涼ちゃんとさみ姉   作:えーひち

28 / 34
五月雨遭遇戦へ

前方を青い髪をたなびかせて進む五月雨さんは綺麗だった。あたしは五月雨さんの斜め後方から眺めながら思う。

 

『レイニーブルー』

 

 昨年、横須賀横浜鎮守府との合同演習に参加したアイオワさんが言っていたこの『レイニーブルー』という異名はおそらく五月雨さんを呼んだものだ。

 卓越した判断力と操艦能力を持つ凄い駆逐艦がいたと、アイオワさんは言っていた。空と海の蒼に柔らかい光のように舞う青い髪の美しい五月の雨。『レイニーブルー』と。

 アイオワさんが褒め称えながら『アナタをレイニーブルーと呼ぶわ!』と本人にいった所、五月雨さんは顔を赤らめ、はにかんだ様になって言ったらしい。

 

「やめてくださーい」

 

かくしてこの異名はまったく定着せずにアイオワさんだけが言っているわけなんだけども・・・・

 実際接してみると、そんなに凄そうな感じはしないし、優しくてちょっと面白いお姉さんといった感じかなー。

 でも結構なドジっ子らしいと言う話は基地の参謀おじさんから聞いた。ドジっ子はあたしがカバーすれば良いしそれはいい。

そしてあたしを『さっちゃん』と呼んでくれた。

あたしは沖縄が好きだ。国籍は合衆国だけど本国にいたことはなくて、沖縄で生まれたし、学校の友達も半数はこの国の子供だし、会話する言葉もそうだ。

 みんなあたしのことは『サム』と呼んでるけど、あたしもこの国の子達と同じような呼び名で呼ばれたかったんだ。

『さっちゃん』は良い響きだ。この国の子供っぽい。嬉しい。

 あの人にはそれが分かっていたのかもしれない。そんな気がした。

 

「さっちゃん通信中継用のブイを出してくださいー」

前方を行く五月雨さんが振り向いて言う。完全に身体ごとこちらに向けているので後ろに向かって航行している形だ。器用だなー、あれって向き変えるとき大体バランス崩してこけちゃうのが普通なんだけど。

「ごめんなさい、さっき出したのが最後のブイで、もう持ってないですー」

「あ、そっかー」

あははははと笑っている間も後進巡行してるの器用だけどなんだろう、さっきブイはこれで最後と言ったはずだけどやっぱりどこか抜けているのだろうか?

 速度が落ちてあたしと並びかける前にまたくるっと前を向いた五月雨さんは、主機にひっかけてあった中継ブイを取り上げて、起動した後ポイっと脇の方になげた。途端に通信が入る。

 あまり遠くないところで戦闘になっているのだろうか

『そこ、回り込んで!』『連射!連射!やすむな!撃て撃て!』

連携のための短距離通信っぽい感じの怒声が飛び交っている様子だった。

「前方!10時の方向!」

五月雨さんの言う方向を見ると、かろうじて肉眼で確認できる程度の光や煙が上がっているのが見える。

「五月雨さん!」

「うん!急行しよう!」

「はい!」

 

戦場に向かう間、入り続ける通信は段々と戦況の悪化を伝えて来ていた。早くいかなければと気ばかりが焦る。

『敵の数が多すぎるよ!撤退した方がいい!!』

『夕立突っ込みすぎ!夕立!あー、っもうっ』

『私が殿を務めるわ』

『由良!』

『まかせて!夕立ちゃん撤退よ!!』

『大きいの射程に補足!母艦っぽい!』

『夕立ちゃん!』

戦場の方で大きな爆発が起こった。

そんな中、やがて耳を疑うような通信が入って来た。

『ゆ・・・由良が・・・・由良、轟沈・・・夕立を庇って・・・』

『いかん!夕立をつかまえとけ!いかせるな!』

 由良?由良って軽巡にそんな名の艦がいた気がするけど。え?轟沈?

「さっちゃん急ぐよ!」

 顔を上げると五月雨さんがもう、前方に小さくなっていくのが見えた。最大戦速まで上げているんだ。

 艦の最高速度はそんなに変わらないはずなのに、なんで?もう見えなくなってしまった。

『は?五月雨?』

『みんなはそのまま撤退してください、夕立ちゃんはまかせて』

『夕立ちゃん!』

『止めるなぁーーーーー!』

 何かが接触したような音が入った。それっきり通信が入らなくなった。

やがて撤退してきたと思しき駆逐艦が4隻こちらに向かってきた。通信が入る。

『あなたは?』

『サミュエルBロバーツ、辺野古所属です』

 あたしはそのまま速度を緩めずにその艦隊とすれ違う。すれ違いざまにちらっと確認。かなり破損しているが、航行に支障はなさそう。そう判断して前方を見据える。

『もう撤退よ!』

『五月雨さんを援護します!』

 戦場にたどり着くと五月雨さんがグッタリした駆逐艦を抱えながら、敵を足止めしていた。また後ろ向きに航行しながら砲撃をしている。とんでもないなこの人。

 大外からターンして減速を最小限に抑えてなんとか五月雨さんと並走した。あたしは後ろ向き航行なんて無理なのでターンの時に魚雷を放出しただけだ。

『さっちゃんいいトコロに来たくれたね』

『五月雨さん!』

『夕立ちゃんをお願い』

どさっとぐったり駆逐艦を渡された。

「わぁ!」

少しよろける。

『そのまま撤退して』

『はい!五月雨さんも!』

『・・・そうだね、敵が減速してるみたい。さっちゃんのさっきの魚雷放出に警戒したんだね、撤退チャンスだよ』

そういった五月雨さんはぴょんとジャンプして身体を180度回転させてあたしと同じ方向を向く。そしてサムズアップして笑った。

『さっちゃんナイスです~』

五月雨さんはあたしの反対側で夕立さんの腕を首にまわして肩をかつぐ。ふたりで夕立さんを引きずる様に航行した。

しばらく行くとさっきすれ違った艦隊と合流できた。1艦が後ろに回ってきて夕立さんの後頭部を確認してきて、渋い顔をしている。

「回し延髄蹴りとか・・・えげつねぇ・・・」

そんなことを呟いて距離をとって行った。

わたしはそれが何のことか判らなかったけど、通信で聞くような雰囲気でもない。誰もが無言で撤退路についていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。