我が儘に絶景を   作:泥の魅夜行

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留学ーステラ・ヴァーリミオンー

 ステラ・ヴァーリミオン第二皇女の留学。日本の報道関係が飛びつかない筈もなく。空港では大量の取材陣が彼女の入国を待ちわびていた。

 飛行機が到着し入国ゲートからステラ・ヴァーリミオンが出ると同時にフラッシュの嵐。

 その中を彼女は表情一つ変える事無く進んでいた。燃え盛る炎を体現したかのようなウェーブの掛かった紅色の髪と、その髪に相応しい顔立ちが、日本の取材陣を魅了した。

……迎えが来てる筈だけど?

 日本人は真面目と聞いているので、既に近くにいる筈なのだがそれらしい姿が見えない。

 適当に歩こうにも周囲の取材陣が邪魔だ。連絡を入れようかと、考えていると俄かに周囲が騒がしくなる。

 何事かとステラも周囲の視線の先には、空港の入り口から入って来た男女二人が居た。

 

「あ」

 

 ステラが入学する破軍学園の制服の男女。その内、男の方をステラは知っている。

 破軍学園校内序列一位、日本の学生で二人しか居ないAランク。『白い災害』石神円也。

……何か特徴無いわね。

 顔は悪くは無い。だが、突出した特徴が無い。しいて言うなら隣にいる女生徒を引き立てている事だろうか。

 

「ステラ・ヴァーリミオンさん。初めまして、破軍学園を代表してお迎えに上がりました。破軍学園生徒会長の東堂刀華です。此方は学園までの護衛を務めます、石神円也君です」

 

「どうぞよろしく」

 

 ぺこりと下げられる頭。強者特有の覇気も感じない。

 ……大丈夫かしら? でも、万が一は私が何とかすればいいか。

 不安を残しつつも、刀華と握手を交わしいつの間にか周囲を囲む取材陣の中を通り、車へ乗り込んだ。

 

            

 

 

 護衛は終わった。車で移動中も問題なく、学園に着いた。変わった所は、刀華とステラが仲良くなった事だ。

 ステラも割り当てられた部屋に行き、円也も学園長に報酬の約束を果たして貰おうと行こうとしたが、両肩を刀華に掴まれ正座させられた。朝の件をまだ根に持っていたようだ。

 説教から解放され、途中で悲鳴が聞こえたが無視して、缶コーヒーで一服した後、理事長室に辿り着ついた。

 

「あら、エンヤさんも理事長室に用なの?」

 

 扉を開けようとしたら、ステラに声を掛けられた。

 

「……護衛の報酬貰いに来たんだよ。君は?」

 

 すると、ステラの顔が紅潮し照れた表情を見せ、続いて怒りに震える紅潮を見せた。

 

「変態の処罰をしに来たの」

 

「はぁ」

 

 留学一日目にして、変態の被害に遭うとはやはり、皇女ともなると違うな、と意味の解らない関心をしつつ、扉を開けた。

 

「報酬下さい」

 

 ドアを開け放ち、開口一番に要求を簡潔に述べた。

 

「……石神、もう少し順序をだな」

 

 呆れた表情で、理事長である黒乃がため息と一緒に煙草の煙を吐く。

 部屋には黒乃以外にもう一人の男子生徒が居た。

 背後で、怒気が高まったのを円也は感じた。

 状況から察するに、この男がステラの言う変態だろうか。

 そこまで考えて、興味を失った。当事者でも無い以上どうでもいい事だ。そんな事より、報酬を貰おう。理事長の机の前に立ち手を出す。

 

「理事長報酬くれ」

 

「本当に素直だな。後ろのは気にならんのか? 因みに、後ろの男子生徒は、黒鉄一輝。Fランクで二つ名が『落第騎士(ワーストワン)』色々あって留年中だ」

 

「黒鉄……ね」

 

 円也が肩越しに二人を見たが直ぐに顔を黒乃へ戻した。

 後ろでハラキリと言う単語が聞こえ、そこから男女の声が大きくなっていく。話が縺れ始めたようだ。

 

「報酬プリーズ」

 

「初対面の敬語は猫被ってたのか、石神?」

 

 背後で魔力が感じられた。そして、熱くなった。

 

「博きなさい! 『妃竜の罪剣(レーヴァテイン)!』」

 

「ほう、それがヴァーリミオンの固有霊装(デバイス)か」

 

肩越しに理事長がステラの固有霊装に興味を向けた。

固有霊装の無断使用は校則違反だったはずだが、変わったのだろうか、と疑問を抱くが目の前の理事長が止めてない以上良いのだろう。

 

 固有霊装(デバイス)。伐刀者の魂の具現化した武具の事であり、伐刀者によって様々な形を持つ。

 これを媒体とすることで伐刀者は己の異能の力『伐刀絶技(ノウブルアーツ)』を行使する。

 

「彼女の力量は十年に一人の逸材だ。御愁傷様だな、黒鉄」

 

「報酬」

 

「分かった、約束は果たす。今後、私の方から先生方に報告しておくよ」

 

「ありがとうございます。では、失礼します」

 

「石神先輩出来るなら助力をーーーー!? 来てくれ『陰鉄』!!」

 

 金属音。室内で戦い始めた様だ。炎を纏った剣で変態に襲い掛かり、一輝がそれを自分の固有霊装で受け止めている。

 

「熱ッ!?」

 

「当然でしょう? 私の伐刀絶技は『妃竜の息吹(ドラゴンブレス)』の温度は摂氏三千度よ!! 防いでもその威光は敵を焼き尽くす! この狭い部屋で逃げられると思う事が間違いよ!!」

 

鍔迫り合いは一輝が下がる事で終わるが、そこで止めるステラではない。追撃の袈裟斬りを放つ。当たれば斬られて肉が焼き焦げる事は避けられない。

 

「邪魔」

 

 ステラが振り下ろし掛けた『妃竜の罪剣』の刀身を円也が右手で掴んだ。皮膚が焦げる音が部屋に響く。当の本人は気にする事無く、表情一つ変えずに空いた空間を潜り抜けて退室した。

 

             

 

「え?」

 

 扉の締まる音。部屋の中に沈黙が広がる。

 茫然と扉を見る、ステラと一輝。黒乃は眉を潜めながらも何処か納得した表情だ。

 

「え? ちょっと……何今の? 焦げてたわよ!? 確実に皮膚が焼け焦げてる!!」

 

 自分の炎の威力は自分が良く知っている。黒鉄一輝を蒸発させるつもりで使った炎は受ければただでは済まない。

 今回の件に全くの無関係の相手を巻き込んだ事実と、目の前で起こった異常に軽くパニックを起こし掛けているステラに、

 

「放って置け」

 

 追い掛けようとした彼女を黒乃が止める。

 

「何でですか!? エンヤさんの怪我を治さないと!!」

 

「石神円也の伐刀絶技『心神』。能力は身体機能の超強化。あの程度ならもう治っているさ」

 

「大丈夫って事なんですよね?」

 

「ああ、入学試験で能力を見せる為に腹をかっさばいた男だ」

 

「えぇ……」

 

 黒乃の肯定にステラのパニックは落ち着ついたが、代わりに引いた。

 

「いや、しょうがないよ、ステラさん。石神先輩は破軍一のよく分からない人だから」

 

「そうね……って、アンタはまだ許してないわよ!!」

 

 再び燃え上がるステラの怒り。その後、黒乃が二人に事情を説明し、勝った方が部屋のルールを決める事にする模擬戦を始める事となった。

 その際、負けた方が勝った方に一生服従とその場の勢いで決めたような条件が追加されたが互いが納得しているので黒乃は特に口を出す事はしない。

 

             ♦

 

 先に退出したのはステラ。一輝が理事長室に残り、崩れ落ちる。

 

「大変な事になっちゃったなぁ」

 

「だが、負ける気は無い。だろう」

 

「ええ、七星剣王になるには何時かは戦わなきゃいけない相手ですから」

 

 それに、

 

「あの石神先輩に勝って七星剣王になるんです。此処で躓く訳にはいきませんよ」

 

 自らの無謀な夢、その道にある壁は高く厚い。だが、それでも、黒鉄一輝に諦める選択肢は無いのだから。

 

             

 

「……」

 

 一輝も部屋を出た。黒乃も直ぐに二人が決闘する第三闘技場に行かなければならないが、一つ思考をしていた。

 

「身体機能の超強化」

 

……本当にそうなのか? 

 円也の能力と彼の闘いを見直してみると、幾つか腑に落ちない点が出てくる。

 

「何を考えているんだ。石神円也」

 

 今まで色んな人間を見て来たが、あれほど訳の分からない目は知らない。

虚無と激情。矛盾した二つが重なり合っている。そして、その二つを持ちながら日常に溶け込んでいる。深く観察しなければ、無頓着気質の学生にしか見えない。

 

「教師として彼を良き方向へと進ませてやれれば良いのだがな……」

 

吐いた紫煙が空に溶ける。何時も見る紫煙が、今はなんとなしに嫌に感じる。煙は掴む事は出来ない。消える物だ。石神円也もそうだと、そんな考えが頭を過り、煙草を灰皿に押し付けた。

 

            

 

……熱。

焦げた掌、溶けた皮膚。露出した骨。重症の右手の開閉を繰り返す。予想してたより熱かったので、魔力を纏わせておけばと反省する。

ステラの実力の一部を見たが、相対するなら良い経験値が得られる筈だ。同じAランクなのだ、せめてそれくらいはできて欲しい。戦闘スタイルは異能に主を置くタイプか、技能に主を置くタイプか。とはいえ、

 

「縁は薄いかな」

 

恐らく戦う機会自体は少ない。ただの直感でしかないが外れた事は無い。

 

「そして黒鉄。よし、見学してみよう」

 

円也は第三闘技場に足を向けた。掌の火傷はもう跡形も無く消えている。




次回、戦闘。頑張りますよー。
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