「そういえば何で私の部屋知ってたの?」
「受付で訊いたら教えてくれたぞ。あのアイラとかいう人間が」
「……鍵は?」
「そなたの荷物漁ったら有ったぞ」
「え?あ、ホントだ。持って無い」
グラド探すのに焦って鍵かけるの忘れてた。
鍵はグラドが持ってるって事は……
「マズいな……」
「どうかしたのか?盗られてマズいモノでも置いてあったのか?」
「いや、最悪この狼の仮面さえあれば大丈夫なんだけど、それとは別の問題があって……急いで戻るよ!」
掴んだままだったグラドの腕を取って自分の部屋に向って駆けだす。
仮面の技能で脚力を強化して街中を掛け抜けて一気に宿の前までたどり着いた。
「グラド、跳ぶよ」
「お?おう」
跳躍して一気に二階まで飛び上がる。
そのまま突き当りの私が借りている部屋まで走り……
「やっぱり居た!」
「んお?あ、エリスじゃん、おかえりぃ♪」
部屋の隅には黒いコートが脱ぎ捨てられており、布面積が少ない軽装の少女が頭に私の下着を被っていた。
「ナニヲ、シテイル、ノカナ?」
「やだなぁいつもの事じゃん?」
「そのいつもがおかしいから鍵を掛けてるって分かってよ……」
彼女はBランクの冒険者であり、この街で数少ない私がまともな付き合いをしている知り合いの一人だ。
……いや、まともではないか。
ポカーンとしているグラドに振り向いて紹介する。
「えっと、あの変態はルインっていう一応Bランクの冒険者で見ての通り変態だよ」
「おいおい、僕の事を変態呼ばわりするとはいい度胸じゃないか。そっちだって仮面被りっぱなしの変態のくせに」
「これは趣味だからいいの」
趣味と実益を兼ねている。
固まってたグラドが復活して話しかけてきた。
「……そこの女がこの前話していたそなたに最初に声を掛けてくれた冒険者か」
「あれ、エリスから聞いてた?まぁ自己紹介させて貰うと僕はルイン。大体ソロで冒険者をやってるよ」
「ふむ、我はグラド。今日から冒険者をやる事になった」
それを聞いたルインは目を細めてグラドの事をジッと見つめる。
何かいつもの雰囲気とかけ離れて怖いんだが。
「ルイン?」
「いやー何でもないよ!ここに来る途中でAランクの新人が出たって話は拾っててね。そっかー彼女がそうなんだ」
「…………」
何かグラドの雰囲気もギラギラとしてきた。
二人ともどうしたんだか。
「それより何で来てるのさ、依頼とか大丈夫なの?」
「へーきへーき、丁度終わってギルドに行ったらそこのグラドちゃんに抱えられたエリスが居たから後で遊びに行こうと思ってね」
「ふーん」
遊びに来るのは構わないのだが、毎回私の服や仮面を着けてからかうのはどうにかならないものか。
「貴様、その仮面や衣服を着けるのに何か意味は有るのか?」
「うん?無いよ。ただの趣味」
「それが趣味なのはどうかと思うよ……」
呆れていると、満足したのか私の下着をキチンと畳んで横に置き、マントを羽織って立ち上がった。
「よし、じゃあそろそろ行くね」
「今日は早いね」
「まぁね」
そう言うとルインがすっと近寄ってきて私の耳元で囁いた。
「そこのドラゴンさんがこっち睨んでくるし」
…………ん?
「ちょっと待ってルイン」
「じゃあねー!」
私の静止を聞かず、窓を開け放ち飛び出した。
あわてて窓に駆け寄り見下ろすが、ルインの黒髪はあっという間に街に溶け込んでしまった。
「今のって……」
「おい、エリス」
グラドが不機嫌そうな顔で話しかけてきた。
「今の輩、あまり信用しない方がいいぞ」
「何で?
「ああ、ただ使っても何も分からなかった」
「えっと、分からなかったなら何で?」
「我のカンだ」
「カンって……えらく曖昧な」
・ ・ ・
エリスが呆れた表情で見てくる。
まぁ当然じゃろう、確かな証拠も無く疑ってるのはこちらの方じゃ。
しかし、解析魔法で分かったのは隠蔽スキルのみ、先程の黒ずくめマントと髪色から剣技などを扱う冒険者ではなくどちらかと言えば盗賊向きの様に思えた。
エリスの衣服を纏ったのも何かの魔法かと思ったが、何も発動していなかった。
(解析魔法で分かった事も何か奴がワザと見せてきた情報のような……いや考え過ぎか?)
悩んでいるとエリスが仮面を外して何か食べる?と訊いてきた。
(その姿を見せてくれるのは我だけなのは嬉しいな)
適当に返事をしつつ、思索に沈む。
そして、考え込んでいく内にある一つの事に気が付いた。
(……もしかして奴に嫉妬でもしていたのか我は?)
仮面を外したエリスを解析魔法を掛けた両目で眺める。
……仮面を外しているのにも関わらず、エリスから仮面魔術の文字が消える事は無かった。