マト姉は妹たらしである。
まったくガチレズロリ妹フェチでたらしって言う、実はとても危険な人なのだ。あたしとサミ姉はずっとそんな姉と暮らしてたわけだからまぁ、影響は受けたのだろう。それでも何と言うか、実の妹とは一線は超えないっていう自分ルールみたいな物があるらしくて、これまでは過剰なスキンシップと軽いキスくらいにとどまってはいたのだ。
それがあたしたちもお年頃な感じになってるし、あんまり会えなくなってるしで『そろそろいいかな~』ぐらいには思っているのかもしれない。
あたしは昼間のキスの余韻が抜けなくて、夕食(特上寿司)の後友人たちと会ってもどこか上の空だった。
今夜あたしはマト姉にやられちゃうんだろうか。女の子同士のセックスってどんな風にやるんだろうか。道具とか使っちゃうのだろうかー。
などど、そんなことばっかり頭の中で回っていた。妄想が膨らんでいた。
『なんかスズってばさっきからぼーっとしてる』
『あたしの話きいてるー?』
あたしたちはローソン前でバイトを終えて上がってきた一人と合流してどこに行くわけでもなく、駐車場のタイヤ止めに座り込んで3人でたむろっていた。たち悪そうである。
二人とも中学の同級生で、朝子と佳乃という。
『お、おう、聞いてるって』
『沙弓先輩、ってか五月雨さんはどうしてるのぉー相変わらずキレイ?』
『戦場の天使五月雨様ー、あたしも一目見たいわー!写真とかないの?』
『あー、えっとぉー』
そういえばこいつらはサミ姉の信者だった。中学の時あたしの一個上の学年だったサミ姉は下級生に結構人気があった。端正な顔立ちに綺麗な長い髪、黙って動かないでいれば落ち着いた雰囲気もあるし、遠目には憧れる対象になるに充分なビジュアルであったのだろう。あたしもビジュアル的にはたいして変わらんはずなんだけど、なんであたしはモテなかったんだろう。
『戦闘中は撮影なんかは無理だから、そういうのはないけど、演習の前に一緒にとったのならある』
と言ってあたしはスマホの画面を二人に見せた。サミ姉の艤装装備を手伝った後、二人で撮ったやつだ。このあと駆け出して行ったサミ姉はほどなくして、ちゃんと躓いて転んでいた。
『おおー』
朝子がスマホを取ろうとするので、あたしはさっと手前に戻す。
『みるだけ』
『けちくさー』
渡すわけにはいかない。スワイプされれば他の写真も見られてしまう。サミ姉の寝顔とか着替えとか隠し撮り、盗み撮り満載なこのフォルダは門外不出なのだ。
『じゃそれ送ってよー』
『あたしにもー』
『おう』
あたしはスマホを操作して二人に画像を送信した。
『これうちの後輩に送ってもいい?』
『あ?なんで』
『うちの後輩にお前の信者がいるんだよ』
なにそれ、初耳。
『あー、スズ下級生に人気あったからー』
それも初耳。
『すきにしなー』
『さんきゅ』
『ワイルドのキミとか言われてたよ』
『なんじゃそらw』
どっかで聞いたような気もするが?
あたしたちはその後1時間くらいどうでもいい事をしゃべってから解散した。23時を回っていた。
帰りの道中あたしの頭の中はエロい事でいっぱいだった。実際サミ姉の時はどうだったんだろうって事も気になってはいたが、困ったことに本当にソレの事ばっかりが頭にぐるぐる回っていて、もう、どうしようもなかった。
むしろあたしがマト姉をやっちまおうかと言うくらいの勢いだ。
なんなんだコレ、思春期症候群か何かか?
マト姉に対する気持ち云々とか、愛とか性欲とか以上にもう、好奇心が勝っていたのだろう。
帰り着くと爺ちゃんはもう自室で寝ていた。4人で暮らしていた時から爺ちゃんだけが個室を持っていて、あたし達姉妹は大部屋で一緒くたに寝ていた。『あたし一人になっちゃって寂しくてねぇ、広すぎるのよこの部屋、一人だと』そんなことを言いながらマト姉が畳の上に布団を2組敷いてくれた。マト姉の『寂しい』は最強の殺し文句だ。
『お風呂入ってきなさい。ちょっと追い炊きすればまだ大丈夫だから』
『お、おぅ』
消え入りそうな声で返事をした。ね、念入りに洗っておこう、うん。
サミ姉がいなくなってからあたし達は今日と同じように2組の布団を敷いて寝ていたけど、よくあたしはマト姉の布団に潜りこんでいた。布団いっこでいいじゃんとか、よく思っていた。抱っこされて寝ていたものだけど、それ以上のことは何もなかったし、そんな意識もあたしにはなかった。
風呂を上がって部屋に戻ると、マト姉はもう床に就いていた。部屋は小さい豆電球だけがついていて、わずかな淡い光だけを頼りにしてあたしは、マト姉のとなりの布団に潜り込んだ。マト姉が寝てるのかどうかもよくわからない。
あたしは何かガッカリしたような、安心したような、ホッとしたような、恥ずかしいような?複雑な気分になった。
しばらく目も閉じずに天井のシミを数えていると胸の奥底からある感情が湧いてきた。まるで今まで抱いてきた色々な感情の残滓が澱のように積みあがって、それがもう一杯になってあふれてくるように、沸々と煮えて煮こぼれてくる。
サミ姉をやる!帰ったら、キスして、濃厚なやつをして、服も全部ひっぺがして、体中余す所なく舐めまわして、唇も、首筋も、乳房も乳首も性器も、足の爪まで全部あたしの物にするんだ。
目が血走っていたかもしれない。この前見た夕張の目みたいになっていたかもしれない。
その時マト姉があたしの布団に入ってきた。・・・・え?
『涼音を抱っこして寝たくなっちゃった。いいよね?』
マト姉の顔を見上げたが、豆電球の淡い光では影になって全く見えない。逆にマト姉からあたしの顔は淡いとは言え照らされているし、目も暗さに慣れているだろうから良く見えただろう。
マト姉はそのまま顔を近づけてきて、あたしの唇を軽く吸った。
あたしはいつかの夜に蒼い月明りの中でされたサミ姉のキスを思い出していた。そんなキスだった。
それから横になってあたしを抱きしめた。
『涼音、すずね・・・死なないでね、沙弓と、いつかちゃんと帰ってきてね』
『え?・・・・』
意外な言葉を聞いた気がした『死なないで』?
深海棲艦との闘いは、あたし達にとってそれほどの脅威ではないし『死ぬ』とか『沈む』とかは、文字列としての認識以上の物はなかった。それこそ先日のプラント防衛戦での事も結局取り越し苦労だったわけだし。だけど市井にいて家族を送り出している者にとってはそれは確かに大きな心配事として心に重くのしかかるのかも知れない。そんな事をあたしは今初めてマト姉に言われて気づいたのだった。
横になったマト姉の顔が淡い光に照らされていた。双眸から光るものが零れ落ちている。
あたしはマト姉の胸に顔を埋めた。手を背中に回して、ギュッと抱きしめた。
『大丈夫。サミ姉も、大丈夫だから、泣くな』
マト姉のすすり泣く声をしばらく聴いていた。
あたしはマト姉の柔らかい胸と柑橘系の香る吐息を感じていた。
やがてマト姉の吐息が一定のペースで静かになった頃、あたしも眠りに落ちていた。