「
零二が疑問に思った場所を口にする。それは、サクラが言った
確かに零二の目から見てサクラは可愛らしい美少女だが、それを素直に認めることを零二はしない。
「むぅ、その目は信じてない目なんだよ……」
「いや、何となくだけど最初の方は信じてる……。信じてないのは最後の美少女の方だ」
「それはそれで酷いんだよ!」
ブーブーと唇を尖らせていかにも私不機嫌ですとでも言いたげな顔をするサクラ。それを見て零二はため息を吐くとその場からすぐに動いた。
「まだ動けるのかよ」
「寸前で躱されてたみたいなんだよ」
サクラと零二が先程までの空気を霧散させて、"怪物"の方を見る。
"怪物"は零二を見て、その次に隣にいるサクラを見てから再び叫び声をあげ2人を動けなくさせようとするが……。
「それはもう見飽きたぜ!」
その瞬間、"怪物"の視界に何かが入ってきた。それは、零二の投げた手提げ鞄とその中に入っていた非常食類。開いていたカバンから出たそれらは"怪物"の視界から零二とサクラを隠し、同時に零二とサクラの代わりにその動きを止めた。
だが、"怪物"はすぐにその能力を解除して動く。
「やっぱ、そう簡単には行かなさそうか」
それを見て零二はすぐに先程考えた作戦を破棄して別の作戦に移行するための準備をしようとするが、それよりも速く"怪物"が動いた。
再び零二とサクラの動きを止めるためにその眼を使う。
「「…………っ!」」
零二とサクラの身体がまるで石になったかのように動かなくなる。それを確認した"怪物"は周りの蛇も使った今までのよりも遥かに強大なビームを放つがーーーー。
「Gyaaaaaa!!……aaa?」
その瞬間、零二の右手に現れた魔法陣によってそれは防がれた。いや、それだけではない。いつのまにか零二とサクラの動きを止めていた能力自体が解除されていた。
「今だ……撃て!サクラ!」
「了解なんだよ!」
"怪物"が呆けたその隙を零二は見逃さない。そして、サクラも零二の考えを汲み取りいつでもそれを発射できるように準備を進めていた。
「『
桜色の極光が呆けていた"怪物"に襲いかかる。"怪物"はそれを見ると我に帰りすぐに
「させるかよ!!」
ーーーーそれを零二が許すはずがない。
「ーーーー『
刹那、"怪物"の能力が光とともに消え、止まっていた
もはや避けることも防ぐこともできないそれを見ながら"怪物"はそれに呑み込まれていく。
だが、"怪物"はお前も道連れだと言わんばかりに動けない月読達の方にビームを放つ。
以前と同じ状況であれば、動けない月読達はそのまま命を散らす。しかし、それはあくまで以前までの話。
今ここにいる零二は以前の零二とはまるっきり違う。この状況を変える手段を持っている。
「ーーーー『
零二が右手を翳し自身の能力を使う。先程までは知らなかったはずの能力だが、零二はそれらを本能的に察していた。
そして、それは正しく零二が思い描いていたように零二の右手の先に月読達が召喚された。
「GGyaaaaaa?」
何が目の前で起こったのか、"怪物"は理解できなかった。確かに、毒は効いていた、動けるはずなどない。
ならばと"怪物"が次に視線を向けたのは地震に迫り来る極光の先にいる少女と少年。だが、少女はこれほどの攻撃を維持するために他に意識を向ける暇はないはずだ。ならばーーーー。
そこまで、"怪物"が考えると同時に桜色の極光が"怪物"を呑み込んだ。
「……終わった……のですか?」
ようやく毒が抜けたのかよろよろと立ち上がりながら月読が零二に聞いた。
それに零二はしばらくの間何も答えなかったが、"怪物"の姿が無いことを確認すると「多分な」と答えた。
それと同時に、何処かで扉が開いた音が聞こえてきた。零二達の手元に一枚の紙が現れそこには試練クリアと大きな文字で書かれていた。
それを見たなぎさ達は大きく喜び、燐から紙の内容を聞いた月読も珍しく年相応に喜んだ。
「…………」
だが零二は素直に喜ぶことはせず、ただ黙って"怪物"が消えた場所を見続けていた。
零二の脳裏には"怪物"の攻撃の仕方や動きなどが鮮明に蘇り零二の中に疑問を浮かび上がらせていく。
「…………」
零二の目の前から月読達が消えていく。試練のために作り出されたこの空間から強制的に排出されているのだろうと零二は思いながら、自分のすぐ近くにいたサクラに声をかける。
「……ありがとうな」
零二の感謝の言葉を聞いたサクラは柔らかく微笑んで「どういたしましてなんだよ」と言う。
それに零二もつられて笑みを浮かべるが、すぐにその笑みを引っ込めて空に視線を向ける。
それは、零二だけではない。サクラもいつでも
『酷いなぁ、僕が一体何をしたって言うのさ?』
「さぁな。けど、
零二の言葉に空にいた少年はクスクスと笑いながら『君の勘を侮っていたかな?』と言う。
そして、少年はそのまま零二達の目の前に降りてくる。
「「ーーーーっ!?」」
刹那、零二とサクラは自分の死を幻視した。
骨を断たれ、何もできぬままただその命を散らすその光景を幻視した零二はサクラを抱き抱えて少年から距離をとった。
『5回……。この数字が何か理解できるかな?』
「……オレ達を殺した回数か?」
『御名答。彼奴の意図したことでは無いのだろうけど、中々面白いのが
「……っ!」
少年の言葉に零二は手を握りしめる。
『今回は』、それはつまり過去にも今零二達が受けている試練のようなものがあったと言うこと。
そして、零二の予想が正しければそれはーーーー。
「……そういうことかよ」
『気づいたみたいだね。でも、もう君達は逃れられない』
嘲笑うように少年は零二に言った。
だが、零二は少年のその言葉を鼻で笑う。
「逃げる?はっ、誰がするかよそんなこと!」
『やっぱり、君は今までの奴らと少し違うみたいだね。なら、頑張りなよ』
少年の姿が霞んでいく。零二はそんな少年の姿を最後まで見届けるとサクラの方を見た。
「そろそろ帰るか」
「うん!」
零二がサクラに手を差し出す。サクラは笑顔で零二と手を繋ぐとそのままその腕に抱きつく。
そして、零二達の姿も少年のように段々と霞んでいく。
「……今日食べたい物とかあるか?」
「うーん……あっ!それならカレーライスが食べたいかもなんだよ!」
「カレーか、りょーかい」