生徒会長は手紙を綴る【完結】   作:Kohya S.

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六通目~最後の手紙

2. 六通目~最後の手紙

(6)

 

拝啓

 

 寒さが身に染みる季節となりました。貴方(あなた)におかれましてはご健勝(けんしょう)のことと存じます。

 

 今日は統合が決定してからの最初の会合でしたね。貴方を始め生徒会役員の皆様にはお礼申し上げます。

 

 放課後、私達は貴校へ向かいました。さすがに雰囲気は沈みがちで、バスの窓から見える冬の風景も寒々(さむざむ)と、それに拍車を掛けるようでした。

 

 貴校の生徒会室で挨拶を終えた後、私は代表して申し上げました。

 

「お聞き及びかと思いますが、浦の星女学院の統合が正式決定いたしました」

 

 私の声は震えていなかったでしょうか。

 

「聞いております。今までお疲れ様でした」

 

 そういって貴方達は頭を下げてくださいました。

 

 頭を上げた後、貴方はもしかして、私に――私だけに微笑んでくれたでしょうか。私を(ねぎら)うように。少なくとも私にはそう見えました。おかげで私の心は、幾分(いくぶん)軽くなったのです。

 

 それから貴方は事務的に打ち合わせを進められて、変に気を(つか)われるより、私は嬉しく思いました。

 

 結局、制服の件は、統合後に全校生徒で投票することになりましたね。貴校の女子の制服は(失礼を承知で申し上げると)いささか古臭いようです。ですので、きっと浦女の制服が選ばれると、私は信じております。

 男子の制服についてはノーコメントですが――少なくとも貴方には良くお似合いかと存じます。

 

 気付けば予定よりも随分(ずいぶん)早く、議題は消化されていました。次の会合の日程を決めて、生徒会室を辞した後、貴校の副会長さんが後輩に話しているのが聞こえました。

 

「よかったらお茶でもどう? まだ時間あるでしょ」

 

 今時の言い方で言えば、副会長さんは軽い方でいらっしゃいますわね。

 話しかけられた彼女が私に視線を送ったので、私、(うなず)きました。もちろん当人同士にとやかく言うつもりは、さらさらありませんので。

 そうして私達は別々に帰ることになったのです。

 

「ねえ、ダイヤ。私達もお茶して行かない?」

 

 鞠莉(まり)さんが話しました。(いな)やはありませんでした。でも、この(あと)に起きたことを考えると――私、軽率でしたでしょうか。

 

「生徒会長さんもどう?」

 

 あろうことか鞠莉さんは貴方に向かってそう続けたのです。

 私、貴方のいらっしゃる(ほう)を見ることができませんでした。私の胸は早鐘(はやがね)のように鳴ったのです。

 

「お二人さえよろしければ」

 

 貴方のお言葉のせいで、私の胸を、もう馴染みになったあの痛みが襲いました。

 

「もちろんオッケーよ。ねえ、ダイヤ?」

 

 鞠莉さんの問いに、私は胸を張って、あえてあらぬ方を見て頷きました。

 

「べ、別に構いませんわ」

 

 私の答に鞠莉さんはくすりと笑ったのです。

 

        ・

 

 貴方は私達を遠くない喫茶店へ案内されました。ファーストフードほど騒がしくもなく高校生に不相応(ふそうおう)なほど高級でもないその選択は、私にとって好ましいものでした。

 暖房の効いた店内で私は一息つきました。

 

 貴方は最初に一度だけ、浦の星女学院の廃校についておっしゃいました。

 

「ご尽力(じんりょく)が実らなかったこと、残念です」

 

 私、何も言えなくなりました。だから目礼だけ返したのです。

 

 注文が届いて沈黙が破られて、それからは話が弾みました。

 

 貴方はラブライブの地区予選についてもお話しになりましたね。動画を見ていただいたとのこと、ありがとうございます。Aqours(アクア)のパフォーマンスについて第三者の視点から聞けるのはとても興味深い経験でした。もちろん話題の中心は千歌(ちか)さんでしたが。

 でも私、貴方が鞠莉さんと私について言及してくれて、嬉しかったのです。

 

「鞠莉さん、ダイヤさんを始め、皆さんとても切れのあるダンスでした。相当練習されたのでしょう?」

「ええ、それはもう苦労しましたわ」

「このダイヤが傷だらけになってたのよ」

 

 鞠莉さんはウインクをして、貴方は少し驚いたように眉を上げてから微笑んだのです。私、思わず顔を逸らしてしまいました。

 

 途中、貴方はおっしゃいました。

 

「なにかデザートでも頼みますか?」

 

 もちろん私も女子高生ですから甘いものは嫌いではありません。少々お腹も()いて来た頃でした。でもそんなこと、面と向かって言えると思いまして?

 

 鞠莉さんはあまり気になさらない(たち)ですから、目を輝かせました。

 

「私、フルーツタルトにするわ!」

 

 それでも逡巡(しゅんじゅん)する私に貴方は言いました。

 

「抹茶プリン、美味(おい)しいらしいですよ」

 

 最初の注文でメニューを眺めた時、私の目がしばらくの(あいだ)、そこに止まっていたのを見逃さなかったのですね。私、頷かざるを得ませんでした。

 

 女性に恥ずかしい思いをさせるのは殿方としていかがでしょうか。――いえ、私が悪いのですね。

 

 お陰様(かげさま)で抹茶プリンは大層美味(おい)しゅうございました。

 

        ・

 

 そろそろバスの時間、という頃になって鞠莉さんは席を外しました。

 私、急に貴方と二人きりになって、何を話したらいいのかと戸惑(とまど)ってしまいました。それに、レンズの奥の貴方の黒い瞳を見ていると、言葉が声にならないのです。

 

 でも、貴方はやはり聞き上手ですね。いつの間にか私、次のライブのこと――来年のラブライブ決勝について、滔々(とうとう)と話していたのですから。

 貴方はずっと興味深そうに聞いてくださいましたね。

 

「私もドームに行きたいと思います」

 

 その言葉を拝聴(はいちょう)した時、私、耳を疑いました。スクールアイドルになんて興味もなさそうな貴方が、と。怪訝(けげん)な顔をしていたのでしょう。貴方は続けました。

 

「部活動の大会みたいなものですよね。生徒会長としては、行ってもおかしくないのでは?」

 

 そう言われればそうです。私、考え過ぎですね。

 

「それに……」

 

 でも、貴方はそう言いかけて珍しく言葉を(にご)しました。(たず)ねるように首を(かし)げた私に、貴方は視線を合わせてくださいませんでした。

 一口(ひとくち)、コーヒーを飲まれてから貴方は言いました。

 

「最高のパフォーマンス、期待しています」

 

 その言葉、素直に嬉しかったのです。ええ、必ずや、優勝してみせますとも。

 

 鞠莉さんは随分時間が()ってから戻ってきました。

 会計では誰が払うかでひとしきり揉めましたね。鞠莉さんに言われて、貴方に払っていただきましたが――次は私が払いますからね。

 

        ・

 

 バスの中、鞠莉さんは私に聞いたのです。

 

「生徒会長さんと、お話しできた?」

「ええ、たいへん有意義でしたわ」

 

 何が面白いのか鞠莉さんはまた、くすりと笑いました。

 

 こうして書いてきて、気付いたことがあります。まったく、鞠莉さんったら。顔から火が出る思いです。

 鞠莉さんに気付かされるなんて――私、なんて馬鹿だったのでしょう。

 

 でも、認めざるを得ないようです。

 

 流石にここに書くのも恥ずかしいですわ。

 

 でも貴方はどうお思いなのでしょう。それが気になるのです。今日、貴方は何を言いかけたのでしょうか。気のせいでなければ貴方はあの時――。

 

 困りました。夜ももう遅いのに、このままでは眠れそうにありません。

 果南(かなん)さん直伝(じきでん)のストレッチで体をほぐして、頭も冷やすことにいたします。

 

 いよいよ寒さも厳しくなります。しっかりとしたご様子(ようす)の貴方には釈迦(しゃか)説法(せっぽう)かと思いますが、どうぞご自愛ください。

 

敬具

 

 

 

 

 

 

 

(7)

 

前略

 

 私、困っております。急遽(きゅうきょ)、ライブが決まりました。不肖(ふしょう)の妹、ルビィが申し込んでいて、さらに私まで参加することになったのです。それ自体はとても嬉しいのですが、貴方に連絡する手段がないのです。

 なにしろここは沼津ではなく函館(はこだて)で、ライブは明後日(みょうごにち)の夜なのですから。

 

 話を聞いた時、真っ先に見ていただきたいと思った方の一人が貴方でした。

 後日配信があるとはいえ、できれば生配信で見てほしいのです。

 こんなことなら連絡先を交換しておくのでした。後悔しております。

 

 貴校の生徒会宛のメールでライブについてお伝えするのは、やはり奇妙ですよね。でもそれをやりかねない、私がいます。

 

 こうなったらもう、貴方が何らかの方法で気付いてくれることを期待するしかありません。

 そしてもし、貴方が私達のライブの成功を祈ってくれたなら、これほど嬉しいことはございません。

 

かしこ

 

 

 

 

 

 

 

(8)

 

前略

 

 あけましておめでとうございます。お手紙、ありがとうございました。手紙といっても電子メールですけれども。

 

 冬休み後、最初の登校日。生徒会宛のメールを整理していた私は、貴校からのメールに気付きました。時々お送りいただく事務連絡のメールだと私は思い、事実そうだったのですが――最後の一文に、私、思わず笑みを漏らしました。

 

「P.S. Saint Aqours Snow(セイントアクアスノー)の函館ライブ、最高でした」

 

 どういう経緯か分かりませんし、生配信だったかも分かりませんが、ご覧になってくださったのですね。そして事務連絡のメールに付け加えてくださるとは――なんと小粋(こいき)(はか)らいでしょう。

 

 ありがとうございました。最後のライブにも、期待してくださいませね。

 

かしこ

 

 

 

 

 

 

 

(9)

 

拝啓

 

 年が改まりましたが寒さはこれからが本番のようです。お元気でいらっしゃいますか。

 

 今日は統合前、最後の会合となりました。懸案(けんあん)だった課題もそれぞれ決着がついたこと、まずは嬉しく思います。

 貴校にはいろいろとご配慮いただきました。浦の星女学院の伝統も受け継がれることでしょう。

 貴校の生徒会役員の皆様には厚くお礼申し上げます。

 

 思えば意見が対立したことも何度もありました。その(たび)に貴方は、折衷案(せっちゅうあん)を考えたり、前提条件を見直したりと話を前に進める努力をしてくださいましたね。

 私、どうしても頑固なところがあるようです。それは重々承知しております。

 貴方のご尽力(じんりょく)がなかったら、まとまるものも、まとまらなかったのではと思います。

 浦の星女学院の生徒会長として申し訳ありません。そして、本当にありがとうございました。

 

 会合の終了後、今日はさすがに皆さん、肩の荷が下りたような清々(すがすが)しい表情でした。貴方もそうでしたね。

 生徒会室でしばらく話に花が咲きました。

 

 先に貴校の副会長さんや書記さんは、私の後輩達と一緒に帰り、鞠莉さんと私は貴方と帰ることになりました。

 残念ながらどこかに立ち寄るには、すこし時間が足りなかったのですが。

 

 貴校を出て、函館のライブについて話したところで(お()めいただき光栄です)鞠莉さんが突然、声を上げました。

 

「私、大切な用事を思い出したわ! ダイヤ、先に帰ってちょうだい」

「でも、バスがなくなってしまいますわよ」

 

 戸惑う私に鞠莉さんは続けました。

 

「タクシーで帰るから大丈夫よ!」

 

 そういって鞠莉さんはなぜかウインクしたのです。私、頷くしかありませんでした。

 

「それじゃ、生徒会長さん、ダイヤ、チャオ!」

 

 鞠莉さんの背中が見えなくなってから、ようやく気付きました。ええ、私、こういうことには(うと)いのです。

 もちろん鞠莉さんは私のことを考えてくれたのです。

 気付いてしまうと――何度目でしょうか、胸が苦しくなるのは。

 

 しかし私、もう、自分の心に気付いておりました。

 顔が赤くなるのは隠せません。でも、私は、胸にあった勇気を振り絞って、少しだけ踏み込んで、貴方のことを聞いたのです。

 私、しっかりとお話しできましたでしょう?

 

 やはり貴方はあの家のご出身だったのですね。最初にお名前を聞いた時から、もしかしたらと思っていたのですが。沼津では誰もが知っている名家でございます(私の家については貴方は(すで)にご存じだったようですね)。

 

 そして進学されるということもお聞きしました。私と同じく東京と(うかが)った時には勝手ながら親近感を抱いたのです。生憎(あいにく)というか当然というか、目指す学校はまったく異なりましたが。

 

 バス停までの道程(みちのり)は、とても短く感じられました。でもそれまでで一番、濃い時間でした。

 バス停が見えた時、とても落胆したことを覚えています。

 

 私の勇気には限界がありました。でも甲斐はありました。最後の最後で、貴方が私の期待に応えてくださったのですから。

 

「あの、よろしければ連絡先を教えていただけますか」

 

 あっけにとられる私に――それは嬉しさからだったのですが――貴方は言い訳するように付け加えましたね。

 

「統合のことで相談することもあると思いますから」

 

 貴方の、はにかむような笑顔が私の胸を射抜きました。ラブアローシュートです。

 

 すみません、取り乱しました。ああもう、鉛筆で書いていれば消せましたのに。

 

 その笑顔はいつかお店の前で見せてくれたそれと、同じでした。私は思い出しました。あの時の衝撃を。そしてそれはこの時、温かさに変わって、私の胸を満たしたのです。

 

「ええ、その、メールアドレスでよろしいですか。私、メッセージアプリは(たしな)んでおりませんので」

 

 私の声、うわずっていたと思います。でも貴方は至極(しごく)真面目な表情で頷かれました。

 

 そうして私の携帯電話の中に、貴方の名前が記憶されることになったのです。

 

        ・

 

 ちょうど今、鞠莉さんからメールが届きました。内容は省略させていただきます。でもそれは、私の背中を押してくれるような内容でした。

 

 私、これからもう一通、手紙を書こうと思います。

 お笑いになるでしょうね。メールアドレスを教えていただいたのに、わざわざ手紙を書くのですから。

 でも私にはそれが相応(ふさわ)しいような気がするのです。少し不器用なくらいの、それが。

 

 そしてその手紙を書いてから、私はラブライブの決勝に集中するつもりです。貴方からの返事が届くのは、ライブの後になるでしょう。ちょうどいいタイミングです。

 

 こうしている(あいだ)にも指が震えてまいりました。ライブの時と同様に、どうかこの緊張が良い方向に働いて、私の力を発揮してくれますように。

 

 貴方に、読まれない手紙を書くのも、これが最後かと思います。

 寒さ厳しき折、くれぐれもお体には気をつけてお過ごしください。

 

敬具

 

 

 

 

 

 

 

【1】

 

拝啓

 

 星も凍るような寒い夜が続いております。お元気でいらっしゃいますか。

 

 突然このような手紙を差し上げる失礼をお許しください。

 

 貴方には半年以上に渡って統合に関する話し合いにお付き合いいただき、本当に感謝しております。おかげで浦の星女学院の伝統も無事に守られたかと思います。ありがとうございました。

 

 ただ、今回は統合に関するお礼の手紙ではございません。

 

 貴方もお気付きになっているでしょう。私、たいへん不器用なのです。ですから単刀直入に申し上げます。

 

 いつからでしょうか、私は貴方のことが気になって仕方ないのです。

 貴方の言葉の端々(はしばし)に、もしかしたらと期待を抱いてしまうのです。

 貴方の笑顔が私の胸を揺さぶるのです。

 

 貴方のことをお慕いしております。

 

 これを読まれた貴方は戸惑われることでしょう。私を馬鹿にするかもしれません。しかし私は、書かずにはいられませんでした。

 

 もし貴方にお気持ちがないのなら、笑って捨ててください。

 でももし、私の想いに応えてくださるのでしたら――お返事をお待ちしております。

 

 雪の舞うこの頃ですが、お風邪など召されませんよう、くれぐれもご自愛ください。

 

敬具

 







最後までお読みいただき、ありがとうございました。書き終えての所感は活動報告に記させていただきます。
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