夕方過ぎくらいにマト姉から電話が入ったが、相変わらず理由は言えないという事だったけど、マト姉の立場や様子から何かしら危ないことがこの先起こる事を知ってのことだと推察はできた。でもそうであればこそ、ほかのみんなを残してあたし達だけ退役して逃げる訳にはいかないと思ったし、サミ姉も同じ意見だった。
マト姉はしばらく引き下がらない様子だったけど現実的に考えて今すぐの退役など無理だと初めから理解はしていたのだろう、最後には折れてくれた。
「お願い、危ないことにならないように注意して行動するのよ。作戦や命令があっても、個人がそう心がけるだけで随分ちがうものだから」
そういったマト姉は「また電話する」とも言って電話を切った。
その日の夜の食堂は無秩序なお別れ会の会場のようになっていた。食堂自体は営業を終了していたので、皆銘々に飲み物やスナックを持ち込み別れを惜しんでいた。
「また涼風と一緒なんて、いい加減うんざりするわ」
テーブル正面にドカっと座ったかと思うと頬肘をついて斜め上に目線をそらして霞が言い放つ。
「なんだ霞、あたいと一緒がそんなに嬉しいか?」
「そんなこと一言も言ってないじゃない!」
「大丈夫だ霞、あたいは解ってる」
そういってあたしが『にしし』っと笑って見せると霞は顔を真っ赤にして無言で俯いてからテーブルにあるポテチの袋に手を突っ込んでバリバリ食い始めた。少し間をおいて『そうなの?』と小さくいったのをあたしは聞き逃さない。
「霞、提督のトコ行って来いよ」
「・・・っ、またそういう・・」
「マジで言ってるんだけど。しばらく会えないっつーか、もう会えないかもしれないんだぜ?」
あたしは腕組みをして椅子の背もたれに体を深く預けて顎を引き、強めの目線を霞に向ける。すると霞は俯いてしばらくそのまま黙っていた。
やがてポツリと話し始める。食堂の喧騒の中、あたしは一言も漏らさず聞こうと身を乗り出した。
「あたしは・・・・あたしにとって提督は・・・その・なんていうか・・・す・す・・好き?・・・っていうか・・・アレだけど・・・」
「アレ?」
「いや、アレとかそういう!いやらしい感じの意味じゃなくて!」
俯いていた霞がその真っ赤になった顔をあげてのり出してきたので、同じようにのり出していたあたしの顔のすぐそばに霞の顔が来る。目がうるうるしているのがよく見えた。顔の赤からその熱さが伝わってくるような気がする。霞はあたしの顔が意外に近いことに驚いてガバッと身を引いた。
「解ってるよ」とあたしが言うと「・・・・そう、ならいいのよ・・・・」と言ってまたストンと椅子に座った。
一連の会話を聞いているだろう、隣に座っているサミ姉は空気を読んだのか、おとなしくしてちょこんと座っている。かわいい。
「提督にとってあたしはたくさんいる艦娘の一人でしかないのよ」
「そうなのか?」
「しゃべったことないし」
「マジか!それでなんで好きになる」
霞は軽くそっぽを向いて唇を尖らせる。
「慰められたことがあるのよ、一回だけだけど」
「しゃべったことないんだよね?」
「あたしが落ち込んでた時、頭ぽんぽんされて、あたしびっくりして思わず手を振り払っちゃったんだけど、見上げると提督があたしを見てて」
「それで優しく微笑んでいたと?」
「ううん、いつもの無表情だったんだけど」
「いや、それなんか怖いよ・・・」
「でもなんか、この人優しいんだ本当は、あたしこの人好きだぁって思っちゃったのよ・・・・・だから!しかたないでしょ!」
なぜか最後は怒り気味の霞だった。「霞ちょろいなー」とは思ったが口には出さない。
「そうか、わかったよ霞、行ってこい提督のところ」
「いや、だからあたしは!」
「行って来いよ、霞」
「・・・・・・じゃ、行ってくるわよ」
ガタっと椅子を蹴る音がした。霞が立ち上がって食堂の出口へ向かってドスドスと歩きだした。すると立ち止まってこっちを振り向く。両腕を真直ぐ下にのばして拳を強く握り締めている。
「涼風が言うからっ、しょうがないから行ってくる!」
「おう、がんばれよー」
捨て台詞のようにそう言った霞は足早に食堂から立ち去って行った。
「涼ちゃんイケメン~」
さみ姉があたしの横顔をマジマジとみて言う。
「まぁねー」
「でも霞ちゃん、大丈夫かなー」
「まー、振られるんじゃない?」
「えぇぇぇぇぇ、それあんまりイケメンじゃない」
「振られてもいいんじゃね?区切りがつくだろ。泣いてる霞はあたいが慰めればいい。この先一緒だしな」
果たして、いくらもしないうちに霞は戻ってきた。手に二十七とかかれた紙片を両手に持って呆然とした様子だ。
「どした?霞」
「龍驤が・・・・」
「は?龍驤?」
「これ、券持ってけって言って・・・・漣と提督室の前にいて・・・・」
「・・・・へ?」
その時ボッと放送のマイクの入る音がした。
「はーいお待たせしました!ではー、整理券番号一番!叢雲さん!提督室へどうぞ!」
漣の声がノリノリといった様子で告げる。
「整理券くばってんのかよ!」
「千円取られた」といった霞はその整理券を大事そうにして祈るように見つめている。
「金とんのかよ!」と突っ込みたかったけど、その顔を見たらあたしは言葉も出ないでただ眼を白黒させてパクパクするだけだった。金魚なのか?
「あー、なんか提督室の前にいっぱい集まっちゃって、だれが先に入るかでもめたみたいで、龍驤が仕切って整理券配ったらしいよー」
中央の方のテーブルにいた皐月がケタケタ笑いながら言った。それを聞いた一同は大騒ぎである。告白組そんなにいたんか。
するとまた「ボッ」と放送のマイクのスイッチが入る音がした。大騒ぎだった食堂が一瞬で静まり返る。
「えー・・・・」
大淀さんの声だった。珍しく言いよどんでいるのが解る。
「えー・・・・提督からの伝言をお伝えします」
一同静かに傾注している。大淀さん声が微妙に震えているような?
「自分は近いうち一般女性と結婚するので、告白などには今後来ないように。以上です」
通常、放送による通達は同じ文言を繰り返すものだが、繰り返しはなく、そのまま放送は切れた。
「あーーやっぱりそうなのかー・・・・」
「ぎゃーーーあたしの提督がぁぁぁぁ」
整理券が一気にバッと宙空に舞った。競馬場なのか?
様々な反応の中、霞が泣き出してしまった。霞だけでなく、何人もの娘が整理券を放り投げた後にすすり泣いている。気づけば告白して戻ってきたのか叢雲が出入り口あたりでしゃがみこんで両手で顔を覆っていた。ちょっとひどいなと思いつつ、たぶんあの提督なりの素早く合理的な行動だったろうとも思った。あの人は良くも悪くもそういう人なのだろう。キチンとはっきりしておけば、泣く子も減るだろうと。
それが正しいかどうかは別として。
しかしそれはそれとして、龍驤ひどくないか?
あたしはどうしたら良いかわからなくて、霞のそばに佇んでいるばかりだった。するとサミ姉がスッと寄ってきて、座って泣いている霞の頭をフワッと抱いた。何も言わずにただ抱いた。
しばらくそうしていると、霞は落ち着いてきたようで、真っ赤にした顔を上げる。
「おっぱいない。やらかくない」
「ひどい!」
「ありがとう五月雨」
そういって霞はすこしだけ笑った。サミ姉も笑い返す。
口ばっかりのあたしと違う。その時のサミ姉はあたしには天使に見えた。
霞だってきっとうまくいくとは思っていなかったのだろう。あたしの方を振り向いて言うのだった。
「涼風もありがとうね、背中押してくれて。ちゃんと言えはしなかったけど、なんか気持ちに区切りがついた気がするよ」
そんな風に言われて、あたしは感極まってしまった。ありていに言うと涙が出てきてしまった。そのまま涙さらしているのが嫌で霞に抱き着いてしまった。
「涼風?」
「霞~!強く生きるんだぞー」
「ちょ、なんなのこの子!五月雨~なんとかして~」
「あははははは」
サミ姉の笑い声が聞こえる。
宴もたけなわ。あっちこっちで笑い声や鳴き声が飛び交う。
さっき何人かが「龍驤ゆるすまじ!」とか「金かえせ!」とか叫んで出て行った。龍驤の運命やいかに。
二三〇〇(フタサンマルマル)「いい加減にしてください!」と大淀さんが怒鳴り込んできた。「明日朝出発ですから、荷物まとめる時間なくなっちゃうじゃないですか!」
皆も騒ぎつかれたこともあって、宴はこれにて解散となった。
部屋に戻る途中、「ちょっと用あるから、涼ちゃん先に部屋に行ってて」と言ってサミ姉は部屋とは逆方向に駆けていった。あー・・・・
まぁ、夕張のトコだよね。
仕方ないかと思い、あたしはおとなしく部屋へ戻った。荷物もまとめなければいけない。あたしはまぁ、大した荷物はないのだけど。サミ姉は結構あるよなぁ。
部屋に戻ると戸の前にでっかいリュックが二つ置いてあった。これに詰めろということなんだろうが・・・・うーん
だっさいリュックだなー。でっかいからいっぱい入りそうだが。官給品のリュックなー、サミ姉ははたぶん「かわいくなーい」って言って嫌がりそうだ。
リュックを二つ部屋に持ち込んで、早速自分の荷物をまとめる。少ないのであっという間に終わったし、でかいリュックがスッカスカである。しばらくボーっとしてサミ姉の帰りを待っていたが、帰ってこないのでサミ姉の荷物も詰めといてやろうと、箪笥を開ける。服いっぱいである。
「いっぱいあるなー」
服満載の三段の引き出しを全部開けると一番下が下着だった。
「ぱんつだぁー」
一つ取って匂いを嗅いでみた。サミ姉の匂いなどする訳もなく、洗濯洗剤の花のような匂いがする。これはこれで良い匂いだ。サミ姉帰ってこないし、ちょっと嫌がらせに一枚頭に被っておいた。さわやかな香りが頭を包んでいくらか気分が華やいだので気をよくして、一気にサミ姉の服をズバズバとリュックに詰め込んでいく。
「いやー、良い仕事をしたナ」
だいたい詰まった頃にはリュックはパンパンに膨れていた。
そのまま暫く待ったが、やっぱりサミ姉は帰ってこない。
「絶対二人でエロいことしてる・・・・」
膝を抱いて部屋の隅っこに陣取った。良からぬ妄想に包まれていく自分が卑屈になっていくのが解る。
妄想の中でサミ姉と夕張は濃厚なキスをしていた。貪るように舌を絡め、お互いの唇を、上唇と下唇を交互に吸いあって、上気させた顔がずっと重なり合っている。
夕張の手がサミ姉の服の裾から潜り込み、上の方へ這って行く。やがて下着を押しのけてささやかな膨らみの頂点にある敏感な部分を探り当ててつまむ。
『・・んっ』
サミ姉はビクンと固く反応して声を殺して喘いだ。
『五月雨ちゃん・・・』
『夕張さん・・ダメです・・・こんな・・あぁっ』
サミ姉の制止も聞かず、夕張はサミ姉のスカートをぞんざいに掃って下着の隙間に手を入れた。サミ姉の下着の中で夕張の手がいやらしく蠢く。
『んっ・・ゆうばり・・・さ・・んんっ』
性器を刺激しながらキスをやめない夕張の唇の端から、サミ姉の喘ぎ声が漏れる。
『ん・・・はっん・・・・んん・・』
「は・・・うんん・・・はぁ・・・」
『ん・ん・・ああん・・・・んん・・』
「は・・・ああっ・・五月雨ちゃん・・はあ・はぁ・・・」
「すずちゃん?」
顔を上げると目の前にサミ姉がいた。
あたしは、といえば部屋の端でサミ姉のぱんつをかぶってエム字開脚して自分のぱんつに手を突っ込んで下着を濡らしている。あれ?
あたしを見下ろすサミ姉は顔を真っ赤に上気させていた。そしてなんか目がぐるぐるしてきている。あたしはぱんつに突っ込んでいた手をバンザイした。
「何でもない!ナンデモナイ!」
何がナンデモナイのだろうか。
さみ姉はあたしの目の前に座り込んで両手であたしの顔をロックした。ガッチリと。
「す・・・すずしゃん・・・」
噛んでるし、サミ姉目が正気じゃないんじゃねぇか?なんだ、なんだ。
そのままキスされた。無造作に舌が入ってくる。こんな乱暴なキスをサミ姉がしてくるなんて思ってもいなかった。すぐに息が苦しくなってくる。ていうか・・・
酒くさ!
あたしはくっつくサミ姉を力ずくで引きはがした。とたんサミ姉はでろ~んとして仰向けにへたりこむ。
「すずちゃ~ん・・しゅきしゅきぃ~」
などとふやけた声を出して、むにゃむにゃしてたかと思うとすぐに静かになって寝息を立て始めた。
「寝るのかよ!」
寝てしまったサミ姉に突っ込みを入れたところでいつものボケが反って来るわけもない。
夕張の奴!サミ姉に酒のましやがったなー許せんな。
仕方ないのであたしはサミ姉を抱き上げてベッドへ運ぼうとした。だが、
「お、重い!」
体格的にはあたしと変わらないはずなので、あたしも持ち上げようと思ったらこんなに重いのかとか思いつつ、これはもたんと一回畳に戻す。へたりこんで、横たわったサミ姉の体を眺める。一番重そうな尻のあたりを撫でてみる。柔らかいのに弾力もあって女らしい良い尻だった。暫くペタペタ触っていたが、反応がないのは意外とつまらないし、このままにしておく訳にもいかないので、ゴロゴロ転がして二段ベッドの下段(下は畳より低い位置にある)に放り込んでおいた。
転がしてもサミ姉は起きる様子もなく、ちょっと眉をしかめる程度で「う~ん」と唸ったがそのまま静かに寝息を立て始めた。
暫くサミ姉を眺めていた。寝顔可愛い。と思ったが酒臭いので添い寝はやめておいた。二段ベッドの上に登って横たわる。
はぁ~~~
ため息が出る。最後の夜だし、ドキドキいちゃラブタイムが待ってると思っていたのに、なんだコレ。
「あたしも寝るか。明日早いし」
あ、ぱんつ被ったままじゃん。
あたしは頭のぱんつをとってからその所在に迷ったけど、ハッと思って湿っていた自分のパンツを脱いで放り投げ、その花の香のするぱんつをはいた。
これで快適に睡眠もとれることだろう。