森、あらゆる生命が息づく場所。
特に大きなモンスターが生息していなければ、魔法使い等は都市を離れた森に拠点を作る事が多いらしい。
呼吸して分かるが、都市に比べ魔力が満ちている。
「今まではそんな事気にしてなかったけど……今回の仮面凄いな。当たりかも」
私は樹齢千年は軽く超えるであろう巨大な木の幹に腰掛け、そう呟いた。
今日の目的はラピットラビットの狩猟、料理屋からの依頼である。
真面目な討伐ではなく新装備の試運転を兼ねての今回の遠出、今の私の装備は軽装の衣服にマント、そして頭部に狼の頭蓋骨を乗せただけの状態である。
しかし、私だけが使う
マントは
ここまで多くの強化がされる仮面は私のコレクションの中でもそうそう無い。
この面の元になった先日倒した
周辺の狼の群れを纏め上げ、近くの農家が育てていた家畜のカポークゥを頻繁に襲ってたらしい。
まぁやりすぎたので私に討伐される結果になったのだが。
「罠で倒したから強さは分かんないけど長だったんだから強かったんだろうなー」
手に魔力を通すと牙生成の名前通り自動で魔力で編まれた爪が出現する。
試しに幹の表面を人差し指で撫でる。
スッと、まるで抵抗を感じさせずに幹が切れ、爪を離すと暫くして傷口から黄金の樹液が溢れ出してきた。
「おお」
これ、下手な剣より良く切れる。
息も切らさずこの樹の今いる地点に駆け上がれたのも考えると他の強化もかなりのモノと考えていいだろう。
次の瞬間、感覚強化で能力の上がった私の耳が獣が上げる微かな鳴き声を捉えた。
「……掛かった」
いつもはこんな高い樹の上で待機しないし、仮にしてもロープを使って降りるのだが今回はこの仮面の能力を信じて飛び降りてみる事にした。
「ふっ」
着地、足をグキッとやる事は無かった。
やっぱり今回の仮面は凄い。素の私ならこの高さから落ちたら大怪我必至だろうし。
軽く森を駆け、仕掛けた罠の元へ向かう。
罠を確認するとラピットラビットが二羽掛かっていた。
(依頼は五羽………
さっきから何か知覚内に引っかかってるし、今の状態なら走って捕まえられるんじゃないかな?
目を瞑って耳に意識を傾けると微かに枯葉を踏む音が。
「試させて貰うよ」
相手が警戒してないのは音で分かったので、上がった筋力値を全力で活かし獲物に猛スピードで接近し生成した爪を振りかぶった。
兎からしたらまるで瞬間移動だったであろう私の一撃は驚きで固まっている一羽に命中し、その身を細切れの肉片へと変貌させた。
「………え?」
昔使っていた
幸い仲間のバラバラ死体を見てラピットラビットが硬直していたので、私はその隙に今度は気を付けて首をへし折って仕留めていった。
・ ・ ・
「二羽多めに獲れて良かった」
無事に依頼の目標を達成したので
馬車と言っても一般の人が乗るものじゃない。
冒険者ギルドの冒険者生存率向上の為の活動の一環でもある定時回収馬車である。
まぁ一般の人も頼めば乗せてくれるらしいが。
「この付近だから……二日後、ここから歩いて一日か」
途中で狩りでもしながら向かうのが丁度良さそうだ。
正直もっと時間が掛かると思っていたが予想以上に新しい仮面の性能が良くて早めに帰れる。
「そうだ、ラピットラビットの仮面ってまだ持って無かったっけ」
いつも納品出来る数に達したらそこで切り上げてたので余る事なんて無かったが今回は二匹も余っている。
そうとなれば狩った一羽をポーチから取り出して首を切り取る。
付着している肉を剥ぎ取り大体骨だけが残る様にする。
「さて……
ごそっと魔力が持っていかれたのが分かる。
しかし、それを補う最大の利点があるのだ。仮面作成時には魔力の消費が多大なのだが、一度作ってしまえば仮面を被り能力を得るのに掛かる魔力はほとんどゼロなのである。
魔法使いを志そうにも保有魔力量が少ない私にとって普段使いでの魔力消費が少なく様々な能力を行使出来るこの魔術はかなりありがたい。
「……っと出来た」
出来た仮面を眺める。見た目は私が被れるぐらい大きくなった兎の頭蓋骨だが兎の耳を模した突起物が装飾として加わっているのが特徴的だ。
早速効果を試そうと今着けている狼の仮面を解除し、手に兎の仮面を持ち顔の前に掲げる。
「変身」
その言葉に
それと同時に私に兎の仮面による
感覚で分かる範囲のスキルは聴覚強化、脚力(逃走)強化って所だ。
聴覚強化は狼のと同等だけど脚力に関しては狼以上、攻撃に関する
「………ん?」
仮面によって強化された聴覚が何者か走る音を捉えた。
ってあれ、何かこっち来てない?
「あ」
今気づいた。
この場所私がラピットラビットバラバラ死体にしてまき散らしたままだから血の匂い凄いや。
一旦離れて仮面を作れば良かったんだろうけど新しい仮面が作れることに気づいて少々浮かれてたのかもしれない。
………非常にまずい。
逃げようと背を向けて走り出そうとした瞬間、背後の木々が薙ぎ倒された。
恐る恐る振り返る。
「嘘だぁ……」
そこに居たのは
今まで見た中で一番大きいが、これでもまだ小型の内に入るというんだから竜種ってのは嫌いだ。
今晩の夕食にしようと思っていた二羽のラピットラビット(片方首なし)を取り出して手に持つ。
「………さらば夕飯!」
二羽を思いっきり飛竜目掛けて投げつける。
その結果がどうなったかを確認せず、回れ右をして私は林の中に飛び込んで全力で逃走を開始した。