拝啓
朝晩はだいぶ涼しく感じられるようになりました。今も心地よい
さて、今日の会合ではありがとうございました。まずはお礼申し上げます。
先日、浦の星女学院の統合先が正式に貴校に決まったと聞いた時、私、ほっといたしました。貴校の校風や今までの検討内容を考えると、恐らく良い形で統合できるかと思います。
今日もお話ししましたが、統合先は決まっても肝心の統合がなかなか正式決定しないこと、貴校にはご迷惑をお掛けしております。
しかし私達としては最後まで廃校回避に努力したい、そう考えているのです。
そんな私達に貴方は理解を示してくださいましたね。深く感謝いたします。
統合後のことを話すのは、実は私としては
先日の学校説明会も盛況でした。ですからきっと、統合は最後の最後で回避できるはずです。
でも、いざ決まってから進めたのでは遅すぎる、ということは
・
さて、今日、こうして出すことのない手紙を書いているのは、お礼だけが理由ではありません。
私の心の
しかし今日、生徒会室で貴方にお目にかかった時、私の心は再び揺れ動いたのです。呼吸は速くなり、胸はきゅっと締め付けられました。このような経験を、またすることになるとは。
何が原因なのかはわかりません。でも、事実なのです。
口を開く前に、意識して深呼吸を一つ、する必要がありました。
これだけでしたら私、前回と同じように、時間と共に波立ちを
打ち合わせの
私、例によって話題に悩んでしまいました。
「先日の学校説明会、盛況だったようですね」
ですから、そう貴方が話してくれて、私、嬉しくなりました。無言のままで終わるのは嫌すぎますもの。
「ええ、お
私はそう答えましたが、話の
「動画、拝見いたしました」
貴方はまるで効果を
動画です。当然そこには私達、
それに気付いた私は、顔がひどく
Aqoursを始めてから、いつかこういう機会もあるだろうと覚悟しておりました。でも、今でなくても!
私が何も言えずにいると貴方は続けたのです。
「とても素敵でした」
私、恥ずかしさで呼吸が止まるかと思いました。
この時、貴方が眼鏡の奥で目を細めたことに、私は気付いていました。それは私の反応が面白かったからでしょうか?
それにもうひとつ気付きました。何が素敵だったのか、貴方があえて省略したことにも。
そして思ったのです。貴方が省略したのが、私ならいいのに。私を気にしてくださったならいいのに、と。
どうしてそんな風に思ったのでしょう。とても不思議でなりません。
私、どう解釈していいのか、今も悩んでいます。
「ありがとうございます」
なんとか目を
当然、渦巻く疑問を
そのままふわふわと、落ち着かない
もしかしたら貴方の言葉、社交辞令だったのでしょうか。急にそんな気もして
まったく、ライブの直前くらいです。あんなに緊張したのは。すべて貴方が悪いのです。
――いえ、違いますね。
やはりその場で、きちんと確認しておけばよかったと思います。
でも。もしかして。
私、まだおかしいようです。胸が痛くなる想像は
もしまた似たような機会がありましたなら、その時には
次に会う時までに――予定ではそのころには統合も決まっていることでしょう――私の心が元通りになるか、本当に不安でなりません。すっかり忘れることができて、こんな手紙を書く必要がなくなればよいのですが。
これからは
前略
前回から間もないのにお手紙を差し上げること、お許しください。実は今日、とても嬉しいことがあったのです。
私、周りからは硬い人間だと思われているようです。――たしかにほんの少し、
ですので、以前からずっと、後輩や友人達には距離を置かれている気がしていました。それは部活に入っても変わらなかったのです。
皆さん、私を呼ぶ時には「ダイヤさん」と「さん」付けでした。それなのに、私、同級生の鞠莉さんと
私の心に浮かんだのは、
この気持ち、貴方なら分かっていただけるでしょうか。
恥ずかしながら、私から距離を縮めようともしてみたこともありますが、結果は散々でした。そういうのは、向いていないのです。
でも、このままずっと、小さな
それなのに、今日、突然、友人達から「ダイヤちゃん」と呼んでいただいたのです。
初めは何か冗談でも言われているのかと思いました。でも皆さんは本気のようで――私、何も言えなくなってしまいました。
本当は心から感謝していたのです。ありがとう、と。
思い出しても心が温かくなります。明日から、私は「ダイヤちゃん」だとしたら――なかなか慣れそうにありませんね。
ふと思います。貴方に名前で呼んでいただくことがあるのでしょうか。その時、私は、「ダイヤさん」なのでしょうか、それとも「ダイヤちゃん」なのでしょうか。
筆が止まってしまいました。空想は
明日を楽しみにしながら眠りにつこうと思います。あなたも良い夢を。お休みなさい。
拝啓
次に手紙を書くとしても、それは統合か存続かが決まってからだと考えておりました。まさか今日、あんなことが起きようとは思ってもいませんでしたから。
今日は部活は――Aqoursの練習はお休みでした。
空は雲一つなく、まさしく秋晴れでした。ご存知でしょうか。秋はむしろ前線の影響で夏よりも
天気にも恵まれ、私は鞠莉さんと約束して沼津市街に買い物に参りました。
高校生らしいとお思いになるでしょうか。それとも意外でしょうか。
貴方の常識は少し古風なところがあるようです(ええ、私も自覚しています。私と同様に、です)。そこが貴方の魅力でもあるのですが。
休日はいつもお
少し話がそれました。鞠莉さんは所用があり市内で待ち合わせたのです。
バスを降りて待ち合わせ場所に向かう途中、多少の時間がありました。ですので、あんなことが起きたのです。
あとから思えば
書店の二階に上がり、私は
いつもこの売り場は
書店の独特の匂い、私、嫌いではありません(貴方はいかがでしょうか)。
私はその匂いを嗅ぎながら、ゆっくりと棚の間を歩きました。そして、一つの棚の角を曲がり、貴方がなにやら本をお読みになっているところを見つけたのです。
私、はっと息を呑みました。そして私の胸を、きゅんと痛みが襲いました。もう馴染みとなった、あの痛みです。
思わず私は一歩、足を踏み出していました。貴方と言葉を交わしたい。そう願いました。でも何を話していいのか、まったく
そこでどのくらい立ち止まっていたのでしょう。
私はゆっくりと貴方に背中を向けました。貴方と会話するところが想像できなかったからです。
貴方に気付かれる前に階下に降りようと思いました。でも私は
それは私にとっては運命の選択でした。
「
店員さんがカバーを掛けてくださるのを待っていた私は、体を硬くしました。
高まる胸の鼓動を
「こ、こんなところで。
私の声は上ずっていなかったでしょうか。
店員さんから本を受け取り、私は一歩下がって貴方が本をお買いになるのを待ちました。
もちろん一礼して去ることもできました。でも、私にはできませんでした。この気持ち、わかっていただけますか。
貴方は店員さんに丁寧にお礼を言い、私に
一緒に階段を下りながら貴方は私にお尋ねになりました。
「もし
「『
「すみません、
「気になさらないでください。私も友人の勧めで知りましたの」
花丸さんは私にぴったりだと話していました。読了したらその意味は
そのまま私達はごく自然に、会話をしながら店の外に出ていましたね。私が足を向けた方向に貴方が付いて来てくださったような気がいたします。
本のこと。高校のこと。部活のこと(貴方は生徒会のみなのですね)。会話は弾みました。貴方があの一言を口にするまでは。
「ライブの映像も拝見しました」
私、途端に言葉に詰まりました。でも確認せずにはいられませんでした。
「ど、どの曲でしょうか」
貴方の口にした曲名は私が
でも貴方があれをご覧になったと思うと――何よりもまず恥ずかしさが先に立つのは自然なことでしょう?
黙り込む私に(きっと真っ赤になっていたと思います)貴方は急いでお話になりました。
「ええと、曲も踊りも、素晴らしいと思います」
それを聞いて私の心には、あの曲の歌詞のように温かい
そのお
「ありがとうございます。そう言っていただけて、光栄ですわ」
貴方は微笑みで
そのあとすぐ、待ち合わせ場所へと曲がる交差点で、貴方は私に挨拶をして離れていきました。
もう少し一緒にお話しできないのが残念でしたが――あの話題の
なにしろ鞠莉さんに会った時に、変な顔をしていたのか、またもや「ダイヤ、頭でも痛いの?」と言われてしまったくらいですから。
・
今日は私、あまりに突然のことで、特に最後の話題については
誤解しないでください。それは貴方の言葉に気を悪くしたのではなくて、むしろ逆です。私、本当に嬉しかったのです。貴方がしっかり私達のことを見てくださって。
でも、前回の覚悟はどこへやら。私はまたしても、尋ねることができなかったのです。「私は、いかがでしたでしょうか?」と。
そんなこと、言えるわけありません。
でも、その時も今も気になって仕方ないのです。貴方の目から見た、私が。
それに、気のせいでしょうか。貴方も前回とは違って――少し
暖房を付けるには少し早かったようです。窓を
私、この胸の痛みと
生徒会長として定期的に貴方に会わなくてはならない。それが
次にお会いする時には、今度こそ浦女の
私、夢中になれることがあって幸せです。その
もう少しだけ、窓は開けておこうと思います。
長くなりました。貴方のご健康とご多幸をお祈りしつつ、筆を置かせていただきます。
前略
ついに浦の星女学院の廃校、統合が決まりました。貴方にもいずれ連絡があるかと思います。
私達は精一杯、努力したつもりでおります。それでもあと一歩の所で、力及びませんでした。本当に、あと一歩だったのです。
私が最後の生徒会長かと思うと、こうしていても涙が止まることはありません。浦女の卒業生、在校生に顔向けができません。
鞠莉さんは私のせいではない、と言ってくれます。それが真実なのだと頭では理解しております。それでももう少し、何かできなかったのでしょうか。
一人になった途端、貴方のことが私の胸に浮かびました。
貴方はどんな顔を見せてくれるのでしょうか。私を
お会いしたくてたまりません。でも、それが不可能なことは解っていて――私の悲しみを倍加するのです。
明日からは再び生徒会長として、残り僅かの間ですが浦女のために尽くそうと思います。
それでも今日だけは、こうして悲しみに