たった一つの故郷に。俺の、生きているべき場所に。
なのに。そこには何もなかった。俺のいるべき場所はなかった。
雨が降ってくる。無慈悲に。ただ、無情に。
滴が、頬を流れた。
……魔法少女リリカルなのは―α―、始まります……
旅をしていた。昔から旅好きの父の影響でよく旅をしていたが、今回の旅は、恐らく人生で一番長い旅になる。当然だ。もう、帰る場所なんてない。故郷は破壊され、家族を失い、部族を失い、行くあてもないのだ。
俺はどうやら運がないらしい。当然か。生まれが生まれだったからな。俺のいた部族は、独自の魔術文明を築いていた。ベルカ式などの術式がある中、イヴ式という特別な術式を使用していた。が、それゆえに他の組織に狙われることがしばしばあった。恐らく、そのようなことがあったのだろう。全滅していた。
残ったのは、運悪く旅に出ていた俺だけ。酷い話だ。
そして現在、俺は故郷を散策している。部族としての思い出となる物を探しているのだ。ついでに、金目の物も。
「しかし、何もないな」
《盗みを働いていますよ、母上、父上……》
俺の相棒であるデバイス、ディウスがそう呟いた。それに関しては、華麗にスルーしておく。
俺のデバイス、ディウスは球体上のキーホルダーだ。今は、腰につけている茶色いポーチにつけている。キーホルダーの球体上の中にあるウサミミ少女が本体らしい。小さくて見辛いが、ちゃんと動いているらしい。……小さすぎて、あんまり見えないが。
ついでに、セットアップするとこいつは武器となる。まぁ、凡庸型のデバイスを違法改造した物なので、機能と性能は違うが、ナイフ状の武器になるのだ。と言っても、刃は俺の右腕の関節部分まであるし、ナイフとは言い辛いが。
俺が初めて一人で旅に出たときに買った、思い出の品であり長年の相棒だ。違法改造してから口数も増えたりしたので、個人的には道具とは思っていない。あくまで相棒。間違ってたら正すし、ボケたらツッコむし、逆に向こうがボケたらツッコむ。そんな関係だ。
他の魔術師連中は驚くかもな。まぁ、違法改造しているから滅多には見せないが。
ついでに、違法改造の際に声なども変えてもらった。が、その改造したやつの趣味で、声が甲高いものになってしまった。ようは、アニメ声とやらだ。くそぅ……。しかし、ちゃんとした改造をしてくれていたので、直せとは言えなかった。
と、自分のデバイスの特徴を頭の中で思い浮かべながら俺は金目のものを探す。
しかし、我が故郷ながら、見事に何もない。いや確かに、金目の物はある。でもこれと言って、よい物なんて……
「……あった」
《ありましたね》
それは巻物だった。とても古い。そのせいか、文字が書いていることは解るが理解できなかった。何か、いわくつきの品物であると判断できるが、本などには興味がない俺にとっては、数少ない故郷の思い出の品程度にしかならない。
《たぶん、ここは長老の家だと思います》
だろうな。あの爺ちゃん、こういうのが好きだったもんな。しかし、あの爺ちゃんも死んだのか……。実感が湧かないな。
実は、故郷に帰ってから三日も経ったが、未だにあまり人が死んだという実感が湧かないのだ。感覚のマヒ、だろうか。いや、そんなものでもないと思う。たぶん、まだ信じられないんだ。この状況を。
そう思いながら、更なる探索をしていると、灰色の無地のカードらしき物を見つけた。まぁ、灰色というよりメタルカラー。銀色で、瓦礫の中でも月の光を受け光り輝いている。そして、裏にはイヴ式の魔法陣、*状の魔法陣が彫られていた。しかし、その下には0という文字も彫ってあった。
「カード……なんのだ?」
《調べてみますね……》
だいぶ古そうだし、使えるかどうか解らないが持っていくことにした。故郷の物だしな。大事にとっておこう。
《検索、まだですけど》
「とりあえず持っていく。で、いいだろ?」
《軽率ですよ》
「大丈夫。死にはしない」
《ま、そこんところはあなたらしいのでいいですが……》
デバイスとそんな会話をしながら探索していると、流石にこれ以上の探索はできないと判断し、夜空が見える中、瓦礫の中にあったベッドの中に入り込んだ。
《軽率ですよー》
「……寒い」
《このバカバカマスターは……。私が寒いんですからね》
「自分かい!!」
そんなバカらしい会話をしながら、俺は明日のことを考えた。明日は、この故郷から立ち去る。最後に何か、この故郷の仲間たちを思い出すことが出来る、いい物でも見つかればいいんだけど……。
そう思いながら、目を閉じた。……寒い。明日、死んでなければいいな……。
翌日。体は冷たいが、死にはしなかったようだ。ふと、死因が凍傷、という悲しい思いつきに苦笑してしまう。まったく、笑えないな。みんなは、どんな方法か解らない死に方をしたというのに。
《まったくです。氷の中で私が見つかったら面白いでしょうが》
「寒そうだな、おい」
でも、こういう時の運はいいよな。死ななくてよかった。うん、正直にそう思う。
で、太陽が照っている間に行動しないとまたあの冷たさを感じてしまう。それは流石に嫌なので、すぐさま支度する。まぁ、別段何か特別な用意はしない。旅に出るもいつも徒歩だったため、燃料などを調達しなくてもいい。まぁ、流石に今後は果て無き旅をするのだ。バイクぐらいは欲しいところか。
《そうやって、マスターのお金は消えて行ったのでありました……完》
「勝手に完結すんな。てか、悲しいな、おい!!」
そんな冗談を言ってくる相棒を、軽く小突く。こっちから見ればそんなに対して怖くはなさそうだが、実際はとても怖いらしい。まぁ、自分より大きいサイズの指が来ると考えたらそうなるか。
そんなことを考えながら、最後の散策に出る。今日の正午にここから立ち去るつもりだ。日が暮れるまでには、次の街には着ける。
とりあえず、目的地はミッドチルダだ。行ったことはないが、あそこは大きいからな。気に入れば、拠点にでもしてみるのも手かもしれない。
《しかし、ミッドチルダが目標とは……。マスターは、学園にでも入るつもりですか?》
「そうだな。入ってみるのも案外楽しいかもな」
なんせ、学校なんか故郷にはなかったからだ。生まれてこの方15年、学歴なんぞ持ち合わせていない。基本の魔法は親から教えてもらい、あとは我流となっている。だから、他の街にある学校という施設に憧れている。
内容もなんとなく知っている。社会的学習や、魔法学的学習だ。社会的なら旅でなんとなく身に着けたし、魔法学に関してはイヴ式があるし、自身もある。だから、行かなくてもいいんだろうけど、興味があるのだ。
「だから、とりあえずはミッドチルダへ行って、魔法学院に入る。……で、あとは解るよな?」
《はい。私とマスターの感情が同じと言うなら……》
そう。俺とディウスの真の目的。それは――――
「《故郷を壊した者を殺すこと》」
……さすが相棒。考えも何もかも同じだな。しかし、デバイスが殺すなんて言うのはどうかと思う。うーん、違法改造しすぎたか。
《私をフリーダムに改造しろ、と言ったのはマスターですよ》
「ん。間違ってないから否定できない」
我ながら反省。今度ぐらい、自分で改造できる
「さて、向こうの方に行くか」
四日間滞在した中で、最後まで行かなかった場所。それは、部族が信仰していた原初の女神、イヴが眠っているとされている大樹……それは通称、アノートの大樹。この村の名前の由来となった大樹だった。
《そうですね。あなたが産み落とされた場所でもある、アノートの大樹へ》
私は知らないですが、とさりげなく継ぎ足して、ディウスは苦笑した。まぁ、しょうがない。途中で知り合ったんだ。第一、それほど重要な情報ではない。
そう思いながら、俺とディウスは最後にアノートの大樹へ向かった。
そう。ここから始まったんだ。俺と、相棒と、そして――――
――――あの子との物語が。
壊された故郷の中、俺はとある少女を見つける。
真っ白い、儚く無機質な裸の少女に、俺は……
その時、世界が揺れた
次回、魔法少女リリカルなのは―α―『白い少女』
始まりは始まり。終わりも始まる。