 

 現場じゃ救ったつもりが却って被害を増やす事もある。人質を取ったヴィランが立て籠もるビルに突入する時も。具合の悪そうな人を、家に帰って休みたいからという本人の要望を聞いたとしても、結果的には救急車を呼んで病院に向かった方が良かった事だって。

 そういう時、不幸な現実を認められるかどうかでプロの器が測れる。

 

 だからもしも吉良って生徒がこの結果にわめいたりしなけりゃあ。と、スカウト席に目をやる。

 

 公言されているもう一つ、雄英体育祭はプロのスカウトの場でもあるという事が、チャンスになるかもしれない。無意識的プロ意識を探しに来た、どこかの一流事務所の目に留まるというチャンスに。

 

 そして相澤の視線の先で、()()()()()一流事務所のヒーローは確かに場内に慧眼を向け、薄く笑っていたのだ。小さく、しかし思いがけない収穫に対して。

 




次回 「デッド・オン・タイム(仮)」
タイトルはQUEENの曲名に統一しとけばよかったかも
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