姉妹艦とは言っても実際に姉妹である艦娘は割と少ない。まして、艦娘になった時の年齢や、着任順がバラバラで、1番艦より2番艦の方が年上で先輩なんてことも普通にあるくらいだ。あたしとサミ姉はそんな中でもマイノリティな存在で、艦娘になる前からの本当の姉妹だ。サミ姉のことはもう、だいたいなんでも知っているしサミ姉も、あたしのことはだいたいわかっているんだろうと思っている。
子供のころからずっと一緒だったのだから。
鎮守府内で白露型駆逐艦五月雨はだいたいこんな印象でみられている。
頑張り屋・元気・清楚・天使・ドジっ子
鎮守府の寮であたしたちは二人部屋で一緒に暮らしている。
頑張り屋?
元気?
清楚?
天使?!(W)
目の前にいるサミ姉は畳にうつ伏せにねっころがって、ちゃぶ台のわきで洋菓子をもごもご食っていた。
『サミ姉、座って食え。狭いんだからねっころがんな。』
『涼ちゃーん』
サミ姉はそのまま匍匐前進してきて、ちゃぶ台を向かいに足をたたんで座っているあたしの膝に顎をのせて、もごもごしながら背中に手を回す。
あたしは黙ってお茶をすすった。少しぬるくなったお茶はほのかに甘かった。
『涼ちゃんお膝ぬくい~』
サミ姉があたしの膝にすりすりしながら足をバタバタし出した時、その足がちゃぶ台に当たった。
サミ姉の湯飲みが倒れてお茶をぶちまけ、そのまま転がってお茶と共にサミ姉のスカートの尻のあたりに落下した。
『きゃーーーーー!!』
『わーーーーーー!!』
ドジっ子しか合ってないだろ。
お茶ぬるくなってて良かった。
どんよりとした曇り空の午後。寮舎内の共用食堂は食事をする艦娘達も一段落して、人もまばらだった。湿度が若干高めなのか、空気の肌触りに少しの不快感がある。
隣にサミ姉、対面に軽巡洋艦の夕張が座っている。
あたし達は一番奥の6人掛けテーブルを3人で占有していて、傍目からはおそらく3人で楽し気に談笑しているように見えただろう。
降り出しそうな窓の外とは裏腹に、サミ姉と夕張は楽しそうだ。
いきさつを話すと特に長くない。
『五月雨ちゃん!坂角のえびせんあるんだけど、食堂でお茶しない?』
『わーい!やったー!!』
2行で終わりだ。ちなみにあたしは誘われてなかった様だが、なんの躊躇もなくサミ姉があたしの手を引いて、夕張についていくので特に抵抗もしなかった。夕張はというと、あたしがくっついてきてるのに、気づいているのかどうなのか、なんかぎくしゃくした風にして前を歩いていた。
飲み物は夕張が食堂の自販機でブリックを買ってくれた。あたしはフルーツオレで、サミ姉と夕張がイチゴオレ。お茶と言いつつお茶ではないところは言っちゃダメ。
大規模な作戦を先週終えたばかりの鎮守府は、その達成感も冷めてきた頃で全体にけだるい雰囲気が漂っている。資源や資材もかなり消費したため、出撃も控えめなのでなおさらだ。
『夕張さんと仲良しになったのー』
先週作戦が終わった頃サミ姉がそう言った。とても嬉しそうに。
作戦中からちょくちょく工廠にいってるなーとは思っていたが、装備の改修に関して夕張に相談していたようだ。
その甲斐あってかサミ姉は、前回の作戦最終海域でボス撃破こそかなわなかったが、夜戦で1隻残ったボスの随伴艦を撃破して北上のボス撃破をアシストした。
かなり良い戦果を挙げたわけだ。帰投後ふたりは飛び上がって喜んだ。
とまぁ、表向きそんないきさつらしいがだがしかし、あたしは知っている。
夕張はずっと以前からサミ姉を狙っていた。
夕張はずっとサミ姉を見ていた。すっごくいやらしい目で見ていた。
目は血走っていたし息も粗くてはぁはぁいっていた。かどうかは夕張の近くで観察してたわけじゃないからわからないが、たぶんそんなに間違ってはいない、と思う。
『すっ、涼風ちゃんはおせんべいぃあんまりすきじゃ、ないのかな?』
『え・・・』
夕張が上気した顔を向けて、いきなりこっちにふってきた。おっと、おっと
『あたいかい?おせんべいは大好ききさー!でもなんかずいぶん高価そうなおせんべいだからなー、なんかあたいが食うともったいない気がしてー』
ハハハハーっと笑うあたしをみてサミ姉が目を丸くしている(元々丸っこいが)
『えー、おいしいよー涼ちゃん、コレすっごいおいしいよー・・・って?』
サミ姉が夕張に向き直る。
『高価いものなんですか?』
『いやいやいや、遠慮するほど高価いものじゃないよー。すっ、涼風ちゃんも食べてね。』
『あー、じゃまー遠慮なくー』
小分けになっている袋を一個とって封を切る。エビの香ばしい香りがふわっと立ってきた。
パリっと齧る。
あ、めちゃうま・・・・
『なんだコレ!うまーーーーーい!!』
『でしょー?』
『もっと食べて、食べて』
二人に満面の笑顔を向けられた。
窓際の方に向かい合いで座っている二人をみると後光が差した気がしたら、単に切れてきた雲の間から夕陽が射していただけだった。
そんな風にしばらく3人で談笑していた。大体の内容は夕張の装備改装の苦労話で、それはそれなりの興味を引く話ではあるが、もうちょっと女子トークっぽいことを話せないものかと夕張を見ると、結構いっぱいいっぱいな感じで、彼女の不器用さみたいなものを感じとったあたしは、夕張への印象を少し上方修正する。夕張の事はなんか気に入らなかったが、きっと悪い奴じゃないんだろう。だってサミ姉が気に入ってる奴だから。
しばらくして食堂の外、廊下の方が騒がしくなってきた。ドタバタと取っ組み合ってるような音も聞こえる。
『ケンカかなー』
夕張が廊下の方に首を伸ばしながら言う。立ち上がる気はないみたい。
艦娘の中でも駆逐艦は血の気の多い子が結構いて、ケンカとか珍しくはないのだ。
『誰と誰ー?』
夕張が廊下に向かう出入り口のそばにいた霰と皐月に声をかけると、霰がかろうじて判別できる程度のボリュームでボソッと言った。
『曙・・・・不知火・・・』
曙はいつものことだけど・・・・・あれ?不知火?めずらしいな。
出入り口の引き戸を開けて首を出していた皐月がその首を引っ込めて、椅子に座りなおして『やれやれ』といった調子で言う。
『時雨が止めに入っちゃったよ』
『あいたた・・・』
3人顔を見合わせる。
『時雨ちゃん説教くさいからー、長いし。』
『たまに何言ってるか意味わかんねーしw』
『何それ、ひどい』
3人で笑った。暢気なものである。
誤解のないように一応言っておくけど、あたしもサミ姉も時雨を悪く思っているわけではない。むしろかなり高い好感と信頼を寄せている。ただなんというか・・・・
中二病的な意味深風な発言が多くて、よく周囲を混乱させるのだ。
曙と不知火に関してはあまり交流がないから実際のところはよく知らないが、不知火は大人しくいつも沈着冷静なイメージだったので、取っ組み合いのケンカというのは少々イメージから外れる。
曙は有名人だ。
超がつくほどの美少女、芸能人や映画スターにだってあんな美しい娘はいないっていうくらいのめったに見られないハイパー美少女なのだ。でも曙が有名なのはそこじゃない。とにかくケンカっ早いのだ。その美しい顔には生傷が絶えなくて、常に大体1~2枚は絆創膏が貼ってある始末。もったいねぇ。
静かになった頃にカメラをもった青葉が慌てた様子で廊下を走って行った。遅い遅いw