でも、いない。どんなに探しても、いない。
解っていた。自分でも、はっきり、と。
もう、ここは俺の故郷じゃないんだって。
俺の居場所は、なくなった、って。
滴が、焼かれた大地に落ちた。
……魔法少女リリカルなのは―α―、始まります……
晴れている。それは猛烈に。昨日までの曇りようが嘘のようにだ。確かに、昨日の夜空はとても綺麗だったから晴れるとは解っていたが、しかしここまで暑いとはな……。
まぁ、俺にとっては関係ねぇが。
「おら、どした?」
「なんでも、ない」
ふーん。まぁ、いいか。こいつは元からこんなやつだ。戦うにも、殺すにも無感情。だが、それがいい。俺の女にとっては最高だ。
勿論、あの
「さて、行くか」
「どこ、へ?」
相方がそう聞いてきた。解っているだろうにな。
「あの村だよ。俺たちが壊したな」
「あぁ、あれ」
相変わらず無感情に返してきた。まぁ、いい。関係ねぇからな。
さぁ、壊してやりますか。イヴちゃんよぉ。
晴れていた。それは異常に。なんでこんな暑いのだろうか?
《ここら一帯の緑が消えていましたからね。何があったかは検討はつきませんが》
「なるほどな。ただ、やつがやった可能性はあるよな?」
その言葉に、ディウスはうなずいた……気がした。となると、やつは広範囲での魔法攻撃をしたこととなる。魔力量が高いのか、それともデバイスが特殊なのか……見当はつかないが、まぁ、そんなのは関係ない。やるか、どうかだ。
場合によっちゃ、俺の切り札を出せばいい話だ。
《着きました》
ディウスがそう言ったのを聞き、下を見て拾えるものを探していた俺は首を上げた。そこには、
「おいおい。自然学的にどうかと思うぞ」
あった。アノートの大樹が。そう、何の傷もなく、ただ悠然とそこに立っていたのだ。
強烈な違和感。緑が消え去った大地に、悠然と立つ大樹は俺に違和感を与える。なぜ残っているのか、解らない。
しかし、その答えはあっさりとディウスが答えた。
《結界、ですね。しかも、中々に上等な》
そういえば、この大樹は長老の結界によって守られていた。先祖代々ずっと守られ崇められていたのだ。しかし、長老が死んだ今、結界が張られているのはおかしいが……。
《ただ、もう脆弱です。触れるだけで割れますよ》
もしかしたら、長老が最後の意地を見せ、大樹を守ったのかもしれない。そうだと考えると、長老…………ダメだ。落ち着け。泣くな。また泣くな。泣いたらやり直しだ。
何とか、数日前の自分を抑え、冷静に大樹の結界を破る。ディウスの言った通り、簡単に割れた。長老の意地がここまで簡単に破れると思うと、悲しくなってくるな。
「さて、どうするか」
俺がそうつぶやき見渡した時、ふと、何かまた先程とは違った違和感を感じた。そう、それは木の幹に何か機械的な部分が見えたからだ。
それは、ベロンと剥がれていた。外から見ると木の茶色をしているが、中を見ると鉄色をしていた。
これは、
――――《っ!? 生体反応、あります!》――――
ディウスが突然、俺に念話をしてきた。生体反応、ということは、やつか?
ただ、俺が魔力で検知しても、後方には見当たらない。しかし、逆に前方、アノートの大樹には魔力らしき反応があった。
――――「木の中にあるな」――――
――――《どうします? 詳しく調べます?》――――
――――「調べさせてもらおう」――――
アノートの大樹がいかに素晴らしいものかも調べたい。そして、何よりもこの機械製だ。アノートの大樹は一万年前からあると聞くが……機械製なのは違和感がある。
俺は木から剥がれかけている部分を強く引きちぎるように開けようとする。しかし、硬い。というか重い。
「しゃあなしだ。ディウス、set up.」
《OK. My master.》
俺はディウスの本体であるキーホルダーを握りしめながらそう呟いた。それに応じて、ディウスもそう答えた。キーホルダーが光り輝き、姿を変えていく。球体とウサミミ少女は一旦消え、現れるのは特に何の変哲もない短刀。しかし、柄の部分に球体が現れ、そこにウサミミ少女も出現した。
デバイスの展開は、これで終了である。通常はバリアジャケットも付加されるらしいが、違法改造の代償に失われたらしい。まぁ、攻撃なんぞ回避したら何とかなるんだがな。
「さて、斬るか」
俺がセットアップした理由は、勿論この硬そうな木を斬ることだ。信仰していた物を斬るのは少し辛いが、やると決めたらやる。
「ふんっ!」
意を決し、俺は逆手で持ったディウスで大樹を切り裂こうとする。しかし、勿論のことだが、硬い鉄と思われる物質でできている大樹を切り裂くことなんてできない。せいぜい、斬った後しか残らなかった。
だが、俺はそれぐらいは把握している。てか、そこまで頭は悪くはない。俺は連続で斬りつけ、魔法陣のように*状に斬りつけていく。そう、ここで使用するのは魔術だ。単純な攻撃では無駄であるし、中がどうなっているかが判らないので、無闇に攻撃できない。なので、魔術でまず検知する。
「魔力の節約のために魔法陣を一々描くのは面倒くさいな」
《しかし、それを行動したのはマスターなんですし、やりきりましょうね》
はいはい、解ってますよ。やると決めたらやる、いつも通りだ。
魔力の節約の理由は、極力魔力の消費を抑えるためだ。これは俺の
俺のスキル……旅の途中で知り合ったとある魔術師いわく、
『魔力吸収』。触れたもの、デバイスを通じて触れたものから魔力を吸収する能力。しかし、その量は少ない。せいぜい、相手の魔力の百分の一ぐらいか。それもあり、俺はあまりこの能力を過信していない。
だから、元々ある魔力を無駄に消費したくないのだ。旅人の鉄則、魔力は温存。使うなら使い、使わないなら使うな。俺は魔力は多い方らしいが、この鉄則に従っている。
そう使えない技能のことを考えつつ、魔方陣を完成させた。
「では、見させてもらうか」
完成した魔方陣を覗き込むように見る。これは直接魔法陣を介して内部を見ることができる透視だ。弱点として、直接描いた魔法陣でしか効果がないのだが、安全性確保のため、大いに役立っている。……正直に言うと、昔、これで女子トイレを覗こうとして特訓した技である。不純な動機でスミマセン。
《なっ!? 不潔です! 不純です!! 最悪ですっ!! あぁ、汚らわしい。触れないでください。しゃべらないでください。――――キャッ、小突かないでくださいぃっ!?》
相方がうるさくなったので、軽く小突いてやった。いやー、我が相方ながらそれは酷いよ。うん、一瞬ムカついたからね。
《一瞬じゃないでしょっ!? ……って、どうなったんですか?》
「ん、あぁ……」
正直、こういう風に話を持って行ったのには理由があった。この大樹の中に生体反応があったのは知っていたことだから、特に驚きはしなかったが……、
「中身がすげぇんだよ。ありゃ、実験室だ」
そう。中には大量の道具があったのだ。手のひらサイズの物から俺の背丈より大きいやつまで。そして、その中央部には一つの水槽が見えた。その中には、どうやら人間が入っているようだ。性別……までは把握できないが。
そしてそこから流れている魔力は……。
《どうしました?》
「ん。いや、な。ちと、やばいかもな」
動揺が隠せない。心臓がバクバクする。おいおいおいおい。なんでこんな何もない村に、あんなとんでもないやつが、しかも大樹の中に眠ってるんだよ。おかしいぞ、おい。
俺の計測が間違ってないなら、あれはS級の魔力を持ってるぞ。
「こじ開けるぞ」
《了解しました、マスター》
普通なら、ここで興味を抑えて無駄な魔力を消費せずに行くのが良策なんだろうが、そう上手くはいかないのが俺である。こういう時は、好奇心に応じて前へ進もう。
そういうわけで、その切り刻んだ魔法陣を縦に斬る。
「バーン・レイジ」
魔法陣に安定に溜まっていた魔力を、この一撃によって破綻させる。すると、放たれた魔力が安定せずに暴発。攻撃性を帯び、扉を破壊した。
この魔術、直接魔法陣に干渉しないとできないから、滅多に使わない。なんせ、目の前に発生した魔方陣でこれを利用すると自分にもダメージを受けるという弱点があるからだ。まぁ、自爆覚悟でやるなら話は別だが。
「さて、少し手荒にしたが、前に進むか」
《手荒どころではありませんよ。あぁ、仮にも称えられていた大樹が……》
……そういうと、罪悪感が出てしまうからやめてください、ディウスさん。
第一、もうこの樹を称える人なんていないだろうけどな。悲しいけど。
さて、大樹の扉もこじ開けたことだし、入らせてもらいますか。
中身は透視した通り実験室のようになっていた。そして、真ん中には例の大きな試験管。
中には……裸の少女。
《マァスゥタァーー?》
「流石にこれは不可抗力でしょ」
しかし……初めて見た。なんか……その……ごめんなさい。
意識変更。冷静にこの状況を整理。そして結論を出す。
「よし、この子を出そう」
《えぇぇぇぇ!? どうしてそうなるんですか?》
「よく見ると、周りの機器が正常に起動していない。こんなところにほっておいたら、この子が死んじゃうかもしれないし」
《なるほど。というより、よく冷静に考えられましたね》
そこは俺の旅人としての技量だと判断してほしい。状況判断能力と意識切り替えの技術ができないと、旅人なんてしてられない。いつ何時、襲われるか解らないからな。
さて、どうやって助けるかだが……。
《魔力による実力行使は控えた方がいいですね。彼女が危険です》
「だな。とすると、どうするか……」
そう考えていると、一箇所だけ機能していると推定できるスイッチのような物を見つけた。それはまるで、こいつを動かせというかのように光り輝いていた。
……押したい。
《はぁ?》
「すまん、相棒。俺は自分の気持ちに嘘はつけない。俺の中に眠る、漢が騒いでいるんだ」
要は、興味津々なだけなんだが。まぁ、いいよね。
というわけで、ポチッとな。
《知りませんよー。何が状況判断能力なんですか》
相棒がなんか煩いが華麗にスルーで。
スイッチを押して数秒後、輝いていた部分の光が増し、他のパーツにも光が乗り移っていった。
そして、試験官のガラスが溶けるように消えた。
「……こんな技術、初めて見たぞ」
《魔力を使った物のようですけど……判断しかねますね。私も初めてです》
と、互いに感想を漏らしながら、白い全裸の少女が前のめりになって倒れこんで来たので、それを抱き支える。
《ジトー》
「ディウス。声に出さなくてもいいから」
とりあえず寝かせて、昨日散策した時に見つけた、綺麗な白いワンピースを着させる。
しかし、改めて見ると、本当に白い少女だ。髪も白いのだが、肌も白い。そしてそこに白いワンピースを着させているせいか、白まみれだ。
と、不埒なことなど一切ないことを考えていると、少女の目がパチっと開いた。
「…………」
「…………」
目と目が合い、両者ともに沈黙する。ついでに、彼女の瞳の色は赤だった。アルビノ、だろうか?
「一つ、訊いて、いいですか?」
たどたどとした言い方で、尚且つ無機質な言い方で、少女は俺にそう尋ねてきた。俺はそれに、あぁ、と短く返す。
「ここは、どこ?」
「アノート……と、呼ばれていた場所だ。今は、ない、けど」
そう言うと、少女は不思議そうな顔をしてこちらを見てきた。
「何で、泣いて、いるの?」
「えっ……?」
ふと、頬を触ると、一筋の滴が手に付着した。それは、たぶん、涙だった。
「え、え、あ……いや」
「大丈、夫?」
少女が、無機質な言い方で、でも心配してくれているようで、俺の頬を撫でてくる。
何で、今更、また、泣いているんだろう。もう、泣かないと、あの時、決めていたのに……。
ただ、少女が生きていたといたということに、嬉しさを感じているのは確かだった。
「私の名前はイヴ。……覚えているのはそれぐらい」
「そうか……」
気持ちが落ち着いたあと、彼女は自己紹介をしてくれた。イヴ。俺たち一族が使っていたイヴ式と同じ名前。まぁ、イヴなんて名前はよく使われていたが。
「俺の名前はナギア。ナギア・ファイルザだ。よろしく」
「よろしく……この子は?」
彼女が指したのは、俺のデバイスだった。そう言えば、さっきから何も言わないな、こいつ。
「こいつの名前はディウス。俺のデバイスだ」
《よろしくお願いします、イヴ様》
「イヴでいいよ」
珍しく他人に礼儀正しくしたディウスに、イヴはそう言った。
ディウスが、警戒している? いや、警戒するほどのものなのか?
「とりあえず、イヴ。ここから出ようか。さすがに、外の空気を吸った方がいい」
話が止まってしまったので、俺はそう切り出す。イヴは、うん、と俺の手につられて一緒に外へ出た。
――――《マスター》――――
突然の念話。俺も咄嗟に念話モードになる。
――――「どうした? さっきから変だぞ、お前」――――
――――《先程から外が騒がしいのです。魔力が渦巻いていると言いますか、何と言うか……》――――
ディウスが判断に困ったような感じで念話が途切れた。外?
と、俺が相方の言葉に違和感を感じながら外へ出ると、そこには……
「見ぃつけたぜぇ、イヴちゃん、よぉー」
「ターゲット、フール・イヴ、確認……」
そこには、赤い服と赤い髪が特徴的な男と、同じく赤い服と赤い髪が特徴的な女の子がいた。隣にいる、白い少女と同じ顔をした。
「……排除します」
そう赤い少女が短く言った瞬間、世界が揺らいだ。
突然現れた謎の男と、赤い少女
そして、それに怯えるイヴ
赤い少女は、短く告げるのだった
彼女の運命を
次回、魔法少女リリカルなのは―α―『愚者の目覚め』
始まりが始まり。運命は狂う。