雨の日が続いていた梅雨のある日、零二はいつのまにかポストの中に入っていた手紙に書かれていた場所へと向かっていた。
以前のように場所のみが書かれていて、他は何も書かれていないその紙を零二は見ながらこれから行われるであろう試練について考えていた。
(あの紙に書かれていた通りならば怪物退治か……。だとすると今回は
転生者達はそれぞれ望んだものを特典として貰っている。多くの転生者はその特典を自分で選んだため、それについて少なからず理解はしているはずなのだ。
だが、零二は一つの特典以外は声に選んでもらったため、その力を全く理解していない。そして、零二が選んだ特典は『前世の持ち物』だ。
最も、その特典で持ってこれたのは最後につけていたアクセサリーのみだったのだが。
(それにーーーーあいつらと会いたくはなかったんだけどな……)
零二がいうあいつらーーーー月読達と零二はあの日以来全く会っていない。たんに会いづらいのか……それとも別の理由があるからなのかは分からない。
最も、零二にとってそれはどうでも良いことであり、月読達からの接触が無かったことに関しても特に何も思わなかった。いや、静かで平穏な日常が過ごせてラッキーと少しだけ思っていた。
そんな事を思い出していると、零二は町外れにある廃工場、その奥にある試練を行う世界に行くためのゲートの前まで来ていた。
「さてと、死なないように頑張るとするか……」
臆する事なく零二はゲートの中へと入って行く。一瞬だけ零二の視界が白くなるが、すぐに元どおりとなる。
「…………」
零二が通ったゲートの先には、迷路のような遺跡があった。石で作られていて、ところどころが欠けている場所が存在している。
零二はそんな場所を重点的に触りながらすぐ近くにあった看板を見た。
『試練名 "怪物"を見つけ出し討伐せよ
・挑戦者一覧
・黒鉄零二 ・白金燐 ・因幡月読 ・神代なぎさ ・星川瑠璃
・挑戦者敗北条件
・挑戦者全員の死亡
・挑戦者全員が勝利条件を満たせなくなった場合
・挑戦者勝利条件
・"怪物"を討伐する
以上をもって第二の試練を開始します』
看板に書かれていた文字を一通り覚えた零二は遺跡の中へと足を踏み入れた。
遺跡の中に入った零二は近くの壁に先程拾っておいた石を使って近くの柱に印をつけながら、周りのものを観察していく。
一通り観察し終えた零二はとりあえず奥へ奥へと進んでいく。灯が所々に一つしかない薄暗い迷路の中を歩きながら注意深く周りのものを見ていく。
「……何もいない?」
零二がポツリと呟いた。零二の体感的にそろそろ10分は経つはずなのだが、今だに人の影も"怪物"の痕跡も見つからない。
零二の感覚が正しければそろそろ遺跡の奥の方のはず、にも関わらず今だ何も無いこの状況に零二は不気味なものを感じる。
「あいつらが先に来た……可能性が高いな。だとするとーーーー」
何処かで戦闘が行われているかもしれない。零二がそう考えた瞬間奥から甲高い声と何かが壊れる音が同時に聞こえて来た。
いや、それだけでは無い。ピシッピシッと零二の頭上や横から嫌な音が零二の耳に届く。
「おいおい……、まさかーーーー」
嫌な予感が零二の体を動かす。それと同時に次々と壁や天井が崩れ落ちて来た。
「嘘だろ……っ!」
零二は走りながらここまでの道筋を思い出していく。数カ所だけ簡単には壊れないように他とは違う作りになっていた場所があったことを思い出した零二はその場所へと足を進める。
だが、零二がその場所に向かうよりも速く崩落は止まった。
「止まった……みたいだけど……」
零二は先程まで通った道を見る。先程の崩落でその道は塞がれてしまっていて先に行くことが出来なくなってしまっていた。
「……脆そうだな」
薄っすらと陽の光が入って来ていた天井を見ながら零二はそう呟くと近くに落ちていたボロボロになった剣を持った。
零二が他の道を探している時、零二の考え通り先に来ていた月読たちは目の前にいる"怪物"の前に手も足もでず、後退をしていた。
「次が来ます!」
月読がなぎさたちに攻撃が来ることを教えながら回避する。それを見習いなぎさ達も回避するが今度は近くに潜んでいた蛇達がなぎさ達へと攻撃をして来る。
だが、その攻撃は全てなぎさと月読によって防がれ瑠璃と燐によって攻撃をして来た蛇達はその命を散らしていく。
「Uuuuuraaaaa!!」
蛇達が殺されたことに怒ったのか"怪物"の速度が上がる。それにいち早く気づいたのは一番後ろにいて"怪物"の様子を観察していた瑠璃だった。
「動きが速くなりました」
「みたいですね……」
瑠璃の報告を聞いて月読は急いで音を頼りに近くの道を探すが、残念ながらこの近くに横道はなく真っ直ぐ進まざるをえない。
その事に月読は焦る。このままでは何処かで追いつかれ、全滅させられるかもしれない。いや、それだけではない。
あの"怪物"の能力、それも月読が焦る理由の一つとなっていた。
「……つっ、月読ちゃん……、まっ、……前……っ!」
燐の焦った声が月読の耳に届く。だが、その忠告は遅く月読は壁に頭をぶつけた。
「……痛い……です」
月読がぶつけた場所をさすりながら後ろを向く。
既に退路は無くなり、戦わざるをえない状況となっていた。
「Raaa……Aaaaaaa!!」
叫び声が周りに響く。それと同時に尻尾の攻撃が月読達を襲うがそれらは全て瑠璃が展開した障壁が防ぐ。
だが、それは一瞬だった。尻尾が当たったところまでは耐えていた障壁だったが、それと同時に飛び出して来た蛇達と"怪物"の口から放たれた閃光までは耐えられずその形を崩していく。
障壁が歪み、ヒビが入っていく。
「……っ!」
障壁を展開している瑠璃の顔が険しくなる。壊れていく障壁を持ち直そうと力を込めようとするが、それよりも速く障壁が音を立てて壊れてしまう。
それと同時に障壁によって防がれていた尻尾と蛇が月読達を襲おうとするがーーーー。
「Gyaaaaaa!!」
ーーーーいつのまにか振り抜かれていた月読の刀が蛇を切り裂き、尻尾の軌道をずらした。
蛇が切られた事になのか、それとも自分の攻撃が切られたことに対してなのかは不明だが"怪物"が悲鳴をあげる。
それを好機と捉えたなぎさと燐が攻撃を仕掛けるがそれよりも速く"怪物"がなぎさ達を
「「「「…………っ!?」」」」
刹那、なぎさ達の身体が動かなくなった。
これこそが月読が恐れていた"怪物"の能力。一度発動されてしまえば動くことができなくなる。
「A Aaaaaaaaaa!!」
"怪物"が月読達に向けて尻尾を振るう。先程までであれば何かしらの対処が出来たであろう一撃。だが、今はそれが出来ない。
遺跡の壁をも破壊する尻尾の一振り、そんなものを食らえばひとたまりもない。
月読達は来るべき衝撃に備えて目を閉じたりしたかったが、それさえも許されない。
向かってくる尻尾、その一撃が"怪物"の尻尾に一番近い場所にいた燐に当たるーーーー前に天井が崩落した。
「Gyaaaaaa!!」
"怪物"が悲鳴をあげながら落ちてくる天井に潰されていく。それと同時に月読達の身体が動かせるようになる。
月読を除く全員が自分達の運の良さに息を吐くが、月読だけは違い、崩落した天井の方に視線を向けていた。
「安心するのはまだはやいんじゃねーか?」
天井から一人の少年が降りてくる。かなりの高さから降りる……というよりは落ちてきた少年は転がって衝撃をいなすと何事もなかったかのように立ち上がる。
「大丈夫ですか?」
「平気だ」
少年は立ち上がるとパンパンと服についた汚れを払う。そして、周りをぐるっと見ると「なるほどな」と言って月読達に声をかけた。
「移動するぞ」
「……そうですね、まだ生きてるようですし何より、貴方には聞きたいこともありますからね」
ジトっとした目を少年に向ける月読。だが少年はそれに動じず月読達の横を通り抜けておもむろに壁を蹴って壊した。
「……ほよ?」
月読の口から間の抜けた声が出た。いや、月読だけではない。燐も、瑠璃も、なぎさも目の前の光景が現実なのか疑う。
見るからに壊れなさそうな壁を少年はあろうかとか蹴り一つで壊してみせた。
「……黒鉄さん。どうやってその壁を壊したのですか?」
「は?」
「……この遺跡の壁はそう簡単には壊れないようになっていたはずですが……どうやって?」
月読が疑問を少年ーーーー黒鉄零二にぶつける。零二はそれに、「あー……」と面倒臭そうに頭をかいてから月読の質問に答える。
「この壁……いや、この遺跡の壁見た目はいかにも壊れませんよみたいな感じを出してるけど……そのほとんどは脆くなって壊れやすくなってるんだよ」
「ほら」と言って零二が自らが壊した壁の破片を瑠璃に投げる。たしかに、表面は新品同然だがその裏はヒビがいくつも入っていて瑠璃が少し力を加えただけでパキッと割れてしまった。
「Guuuuu」
「……っと、他の質問は後だな。今はここから逃げるぞ!」
零二が近くにいた月読の手を引いて壁の向こう側へと走り出す。燐達も零二の後を追って今いる場所から別の場所へと移動した。
「……凄い……」
零二が月読達を連れてきた場所は先程の場所から走ってだいたい10分ぐらいした場所であった。
その場所は誰かが手入れしたのかビニールで作られたベッドとソファが置いてあるそこそこ快適な空間とかしていた。
「そこまで凄くねーぞ。ビニール袋と草と服を使って作った簡易的なベッドとソファぐらいしか作れなかったからな」
サラリとその快適空間を作った本人が悔しそうな顔をしながら言った。月読達はその人物に驚きながら……こんな物を作っている時間があるのならばさっさと助けて欲しかったと心の中で思った。
「……さてと、そろそろ本題に入るか」
気まずくなったのか零二がそう切り出す。それに、月読達の雰囲気もガラリと変わる。
「そうですね。
「離れたところから見てたからな……そこそこは分かったよ」
「そうですか。なら、
月読が零二の方を向いていつもは閉じているその紅い瞳を開けて尋ねる。
「貴方の……『特典』はなんですか?」
「なんで、答えなきゃいけないんだ?」
「アレを倒すためには全員の戦力を知る必要があります。ですので、言ってください」
「…………」
零二がため息を吐いていつも首に付けているチェーンにつながれた指輪を月読達に見せた。
「それは……?」
「お前らが知りたがってたオレの『特典』だよ。『自分が最後に身につけていた持ち物』これ以外オレは知らね」
零二の言葉に月読達は固まる。『自分が最後に持っていた物』、これはまだソレがとても大切な物なんだと分かるから納得できる。
だが、その後零二が言ったことを月読達は理解できなかった。いや、理解したくなかった。
「……それは、残り二つの特典の能力が分からないという意味ですか?それともそれが何なのか分からないということですか?」
「何もかもだよ。名前も、使い方も何もかもが分かんねーんだよ」
零二の言葉に月読達は固まると同時に納得もする。
月読達が今現在その所在を掴んでいる転生者の大半は戦闘系の特典を貰いその力を使いこなそうと努力していた。
だが、これまでの零二にそんな素振りはなく月読達は何故なのだろうかと疑問に思っていたのだが先ほどの零二の言葉によってその疑問は解消された。
「……っ、動き出したようなので素早く情報を交換しましょう」
「あぁ、それには賛成だ。どっちから先にやる?」
「……
「……そっちからで頼む。オレはアイツを遠目からしか見てねーからな。実際に目で見て肌で感じたお前らの方からの方が良いだろ」
「分かりました。それでは、瑠璃さんよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いされました」
月読が"怪物"の音を拾うのに集中するために入り口の近くへと移動する。
そして、月読に変わるように前に出てきた瑠璃が先程までの戦闘で得た情報を零二に教えていく。
「先ず、あの"怪物"の名前は不明です。どんな名前なのか、あの試練の紙に書いていませんでしたから……。
また、会話なども一切できません。言葉を話すこともなくただ叫び声をあげているだけですね。
次に戦闘面では蛇を使った攻撃と髪の蛇からから出てくるビーム、そして動きを止める眼……だと思われる能力ですね」
「……動きを止める?」
「はい、条件などは不明ですがそれを使われると私たちは動くことはおろか指先一つ動かすこともできなくなります」
「…………」
零二が天井に視線を向ける。たしかに、零二の知らない情報は有ったが、それでも情報が少なすぎる。
「……いや、それだけでも……推測はできる……か?」
零二はそう呟くとすぐに先程までの会話と自分が見ていた"怪物"の姿と攻撃方法、そしてここまで来るのに通った道と月読達を見つけた時のことを思い出す。
所々あった他の場所よりも脆い場所、蛇、動きを止める眼、そして、不自然に視線を逸らさない動作。
一つ一つは小さなものだが、それらが全て揃った今ならばその全容を把握することは容易い。
「……何か、考えついたのですか?」
「……まぁ、ちょーっと賭けの部分もあるけどな」
そう言って零二は近くにある石を手に持って笑いながら言った。
「一つ、作戦を思いついた。乗るか乗らないかはお前ら次第だ」
蛇が遺跡の中をめぐり、その母体である"怪物"に自分が採集してきた情報を伝える。"怪物"は蛇からようやく月読達が動いたことを知らされ、その口角を上げた。
「AAaaaaaaa!!」
素早く"怪物"が動いて月読達の元へと進んで行く。
そして、ソレを月読が気づかないはずがない。
「来ました」
静かに、それでいてよく聞こえる声で月読が後ろにいる瑠璃と燐に言った。
瑠璃はそれを聞くと目を閉じて前方に大きな壁を作るイメージで障壁を張り、燐は何処からか取り出した狙撃銃を構えた。
「G yaaaaaa!!」
"怪物"の眼が月読達を捉えた。その瞬間、月読達は動くことができなくなり、"怪物"はそんな3人に向けてビームを放とうとするが……。
「ーーーー『
ーーーー言葉とともに振るわれたのは黒の剣。だが、それは"怪物"が寸でのところで"怪物"が気づいてかわしてしまう。
それになぎさは少しだけ驚くが、それだけだ。
何故なら、なぎさのこの攻撃は攻撃をすることが目的ではなくーーーー。
「ーーーー穿て!」
「はーーーーっ!」
ーーーー月読と瑠璃の攻撃の為の布石なのだから。
月読の斬撃が"怪物"の髪の毛を切り裂き、瑠璃の放った光の棘が身体を穿った。
それに"怪物"が悲鳴をあげてのたうちまわる。その際尻尾で壁を叩き壊しながらもなぎさと月読に攻撃をしようとするがそれよりも速く燐が引き金を引く。
狙撃銃から放たれた青白い弾はそのまま"怪物"の頭を撃ち抜こうとするがその前にその弾がその場で止まる。
「使いましたね……っ!」
月読が一瞬で距離を詰める。そして、鞘に収めていた刀を一瞬で振り抜く。
「Gyaaaaaa!!」
"怪物"が周囲一帯にビームを放ち始める。壁が、天井がビームに当たり所々からパラパラと欠片が落ちてくる。
それを見た月読達はその場から離脱する。
「うまくいったね、月読ちゃん!」
「……そうですね。彼にはいったい何処まで分かっていたんでしょうか?」
「そうですね。少なくともあの"怪物"の正体……に近いところまでは読めているのではないのでしょうか?」
その場から離脱しながら月読達はここまで読んでいた零二の作戦を思い出す。
『先ず、この作戦は
『……つまり、その前提が違っていた場合』
『この作戦は失敗する。だが、逆に合っていた場合は此方が有利になる』
どうする?と零二が月読達に視線を向ける。それに対して月読達は「お願いします」と言う。
『まぁ、作戦はーーーーって言えたら良いんだけど、今回に至っては単純に"複数の場所からかつそれぞれタイミングをズラして攻撃する"だけなんだよなぁ』
『……それだけですか?』
『そうだけど?』
拍子抜けしたとでも言いたげな月読の視線を軽く受け流しながら零二は説明を続ける。
『オレはお前らの力も能力も何もかも理解してないんだ。細かいところまで作戦を組み立てられるかよ……。
仮に組み立てられたとしても粗さが目立つ。なら、いっそのこと大雑把に作戦を言ってあとはそっちに任せた方が良いと勝手に判断したんだが……』
『……一理ありますね。なら、こちらが能力などの情報を教えれば細かいところまで作戦を組めますか?』
瑠璃が言った言葉に零二は少しだけ考えるがすぐにそれを否定する。
『無理だ。どんな能力なのか聞くだけじゃなくて実際に見ないと分からないからな』
『なるほど……』
零二の言葉に一応納得する瑠璃。
だが、一つだけ疑問が出てきたためそれを零二に聞く。
『貴方はどうするつもりですか?』
『どうするって……オレはこの作戦を思いついた張本人だぜ?』
手で弄んでいた石を誰もいない場所に投げて零二は言った。
『近くで見て、修正とか細かいことをするさ』
そこまで思い出すと同時に"怪物"が月読達を追いかけてきた。
それを見た瑠璃はすぐさま光の棘と光の剣を創り出して"怪物"に攻撃をするがそれよりも速く"怪物"は壁や天井を使ってその攻撃を回避する。
「先程よりも動きが速いですね」
「そのようですね」
"怪物"の進む速度が変わったが、月読達は慌てることなく通路を走っていく。そして、横道があった時は迷わずそこを進みながら、次に備える。
そして、奥にある部屋に月読達と"怪物"が入った時、瑠璃が動いた。
右手を振るい、光の棘と炎の剣を創り出して怪物に射出した。
「G yaaaaaa!!」
怪物が本能のままに体を動かしそれらを回避する。だが、回避した先で待ち構えているのは柄に手を当て抜刀する準備を終えている月読がいた。
「はーーーーっ!」
目に見えない速さで放たれたソレは"怪物"の体を深々と切り裂き、腕を一本切り落とした。
"怪物"の身体と右腕から血が吹き出る。怒りからなのか"怪物"は月読を率先して狙うが、それらの攻撃はしようと思った瞬間に燐の狙撃となぎさの剣によって阻まれてしまう。
"怪物"の腕が上に弾かれ、顔は上を向く。それは、ここにきて訪れた大きな隙。これまでであれば左右の手と髪の蛇、そこら中にいた蛇によって阻まれてきたその隙を燐と月読は見逃さない。
再び、構え、そして燐は引き金を引き、月読は再び抜刀する。
これまでとは全く違う。確実に相手を討つために放たれた2人の一撃は確かに頭と心の臓があるであろう場所にあたる。
「ーーーー」
"怪物"の身体が揺れる。それに瑠璃となぎさは倒したと思い少しだけ緊張を解く。燐と月読もさすがに頭を潰され心臓を刺されれば死ぬはずだと目の前の相手から目を離す。
「……?」
目を離してから少しして月読達は違和感を感じた。
前回の時は試練の勝利条件を満たした時何処かに元の世界に帰るための扉が現れたはずだ。
だが、いくら待とうともソレは現れない。
それは何故かーーーーそこまで考えて月読の背筋に冷たいものが走った。
刹那、月読達の身体が宙を舞った。そして、同じ場所に全員が落ちる。
一体何が起きたのか分からず月読達は自分達を飛ばした相手を探す。
「G G Gyaaaaaa!!」
ソレを見て月読達は唖然とした。月読達を飛ばした相手はーーーー先程確かに燐と月読が倒したはずの"怪物"。心臓を刺され、頭を撃ち抜かれたはずの"怪物"は頭と胸から血を流しながらも確かに月読達を見ていた。
何故、生きているのか?そんな疑問が月読達の動きを鈍くする。だが、この"怪物"の前でそれは命取りとなる。
「しまーーーーっ!?」
慌てて動こうとするが、月読達の足下にいつのまにかいた蛇達が足を絡めとり月読達の動きを妨害する。
いや、それだけではない。蛇は自身の鋭い鱗を使って月読達の足を傷つけ牙を肌に立てそこから麻痺毒を流し込んでいく。
それにより、月読達は歩くことはおろか立っていることすらできずその場に崩れ落ちる。
動くことは出来ない月読達を"怪物"はその目で視る。"怪物"の瞳が一瞬だけ光り月読達を止めようとする。
「ーーーーっ!」
月読達は最悪の事態ーーーー動けなくなることに備えて目を閉じる。だが、いつまで経ってもあの時が止まった感覚は来ない。
何故だろうかと疑問に思って月読を除く全員が目を開けて、固まった。
「ーーーーっ!」
燐達が見たものは此方を見てビームを放とうとしている"怪物"とーーーーその"怪物"目の前に立ち月読達を"怪物の視界に入れないように"怪物"の目の前で立ちふさがる……いや、飛んで視界を塞いでいる零二の姿があった。
普通であれば、地面に落ちているはずなのにまるでそこだけ時間が止まっているように零二の体は空中で固定されている。
それを見た燐達はすぐに理解した。自分達があの目の効果を受けていないのは零二のおかげなのだと。
だが、それと同時に思い出す。零二にはあの攻撃を防げる『特典』が無いことを……。
「……っ!」
すぐにそれを思い出した月読は零二のもとに駆け寄ろうとするが毒によって立つことすらも出来なかった。
それでも、何とかして月読達は零二のもとに行こうとするが、それよりも速く鮮血が舞った。
今まで放たれてきたビームよりも細く鋭いビーム。それは確かに零二の胸を貫いた。
「……ぁ……っ」
燐が、瑠璃が、なぎさが、月読が目の前の光景が信じられず声を漏らす。
零二の体が地面に落ちる。零二の体から流れ出ている血はかなりのもので一目で重傷……いや、致命傷だと分かるほどだ。
「……ぁ、ぁぁ」
何かを言おうとするが上手く言葉にできない月読達。目の前のことは現実で、"怪物"が放ったビームは零二の胸を貫いた。
そして、零二を倒した"怪物"は今度は動けない月読達にその視線を向けた。その目はまるで次の獲物を狩ろうとする獣のような目だった。
月読達の身体に冷たいものが走る。
転生して……いや、前世も含めてはじめての死が近づく感覚。それに抗おうにも月読達の身体は毒により動かない。
「……ぃ……ゃ……っ!」
燐が近づいてくる死に恐怖する。いや、燐だけでは無い。瑠璃も、なぎさも、月読も、全員が死に恐怖していた。
"怪物"の目に光が集まっていく、例の能力とは違う確実に月読達を殺すための攻撃の準備だ。
それを聴いた月読は迫り来るそれに目を閉じて備え、なぎさ達は強く目を瞑る。
「AAAaaaaaa!!」
"怪物"が雄叫びをあげてビームを放つ。そのビームは真っ直ぐと月読達のもとへと向かってくる。
「プロテクション!」
瑠璃の声が響く。すると、ビームと月読達の間に複数個の魔法陣が現れそれらがビームを防ぐ。
だが、それは気休めにしかならない。毒によって上手く力が出ない瑠璃が即席で作り出した魔法陣の障壁はビームに耐えられず一枚、また一枚と破壊されていく。
もう駄目だと瑠璃が心の中で諦める。既になぎさも、燐も迫ってくる死の恐怖の前に諦め、今だに足掻こうとする月読も立とうとしてその場に崩れ落ちる。
そして、最後の障壁が破られた。
「えーーーーっ?」
刹那、瑠璃の隣を何かが通り過ぎた。あまりにも速すぎたそれを瑠璃は見ることはできなかった。
だが、それの姿はすぐに見ることができた。
何故なら、それは瑠璃達の前に出ると瑠璃達を庇うように前に立ちふさがったからだ。
「……黒鉄……さん……」
その人物の名を瑠璃が言う。零二はその声に反応することなく、瑠璃達を守るようにビームの前に立ちふさがった。
しかし、立ちふさがったとは言えたかが普通の人間の身体一人分。"怪物"の放ったビームに耐えられるはずがない。
だが、現実は違った。
「……嘘……っ!」
なぎさが驚愕の声を上げる。いや、声をあげていなかっただけで瑠璃達も驚愕する。
だが、この中で一番驚いているのはその原因である零二だった。
(……止まってる?)
目の前で起こっていることに零二の頭が追いつかない。
零二が自分で選んだ特典は『自分が最後に持っていた物』。それ以外の2つは自分でさえも理解していない。
ならば、この現象を起こしている何かこそが零二の特典ではないのか?と零二は一瞬だけ考えるが、
いや、それだけではない。零二はこれを知っている。記憶にないだけで前世で、これと似たようなものを体験しているのを身体と心が覚えている。
(だけど、これだけじゃダメだ。でも、どうすればーーーー?)
ドクンッと零二の中で何かが脈打った。喚べと零二の身体の中から何かが訴えかけてくる。
だが、零二はその術を知らない。どうすればそれを喚び出されるのかを零二は知らない。
(いや、違う。
そう、零二はその術を知っている。何故なら、それを実際に零二の目の前で実践してくれた人がいたのだからーーーー。
「ーーーー『
刹那、ビームを桜色の極光が消しとばした。一瞬だけそれについて来れなかった"怪物"だが、すぐに我に帰ると素早い動きでその射線上から離脱した。
「ーーーーやっと会えたね、マスター……」
声が聞こえてきた。桜色の極光が現れた場所から聞こえてきた声に零二は何処か懐かしい気持ちになる。
完全に極光が消え、その声の主が見えてくる。
長いプラチナブランドを靡かせ、花形の綺麗な髪飾りをつけた不思議な衣装を着た少女。
「ーーーーサクラーーーー」
零二がその少女の名を言う。零二自身、この少女の名前を知っているわけではない。だが、何故かその名前が口から出た。
少女ーーーーサクラはそれに一瞬だけ驚くもすぐに笑みを浮かべた。
「うん、私の名前はサクラ。マスターが喚び出してくれた