我が儘に絶景を   作:泥の魅夜行

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怨恨ー綾辻絢瀬ー

 陽が落ち始めていた。空には雲は無く月と星が輝き、地上は文明の光で照らされている。

 街の一角、何処にでもある安さを売りにしている居酒屋。

 その店の内部、カウンターに二人の青年が座り飲食をしていた。

 

「だからさ王馬、俺の価値観ってどうな訳よ?」

 

「自分良ければ全て良し以外にあるのか?」

 

「うっわ!! ひっでぇ!! 事実だとしても面と向かって言う? 普通さー」

 

 笑う。彼を知る者が居たなら別人と思う程に生き生きとして、表情をコロコロ変えている。

 現・『七星剣王』、石神円也。

 それに対して表情を変えず、酒を飲みながら返すのは、王馬と呼ばれた和服の男。

 五年前、騎士連盟主催U-12世界大会を制した、黒鉄王馬本人である。

 七星剣王とかつてのリトルリーグ世界大会の勝者の二人。無論世間に顔が出回っている筈であるが、

 

「すいませーん。焼き鳥追加の三十本」

 

「酒を追加だ」

 

 片やよく食べる客、片やそれに付き合う不愛想な客と周囲の視線は、彼らを有名人として気づいている反応は無い。

 

「しかし、何をした? 周囲が俺達に騒がないのは有難いが」

 

「ん? ああ、こうやって認識ずらしと、死角に潜り込む技の複合で記憶に残りにくくしてるだけ。勿論、王馬にも掛けてるよ」

 

 こうこうと、身振り手振りで説明しているが、王馬には意味の解らない動きでしか無かったような表情をした。

 

「……一時間以上、馬鹿話をしながら続けていたのか?」

 

「まーね。久しぶりの王馬とのお喋りなんだよ? 周囲が五月蠅いと楽しくないし」

 

「そうか……」

 

「うん」

 

 会話が途切れ互いに視線を躱す。

 

「お前は何時だと思う? 俺は今にでも始めたいくらいだ」 

 

「そうだね。予想だと七星剣武祭の途中くらいかな? まあ、お互い初めてだしその日になるまでは確証は無いけどね……楽しみだよ、王馬との、己の宿敵との真剣勝負」

 

 確実に冬までには来るだろう。その時、円也は願いを成就させてみせる。

 

「やっぱり王馬と本当に会えて良かった。世界に絶望した割には希望ってあるもんだね」

 

「呑んでも無いのに酔ったか? だが、そうだな。お前に会えた事、それは」

 

 悪くないと小さく紡ぎ、王馬の口角が僅かに上がっていた。

 

「そうそう、そういや新技出来たんだよ。最終奥義って言うか、辿り着く場所への切符って言うかさ。まだ使えてないんだよね。模擬戦で使えば教師が五月蠅そうだし、邪魔されそうだし。俺が選抜戦に出てるのってそれを使って使用感を確かめる為なんだよ。鍛錬に使えるけど、実戦だと使ってみないと欠点も分からない。改良も出来やしない」

 

 まだ使えていない。既に学園での七星剣武祭への出場権を掛けた選抜戦。円也の対戦相手は悉くが棄権しているからだ。

対戦相手は円也の強さ、そして容赦の無さを三年間を通して知っている。だからこそ、誰もが戦いたくない。そしてある種の諦観を得ている。誰がどんなに凄くとも結局円也には勝てない、と。

 故に、石神円也は代表選抜戦の十戦全てを棄権による勝利で積み重ねていた。

 

「不憫だな。学生達も頂点がこれとは」

 

「自分良ければ全て良し、だからね」

 

 自信満々に返す。話題は次へと移り夜は更けていく。

 

 

 黒鉄一輝の周りはこの一ヶ月でかなり変化を遂げていた。『狩人』である桐原静矢を倒し、Fランクでありながらも、その強さを以て優れた異能を持つ騎士達を次々と倒すその姿を戸惑いながらも受け入れていた。

 無敗の九連勝。一輝は順調に実力で周囲を認めさせている。

 その中で一輝は今ある女性を指導していた。彼女の名は綾辻絢瀬。一週間ほど一輝をつけ回してストーカー行動をしていた。彼女はかつて『最後の侍(ラストサムライ)』と言われた非伐刀者の剣士、綾辻海斗の娘である。

 稀代の天才剣士であり、全盛期には数多の異能犯罪の鎮圧を成し遂げた逸話を持つ疑う余地の無い実力者だ。

 だが、非伐刀者でありながら強すぎる事が『魔導騎士』の不興を買ってしまい騎士の世界ではその名を知る者は少ない。

 そして、綾辻海斗は現在、試合中の事故で入院していると絢瀬の口から語られ、一人『綾辻一刀流』の修行をしているが、伸び悩んでいた。

 剣術を修める一輝の噂を聞いて、話し掛けようとしたが父を除いて話したことがある男性が子供の頃からいた門下生程度、他人である一輝に話し掛ける事が出来ずにその後一週間つけ回すと言う傍から見ればストーカー行為と言われても否定できない情けない状況であった。

 そんな絢瀬に呆れつつも彼女と彼女の父である綾辻海斗の使う、『綾辻一刀流』に興味を持った一輝は彼女の指導を請け負った。

 修行をしつつ、彼女の剣を観察しその伸び悩みの原因を突き止めた。

 性別の差による骨格、筋肉の違い。それにより発揮できる動きは違う。男性にとって最適な動きが、必ずしも女性にとって最適とは限らないのだ。だから、一輝は選択肢を絢瀬に与える。

 矯正を行うか否かを。矯正をすれば動きは劇的に変化を遂げる。だからこそ、父の剣である今の動きを窮屈に感じてしまい元に戻す事は出来ない、と。だが、彼女は葛藤しながらも強い決意を灯し、その矯正を願った。

 矯正自体、本人達は至って真面目であり真剣であったのだが、傍から見れば色々と誤解を招く行為であったので、矯正の途中で、散歩していた桐原が二度見して「おぉう……」と呟き軽く空を仰いだのは仕方ない事であったのかも知れない。

 その後、矯正は成功し絢瀬は見違える動きをして見せた。だが、喜ぶ彼女の隣で、彼の恋人であるステラが不機嫌になっていく。皇女である彼女もまだ十六、元服したとはいえ男女の間の感情に振り回されてしまうのも仕方のない事だった。原因である一輝が彼女の乙女心の機微を捉えきれていないのも多少は問題はあるかも知れないとしても。

 そして、疲労が蓄積し始めた頃、代表選抜戦で十勝目を上げた一輝は身体を休ませながらも出来る修行を行う為にプールへと足を運んだ。

 水に潜り浮かぶ。肺活量を鍛えながらも水の中で静かに己と向き合うと言う修行を行い、一輝とステラの恋路に進展があり、彼らは夕暮れにファミレスで食事を取っていた。

 

「おう……手前、綾瀬じゃねぇか」

 

 一輝が座る席の背後からドスの利いた声が絢瀬の名を呼んだ。

 絢瀬の表情が強張り、その眼に宿るのは憎悪と殺意。

 視線の先に居たのは身長百八十を超える長身の男。染めた髪にサングラス越しでも分かる猛獣の如き三白眼。

 何より特筆するのは、着崩した臙脂色と肌蹴た胸元から見える斬り刻まれた嗤う髑髏の刺青と肉体に走る裂傷の数だ。

 顔に、体に、手に、恐らく足にも付けられているであろう傷。全身を斬り刻まれたとしか思えないその姿に一輝も驚いた。

 店に入った時に見えていた禁煙席であるにも関わらず煙草を蒸かして騒いでいた集団の一人だ。傷は後姿だったので見ることが出来なかったが、真正面から見るとその姿は一輝の想像を超えていた。彼から感じる魔力を考えれば伐刀者である事は理解出来た。だが、このご時世、IPS再生槽に入れば大概の傷は回復できる。この男の様に全身に傷が残っているのは、何か理由があるのだろう。

 

「来ねえと思ったら、こんな所で会うとはな。……その目はまだ諦めちゃいねぇか」

 

 彼の背後から彼と一緒に居たアウトローの風体の男女が十人、一輝達のテーブルを囲む。

 

「あれ~? 絢瀬チャンじゃん。おひさ~」

 

「無視かよ? 傷付くんだけど~」

 

 ふざけた口調で絢瀬を囲む。絢瀬自身は顔を上げる事無く俯くだけ。

 囲んでいた一人が絢瀬に触れようとしたのを見て一輝は動いた。

 

「やめてくれないか? 彼女が嫌がっている」

 

「ああん? 何だ手前!!」

 

 胸ぐらを掴まれるが手を出す気はない。目の前のチンピラは下っ端。この中で相手にするのは唯一人、傷だらけの男だ。

 

「……おい、手を放してやれ」

 

「ああ? クラウ……」

 

 膨れ上がる殺気は一輝では無く、一輝を掴む傷の男の連れ。

……仲間にここまでの殺気を放つのか普通?

 胸ぐらを掴む手が震え、彼は一輝から手を離す。

 

「それでいい。俺の機嫌を損ねるなんて馬鹿な真似をしねえと信じてたぜ」

 

「あぁ……あ、当たり前だろ」

 

「わりぃな、ツレが粗相した。しかし何だ。こんな所で剣客と出会うたぁな。そっちの赤髪の女も相当だな」

 

 一輝とステラの二人を傷の男は交互に見た。

 

「経験値としちゃあ良いなぇ……そそるぜ」 

 

 ドカリ、と他の客が居るテーブルに座り、傷の男は当たり前の様に『固有霊装』を顕現させた。

……臙脂色の制服に固有霊装、貪狼学園か。

 破軍学園と同じ東京にある騎士学校『貪狼学園』の生徒でまず、間違いないだろう。

 傷の男の固有霊装は骨と鋸が融合したかの様な野太刀。男が二人に向ける闘志は既に臨界点まで高まっていた。

 

「やろうぜ? 俺は強くならなくちゃいけねぇんだ」

 

「断る」

 

 間髪入れず否定した一輝にグラサン越しに僅かに目を見開いた。

 

「あぁ?」

 

 この場で固有霊装を取り出し決闘をしようものなら、停学か退学か。どちらにしろ碌な結果にならない。

 

「……そうかい、そりゃつまんねぇな」

 

 テーブルに置いてあるコップを徐に掴み傷の男は握り絞めた。

 一輝はその卓越した観察眼で動きを見た。

 男はその握力で砕けたコップの破片を指で弾いたのだ。しかも、狙いは一輝やステラでは無く絢瀬。

 

「くぁ……ッ!!」

 

 一輝が手を伸ばし破片が腕に刺さる事で絢瀬への攻撃を防ぐことは出来た。

 

「イッキ!! こンのォアンタらぁ!!」

 

「待つんだステラ!!」

 

 魔力が溢れるステラに一輝は制止を求め、彼女の腕を掴む。

 

「破片が偶然飛んだだけだ。そう、偶然だ」

 

 周囲の喧騒が止まり、次の瞬間、傷の男の取り巻き達が笑い出す。

 

「「あっはははは!!」」

 

「怪我して痛いのかァ!! なー腰抜け」

 

「そんなにクラウドと戦いたくないからって、やだダサーい」

 

 嘲笑されるが一輝はそれらを無視した。一番の懸念事項はクラウドと呼ばれた男の動向。

 戦う意思の無い腰抜けを演じれば戦意は削げる筈だが、それでもお構い無しに仕掛けられたら今度こそ固有霊装を顕現させなければならない。

 

「まあ、それくらいにしないかい? 二人共」

 

 その声は突如現れた。

 一輝とステラの間。先程まで食事を取っていたテーブルに腰掛ける一人の破軍学園の制服を纏った小さな少年。

 

「やあ、貪狼学園エース『剣士殺し(ソードイーター)』倉敷蔵人君」

 

「誰だ手前」

 

「破軍学園生徒会副会長・御禊泡沫。以後よろしく。さて、これ以上うちの後輩を苛めるのは止めてくれないかな? 止めないならネットで君の悪名をもっと下劣かつ下等なモノに落とし込まなければならない。それこそ七星剣武祭に出られなくなる程に、ネ☆ 品位は大事だよ、そう思わんかね?」

 

「んだと、テメエ!! いきなり出て来て訳解んねぇこと言ってんじゃ……」

 

「無論、君達取り巻きの事も知っている。さて、学校は何処まで擁護してくれるかな? 普段の素行でたとえ冤罪であろうとも世間は信じるだろう。実益をもたらしてくれるエースは兎も角、成績も実力も無い。吠えるだけの馬鹿共を何処まで庇うだろうか? なあ、黒見健吾君?」

 

 取り巻きの一人の名前なのだろう。泡沫に吠えた不良があからさまに動揺した。

 

「まあ、去年うちの化物にズタボロのゴミ袋にされた貪狼のエースに価値があるかは知らないけどね☆」

 

 その泡沫の言葉に傷の男、蔵人が爆発的な殺気を撒き散らしたが直ぐに消す。

 

「……戦わねぇ、理詰め野郎か。不愉快だがそれ以上に興冷めだ」

 

 立ち上がり出口へと蔵人が向かう。

 

「お、おい待てよ。蔵人」

 

 外へ出ようとする蔵人に気が付き、取り巻き達が彼を追いかける。

 

「いやぁー、大丈夫だった? 可愛い後輩たちよ。あ、一人は同級生か」

 

「え、ええ、ありがとうございます」

 

「気にしない気にしない。偶々困った後輩を見つけただけだから気にしない。いやーしかし狂犬で有名な倉敷蔵人に絡まれるなんて運が無いねぇ」

 

 そう言って泡沫は一輝の怪我をした腕を掴み傷口を軽く撫でた。

 

「傷が!?」

 

 驚愕に目を見開いた。珠雫ですら治療にはもう少し時間がかかるだろう。だが、手を触れてなぞるだけの動作。

 僅か一秒にも満たない時間で傷そのものが消えた。

……治癒じゃない。

 御禊泡沫、二つ名は『観測不能(フィフティ/フィフティ)』。その不明瞭さに驚愕する一輝に彼は微笑んだ。

 

 

「治してあげたよ。おまじないと言うか、僕の能力だけど」

 

ドヤ顔で答えテーブルから泡沫は降りた。

 

「しかし、君で良かったよ。黒鉄君。これがあの人外馬鹿だったら問答無用の殺し合いだろうねー……ま、そんな事は有り得ないけど。だって、アイツ朝から姿見えないし」

 

 そう言って、その表情のまま泡沫が止まった。

 何事かと、彼の視線を辿ってみれば蔵人とその背後には彼の取り巻きが居て、入口で止まっていた。

 彼らの前に居る人物、あ、とステラが声を上げる。

 

「エンヤさんだ」

 

 

 入り口は気温が急激に冷え込んでいるかのような冷たさと静寂が生み出されていた。

 それらは全て倉敷蔵人より発される。彼らの取り巻きは先程、一輝達に絡んでいた時とは違い、怯え震えて固まるしか出来ない。

 

「……? あのー店員さんですか? 一名なんですけど。あ、禁煙席で」

 

 その空気をぶち壊す様に円也は蔵人にこの場において完全な見当違いの質問をぶつけて来た。

 気温が更に下がったような雰囲気を取り巻きが感じ、蔵人が爆発する。

 

「はっはははははははははははははははァアアアァアアア――――――――!!!!!!」

 

 笑いと雄叫びが一つになったかのような声が店内に響く。

 怒り、憎悪に歓喜を混ぜたが如き、咆哮の後、蔵人は笑う。

 

「久しぶりだなぁ!! 石神円也ァアアアァアアア!!」

 

 固有霊装を顕現させて斬り掛かる蔵人に対して円也は首を傾げて問うた。

 

「最近の店員さんって物騒過ぎない? 何? 対強盗強化月間?」

 

「死ねやァアアアァアアア――――――ッッッ!!!!」

 

 野太刀が円也の脳天に振り下ろされ、それを半身で避けて後方へ。ファミレスのガラスの扉を割りながら外へと跳躍した。

 破壊された入り口から骨の刀身が蛇の如く唸り、円也を追う。

 蔵人の獲物に距離など意味が無い、持ち主の意思の儘に伸びて、曲がり襲い掛かる。その風切る唸り声は持ち主の殺意を刀身に乗せたが如く凶悪に殺せと叫ぶ。

 飛来する刀身を円也は避ける。蛇の如き動きを見せる変幻自在の刀身の動きを認識してから避けている。

 故に、回避行動は最小限に伸びる刀身の先端を掴み動きを止めた。

 

「店員に襲われるのは人生初めてだ」

 

 どうしたものか、と考えていると背後から近づく良く知る気配が一つ。

 そのまま円也に抱き付いた。

 

「円也君、それくらいにして帰りますよ。付き合う義理もありませんし」

 

「カナタ?」

 

 問いに頷いたカナタの顔が肩に乗る。

 

「馬鹿人外!! カナタ抱っこして学園に帰れ!!」

 

 ファミレスから飛んで来た泡沫の声に反応して円也は予備動作無しに跳躍した。

 跳躍距離は優に百を超え、ビルの上へと向かって跳んで行く。

 重力に逆らい空を跳ぶ中で、カナタを抱っこして近くのビルの屋上へ着地すると、再び空へと身を投げる。

 

「ファミレスって最近あんな店員ばっか?」

 

「円也君、彼は貪狼学園の倉敷蔵人です。覚えてません? 去年の七星剣武祭で戦ってますよ」

 

 カナタの答えに円也はビルとビルの間を跳びながら、特に考えること無く、

 

「覚えてないなぁ。特に覚える必要のある人間も居なかったし」

 

 

「石神ィ石神ィ……ッ! 何処だ……何処だぁあああぁぁぁ――――!!!!!!」

 

 消えた? 何処だ? 手前は何処に居る。

 走る。繁華街のライトが照らす街を殺意を撒き散らしながら蔵人は駆け抜ける。進路を塞ぐ人を突き飛ばし唯人ひたすらに円也を追う。

 

「俺は此処だ!! 出て来やがれ!! 逃げんじゃねぇ戦え!!」

 

 お前の敵は此処に居る!!!! その咆哮は繁華街が照らす夜の中に虚しく消えて行った。

 

 

「最っ悪のタイミングで来るんじゃねぇよ。あの人外、人でなしがぁ……」

 

 膝を曲げて頭を垂れてドスの利いた声を出しながら全身から負のオーラを垂れ流す泡沫の姿はつい先程、ドヤ顔だった彼とは思えないほど変わり果てている。

 

「えっと、絢瀬さん。かなり大事になったけど、あの柄の悪い連中と何かあったの?」

 

 先程、連中へ向けた憎悪と殺意は普通では無い。和やかとはかけ離れた関係性であるのはまず間違いが無い。

 

「僕達に何か力になれる事は無いかな?」

 

 それは純粋な好意。友人としての言葉。

 その言葉に躊躇い口を開こうとした絢瀬と一輝に電子音が届く。

 生徒手帳から聴こえるそれは、一つしか思い付かなかった。

 送信者の名前は――――『選抜戦実行委員会』

 対戦相手の名前は、一輝の知らない名前だった。学年は二年。

 生徒手帳を仕舞い、顔を上げた一輝の眼に飛び込んできたには、蒼白どころか土色に変化した絢瀬。

 

「絢瀬さん?」

 

「……嘘だ」

 

 ステラが声を掛けるが、その声を絢瀬は無視してフラフラとまるで幽鬼のよう店から出て行ってしまった。ポケットへの入れ方が甘かったのだろう、生徒手帳を落とした事にも気が付かずに。

 一輝はそれを拾った。スリープモードにはならず電源はまだ付いている。

 絢瀬にも同じく『選抜戦実行員会』から連絡が来ていたのだ。

 

「イッキどうしたの?」

 

 内容を確認して、無言のままステラへ見せた。

 

『綾辻絢瀬様の選抜戦第十一試合の相手は、三年三組・石神円也様に決定しました』

 




絢瀬さん難易度ルナティック突入(なお、本人の意思では無い
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