ようやく恭也と忍がくっついた。
ところどころ忘れかけている原作知識の中でも特に覚えている展開、二次小説では必ずあるといってもいいすずかちゃん誘拐事件。
誘拐されてすぐに脳量子波で探知、あとは恭也と一緒にぼこって終了だった。
拳銃?超反射能力とそれについていける身体能力のおかげで避けられたのでさほど驚異に感じなかった。
魔力で身体能力を強化すれば人間の限界を超えられるし。
魔力であって魔法でブーストしているわけではない。魔法なんて一から開発できないし、ただ魔力で身体を覆うだけだ。それでも膨大な魔力を固めているので、銃弾もはじき返せると思うが、試したくない。
そんなこんなで、二人は晴れてくっついた。
おそらく夜?の一族の誓い?とかで恋人として誓ったのだろう。
それはいいんだ。
早くくっつけとずっと思っていたし、でもな…
「恭也~あ~ん」
「店でやるのは恥ずかしいのだがな」
そう言いながらスパゲティを器用に巻いて、忍の口に持っていった。
パクリと忍が食べる。
うぜえ。
バカップルうぜえ。
うぜえ。
俺はカウンター席に並んで座っている二人をいらいらしながら見ていた。
視線を感じると、夕方から店に出す分の調理を終えた桃子さんが苦笑いをしていた。
今は午後のピークが過ぎたころで、調理と休憩のために2時間ほどCLOSEにしている。
ピークの時間帯に翠屋を手伝っていた俺と恭也。
忍は働いている恭也をにやにやしたり、時折赤くなったりしながら見ていた。
そしてピークも過ぎて、片付けが終わった恭也はお役御免になり、まかないを忍と一緒に食べているのだが、うざい。
それはもううざい。
ひと月ほど前に付き合い始めた二人だが、今だにバカップルだ。
恭也も朴念仁だったのに、なぜこんな奴になってしまったのか…。
おそらく、恋人というものがわからないので、忍に合わせているだけなのだろうが、それは世間一般ではバカップルというのだ。
こんなに俺とバカップルの間で意識の差があるとは思わなかった。
もう手遅れなんだろうなぁ…。
俺は遠い目で二人のいちゃつきぶりを見ていた。
そして、その隅では複雑そうな顔で二人を見ている美由希ちゃんがいた。
美由希ちゃんは兄と異性の中間として恭也を見ていたので、複雑な心境なのだろう。
とはいえ、俺にはどうすることもできない。
妹分として、いろいろ恭也と行動させたり、そう言う展開に持っていくようにしたこともあったが、恭也は絶対に妹としてしか美由希ちゃんを見れないと気づいたのでやめた。
忍でなければ、恋愛関係になれないのだと気づき、美由希ちゃんには悪いが恭也に本当に恋心を抱く前に二人をくっつけた方がいいというのも忍のサポートをしていた理由だ。
三人を見ていると、俺の恋も終わらせなければ…と思った。
俺は未だに桃子さんに恋をしている。
いや、初恋は終わったが、再び桃子さんに恋したというべきだろう。
あれは中学校を卒業し、高町家でお祝いのようなものをした時のことだ。
桃子さんお手製の御馳走を食べ終わり、雑談をした後、なのはちゃんがうつらうつらし始めたので、俺はベッドに運んであげた。
恭也と美由希ちゃんは剣術の鍛練をしに走り込みをしに行った。
その後、手持無沙汰になった俺と桃子さん。
せっかくだからといつも飲まない貰い物の高級なワインを二人で飲んだ。
アルコール特有のきつさがなく、ぶどうジュースでも飲んでいるように飲めるが、のどを通るとかっと熱くなり酔ってしまうが、それが心地よく感じる。
さすが500mlで10000円以上するワインだった。
その後、酔った桃子さんが急に泣き出した。
ぽろぽろと涙を流し始めた。
あわあわとあわてている俺に抱きついてきて、
「ごめんね、少しだけこのままでいて」
と、か細い声で言った桃子さん。
おそらくだが、恭也が中学校を卒業して今の生活が安定しているのを実感して士郎さんのことを思い出したのだろう。
それは士郎さんが死んだことへの悲しみを忘れるくらいに頑張ってきたので、その反動が来たということだと思った。
普段ならその悲しみに耐えられるのだろうが、酔ってしまって自制がきかなくなったのだろう。
その時、ああこの人を支えてあげたいと思った。
同時に俺だけのものにしたいという独占欲が湧き上がった。
そして桃子さんが好きだと自然に、まるで世界の摂理と思えるようにそう感じた。
そして現在にいたるのだが、本当どうしよう?
もういっそ告白して玉砕すべきなのだろうが、そうしたら翠屋にいづらいし、俺が抜けたら業務に遅延が発生して迷惑がかかる。
脳量子波で心を読んでしまえばてっとり早いが、絶対にそれはしない。
そんなことをすれば罪悪感で俺は二度とあの人の眼を見れなくなる。
この力は決してそういうことには使用しないと決めているのだ。
その誓いを破れば俺の心はどこまで堕ちていってしまうだろうからだ。
だからと言ってこのまま悶々としているのも、駄目だろう。
きっかけがあったととはいえ、恭也と忍がくっついたのだから、俺もこの想いにけりをつけなければならない。
告白…するしかない。だけどもう少し、今はこのままでいたい…。
この時はそう思ったのだが…。
夜、片付けや今週の売り上げなどの管理が終わり、俺と桃子さんは一緒に帰っていた。
翠で夜まで働いく土曜は必ず、高町家で夕食を取ることになっている。
迷惑じゃないかと聞いたことがあったが、家族だと思っているからと言われ、好意に甘えることにした。
高校に入ってからは弁当も作ってもらっているし、正直桃子さんには頭が上がらない。
俺は俺の本当の家族とは仲が悪い。
いや、悪いというより両親は自分たちの子供じゃないと思っている。
他人が見たら育児放棄だと非難するのだろうが、俺は転生者だから本当に彼らの子供ではないのだ。
小学校に入ったころくらいから両親が弟や妹だけに関心がいって、俺に関心がなくなるのは当然だった。
なんせ、俺はテストは常に100点で、運動神経抜群。
私立の聖祥大学付属小学校への転入を薦められたくらいだ。
その上、問題行為とか喧嘩もしない落ち着いた子供らしくない性格。
親はいつしか化け物とまではいかないが、明らかに自分達とは違う人間だという眼で見ていた。
そんな環境だったので、高町家の人達は家族だと俺も思っていた。
…桃子さんを除いて。
「それにして恭也があんなになるとはねぇ…忍ちゃんなら恭也を任せられるわ」
「でも、流石にいつもいつも、学校、月村家の屋敷、翠屋で一緒にいるときでもいちゃいちゃされたらうざいんですよ。一月程度なら付き合い始めだし温かい目で見ていられたんですけど、流石に一生あのままなんじゃないかと思うと…」
「あはは」
「笑い事じゃないですよ」
「ごめんごめん、まあ、そのうち落ち着くと思うわよ。さすがに公衆の前であんな風になるのは恭也も自制するだろうし」
でも近しい人の前だといちゃつくってことですよね。
つまり、根本的な解決にはなりませんよね?
「…そういえば、真君は…好きな人、いないの?」
あなたがそれを聞きますか?
…もういっそあなたが好きですとでも言ってしまうか…?
「…桃子さんが好きです」
思ってたよりもバカップルの相手で疲れていたようだ。
俺はつい口走ってしまっていた。
「…え?」
…言ってしまったのだからしょうがない、全部伝えよう。
「冗だ「桃子さんが好きです」
遮って言った。
言わなければ、俺は全部なかったことにしてしまいそうだから。
「最初は初恋ででも士郎さんがいて、ああ初恋ってこんなものなんだなって思ってました。士郎さんが死んで、俺も家のことがあって、手伝いとかするようになって、その時は家族のような、でも憧れの人のような気持ちでした。でも、中学を卒業した記念のお祝いがあった日に、桃子さんが酔って泣いてた時に、支えたいって気持ちと、俺のものにしたいって気持ちが湧いてきて、それからずっと好きでした」
「え、あ、あの、その」
めったに慌てる事のない桃子さんがあわてているところは何だか可愛らしく思えた。
「返事は、いつでもいいです。士郎さんのこと、歳の差、絶対に受け入れられるわけがないですから。でも、この気持ちに終わりがないと駄目だっって思ったから」
「…ええ、わかったわ」
「じゃあ、今日はこれで帰ります。さすがに今日はこれで、ではまた月曜日に」
「またね」
家の前で桃子さんと別れ、俺は自宅に帰った。
挨拶をしても返事が返ってこない自宅に。
それはいつものことだったので、気にはならない。
むしろ、今は…。
心臓がすごくドキドキしている!
桃子さんの前では平静を保っていたが、自室に戻ってきたら急に顔が赤くなり、落ち着かなくなった。
言ってしまった!
言ってしまった!
言ってしまった!
どうしよう、月曜はどんな顔で遭えばいいのだろう?
翠屋ではどうやって今までのように働けばいいのだろう?
ぐるぐる、ぐるぐる思考が回る。
駄目だ…何も考えられない…。
今日はもう寝よう…。
俺は着替えもせずに眠りについた。