「はじめましてリンディ・ハラオウンです」
前世ではありえなかった緑色の髪に、額に上下が三角左右が丸の線で結べば菱形になる痣みたいなものがある美人、リンディ・ハラオウン(16歳)が目の前にいた。
美少女が微笑んでいる。微笑んでいるのだが目が笑ってない。
…怖い。
「シン・ブリッジスです。よろしく」
シン・ブリッジス、それが今世での名前だ。
かませ臭がぷんぷんする名前だ…ははは、笑えよ!笑え!笑えつってんだろうが!ははは!あーはっはっは!
…ふう、済まないつい取り乱してしまった。この名前はコンプレックスなんだ。
このかませ臭漂う名前が今の俺の名だ。
かませ臭がするこのブリッジス家、ミッドチルダで数百年もの間、土地を持っている家TOP10の5~10位に属している程の土地を持っている。その上、各管理世界でもかなりの土地を買収とかして持っているほどの名家だ。
時には価値が下がった土地を買い取り、時には政略結婚を行い、資産を運用したりと、なんだかんだ数百年もの間利益を出し続けている名家。それがブリッジス家だ。
ちなみにこれも転生特典らしい。
前世で欝病になった俺は、働きたくないで御座るが座右の銘になりそうなほど働くこと自体にストレスを感じるほどに労働がトラウマになっていた。
魔法がなければ自殺していたかもしれないほどだ。
なにが悲しくて家を継いで、仕事をしなければならないのか。
そんな態度で、ずっと魔法一筋でいたので、両親から魔法関係のことなら好きにしろという言質を取った。
俺は次男で、上に兄と姉がいる。
兄との仲は悪い。
神様転生による魔法関係の能力の底上げによって、15歳で総合Sランクを取ってしまった俺を、長男である兄は敵視している。
管理世界は魔法至上主義っぽい風潮なので、Sランク取得に伴って分家が騒いでいるのが、兄が俺を敵視する原因だろう。
今回の見合いは、そんな関係から何かあってからでは遅いと判断し、俺を婿としてハラオウン家にやるのが目的だ。
両親からはそう聞かされた。
そんなわけで今まさにお見合いをしているのだが、このリンディさん明らかにお断りしますという意思がその眼からうかがえる。
まあ、原作を考えるに彼女にはベストパートナーがいるのだから、この話は破談になるのだろう。
そんな風に思っているので、緊張しないでいられる。というかそうでも思わないと緊張しておかしなことを言ってしまいそうだ。
俺は女性と付き合った経験などない。
学生時代→友人たちと馬鹿やる方が楽しかった。
社会人→仕事一筋。
こんな女っ気のない前世だったので、リンディさんのような美人と面と向かって話のはものすごいきついです。
品のいい、きつすぎず、薄すぎず、いい匂いがふわっと浮かんでくる香水の匂い。
白を基調にした、ゆったりとしたスーツ。
スーツに身を包んでいる肢体も16歳ということを考えれば十分なスタイル。
正直逃げたいです。
などと考え込んでいるうちに「あとは若い二人に」となって、互いの両親達は部屋を出ていった。
…一応脳量子波で盗聴器がないか探してみたが、なかった。さすがにそこまではしないか。
さて、どうするか?
何を話せばいいのか思案する。
「ブリッジスさん、単刀直入に言いますが、私はこの縁談を断ります」
が、向こうから直球で豪速球が投げられた。
「…」
「知っているかと思いますが、私は去年に執務官試験に合格しました。今は仕事をするのが楽しくて、それ以外のことなんて考えられないんです」
なんと答えればいいのだろうか?
こういう経験は全くないので、対応の仕方がわからない。
「なので、ごめんなさい。この縁談はお断りさせていただきます」
俺はどっちでもいい、というか今は魔法のことしか考えていないから、向こうが断るのならそれはそれでいい。面倒が少なくて済む。後で別の縁談が来るだけだろうし。
とりあえずこちらもそれでいい、とでも言えばいいか。
「俺も毎日魔法のことばかり考えているし、結婚とか言われても興味がないというか、家の面倒事がなくなれるならどうでもいいと思ってましたし、リンディさんが乗り気でないならそれでいいですよ」
「…そうですか。では同意いただけましたし、両親が来たらお断りするとすぐにでも伝えましょう」
何か一瞬寒気がしたが、気のせいだろう。
「あ~でも、ハラオウンさんのような美人さんと結婚できると思ったら惜しくななってきますね。写真で見た以上に美人で、正直ドキッとしました」
「あら、お上手ですね」
とりあえず、褒めて機嫌を良くしておこう。女はこう言えば悪い気はしないはず。実際に美人だし、事実を言ったまでだからお世辞ではない。
向こうも満更ではないのか眼から出ていた圧力が少し消えている。
「そういえば、Sランク試験に合格したそうですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。でも魔法以外に取り柄がないし、魔法以外に趣味もない。さらに働いているわけでもないし、そんな生活を送っているからあまり自慢にならないですよ」
「Sランクなんて全管理世界の魔道師を見渡しても1%ほどですよ。私は執務官ですけどAAランクなので十分すごいと思います」
半分は特典のおかげだし。半分は転生してからの努力と言うにはあれだが、寝ても覚めても魔法のことばかり考えていたからだ。
まさに魔法馬鹿だな、俺は。
「とはいえ、実戦をしたことなんてないですし、教導隊と模擬戦するぐらいしかしたことないですから」
まあ、当然勝ったが。
ツインドライブと脳量子波使えば理論上SSSランクまで跳ね上がるので、文字通り瞬殺にしました。相手の行動先読みからバインド、圧倒的な魔力で砲撃で終了である。
唯一接近戦は経験の差から押される可能性があったが、同じミッド式なら当然俺に分があるし、そもそも近づくことすらさせなかった。
「ブリッジスさんは委託魔道師をしていらっしゃいますが、今までどんな仕事をしてきました?Sランクの任務について聞いてみたいです」
「…ないんです」
「え?」
「依頼が、教導隊と模擬戦するぐらいしかないんです…」
家が名家だからか、危険な実戦の仕事が全くこない。
教導隊と模擬戦することしかしたことがない。
こう言うときはあれだ、安西先生…依頼が欲しいです…とでも言えばいいのか?
…俺はNEETじゃない……。
「こ、この話はやめましょう…ハラオウンさんは「名前で呼んでくださって結構ですよ?」…リンディさんは何か趣味ってありますか?」
「え?…し、仕事が趣味です……」
「…そ、そうですか……」
う、い、いたたまれない。
「別に仕事が趣味でもいいじゃないですか!迷惑をかけているわけでもないし、むしろ管理局員として社会のためになることだし…なのにいきなりお見合いしろですよ。反発するに決まってます!」
彼女が怒っていた理由は両親への反発からか…。
管理局は10歳ぐらいでも入れる。リンディさんは子供の時からずっと仕事のことばかり考えてきたんだろうなぁ…。原作はよくこれで結婚できたもんだ。
「だいたい、私はまだ16歳ですよ!結婚とか考える歳じゃないですよね!?」
「20半ばぐらいならわかりますけどね…さすがに10代でお見合いとかは、うちは家の後継者決めのごたごたがあったので仕方ないにしても流石にそれは…」
「ですよね!?それも結婚したら管理局をやめて家庭に入れって言うんですよ!だから絶対結婚なんてしません!」
は、早く終わってほしい…。
「はぁはぁ…ふう、すみません、ストレスが溜まってたみたいで」
「いえ、気持ちはわかりますから」
だからと言って、もう一度愚痴に付き合うのは簡便してほしいが。
「そう言えば、シンさんは今回の話についてどう思っているんですか?」
「かくかくしかじか」
「まるまるうまうま。そう言うことですか……あのシンさん、お願いがあるんですけど……」
彼女の話を聞いて、これまた厄介なことになった…と俺は額に手を当てて嘆息ついた。