涼ちゃんとさみ姉   作:えーひち

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9月の砲雷撃戦で頒布した本の続きのお話です。


エビせんの香り漂う部屋

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今日は午前から演習だった。阿武隈を旗艦として、あたし、夕立、春雨、時雨、霞の6隻と相手方は由良、叢雲、漣、龍驤の4隻だ。航空戦力に対する水雷戦隊の対空防御力を上げるための訓練だった。龍驤の艦載機には結構やられてしまったし、態勢が崩れたところの砲雷撃戦は目も当てられない。

『涼風ちゃん!霞ちゃん!連携悪いわよ!しっかりして!』

阿武隈があの甲高い声で怒鳴る。

『ガッテン承知!』

『連携了解!』

あたしと霞、一応返答の勢いだけは良いが、どうにもうまくいかない。先日の食堂での一件以来霞とはギクシャクしている。霞がこんな根に持つ性格だったとは思わなかったが、こちらから謝るのも違う気もするし、しかし戦闘に影響出るようではダメだ。この演習が終わったらちゃんと霞と話をしよう。

航空攻撃側と防御側の駆逐艦勢だけ順次入れ替えをしながら、計5回の演習を終えたころには昼時も過ぎ、13時を回っていた。

演習後は風呂にも浴場にも行かず、シャワー室で済ます。風呂アリ、浴場アリ、シャワー室完備である。12ブロックのパーテーションで区切られたシャワー室で2艦隊分の艦娘が同時に使うことができる。結構至れり尽くせりなのかもしれない。

真ん中あたりの区画に入っていた霞を見つけてあたしはその左隣に入った。霞もあたしに気づいた様子だったが、無言でいたのであたしもとりあえずお湯のハンドルをひねってシャワーを身体に当てた。汗が洗い流され、火照った身体にさらに高い温度のシャワーがここちよく、気分も上がってきたところであたしは口を開きかけた。

『みんながいる前であんなこと言わないで』

あたしが言うより先に霞が言った。しかもっコッチを見ていない。シャワーのハンドルに向かって言っている。それであたしはカッとなってしまった。

『そんなの霞が先にあたいとサミ姉のことひやかしたんじゃん!』

『はぁ?あんたそんなことまだ根にもってたの!?』

『そんなこととか言うんなら、そんなことで怒んなってーの!』

『あんたたちとあたしは違うのよ!』

『何がちがうんでぇ!』

『それは・・・・とにかく、違うったらちがうのよ!』

そういった霞はまた顔を真っ赤にさせた。シャワーの雫なのか涙なのか判別がつかないが頬を雫がつたった。

『バカ!ばかばかばかばーか!』

そう、捨て台詞を残して、霞はドアをはねつけてそのまま走って出て行ってしまった。

『なんでぇ、霞のやつ』

『今のはまずかったね涼風』

時雨が左となりのパーテーションの上から顔を出していた。

『いや、だって、何が違うって言うのさ、わけわからねぇよ!』

『違うよ』

時雨は目を細めた。

『君と五月雨は・・・・違うんだよ他の子たちとは』

 

シャワー室を出て、部屋に向かう廊下の途中、あたしは時雨の言葉を反芻していた。いつもの意味深そうで、意味のない妄言とはどこか違った雰囲気があった。時雨はその後何も言わずに出て行ってしまったし、もう何が何だか訳が分からない。何にしても大騒ぎになってしまって、サミ姉がいない時で良かったとは思う。

サミ姉は今3日間の休暇を取って帰省している。結局二人で揃っての休暇は取れなかった。ましてあたしの方は休暇自体まだいつ取れるかも決まってない状態だ。

サミ姉のいない二人部屋のドアを開けると、仄かにエビの香ばしい香りが漂ってきた。中に入るとちゃぶ台の上。菓子受けに入れていた坂角のえびせんの空いた小袋がいくつか散乱していて、菓子受けのわきに蠢くちいさな生き物が2体いた。一瞬Gかと思い『ひぇっ』となって引いたがよく見ると頭が青い。

『部屋主が返ってきたようだようだ』

『お嬢ちゃんが返ってきたようだー』

妖精さんだった。しかも姿があたしとサミ姉の小さい版だ。

近づいても逃げないようだった。鎮守府内でもたまに見かけることがあるが、だいたいすぐに逃げてしまうので、こんなに近づいたのは初めてかもしれない。

妖精さんの姿は固定していない。というと何のことかわからないと思うが、そうとしか言えない。ちょっと目を離すと姿が変わっていたりするし、2人が1人になったり、3人になったりと、どこか存在自体が揺らいでいる印象だ。

『お嬢ちゃん、おじさんはこのおせんべい?』

『おせんべい?』

『おーべんせい?』

ちびサミとちびスズが両手にせんべいを掲げてわちゃわちゃとして言う。

『お、おせんべいであってるよ・・・』

あたしが言うときゃっきゃと喜んで走り回ったかと思うとちょこんと座って齧り始めた。

『おせんべいお気に入りのようだー』

『おじさんお気に入りのようだー』

二人で仲良く隣り合ってせんべいを黙々と齧っているちびサミとちびスズだった。あたしはちゃぶ台のわきに座り込んで、その生き物を見ていた。

『・・・・かわいい・・』

顔がにへらっと緩む。あたしはちびサミのおでこをチョンとつついてみた。コテンとそのまま後ろに転がった。となりのちびスズは気にしないでせんべいを貪っている。転がったちびサミは『よいしょ、よいしょ』と言わんばかりに起き上がってせんべいを手に取り、さっきと同じポジション取りで同じようにせんべいを食み始める。なにごともなかったかのようだ、ちびスズも突っついてみたが、同じ動きをした。あたしはなんかつっつくのが楽しくなってきて交互に突っついていると、やがて食べ終わったちびスズが言う。

『お嬢ちゃん、いい加減にしなイカ?』

『お嬢ちゃん、イカ?』

ちびサミも食べ終えたようだ。

『あたいはイカじゃないかなw』

『イカにも・・・』

『イカニモ?』

あたしはちびサミのおなかを人差し指でつついてコテンとたおしてぐりぐりしてみた。

『くるしぃー、だけど、きもちいー』

などどキモイ台詞を吐きながらどう見ても喜んでいる。

『おじさんも!おじさんも!』

ちびスズもやってほしいようで、せがんできたので、左手で同じようにぐりぐりした。

『くるしぃー、だけど、きもちいー』

手疲れるけどかわいーなー。

この子たちがいつまでいるかわからないけど、サミ姉がいない間さみしくないかもと思って、さっきまでの出来事でささくれ立っていた気分もだいぶ楽になっていた。

 

 

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