涼ちゃんとさみ姉   作:えーひち

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大陸大使館からの帰り道・雨宮纏

『もしもしもしもし~?そちら五月雨のお姉さんですかぁ?』

 

「・・・・・・」

 

『あれぇ?ちがいましたかぁ?』

 

「・・・・それ紗弓のケータイですけど、アナタ誰?」

 

『さゆみ??あぁ、五月雨の艦娘なる前の名前ですな?さゆみいうんですか、可愛らしいお名前でんな』

 

「アナタどなたって訊いてるんだけど」

 

『五月雨からお姉さんが外務次官の秘書やってるってきいてましてなぁ、折り入ってお願いがありますのやけども』

 

「紗弓のケータイをなぜアナタが使っているのかしら?」

 

『お姉さん、これはえらく大事なことです。妹さんお二人の命に係わる事かもしれまへんで、しっかり聞いて下さいな』

 

「・・・・・・」

 

『お姉さんの上司の次官さんに早急に会ってもらいたい人物がおりましてん。取り次いでもらいたいんですわ』

 

「名前も名乗らないで他人のケータイ勝手に使ってくる人のそんな申し出が受けられるとでも?」

 

『受けられるでしょう。妹さん大切ですよねぇ?』

 

「・・・・・合わせたい人物っていうのはどういう人なの?」

 

『人って言うかなんと言いますか・・・なぁ』

 

「・・・・・?」

 

『深海棲艦のお姫はんですわ』

 

 

 

 大陸の大使はこちらの質問に関してまるで要領を得ない、のらりくらりとした回答しかよこしてこなかった。問い合わせ中だとか、通信状態が良くないとか、まるで木を鼻で括ったような対応だった。結局次官は大臣との会合の約束を取り付けただけで、大使館を出る羽目になった。

 帰りの車の中で紗弓のケータイから電話が入って出てみるとおかしな電話だった。

深海棲艦の姫?

「ちょっとまってくれる?」

 纏は電話の相手にそう告げるとマイク部分を手で塞いで、隣にいた次官に電話の内容を告げた。

 次官は一旦渋い顔をみせて後頭部を軽く揉んでから「とりあえず話を進めてみてくれ」と言った。

「いつどこにに行けば良いのかしら」

『今すぐやな、場所はー』

 告げられた場所は意外と近場だったし、纏のよく知っているような場所だった。それもそのはずで、纏や妹たちがずっと住んでいたその町の駅そばのマンションだった。

「今すぐって、随分急な話なのね」

『早ければ早いほど良いねん』

 場所を次官に告げると準備でき次第折り返し連絡するとの旨を伝えるように言われた。

「連絡は紗弓のケータイにかければ良いの?」

『いやいや、今番号言いますんで、そっちにかけてくださいな』

 纏は電話を切って次官に番号を書いたメモをわたした。すると次官は自分のケータイでどこかにかけて、その番号を告げていた。しばらくすると次官はかるく礼を言って電話を切った。

「番号から契約者を調べてもらったが、一般の女性名で、登録住所も会合場所と一致した。名前はリュウザキ・レイナ」

「護衛をどこかに依頼しますか?」

「いや・・・・それには及ばない。状況からみて今の電話は横浜所属の艦娘だろう。会合先の住所も一般のマンションのようだし、契約者も一般女性のようだ。大方普通の市民が大事に巻き込まれて細いつてを頼って接触してきたといった所だろう。それに・・・」

 次官はニカっと笑って纏を見る。

「俺は柔道黒帯だ」

 

 

 

 電話に出たのは若い女性の声だった。最初の電話の主と違って関西弁ではなくて標準語だった。本人がやはりリュウザキと名乗った。

 指定されたマンション前に車を着けるとマンションのエントランス前に背の低い女の子がいた。可愛らしい感じの整った顔の子だけど聊か不愛想な雰囲気がある。茶色がかったロングヘアでツインテールにしたら似合いそうだと自称少女評論家の纏は思う。

 

「あなたがリュウザキさんですか?」

 車を降りた次官が声をかけると女の子はペコリと腰を折ってお辞儀をした。

「はい。来ていただいて、ありがとうございます」

「外務事務次官の山重です。こちらは秘書の雨宮です」

「雨宮です。五月雨と涼風の姉でもあります」

「あ、えっと、大学生の龍崎玲奈です」

 立場を明らかにした次官に対して自分も立場を言わなければならないと思ったのか、龍崎は自分の名の上に大学生という属性をつけた。

 大学生?中学生くらいにみえるけど。

 纏が失礼な事を考えるが口には出さない。龍崎に先導されて、一行はエントランスに入り、エレベーターに乗る。

「護衛の必要はなさそうだな」

「そうですね」

 エレベータを降りたところで山重が纏に小声で言う。なぜか少し残念そうだ。纏に強いところを見せたかったのだろうか。

「最初に電話してきた人は、おそらく艦娘だと私は考えているが。龍崎さんとはどんな関係の人ですか?」

 歩きながら次官が声をかけると龍崎は立ち止まって振り向いて口を開く。ちゃんと相手の顔をみて話さなければならないと思っているのだろう。まじめな子だ。

「それは双子の姉の龍崎純奈です。横浜で艦娘をやっています」

「ほう、お姉さんは関西弁を話していたようだけど、あなたは標準語ですね」

「姉は・・・姉の関西弁は真似事ですので、姉も私も関西で暮らしたことはありません」

「・・・そうなんですか」

 目的の部屋に着く。ごく普通の部屋だ。玄関の扉を開けると中から冷たい空気が吹き付けてきた。こんな時期に冷房を全開にしているのだろうか。龍崎さんは極度の暑がりなのだろうかと纏は思う。

 リビングに案内されるとさらに冷房がきつくて寒さで身震いするほどだった。中央にソファーが二つテーブルをはさんで向かい合っており、、一方に飛行機の模型を抱いた白い女の子の人形が置いてあった。見回してもリビングの中には纏たち3人の他に誰もいない。

「今お茶入れますので」

 龍崎がそう言って脇の方につながっているダイニングのカウンターに向かって歩き出した時、人形がこちらを向いててしゃべり始めた。

「ホッポチャンデス」

 次官と纏がギョッとしてソレを見る。そうだ。ここで会うのは深海棲艦のお姫さまだった。

「ボクサマチャンハホッポトイイマス。ヒレフセ」

「北方棲姫です。この子ちゃんと言えないんです」

「レーナウルサイデス!ウルサイノデス!ホッポハホッポチャンナノデス!」

白い幼女が手足をバタバタとしている。深海棲艦としての怖さも王族としての威厳もなく、ただただ微笑ましい。

ひとしきりバタつくと幼女はピタっと止まった。

「レーナマカロンアルノカ?マカロンタベタイ」

「はいはい畏まりました姫殿下」

 龍崎がカウンター奥にあった小さな踏み台を足元に寄せて、それに乗ってカウンター上の収納の扉を開けてごそごそと探し始める間に、次官は首元のネクタイをキュッとあげて白い幼女の前で跪いた。

「お目にかかれて光栄です姫殿下。私、外務省事務次官山重と申します。こちらは秘書の雨宮です」

 纏も慌てて次官の斜め後ろで跪く。

「お目にかかれて光栄です姫殿下」

「ウム、クルシューナイ。ラクニセヨ」

「あ、お二人はソファーへどうぞ」

 大仰に応対する幼女を尻目に龍崎が軽い感じで言う。

「レーナハダマルノデス!ハヤクマカロンモッテクルノデス!」

 白い幼女は「ぷんすか」というオノマトペが頭の斜め上に出てそうな感じで怒っているが、怖さを微塵も感じないし本物なのだろうかと纏は思う。

 龍崎は「はいはい」と気のない返事をしながら小皿にマカロンを一つ乗せて幼女の前に置き、そそくさとカウンターに戻ってティーポットに茶葉を入れ始めた。

「ソファーデラクニシテヨイ」

 姫殿下の許可を得て次官と纏は向かい合うソファーに腰をおろした。

「オマエタチニ、モシャモシャ、ツタエタイ、ムグムグ、コトガアリュ」

 食べながらしゃべり始めたので途中に咀嚼音が入るし最後はセリフを噛んでいた。そしてそのセリフの後に何か言うでもなくまたもう一つマカロンを掴んで齧り始める。どうやらしゃべるより食べる方に集中することにしたらしい。マルチタスクは苦手なのだろうか?と思ったところで纏は異常に気づいた。二つ目のマカロンを齧っている幼女の前の皿にはもう一つマカロンが乗っている。

 ?????

 龍崎が持ってきたマカロンは一つじゃなかっただろうか?次官も目を皿のようにして皿の上を見つめている。もう目なのか皿なのかよくわからない。龍崎がわんこそばの要領で皿が空になると、目にもとまらぬ早さで補充をしているのだろうか?いやいや・・・・

 ほのかな紅茶の香と共に龍崎がティーカップをそれぞれの前に置き、最後に幼女の隣に座った。

「何個食べたんですか?」

「イッコナノデス」

 龍崎は目を三白眼にして「ふーん」と言った後、幼女の前に置いた皿に目線を移す。皿にはもうマカロンは残っていなかった。

「今あんまり食べると、夕食を食べられなくなりますよ」

「イイノデス!マカロンオイシーノデス!」

「夕食はオムライスですよ」

「!」

 幼女があわあわとし始めた。

「タベラレリュ、ホッポハタベラレリュノデシュ!ダイジョウブナノデシュリュ」

「ホントは何個食べたんですか?」

「・・・・サンコ」

 龍崎が小さくため息をつく。幼女は動揺しながらも龍崎の顔色を上目遣いで見ているようだ。

「正直に言った事を評価してオムライスは作ってあげます。食べられなかったら、冷蔵庫に入れておいて明日朝にチンして食べましょう」

 龍崎がそう言うと幼女は不安そうだった顔を一気に明るくしてから龍崎の膝によじ登っておなかに顔をうずめるようにして抱き着いてしまった。

「あ、あの」

「あぁ、すみませんお見苦しい所をお見せしました。姫殿下と言ってもまだちっちゃい子供なので」

 遠慮がちに声をかける次官に対して龍崎は幼女の背中を軽くポンポンとしながら答えた。

「いや、それは良いのですが、その・・・そのお菓子が皿の上で増えた様に見えたのですが・・・」

「あー、この子気に入った物を複製できるんですよ」

 龍崎がこともなげに言う。

「いや、それは・・・どういった原理で?」

「私にもよくわかりません。そういう能力を持っているとしか言いようがありません」

「いや・・・それはまた・・・何とも・・・便利な能力ですね」

「そうでもないですよ。複製できるのはこの子が気に入った物だけです。ですのでほとんどが食べ物ですね。もっといろいろ役に立つ物を複製出来ればよいんですが・・・お金とか・・・」

 いや、お金複製したら犯罪だから。

「この子来てから冷房費が嵩んで大変なんです」

「ワガタミヲイジメルノヲヤメルノダ」

 龍崎と次官の会話に突然幼女が割って入った。見ると背を向けていた姿勢から二人を正面に見る姿勢に変えていた。龍崎の膝の上に鎮座していることは変わらないが。

「シズメルノハヨイ。ボクサマチャンタチハシズムコトハ、イヤデハナイ」

「嫌ではない?」

「シンカイハ、シズカデ、ユルヤカデ、スズシクテ、オダヤカデ、キモチイイトコロダ」

 そういう認識なのかと纏は思う。深海は良い所?

「ボクサマチャンタチハ、カンムスモ、ホカノフネモ、ヨイトコロニキテホシイトオモッテル。ダカラシズメル」

 衝撃を受けた。世界の常識がひっくり返るような、とんでもない発言だった。深海棲艦は好意で船を沈めていると、この姫殿下は言っているのだ。

「デモ、コノマエ、ワガタミヲタクサンショウメツサセタニンゲンガイタ」

 二人がハッとする。人民解放軍による天津への核攻撃の事だ。

「ショウメツハイヤダ。カナシイ。ユルサナイ」

 白い幼女の姫殿下は目を見開く。赤い瞳が丸くなって光ったように見えた。

「ボクサマチャンハ、スグニデモカンタイヲヒキイテ、ハンニンヲコラシメニイク。ダカラソノシンゲキヲ、オマエタチハジャマスルナ」

「すぐ行くんですか?オムライスは食べないんですね」

「オムライスタベタライクノデス」

 この事態に対してこの雰囲気は緊張感を保つのが難しいなと纏は思う。

 

 

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