我が儘に絶景を   作:泥の魅夜行

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試合ー黒鉄一輝ー

 伐刀者は伐刀者専門の学校を卒業した者のみに『魔導騎士』としての地位と『免許』が与えられて、その力を世のため人のためにと堂々と行使できる。

 学園にいる間は、模擬戦と言った教師の許可が下りればその力を使用可能だ。破軍学園にはいくつものドーム状の闘技場が点在しており、内部の戦闘フィールドは直径百メートル。それを囲むようにすり鉢状の観客席が用意されている。

 現在、第三フィールドの中心に二人、黒鉄一輝(くろがねいっき)とステラ・ヴァーリミオンが向かい合っていた。

レフェリーである、黒乃を挟み距離は二十メートル。

 春休みと言えど、魔道騎士を目指す学校だ。訓練をしている学生や、留学して来た期待の新人の噂を聞きつけ集まった人数は二十人強。

 

「あれがステラ・ヴァーリミオンか。美人だな」

 

「そんでこの学園二人目のAランク。……まともだよな?」

 

「もう一人はあれだしな」

 

 うんうん、と四人程のグループが一斉に頷いた。

 

「で、相手の方は誰だ? 知らん顔だが」

 

「あれ……留年した黒鉄じゃねぇか。何してんだあいつ」

 

「黒鉄? 誰? 私知らないけど」

 

「授業の実戦教科を受講する能力基準値足りないからって、実践やったこと無いんじゃなかったっけ?」

 

「何ソレ? じゃあ、この試合お姫様の勝ちって事じゃない」

 

「そうかな」

 

 その声に集まっていた数人が振り向いた。その顔には若干の動揺と困惑。

 一人が代表として円也に話し掛けた。

 

「え……っと石神先輩? 何故、こんな所に」

 

「試合を見に来ただけだよ? 驚かせてごめんね」

 

「い、いえ。あ、あの……先輩はあっちの留年した彼が勝つと?」

 

「そうは言ってないよ。ただ、勝算無しに向こうの彼女と戦う程、追い込められた表情してないし、心音も至って正常だ」

 

 お前この距離から人の心音聞こえるのかよ。ここに居る誰もがツッコみたかったが、相手が相手なので喉まで来て止める。

 得体のしれない怪物。この学園に二度の七星剣武祭優勝をもたらした石神円也の周囲の評価だ。

 強い。それはもう圧倒的だ。二度の七星剣武祭で『白い災害』と言われる程に暴れ尽くした生徒。

 だが考えている事が分からない。人間である以上、他人の心なんてモノは分からない。けど、良い奴、嫌な奴と言うのは態度や普段の性格に出る。

 石神円也は、特徴が無い。表情の変化が乏しく、軽く微笑む顔がデフォルトな男だ。

 偶に授業に顔を出し、特に発言も無く、終われば何処かへ消える。昼にはご飯を食べ、何処かに消える。

 夕暮れには、ひたすら鍛錬と人との関わりが殆ど無い。そのせいで、石神円也がどんな人間なのか、同学年でも知る者は非常に少ない。幽霊、ボッチ、言い方は色々あるが結局彼の人柄を知ることは出来ない。

 唯一刀華に説教を受けている姿が彼の人間らしい姿と言われるほどだ。

 

「霊装が展開されたね。試合が始まるよ」

 

試合よりも彼に注目していた者達も、円也の言葉に振り返る。

 

「これより模擬戦を始める。双方、固有霊装を『幻想形態』で展開しろ」

 

 二人がその手に霊装を顕現させた。

 『幻想形態』は物理的なダメージを与えず、直接体力を削り取ると言う、固有霊装の形態だ。

 

「普通に斬り合えばいいのに」

 

 背後から聞こえた円也の言葉を誰も聞かなかった事にした。

 

「LET’S GO AHEAD!!」

 

黒乃の合図と共に試合が始まった。

 

 先手はステラ。開始と同時に接近。剣に炎を纏わせて振り下ろされる大上段の一撃を受け止めようとするが、危険と判断したのか後方へ跳んだ。

 ステラの剣の攻撃対象は一輝から地面へ、そして第三闘技場全体が揺れた。

 直撃した地面がクレーターを作り熱風が周囲へ飛散する。

 

「剣術と異能、両方共強いのか」

 

 揺れなど気にしてない、そもそも微動だにしていない円也はステラの戦闘スタイルを分析する。

 魔導騎士の大半は基本的に異能を主として使う為に、剣術や武道を修めている者はごく少数。

 魔導騎士社会自体も、異能の方へ重点を置いているために武術自体評価の対象外。

 異能も武術も強いのは強さを求め、更なる強さの高みを目指す、上位の強者のみだ。

 故に、ステラ・ヴァーリミオンが強さに掛ける情熱は並の物では無い。

……まあ、極東の島国に単身留学する皇女が並で収まる訳ないか。

 ステラの変わり者具合に頷いている円也だが、二人の戦局に変化が無い。

 そもそもの話だ。本当に一輝が弱いのなら、既に戦いは終わっている。だが、一輝は今もステラの攻撃を防ぎ続けている。

戦況は、一輝が攻める事が出来ずステラが優勢。

 周囲の見学者は一輝が押され、ステラが有利としか考えておらず、決着は時間の問題、と言う声が出始めている。

円也の周囲にはこの状況に違和感を持つものがいない。

何故、ステラが休む事無く攻撃を続けているにも関わらずこんなにも時間が掛かっているのか。

そして、ステラが未だにダメージらしいダメージを一輝に与えられていないこの状況に。

それを知るのは黒乃と戦闘を見て理解した円也の二人だけ。

 

「何だ、魔力が少ないだけか」

 

 円也は納得する。一輝は剣士の才能がずば抜けているのだ。一撃喰らえばその剣の餌食になるであろうステラの技をいなし、躱す、それらを実践してみせている。徐々にステラ自身もその事実に気が付いているのだろう。

自身があしらわれていると言う事実に。

 試合が始まり、ステラが攻勢を息する暇も無く続けて五分が過ぎた時だ。ステラの苛立ちを含んだ斬撃を躱し、一輝が初めて反撃に出る。

 その技は試合開始からステラが使用している剣術だ。

 ステラの顔に出る困惑と焦り。

 

「それは、私の皇室剣技(インペリアルアーツ)!? まさかこの戦いの中で盗んだと言うの!?」

 

 この数分間の間に一輝がステラの剣術を理解し、獲得したと事実が今の攻防に表れていた。

 敵の剣術の全てを見切り、欠点を是正した完全上位互換の剣術を作り出す。それこそが黒鉄一輝の剣術『模倣剣技(ブレイドスティール)』と彼は語る。

 相手からしたらたまったものではないだろう。自身の誇りである剣術を盗まれ、あっさりと上を行かれる。悪魔染みた眼力と模倣性。さながら照魔鏡。

 一輝の危険性を理解したのか、ステラが打ち合いから逃げる。太刀筋を避けて薙ぎ払う。

 

「気持ちが押されたねぇ……」

 

 円也は呟いた。

 模倣剣技の異常さに、自身の剣技が盗まれた事が効いたのだろう。戦場での精神的なダメージは戦いの流れすら簡単に変える時がある。客観的に見ればステラが思いの外動揺しているのが分かる。

 彼女が繰り出した薙ぎ払いが刀の柄にて防がれる。そのまま妃竜の罪剣を弾くと、陰鉄を無防備となったステラに振り下ろした。

 

 予想外の展開に観衆の動揺が広がった。

 

「せ、先輩!! 黒鉄がステラさんを!?」

 

 いつの間にか、周囲を囲まれていた。円也への怖さより盛り上がった試合の熱が上回ったのか、はたまた一輝の不利を肯定しなかった彼の予想が当たった事の凄さゆえか。

 

「まだだよ。魔力の防御を越えられていない」

 

 事実、陰鉄の刃が右肩に当たる前に止まる。魔力を纏う伐刀者には同じく魔力を纏った攻撃でなければ通らない。

 魔力量がFランクとされ、少ない一輝ではただ、垂れ流してるだけのステラの魔力ですら傷を付けられない結果が、陰鉄の停止だ。

 この魔力、『総魔力量(オーラ)』は伐刀者の異能を用いる為に使われる精神エネルギーであり、努力では伸ばす事は出来ない。広義的には、その人間が生まれ持った運命の重さに比例すると言われている。

 詰まる所、一輝の一撃は、生まれ持った才能に止められたと言う事だ。

 

「じゃあ、やっぱりステラさんの勝ちですかね?」

 

「さあね、俺は黒鉄君じゃないから、彼の今の心の内は分からないよ」

 

 だからこそ、期待した。勝算あるからこそ試合を受けた彼の奥の手を。

 勝負が動く。既にステラは一輝を見下してはいない。その強さに敬意を払い。

 

「最大の敬意を持って倒すわ。蒼天を穿て、煉獄の炎」

 

リングのギリギリまで下がったステラは妃竜の罪剣を天へと掲げ、次の瞬間、爆発的に炎を吹き出しだ。

光量と温度が限界を超えた時、天井を溶かし破る百メートルを優に超える光の柱が作られた。

 

「熱ッ!? 避難だ避難!!」

 

「派手だなー、修繕費どれくらいだコレ?」

 

「何で先輩方落ち着いてるんですか!?」

 

「一年の頃、そこの方が散々壊したからかなぁ……」

 

 視線が円也に向かうが、それよりも命の危険と判断、そもそも振り下ろされれば観客席に普通にぶつかる大きさなので、生徒達が逃げ始める。

だが、一輝は逃げない。それどころか微笑んだ。

 

「諦めるつもりはないさ。魔道騎士になるのは、僕の夢だから」

 

だから、

 

「だから、僕の最弱を以って君の最強を打ち破る――――!」

 

 瞬間、一輝の身体と鉄の刀身から光が生まれた。それは淡く蒼い光。

 

「それがどうしたァァァ!! 『天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)』!!!!」

 

 振り下ろされた剣の一撃は強力無比。たとえ何をしてこようがこの距離なら、この光の剣の振り下ろしの方が早い。

 その確信をもって一輝に叩き付けようとした時だ、一輝の姿が消える。

 

            

 

……消えた!?

 否、消えていない。ただ、ステラが消えたと錯覚する程の速度で移動しただけの事。

……何!? いやそれよりも。

 一の太刀が外れたならば、二の太刀を振るうまで。

 『天壌焼き焦がす竜王の焔』の刀身は実体のない光と熱の剣。重さなど無く、大剣とは思えない速度で放つことが可能だ。

 だが、躱される。二の太刀も外れ、三の太刀も回避された。蒼い光を放ちながらフィールドを駆け抜ける。

 既にステラは一輝を視認出来ていなかった。

 

「何よ! 何なのよ、その速度は!? 突然そんな動きが出来るなんて!」

 

「それが僕の伐刀者としての能力さ。身体能力倍加って奴だよ」

 

「嘘よ! 倍加? そんな物じゃないでしょう!? それに視認できる程に魔力が高まる倍加なんて聞いたこと無いわよ!」

 

 手を休める事無く、剣を振るうがその剣は悉く外れる。

 

「そうだね。だって、僕は普通の使い方をしていないから。僕はこの力を普通に使ってない。()()()使()()()()()

 

             

 

 

 光と熱が観客席を抉る。百メートルを超える光の大剣が高速で振るわれているのだ。殆どの生徒が攻撃範囲から避難しているが、一人避難していない。

 円也だ。円也は一輝の動きを見ながら笑っていた。

 

「ははは!! あっはははははははは!!!! くひッ!! ひっひ!! ひっひっひはっ!!」

 

 目の前の戦闘音で掻き消された、笑い声。刀華が見れば驚くに違いない。

 

「そうか。全力かぁ……」

 

 自分の力を全力で使いきったなら、その後に倒れていないと可笑しい。その理論を元に彼は自身の生存本能を意図的に外し、本来使えない力を手にすることが出来た。無茶苦茶な後先を考えない理屈、そしてそんなモノ意図しては中々出来ない、それでも彼はやり遂げた。

 

「来て良かった……。ありがとう」

 

 彼は心から一輝に礼を述べた。

 

「パズルの最後のピースをさ、嵌めるってのはこういう気分なんだね。霧に迷い、突然霧が晴れて、道が見つかった時のような救われたような感覚」

 

 この偶然はまさしく奇跡。

 一刀修羅。彼の伐刀絶技の名前だろう。その言葉の通りに修羅はステラを一閃し、一刀の下に彼女を下す。

 黒乃の勝利宣言が響く。その場にいた生徒達が予想外の結末に茫然と黒鉄一輝を、落第騎士を見つめていた。

 その沈黙を破ったのは円也。何を考えているのか、鼻歌を謳いその勝敗を特に気にする事無く、闘技場を後にした。




戦ってねぇな、こいつ
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