村の中に少女がいた
樹の中に少女がいた
その現実がとても嬉しくて
心の中の、絶望が薄れていくような気がした
そして、滴が、落ちることなく消えた。
魔法少女リリカルなのは―α―、始まります
「……排除します」
赤い服の少女がそう言った瞬間、世界が揺れた。ような錯覚をするほどの魔力を放った。もしくは、
咄嗟に一歩下がろうとすると、イヴに当たってしまった。よく見ると、俺の右腕の袖を強く握っている。まるで、その少女に怯えるかのように……。
いや、まぁ、俺も怖いんだけどな。
「おいおい。まだいいぜぇ、マジ。とりあえず、交渉だ交渉」
「交…渉……?」
赤い男のその言葉に緊張感が少し緩むとともに、そんな情けない言葉をあげてしまった。
だが、最低限の警戒は抜かない。男の手には、姿と同じく赤い銃があるからだ。
「そこにいる、女をこちらに渡してくれ。てめぇに危害は加えねぇ」
「っ!?」
男の強気な言葉にイヴが強く震える。本気で怖がっているようだ。そりゃそうか。あんな銃を持ってられたら、そうなるよな。
正直、俺も恐怖している。体が少し震えているのが、自分でもよく解る。
だが、これだけは訊かないといけない。
「一つ聞かせてくれ。この残骸はなんだ?」
遠回しに言った俺の言葉に、男はこう返してきた。
「ここか? ここは俺がぶっ潰した、ただの廃墟だよぉ……」
その瞬間、俺は反射的にイヴの手を引っ張って、後ろへ下がった。突然の行動にイヴは一瞬驚いた表情をしたが、何とか着いてきてくれた。
こいつだ。こいつだ。こいつだこいつだこいつだこいつだこいつだこいつだぁ!!
「おいおい。交渉破綻のようだぜ?」
「正直、に言ったから」
男と女が何か言っているが、そんなのは関係ない。
こいつだ。こいつがやったんだ。こいつが、故郷を、みんなを……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっ!!!!」
俺は素早くディウスを構え、敵に接近する。近接戦闘。ディウスの特徴上、この戦闘を行う。
「ちっ、ガキの相手は怠いぜ」
男はそう言いながら、銃口をこちらに向けてきた。そして、何の躊躇もなくトリガーを弾く。
「死にな」
男の短い言葉と一緒に放たれた銃弾は、真っ直ぐ俺の方向へ向かってくる。銃撃速度は、さほど高くない。この程度なら、まだ、反応できる!
《Aegis Top》
俺は咄嗟に、ディウスの言葉と同時に六角形のイヴ式の魔方陣を展開した。ミッドチルダ式で言うラウンドシールドだ。イヴ式では、これをアイギストップと言う。ついでに、内容はさほど変わらないそうだ。
そのアイギストップで、攻撃を何とか受け止める。が、そのせいで俺は近づけず、一度後ろへ退くハメになった。
「生き残りかよ。メンドくせぇなぁ」
「即刻、排除」
「解ってるよ。こういうやつは――――」
男は、そう言いながら、マジと呼んでいた女の頭を掴むように手を置く。
男の目が、凶器に満ちたものになっていくような気がした。勿論、女も、そんな男を見て何も思っていないのか、無機質な視線をこちらに向けていた。
「全力で殺す!」
その瞬間、男は女の頭を握りつぶした。イヴは咄嗟に目を閉じる。俺はイブを庇うように、彼女の周りを覆うようにする。その瞬間、後方から魔力の渦巻きが発生した。この魔力は……先程感じたやつと、似ている?
俺は魔力による、恐怖を感じつつも彼女を庇いつづけた。そして、魔力の渦巻きが消える……。
《デバイスコピーセットアップ完了。アルカナオブワン、マジシャン》
「マジシャン・クロスメント……展開完了だぁ!」
そこには、女の姿はなかった。そこには、男しかいなかった。だが、男は銃を持っていた。片方は先程まで使用していた銃だ。だが、もう片方は、先程とは違う。圧倒的な魔力。迫力。威圧。それを秘めた、最初に持っていた銃に酷似している銃を、男は持っていた。
そして、先程聞こえた、あの女の声……。まるで、デバイスのように聞こえた。
「へっ、そんな拍子抜けた顔されちゃあ、説明してやるしかねぇな……と言いたいが」
《あまり、時間は、かけない方が、いいです》
「くっ……」
こちらとしたら、時間をかけてほしいのだが、そうは上手くはいってくれない。このままじゃ、やられるか……。
「イクリプション……」
男の周りから魔力の塊が展開される。そして、それが一点に集中し一つの魔力の塊を作り出す。
「ファイアァッ!!」
集束型の狙撃魔法が先程とは違い、異常なほどの速さで飛んできた。瞬時にアイギストップを発動し防御に徹するが、威力と防御力の差がありすぎる。
アイギストップと狙撃魔法が交差すると同時に、パキパキとアイギストップにひびが入る。このままでは、押しつぶされる。
俺は咄嗟に、
「ディウス! 吸収量及び消費量を報告!」
《消費量26%、吸収量7%》
「マジかよ」
圧倒的差。差がありすぎる。ディウスの計算基準は俺の魔力だ。俺の魔力を100%とし、計算するのだ。だがこんなのじゃ、こちらが尽きる。
その時、いつの間にか俺の背後まで来ていたイヴが、俺の背中を押してきた。どうやら、俺が負けないように手伝うように……。
奥の手……使うか。
「ディウス、αだ!」
《了解しました》
俺は、ディウスに奥の手のトリガーである、言葉を告げ、相方もそれに応じる。
奥の手。これは、俺の
だが、成功確率はそう高くない。これの使用には、魔力の多くを使用するし、尚且つ、この攻撃は相手が
その技の名前は――――
「――――
そうこの技の名前を言いながら、アイギストップと共にディウスで叩き斬るっ!
魔力を吸収すると同時に、その吸収した魔力を放ち、吸収しきれない魔力を半相殺。そして、そこから自分の魔力を放ち、魔力を完全相殺し割る。これが、俺の切り札。
そして、その効果通りに敵の放ってきた狙撃魔法を分断することが出来た。だが、男にダメージはない。
「ふぅ~。てめぇ、おもしれぇな」
「そうかい」
「だが、もう無理だろ?」
男の言うとおりだった。魔力を大量に放つことによって完全相殺するこの技は、俺の魔力のほとんどを奪っていった。俺の残り魔力残量は……38ぐらいか。次の攻撃を防ぎ切れるかどうか……。
「とどめにしてやんよ……」
男がそう言い、足元に巨大な赤いミッドチルダ式の魔方陣を展開する。男は両手に持っている双銃の銃口を、俺の方向に向け、そこへ魔力を集中し始める。
これは……
「くそっ!」
俺は一刻も早く逃げるため、目の前の状況に身体を震わせていたイヴの手を握って、この場から離れる。あの攻撃は、切り裂くことはできない。たとえ、俺の魔力を総力を使っても。たとえ、フルドライブを使ってもだ。
先程の攻撃を見て、警戒していなかったわけではない。基本、当たればよしの射撃魔法を集束させて使ってきたのだ。
「さぁてぇ……。充填は完了したぜぇ……」
男の声が聞こえた。チャージ時間は、およそ80秒。なんだ、この速さは。くそっ、全然逃げ切れられていねぇ! こんなんじゃ……。
俺は咄嗟に、魔力を全開にしたアイギストップを展開し、イブを庇うように構える。イヴは、俺の動きが止まったことに気づき、俺の後ろに隠れようとした。
「駄目だ、逃げろっ!」
思考より先に言葉が出た。荒げたような声を上げてしまったのを聞いて、イヴはビクリと肩を震わせた。
どうにかしてイヴを逃がそうと説得をしようとしたが、
「チェェックメイトォ……」
男のその言葉に、俺は説得をやめ、彼女を守るようにするように構える。ここまで来たら、この身を犠牲にしてでも、止めきるしかない……。
「ディウス! フルドライブっ!!」
《り、了解しました!!》
通常、インテリジェントデバイスではないディウスを違法改造してまででもインテリジェントデバイスにした理由は、この能力にある。フルドライブ。インテリジェントデバイスの最大出力モード。デバイスと共に自分の身体を犠牲にする代わりに、強大な力を一時的に使うことが出来る。
イブを守るためには、この俺の魔力を集結させたアイギストップごと
「全てを燃やせ 我が憎々たる炎よ 拒むことを許さず 意志さえも焦がせぇ! クロスメントォ・ブレイカァーっ!!」
男の詠唱が終了し終えた瞬間、その銃口から、考えたくないほどの魔力が放たれた。威力が……高すぎる。受け止められるか……? いや、受け止めるしか、ないっ!!
着弾。周りが赤に包まれる。風が吹き荒れる。目の前のアイギストップがひび割れる。何とかして、
身体が、割れるように痛む。ディウスの刃にひびが入る。意識が薄れ始めてきた。目の前が、壊れる。パキパキと、イヴ式の魔方陣の一部が欠損する。
もう、言葉は出なかった。白く、目の前がぼやけてきて、身体全体から力が抜けてくる。
死ぬ、かな。本能がそう伝えてくる。差が違いすぎた。そうだ、故郷を破壊したやつなんだぞ。そんなやつに、俺みたいな雑魚が、挑んではいけなかったんだ。怒りもせず、あそこから逃げていればよかったんだ。
もう、怒りという感情が湧いてこない。それどころか、感情がなくなっていくような気がする。
無だ。虚無だ。
そう、意識さえも消える……
――――「いきて」――――
「……あひゃ」
「あひゃひゃ」
「あひゃひゃはやひゃはやひゃはやひゃはやひゃはやひゃはやはひゃっ!!!!」
「死んじまったかぁ……。しょうがねぇかぁ」
《…………》
「おい、どうした?」
《いえ……》
「お仲間同士で、感傷に浸ってる感じかぁ? バカバカしい」
《…………》
「奴らは群れるからだりぃんだよ……。じゃ、次行くぞっ……てぇ、雨降ってきやがった」
「あんときもそうだったなぁ……。おかげで、奴らの灰が消えたのは良かったがなぁ」
男の声が聞こえた。その言葉を聞き、俺は自分が死んでいないことに気づいた。が、周りは土埃だらけで、何も見えない。上から、水が落ちてくる。雨、だろうか?
ふと、後ろにいたはずのイヴの気配が消えていることに気づく。まさか、と最悪の考えが頭によぎった瞬間、
――――《……デバイスエボリューションセットアップ、完了。フールカード、同化確認。フール・イヴ、同調化、確認》――――
デバイスのような、少女の、イヴの声が念話で聞こえた。細々しい。だが、そこには強さに近いものがある。俺は彼女がどこにいるのか探そうとしたが、周りの土埃のせいで、探そうにも探せない。
――――《ナギアさん……私は、その……》――――
イヴはデバイスみたいな声でどこからか話しかけてくる。
――――《デバイスを、強化する、存在……、のようです》――――
イヴの細々しい声がさらに細くなる。彼女の言葉に、俺は身体に違和感を感じた。
よく見ると、服が変わっていた。ここまで、茶色の薄汚れた服を着ていたのだが、今は灰色のロングコートになっている。バリアジャケットだろうか……。だが、俺のディウスにはそんな機能はない。
ふと、手に持っていたディウスに目を向けた。が、そのままでは見えないので目の前まで持ってくる。だが、
「うぉ」
思った以上に重かった。明らかにナイフ型のデバイスの重さではなかった。
――――《それは、ディウスさんの、情報に介入して、強制的に『進化』させた形態です……》――――
イブがたどたどとだが説明してくれる。進化。デバイスにそんなものが存在するかは不明だが、形状が変わっているのは確かだった。
だが、そこで疑問が生じる。
――――「ディウスは!?」――――
そうだ。我が相棒、ディウスはどうなっているんだ?
先程からうんともすんとも言わないのだが……まさか、そんな……
――――《ふにゃ? なんですか、マスター》――――
――――「は? ディウス?」――――
突然聞こえたディウスの声で思わず、上づいた声を出してしまう。
そんな俺に、笑いをこらえるような声を出しながら、
《空気読んだんですよ。結果、いらぬ心配をかけてしまったですけど》
と説明してくれた。
あぁ、よかった。みんな無事のようだ。
でも、どうする? あの男は近くにいる。ここでまた見つかったら、今度はどうにもできないかもしれない。それでは、折角拾った命が無駄だ。
そんな、我ながら後ろめいたことを考えていると、イヴが怪訝そうな声を出して聞いてくる。
――――《戦わないの?》――――
――――「……あぁ」――――
――――《あんなに、怒っていたのに?》――――
彼女の言葉が流暢になっていく。そうだ。俺は怒っていた。でも、そんな感情、あの攻撃を受けて、消えてしまった。もう、あいつと戦う意味なんて、ない……。
――――《私は、あなたのその怒りに、あなたに可能性を感じて、あなたに力を貸した……》――――
――――「…………」――――
――――《だから……思い出して。あなたの思い人を》――――
俺の思い人。それは、俺を産んでくれた両親。
――――《思い出して。あなたの育てたものを》――――
俺を育てたもの。それは、俺に魔術の基礎を教えてくれた長老。
――――《思い出して。あなたの故郷を》――――
俺の故郷。そうだ。それは、俺が今踏んでいるこの大地。俺が産まれ、俺が育ち、そして俺が愛した村。そして、俺が涙してしまった村……。
そんな大事なものを壊したのは誰だ? あの男じゃないか。あの赤い男。あいつじゃないのか?
――――「……イヴ、ディウス」――――
――――《…………》――――
――――《どうしました、マスター?》――――
――――「わりぃ。思い出したよ。怒りを。みんなのことを。涙をっ!!」――――
あの時の涙を嘘にしちゃいけない。俺は、やらないといけない。あいつを、倒す!
その瞬間、俺の周りから魔力が渦巻き始めた。同時に、魔力が溢れ出すような感覚を覚える。
まだやれる。俺にはまだ、戦える。
そう確信した瞬間、土埃は魔力の渦巻きに乗せられて吹き飛ばされた。
《アルカナオブゼロ、フール》
「フール・シュバルツ、進装っ!!」
男の姿が見えた。赤い男は、驚いたような顔で俺を見ていた。それもそうか。あの状況下で、俺が生きていると思わなかっただろうしな。……正直、俺だって未だに疑っているくらいなんだから。
それと、今の姿のこともあるだろう。先程と違って、灰色のロングコート状のバリアジャケットも着ているし、足には黒色の鉄のブーツを履いている。そして、ナイフであったディウスは黒色の大きな剣になっていた。刃まで真っ黒に染まっている。これじゃ、ベルカの騎士みたいだ。
だがそこは村を破壊した者。冷静に、あの双銃の銃口を俺に構えた。
「けっ、生きてやがったか。しかも、イヴの力に目覚めてやがるっ!」
「イヴの力? よく解らないが――――」
男は俺の言葉が言い終わらないうちに銃撃を放ってきた。
だが、俺はそれをフール・シュバルツで切り裂く。
「ちぃっ! なら!!」
男は素早く魔力を集束し、詠唱を終える。くるぞ、あの技が!
「死になっ!! クロスメントォ・ブレイカァーっ!!」
男のその言葉と同時に魔力の巨大な流れが流れてくる。だが、今なら――――
「でぇぇぇあああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
俺は、その
その時、攻撃を受け止めているディウスが言葉を発してくる。
《マスター。
「!? そうかっ!」
ディウスの提案に乗り、俺は魔力を放つのではなく吸収に徹する。
すると、突然魔方陣が勝手に展開し、その魔方陣の回転に合わせて魔力が吸収されていく。これは――――
《
「
イヴがそう短く言った。これは、どういう原理なのだろうか?
まるで、俺の
「だが、助かるっ!!」
俺は、その力を使いながら
後に残るのは、発生した土埃と魔力の残滓のみ……。
「なぁっ……!?」
男が、防ぎ切った俺を見て、驚きの顔をしていた。まぁ、俺もそんな感じだから、気持ちはよく解る。
さて、次の攻撃へ――――
《ま、マスター……》
「うん?」
ディウスが、何か疲れたかのような声を出した。
《ま、魔力が貯まりすぎて、体が、はち切れそうなんですが》
「はぁ?」
ディウスノいきなりの言葉に、俺は驚いた。いつもはデバイスには負荷をかけないようにしていて、疲れるとしてもそれは俺なのだが、この形態の場合、デバイスの方に負荷をかけてしまうのか……? 確かに、
《も、もう……限界》
「ちょ、ちょっ! 勝手に、動かすなぁっ!!」
《……クス》
あ、今、イヴが笑いやがった! くそぉ、こっちは勝手に動くデバイスを止めるのに忙しいのに。
《そのまま、ディウスに任せて》
「はぁ?」
イヴの言葉に、俺は一気に手を抜く。瞬間、デバイスの黒い刃が一気に上を向いた。まるで、天へと剣を掲げるように。
《は、は、発射ぁぁああっ!!》
剣が天へと刃を向けた瞬間、ディウスのその悲痛な叫びみたいな声を上げながら、魔力が一気に放射された。光の一閃が、天を覆う雲を割る。そして、現れるのは放たれた魔力と同等の光。太陽だ。
《ナギア》
「あぁ、なんとなくだが解る。これで決めろってことだよな?」
《うん》
その瞬間、足場に銀色で巨大なイヴ式の魔方陣が展開される。そして、刃には太陽の光が魔力へと変わり充填されていく。
どういう原理でこうなっているのか、いまいち解らないが、これを利用しない手はない。
「詠唱は、イヴに任せるよ。名前は俺に任せて」
《うん、わかった》
そうイヴに詠唱を任せると、まるで考えていたのかというぐらいに流暢に唱え始めた。と、同時に魔力が刃に覆いかぶさるように、光を放ちながら出現する。黒い刃を白い光が覆いつぶす。
これで……倒すっ!!
《天を開け 我が進装の刃よ 日輪の光は我が力に 虚無を満たし 閃光の一撃となれ!!》
「一撃一閃っ!!」
「《クラウソラスゥゥッ・シュバライザァァァァァッッッッッ!!!!》」
俺とイヴの声が重なる。と同時に、一気に剣を振り落した。その瞬間、魔力が光を増し一気に放出される。その一撃は光速で、肉眼では確認できないほどの速さに思えた。……実際はあまりにも眩しすぎて、目を咄嗟に閉じちゃったんだけど、当たったの、かな? 粉塵のせいで当たったのかよく解らないんだが。
《マスター》
ディウスが、なんだかドン引きしているような声を上げた。いや、まぁ、俺も十分に引いてるんだけどね。地面が一直線に抉れてるし。イヴもあまりの威力で言葉を失っている様子だし。
「どう?」
《いや、どう? じゃないでしょう。威力が段違いですよ。魔力の数値も基準とオーバーしてますし》
ディウスが驚嘆の声を上げている。確かに先程の攻撃の魔力はいろんな意味で段違いだ。先程の男の攻撃すらも、霞むぐらい。これを自分で出せたのが現実かどうか疑うぐらいだ。
右手に持つフール・シュバルツを見る。先程、魔力をほとんどを放ったせいか、あの白い光の線は力を失ったように消えている。
しばらく放心状態で立ちすくんでいた。気が付いた時には、自然に
「ん? どうした」
「私……」
先程の状況がよく解っていないようだった。うん? でも、俺、何気に誘導されていた節があるんだけど。
「あの時、あの状態になった時、頭に、一気に、いろんな情報が流れてきて。何も解らないのに、身体が勝手に、動くような感じがして――――」
「――――それは、私たち、と同類の、証」
その時、あの男と一緒にいた赤服の少女の声が聞こえた。しかも、ちゃんとした肉声でだ。
未だ消えずに残る粉塵の中から、少女の影が見えた。彼女はズルズルと、何かを引っ張るような音を鳴らしながら現れた。あの、男だった。口からは血が流れた跡があり、服もほとんどが破れていたが、どうやら気を失っただけですんだようだ。
「この、男の始末は、任せる」
赤服の少女は淡々と冷酷に告げる。赤服の少女の服装は、意外にも無傷だった。
「私は、負けた。この身体、も、もうすぐ消える。だから、伝える」
彼女は声を掠らせながら、男の胸に手を添えた。そこから、スゥーッと赤色のカード状の物が現れる。……どこかで、見たことがある気がする。
「あなたに、託す、
そう言って、赤服の少女はイヴにそっとカードを手渡した。すると、そのカードはスッと彼女の手のひらから消えた。それを見たイヴは、ビクンッと身体を大きく震わせた。
「お、おい」
「始まりの少年よ」
俺がイヴが心配で駆け寄ろうとすると、赤服の少女は今度は俺に話しかけてきた。
「あなたは、彼女を、
今度こそ……? その言葉が頭の中に引っかかったが、俺はそんな疑問よりも先にこう答える。
「守るよ。俺には何かよく解んないけど、この力はそういう力、だと思う。俺が、できることをするよ」
そう答えると、少女は微かにほほ笑んだ。ような気がした。
赤服の少女は、身体を大きく震わせているイヴの肩に、そっと手を添える。
「受け止めて。少しずつでいいから。あなたの、本当の意味を」
「あっ……あっ……」
そう赤服の少女が言うと、イブの震えが少しずつ治まってきた。
「道を示して。あなたには、その資格がある」
「あっ……」
そうまた少女が言うと、イヴはさらに震えが治まる。だが、少女の姿が、透けて、きた?
「進んで……そこに、始まりがある」
「……うん」
そう少女が消え入りそうな声で言うと、イヴがそう頷いた。震えはもう消えていた。だが、赤服の少女の姿も消えかかっていた。
そんな彼女の手を、イヴは優しく重ねる。
「進むよ。まだ、何も解らないけど。私は私の道を。だから、一緒に行こう」
イヴのその言葉に、赤服の少女は大事な何かを手に入れたかのように、優しい微笑みを浮かべながら、消えた。まるで、イヴに吸い込まれるように。
消えたあと、残響のように、彼女の声が響いた。
「愚者なるイヴよ、その道路に、優しき希望があらんことを……」
その声は、先程までの彼女とは違う、希望に満ちた声をしていた。
赤服の少女が消えたあと、しばらくしてから彼女は動き始めた。その目には、最初にあった怯えなどはなかった。ただ真っ直ぐに。何かの目標を見つけたようだった。
「えぇーっと、だな。俺はこれから、ミッドチルダっていう街に向かうんだけど……来る?」
倒すべき敵は倒してしまった。殺すことは、結局はしなかったけど、手が出せないようにデバイスを奪っておいたから、もうあんな悲劇は繰り返すことはできないだろう。少し罪悪感を覚えたが、まぁ、いいだろう。こっちは、それ以上の者を奪われているのだから。
それよりもだ。俺は、この問いに彼女はいい返事を返してくれる自信がなかった。彼女の目は、もう次に向かう道を示しているような感じだったし。
「そう、ですね。私が向かうべき道は、そのミッドチルダという街を、たぶん通ると思います」
だけど、彼女はそう返してきた。正直、驚いた。というよりも、さっきまであの樹の中に入っていた彼女が、なぜミッドチルダの場所を知っているんだろう。謎だ。
《さて、ではミッドチルダを目指していきましょうか!》
「そうだな」
ディウスにそう言われ、俺は応じるように答える。
だがイヴは、どう返したらいいのか解らないようだった。ので、
「イヴ」
と、手を差し伸べる。イヴは、その手を握り返し、
「うん」
と返した。
天が割れたような空は、今は澄み渡るような青い空で、まるで俺たちの旅路を祝福しているように見えた。
イヴと二人での旅で初めて村に入った
どうやら彼女にとっては新鮮そのもので、
嬉しそうに村を回っていく
だが、俺はそこで、運命の相手と会う
次回、魔法少女リリカルなのは―α―『管理局のヒト』
始まりが始まり。イヴがはしゃぐ。