バイト先の人妻がタイプなんですがどうすればいいんでしょうか?
神様転生、それは宝くじのようなもの、死んで初めて当たりかはずれかがわかる。
俺は当たっていたようだった。
電車に轢かれて死んだ俺は、神様に会い、チート能力をもらって転生した。
転生した世界はリリカルなのはというアニメの世界だった。
二次小説など知っている程度の世界だった。
海鳴という町の一等地の家が現世で俺の住んでいる家だ。
祖父はバブルでひと山当て悠々自適の隠居生活を送っていて、祖母は料理が得意な上品な人で、祖父達は毎日のように連れ立って元気に外出していた人達だった。
両親は俺が赤ん坊のころ事故に遭って死んだ。
それ以来俺は祖父母に育てられた。
自然が豊かな街で、前世の最期近くの生活とは比べ物にならないほどゆっくりと充実した生活していた。
しかし高校生に上がるころ、祖母が体調を崩し、そして死んでしまった。あっけなかった。風邪をこじらせただけでぽっくりと逝ってしまった。
葬式の時にはぽろぽろと涙を流した。
祖母が死んでからしばらく後、祖父はめっきり老けこむようになり、俺が高校生になってしばらくして、祖父は介護施設に行くことを決めた。
俺に介護などをさせたくないとのことだった。
そして俺は一人で広い家に住むようになった。
友人と遊んだりしながらも家事を一人で行い、時折祖父に会いに行き、あまり親しい人を作らずに過ごしてきた。
高校を卒業する少し前に祖父が死んだ。
遺産はすべて俺が相続した。祖父の遺言だった。
お金に困らなくなったが、しかし俺は家族を失った。
何をして生きていけばいいのかわからなくなった。
ただ、祖母から教えられた料理を作ることが好きだったので、調理師専門学校に通った。調理師免許を持っていた祖母に教わっていただけあって、元々料理が得意だったので1年で免許を取得できた。
お金には困らないので、店でも開こうと考えたが、ノウハウがない。
だから、どこかの飲食店、それも自営業の店でアルバイトをしようと思った。
そしていろいろと情報を収集し面接などを行った結果、地元で評判の翠屋という喫茶店兼洋菓子店にアルバイトとして雇われることになった。
そして、1年ほどが過ぎた。
転生してから20年間、俺は魔法というものに出会ったことはなかった。せいぜい魔力を垂れ流したり、脳量子波の応用技術などを開発したりしかしなかった。
魔法らしい魔法には未だ出会えていなかった。
原作知識もあいまいになっていて、このまま平凡な人間として過ごせればいいと思っていた。
「真君、ホールお願い!」
「分かりました!」
今の俺の名前は、飛鳥真。いろいろ言いたいところがある名前だが、日本名にするとなぜか主役っぽいからそれなりに気に入っている。
俺の翠屋での担当は調理とホール担当。
半年しか働いていないのにも関わらずホールでの仕事は俺がリーダーとなっている。
それには俺が貰った転生特典が関係している。
脳量子波とツインドライブ、はっきり言って魔法を使用しないのでツインドライブは役に立ったことはない。
しかし脳量子波は、ホールでの動きをすべて把握し、客の回転を最大限効率良くすることができるのだ。
それと食材の見極めもできる。これは脳量子波をレーダーにして食材を透過することにより、その食材の鮮度や、分子レベルでその状態を知ることができる。
なんて無駄な能力の扱いだと思うかもしれないが、戦いとか、人の思考を感じ取るとか、平凡な生活では全く役に立たないのだから、こんな使い方があってもいいはずだ。
そして今日も脳量子波を使用して翠屋で働く。
「お疲れ様~」
疲れた声でねぎらいの声をかけてきた桃子さん。
一児の母とは思えない若々しさを持つ人妻だ。実はかなりタイプの女性だったりする。
もしも独身だったらなにがしか行動したかもしれないが、人妻なので初恋っぽい淡い感情に終止符を打った。
俺は年上の女性がタイプだ。
転生したので精神年齢がある程度成熟した人じゃないとそういう目で見れないからだ。
ましてや日本のような平和な国だから、肉体年齢と同年齢なんて、高校生ですら幼稚に感じて、とてもじゃないが恋愛感情は持てなかった。
「お疲れ様です」
ちなみに転生特典はすべての能力が底上げされているので、身体能力も高い。なのであまり身体は疲れていない。どちらかと言えばホールでの仕事は精神的に疲れるのだがそれすらも人よりは少ないと思われる。
おそらく戦うために精神がある程度頑強になっているのだろうと思う。もしくは転生して精神的に成長したのかもしれないが、精神の成長など実感できないのでわからない。
「先に休憩入っていいよ」
コーヒーの豆のチェックをしながら、そう言ってきたのは、この翠屋の店長である士郎さんだ。桃子さんとは少し年が離れてるが、どう見てもそう思えないほどに若々しい人だ。
あいまいな原作知識で知っていたが、実際に見た時は驚いた。
どう見ても二人とも20代にしか見えない。じかも未だに新婚並にラブラブだし…。
「わかりました」
とは言っても、賄いをカウンターで食べるぐらいなのが休憩だ。
昼間のピークが過ぎた後はこんなものである。
今日のまかないは桃子さんが作ったものだ。
桃子さんは中学卒業後からパティシエとしての修業を積み、フランス・イタリアで修行し、国会議員とか国クラスの要人などが利用する有名なホテルのパティシエを務めたことがあるほどの人だ。
本業ではないとはいえ、料理も上手い。
イタリアで修行していただけあって、簡単なパスタですら本格的な味に変わる。まさに魔法と言える腕だった。
「そういえば、真君が翠屋に来てから1年か」
「あっという間だったわね。今じゃもう主戦力だしね」
「食材の見極め、ホールのさばき方、どれも内では一番だからなぁ」
「美由希とくっついて次期店長になって欲しいくらいだわ」
あのメシマズだけは勘弁してほしい。
美人でスタイルが良く、性格も温厚なのだがたったひとつの欠点、メシマズというスキルを持っている。昔美由希ちゃんが作った料理を食べた士郎さんは3日ほど寝込んだらしい。
正直恐ろしすぎる…。
高町夫妻は面接のときに俺が天涯孤独の身と知って、何かと気にかけてくれる。
この二人は、いや高町家はお人よしばかりだ。
だけどそんな高町家のおかげで、いつも感じていた寂寥感が消えた。
前世のことから働くことにトラウマを感じていたが、今はこの翠屋で働けることに喜びを感じている。
職場環境は大事だということを身にしみて理解した。
バイトのシフトは週4日、平日のみで8時から20時までの内8時間。
開店している時間は9時から19時までだ。
土曜日は士郎さんが監督、コーチ、オーナーをしている少年サッカーチーム「翠屋JFC」の手伝いをしている。
日曜日は試合をすることもある。
適度に忙しいが、しかし充実した日々を送っている。
『助けて!』
夕方、高町家の末っ子なのはちゃんが帰ってくる時間帯、ふと脳内に声が聞こえた。
脳量子波が感じ取ったものとは違う。
これは…もしかした魔法なのではないか?
あやふやな原作知識でも何が起きたのかの概要は覚えている。
きっとこれは原作が始まったということなのだろう…。
もう平凡に生きると思ってずっと気にしていなかった。
翠屋で働くようになってからは幸せで、原作のことをすっかり忘れてしまっていた。
九歳の恩人ともいえる人たちの子供が、命にかかわるような事件に巻き込まれる。
俺は…どうすればいいのだろうか…?