我が儘に絶景を   作:泥の魅夜行

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不安ー東堂刀華ー

東堂刀華は円也を探していた。入学式も近く、生徒会として新入生の把握と、入学式の準備と忙しい。

説教は先程した。日が暮れ、仕事も終わり彼を夕飯に誘おうと校内を探していた。

とは言え、東京ドーム十個分の大きさを誇る学園であるので、足で探すとなるとかなりの時間がかかる。

電話には出ない。電話を持っているが、円也は殆ど出る事は無い。

ため息を吐きながら、校内をうろついていると理事長である、新宮寺黒乃を見つけた。

 

「ん? 東堂か」

 

「あ、理事長先生、円也君……石神君見ませんでしたか?」

 

「直さんでいいよ。石神なら第五闘技場だ。妙にご機嫌だったな、笑顔が何時もより深いというか」

 

「嘘です。冗談は寝て言ってください。円也君がそう簡単には笑いません」

 

即答に少々戸惑う黒乃。

 

「いや、あいつも笑う時は笑うだろう。黒鉄の試合でも笑っていたぞ」

 

「何で笑ってるんですか!? あーもうっ!! 冗談だと言ってください理事長先生!!」

 

流石に色々ツッコミを入れたくなる黒乃だが彼女の強い瞳が有無を言わせない。黒乃はこの二人の関係は詳しく知らない。聞いた話では、同じ養護施設の出身だったか。

 此方が預かり知らぬ事情と言う物があるのだろう。異性的な話の方がまだ簡単そうに見える。

 しかし、相手があの石神円也だ。この場合、刀華にも問題がありそうだが。

 ……何でこう、妙な教え子が多いんだ。と、疲れながらも、頭を抱えている刀華の肩を叩いた。

 

「ほら、用があるんだろう? ボサッとしてないでサッサと行け」

 

「ふあぁ!? は、ハイ!! 失礼します!!」

 

 走り去る刀華。その背後にかつての学園生活を思い出し黒乃は懐かしむ。

 

「私の頃はもうちょい、まともな筈だったよな?」

 

            

 

 走る。刀華も伐刀者として鍛えているのでこの程度苦でもない。凡そ一キロ程の距離を走り、闘技場内部に入る。

 

「円也君」

 

……円也君が笑顔? そんな絶対碌な事にならないじゃ無いですか!

 実例はある。入学試験の時に朝から笑顔から表情が変わらなかった。皆は何時も通りだと思っているが、刀華はその違いに気づいていた。何時もより、暗い笑顔だった。嫌な予感は的中した、直後の試験で円也は自分の腹をかっさばいた。

 試験官は試験官で病弱だったからか、ショックで吐血。試験場が一瞬で殺人現場に早変りする様は三年にとっては今でも伝説だろう。

 直後にけろっと復活した円也に刀華は泣きながら説教をした。内容は滅茶苦茶で支離滅裂。其れほど正気では無かった。

 世界の理不尽を感じる。少し目を離しただけで、こんな事になるなら、もっと近くに居なければ。一人にすれば必ず彼は無茶をする。

 

 その時だ、内部で彼の魔力が高まる感覚を彼女は認識した。

 そんな事を考えて刀華が観客席から闘技場を見た。闘技場の真ん中で、全身から血を撒き散らし、魔力がはじけ飛び円也が倒れたのは全くの同時だった。

 

「……円也君?」

 

 仰向けに血溜まりに倒れ込む彼を見た時、刀華が無意識で雷撃を纏い闘技場へと跳んだ。

 

「円也君!!!!」

 

 血で汚れる事なんて気にしない。抱き上げ、止まる。無意識で動いたが意識した途端に次に何をすれば分からくなる。

 焦燥が、彼女の胸を閉める。脈、呼吸、治療、助け、次々に浮かび消えていく。

 

「あ、えっと、駄目!! 円也君!! あ、ああああああ!!」

 

「刀華?」

 

円也が目を覚まし、起き上がった。

 

「え? ……え?」

 

茫然とする刀華を無視して、体を伸ばし、空中を一回転して着地。

 

「何してんだ? って俺の血で汚れてるじゃないか」

 

刀華の血が付いた袖を触り、自分の服を見ながら付着した血を確認する。

 

「洗濯で落ちるのか血液って」

 

この場に置いてはかなりズレた返答と疑問である。

 

「……何してたんですか?」

 

彼女の知り合いが聞けば声だけで、肝が冷え上がるようなトーンだった。

とうの知り合いである円也は特に気にしていないが。

 

「新技? ……いや、切り札? カッコよく言うなら新俺流最終奥義? まあ、修行だわな」

 

刀華の身体が震える。気にしてない。

 

「もうこの服使えないな。新学期前だし、丁度いいか。新しいの買お……刀華?」

 

「そこに正座ばせんかい!! このバカチンがァァァァァァ!!!!」

 

            

 

「いやぁ、こう思うわけだよ刀華。新技作るにしても多少のリスクを背負うってのは何処の世界でも一緒な訳で、そもそも俺があの程度で死ぬと思うかい? これ、美味しいねお代わり」

 

「じゃあ、せめて血を出すにしても、もう少し穏やかに出して下さいね。どうぞ」

 

 刀華の部屋でナポリタンを食している。あの後、一時間説教を受けたが今までと同じように暖簾に腕押し、柳に風で躱される何時ものパターンに入り、ため息を吐き根気負けをした刀華からの食事の誘いを受けて、円也は彼女の部屋で時折、刀華に益体の無い話を振りながら、皿に山盛りに盛ったナポリタンを食している。因みに五皿目だ。

 

「留年していた黒鉄一輝君とステラさんが戦ったみたいですね。円也君も見ていたそうで」

 

「そうそう!! いやー彼の御蔭だよ。感謝感激雨あられ? 漸く最後のピースが嵌ってさ、後は全体の形を整えながら使える様にするだけかな。でも、この調整がイマイチでね」

 

 待ってましたとばかりに話を始める円也に刀華は笑顔で相槌を返した。

……楽しそうですね。私がいない間にこんな風に笑うなんて。黒鉄さんに嫉妬しそうですよ。

 

「その最終調整をしてどうするんですか? 私としては無茶をしてほしく無いんですけど」

 

 部屋に入った時点で、刀華は眼鏡を外していた。

 刀華の力の一つ、雷の能力を応用する事で人間の身体に流れる微細な電気信号を読み取る事で相手の心を読み解く、『閃理眼(リバースサイト)』。

 これを円也に使っていた。

 だが、

……読めませんか。

 既に何回も試している故に、今回も何時もの様に失敗。

 かつて一度だけ、彼の思考を読み取った事がある。

 この力に目覚めた時だ。相手の思考を読み取る。能力の概要が分かった時、彼女は円也の心が読めるのでは無いかと一番に考えた。下心全開な思考、すぐにそんな失礼な事は出来無い。いけませんいけませんと自制はした。

 したが、能力を使って戦う以上は何時かは使用しなければいけないのだ。じゃあ、遅かれ早かれするなら今、しても問題が無い。よし、やってみよう。

 そんな心で寝ている彼の思考を読み取った。

 意識が泥の様に沈んだ。まるで円也の思考に飲み込まれるような感覚、底なし沼に引き摺り込まれ全方位から全身に叩き付けられる感情の渦。

 

『死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だまだだもっとこんなところで嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ俺が死ぬなんて嘘だ!!!!』

 

 感情の渦に巻き込まれ、引き摺られ、振り回され、飲み込まれ、吹き飛ばされる。

 閃理眼を解除し、意識を向ければこちらを見る円也。

 謝った。全身から汗を噴出しながら彼に素直に謝罪した。自身がした事も含めて。

 

『……いや良いよ。丁度、夢を見ていたからね。むしろ起こしてくれて有難いよ。許す』

 

円也の返答に安堵し、少しだけ質問をした。あれは円也君の夢なのかと、あんな地獄めいた悪夢を見た彼は大丈夫なのかと。

 

『そうだよ、不思議と赤ん坊の頃からああいった夢しか見ないんだよ。起きてしっかり覚えているから余計に面倒だけど』

 

 ならば、一緒に寝ましょうとこれ以上無い提案をしたが笑顔の円也に摘ままれ、部屋の外に出された。

 その後、模擬戦の際にこの力を使って円也と戦った。その時には相手の思考を読み解き動きを予測する戦法を確立していた刀華だが、その戦いで彼女は彼の思考を読むことが出来なかった。

 初めは偶然だと思った。だが、違った。彼が見えない。集中しても何度彼を視界に入れようと電気信号が感じ取れない。その動揺を突かれあっさりと円也に負けた。

 この事を彼に尋ねた。そもそも人間は微細な電気信号で動いているのに、彼からそれが感じられない。あってはいけない事実だろう。恐ろしい事に先程の戦闘の中、彼は電気信号無しで動いていた事になる。

 そう言った見解を円也に伝えると彼は軽く笑った。

 

『あー、それね。うん……まあ、気合?』

 

 誤魔化した。絶対に誤魔化した。文句を言おうにものらりくらりと躱され、思考を読もうとしてもやっぱり読み取れない。一度は読み取れた。だが、二回目以降は一切読み取れない。

 そして、今日も失敗に終わる。

 

「また閃理眼か? やめろよ。考え他人に読み取られるとか嫌だろう? 試合だけにしとけ」

 

「じゃあ、本当の事を言って下さいよ。」

 

「伐刀絶技って言ったら信じる?」

 

 不意に、彼が言った。言った後に水を一息に飲み乾し、ご馳走様と両手を付ける。

 

「え?」

 

「まあ、そう言う事さ。伐刀絶技、伐刀絶技。美味しかったよ、お休み刀華」

 

 ポンと肩を軽く叩かれて、背後でドアが開いて閉まる音。

 

「冗談では無い……ですよね」

 

 誤魔化しはするし逃げもする。けど、円也は自身に嘘はつかない。なら、彼の言ったことは真実で、

 

「さらに分からなくなっただけの様な……」

 

 新たな悩みに刀華は頭を抱える事になる。

 

                    

 

 そして、入学式は恙無く終わり、新学期が始まる。

 昨年とは違い『能力値』による選抜が排除され、『全校生徒参加の実践選抜』による上位者六名を七星剣武祭に出場させる事になっている。全校生徒なので、一人十試合以上掛かるらしく始まれば三日に一度は試合が組まれることになる。選抜戦は『幻想形態』では無く、『実像形態』で行われる真剣勝負だ。負傷もすれば、命も落とす可能性もある。

……調整して、完成させて、改良するならうってつけか。

 円也にとって自身の目的に七星剣武祭も、七星剣王も必要ない。

ただ、一輝の御蔭で作ることが出来た新技の調整には七星剣武祭に出場する者達は丁度いい相手だ。

 円也としては予選を一日で全部終わらせてくれないかと、同じ養護施設出身の友人と、養護施設を管理してる財閥の御嬢様に愚痴ってみた所暖かい言葉で返された。

 

『いいかい? 皆が皆、君の様に頭と肉体がイカレた超人じゃないんだよ? そんな事も理解出来ないから、災害だの無法だの好き放題言われて反論もしないから、ネットでアンチスレ建てられてるんだよ? 作ったの僕だけどまさかあそこまで伸びるのは予想外だったよ。ククク、ザマーミロ。あ、でもこいつネットして無いから意味無いじゃん!! そもそもボクと君は友達じゃないだろ、帰れ帰れ』

 

『あらあらいけませんわ。円也君にとっては取るに足らない事かもしれませんけど、他の生徒を絶望に叩き落とすのはいただけません。撫でてあげますから良い子にしてて下さいませ……あ、どこ行きますの!? まだ撫でてませんわよ――――――ッ!!』

 

 何時も通りの返しと御嬢様の追跡から逃れた円也がふら付いていると、一年の教室の方角で爆発が起きたのを見た。

 真相は新学期早々、ステラが一輝の妹の黒鉄珠雫(くろがねしずく)が教室で固有礼装を展開し、教室が吹き飛んだ騒ぎがあったそうだ。結果、ステラと珠雫は謹慎処分を受けたと、刀華から聞いた。

 それから一週間、円也は特に気にする事無く、何時の様に学園内でぬらりくらりと刀華の追跡を逃れながら、気の向くままに歩いていた。陽が昇り始めた早朝に校門近くへ行くと人影が二つ。

 

「あ、エンヤさん」

 

「おはようございます、石神先輩」

 

 ステラと一輝に出会った。謹慎が解かれた様だ。

 ジャージ姿で、汗を掻いて座っている。ランニングをしていたのだろう。

 頭を下げて、別れようとするステラに引き止められる。

 

「あの、私と一度戦って下さい」

 

「良いよ」

 

特に拒む理由は無い。




刀華いるなら、あの二人も出るよね。
次回、『紅蓮の皇女』VS『白い災害』
闘技場「」
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