当然、この世界では生きようとしなければ生きていけない。時には惰性で生きることもあるが、それでも人生にまったく価値を見いだせない人間は、生きているべきではない。
であれば、自分は生きているべきではない。
熱情もなく、故に興味はなく、目の前のことだけに意識を向ける。
それがぼくという人間であった。ただ淡々と生きていくだけの命だった。それだけがぼくだった。
生まれたときからこういう性分であった。例えば、かつて友人に唆された高所から飛び降りる度胸試しでは躊躇なく飛んで腕の骨を折った。あのころは親にこっぴどく怒られたことを覚えている。
小学生の時分である。けれども、鮮明に憶えている───なぜならそれが、ぼくの人生にとっての特別だったのだから。人として間違っていようと、それでも、決してぼくの人生は波乱ではない。むしろそれとは程遠く、淡々と進む人生だった。
故に、これはきっとぼくの人生の中でも五指に入るほどの特別な記憶なのだろう。
「───好きです! 付き合ってください!」
そう、ぼくに向かって述べたのは、ぼくの友人であった。
友人だったのだ。
これほど驚いたことはない、というほど驚いた。答えは保留にしておいた。ぼくはそのまま家に帰って、いつもどおりの毎日に戻ろうとした。
それができるほど器用なら、特に苦しんでもいなかっただろうが。
洗濯物を取り込みつつ、ぼくは考える。
無気力というわけではない。ただ、淡々としているだけ。無駄を無駄と切り捨てられる性格なだけだ。そしてぼくにとって、世界のすべては無駄であるようにしか映らない。
だからこそ、ぼくはきっと切り捨てるべきなのだ。なにを? 当然、それを。
友達を。そう頭に思い描いたとき、ぼくはどことなく心にもやがかかったような気分を覚える。まるで他人事のような説明であるが、それも仕方ない。まるで、ぼくの感情ではないように、そんな気がしたのだ。
ぼくはケータイを手にとった。
そして、そのケータイで連絡を入れた。告白を拒否する。送信ボタンを押す指は、わずかに躊躇を覚えていた。けれどそんな煩悶はすぐに潰える。ぼくは憂いを断ち切るつもりで、送信ボタンを押した。
そしてそのまま、買い物に出かけることにした。ぼくの家には、両親はいない。はて、なぜだっただろうか。覚えていない。覚えていないが……なにか、大切な理由だったような気がする。
買い物を済ませた。
なにかを忘れている気がしたのは、買い物の最中からだった───思い出そうとすると、頭痛を覚える。だから、忘れているなら大切な記憶ではないのだろうと、ぼくは思い出すことを諦める。
そして帰宅した。
リビングで、友達は死んでいた。
ぼくはわずかに固まって、そして死体に手を触れた。
そんなつもりではなくても、口から言葉が溢れる。
「君は、ぼく……?」
解説
主人公は転生者であり、主人公に告白した友達は主人公の前世である。