天頂やや南の高いところにあった太陽もようやく傾いてしばらくしたものの、それで涼しくなったかと言えばもちろんそんなことはなく、相変わらずの厳しい残暑だ。
辺野古基地の防衛任務に就いた私は合衆国軍の駆逐艦娘とペアで近海の哨戒にあたっていた。
「やだなぁ、結構日焼けしちゃったかも」
そう呟いて手袋が被ってない二の腕と肩の間の肌をつまんで確認する。
「あの子は大丈夫なのかな?」
並走している青い髪の僚艦を見る。沖縄の海の色にも似た透明感のある青いセミロングの髪を上げて頭の両側でお団子にしていて一見ショートにも見えるスタイルが元気な感じを醸し出していて良く似合っている。
肌は特に日焼けはしていないようだし、ちゃんと日焼け止めとか塗って対策をしているのだろう。子供特有のきめの細かい綺麗なモチモチ肌だ。
可愛い・・・纏ちゃんなら絶対ほっとかないだろうな。などと思いつつボへーっと見ながら航行しているとその子の赤茶色の綺麗な瞳が私の方を向いた。
「五月雨さん前見てください、危ないですよー」
「そうですねー」
と言いつつ私は青い髪の駆逐艦から視線をそらさない。見渡す限り障害物なんかないし、言われるほど危険でもないと思う。でも、そうか、お話がしたかったのかな。きっかけ作っただけかも。
私はそのまま青い髪の僚艦に寄せていって顔を傾けて笑顔を作った。
「サミュエル・B・ロバーツちゃん」
彼女は少し不思議そうな顔を見せたあと笑顔になって言った。
「サムって呼んでください」
横浜の艦娘が辺野古に到着した時、基地内は随分と落ち着きなく、慌ただしく動く兵士達でごった返していた。
私たちは宿舎に案内されて荷物を置いてからブリーフィングに参加した。そこで辺野古防衛の任を伝えられて、ペアとなる艦娘を紹介された。
「なんか雰囲気似てるし気が合いそうだから、君たちでペアね」
そう言った基地の作戦参謀でおじさんの軍人さんが青い髪の小さい子の背中をパンとたたいてからあたしを手招きした。
『学校の班決めみたいだなぁ』とあたしはぼんやりと思いながらペコリと腰をを折って挨拶をした。
「横浜から来ました、五月雨です。よろしくお願いします」
「サミュエル・B・ロバーツです。こちらこそよろしくお願いします」
そういった彼女はビシッと勢いよく敬礼をしたのだけど、手がいきおい余って目を突いてしまって、しゃがみこんでしまった。
「ふえぇ~」
『うわぁ~ドジっ子だぁ』
などど心の中で思いつつ私もしゃがんで目線をあわせる。
「大丈夫ですか?」
「だいじょうぶです~、よくやるので・・・・」
よくやるのか~。
ん?雰囲気似てるっていわれた?まさか私をこんなドジっ子だと思ったのかな?あ、でもたぶん髪色のせいかな。
ふと作戦参謀を見るとうんうんとうなずいてどこか満足顔だった。なんで?
そんな感じで今に至る。
「サムちゃん?」
「はい」
「サッちゃん」
「あ・・・・・はい!」
表情がパァッと華やいだ気がした。気に入ったようだ。
「じゃぁ私のことはサミお姉ちゃんで」
「・・・ん?」
サッちゃんがそのままの笑顔で少し首を傾げた。
「あ、五月雨でイイデス」
慌てて訂正しておく。纏ちゃんじゃないんだから、それはだめでしょ。
「サッちゃんもそうだけど基地のみんなも言葉ちゃんとわかるよね。すごいね」
すかさず話題をそらしておく。
「学校で習いますので、それに・・・」
サッちゃんは私に向けていた顔を前方に戻して少し間をおいてから言った。
「本国にいたこともないので」
前方を向いたサッちゃんの表情が良く見えない。余計なことを言って、せっかく華やいだ顔を寂しい顔にさせたかと思って私はちょっとあせってしまった。手を胸の前で開いてワタワタしてしまう。
「ご、ごめんなさい、余計な事言って」
ちっちゃい子にお姉さん面していたのがすでにかなり崩れている。
「え?・・・・」
振り向いた彼女は笑顔だった。若干不思議顔だったけど。
「大丈夫ですよ~、沖縄大好きですし」
「そうなんだー、よかったぁー」
寂しい顔をさせなかったのは良かったけども、どうやらサッちゃんには不思議なお姉さんくらいに思われていそうだ。
不本意である。
とはいえ哨戒任務である。私たちは適当に話を打ち切って距離を大きくとって索敵の範囲を広げる。かわいい子と距離をとるのは聊か名残惜しい。
『涼ちゃんどうしてるかな・・・』
かわいい子という単語から涼ちゃんを連想している事にはもう全く違和感はない。かわいい子と言えば涼ちゃんである。異論は認めない。
その時司令部から通信が入った。私は手を耳に当てて傾注する。
『哨戒中の全艦娘に緊急の指令を発令。佐世保発の哨戒艦隊が接敵。被害を受けつつ撤退中である。装備燃料に問題ない艦は佐世保方面に向けて急行せよ。ポイント詳細は追って通知する。待機中の艦娘は装備を整え近海警備へ・・・・・』
私は反転しつつサッちゃんを見る。少し遅れながらも反転姿勢に入っていた。
「サッちゃん!」
「五月雨さん!私も行けます!」
うなずく代わりに右手を大きく進行方向に振る。
「涼ちゃん・・・・・」
湧いてくる不安を押し込めて私は主機の回転を上げた。
そして昨晩のことを思い出す。