「振り切ったかな?」
サミ姉が身体全体を後ろに向けて後進しつつ後方を見ながら言う。器用なもんだな。あたしも後方を確認したが、敵影はみえなかった。
「あれってどう見ても何かの割と大規模な作戦行動中って感じだったわよね」
霞も後方を確認しながら言う。
「敵もバカじゃなければ、突発で遭遇した小部隊の追跡にそうそう戦力は割かないじゃないかしら」
「そうかも」
同意しながらサミ姉はぴょんと一回ジャンプしつつくるっと回って前を向いた。
「通信は?」
「だめですねぇ、繋がりません」
「だよね」
霞が言うのと同時にサミ姉がが右手をあげた。
「もうすぐ救出ポイントだよ」
サミ姉の声にあたしは顔を上げる。しかし海以外何も見えない。やがて救出ポイントにたどり着いたが、やはりそこには何もなかった。
「夕張さん・・・・」
サミ姉が不安そうな声を出す。散開してポイントを中心に周辺を哨戒するがやはり何もない。
『沈んでしまったのだろうか』そう思ったが口に出したくなかった。口に出したらそのことが確定しそうな気がしたのだ。
ふと顔を上げると爆艇群がこちらに向かってくるのが見えた。
「敵接近!」
振り向いて叫ぶ。俯いていた面々がハッとして顔をあげる。
「追ってきた?」
「バカなの?」
先刻とは立場が逆になってしまった。こちらは停泊中、敵はトップスピードだ。今から加速しても追いつかれてしまう。敵の機銃は怖くないが、スピードの乗った体当たり攻撃はそう何回も耐えられないだろう。
「少しでも相対速度を縮めよう、最大戦速!」
サミ姉の指示が飛ぶ。あたし達は即座に主機の回転を上げる。
「魚雷!もうありったけばらまいちゃって!」
「がってん!」
各員が後方に魚雷をばらまきつつ加速する。そう間もなく後方で爆発音が多数上がった。もうそんなに近くに迫っているのか。見るとサミ姉が後ろ向きに加速しながら砲撃を始めた。さすがに普通に前進するのとは加速力が劣るようでサミ姉だけが遅れている。
「サミ姉!無理すんな!」
聞こえてるはずだが、サミ姉はかまわず砲撃を続けている。どんどんサミ姉との距離が開く。もう逃げるのをあきらめて反転攻勢した方がいいかと思ったが、あたしはさっちゃんと二人で夕立を担いでいる。
「くっそ、夕立!起きろ!いつまでも寝てんじゃねーぞ!」
あたしは夕立の顔をばんばん叩いた。
「ふにゃ・・・?」
夕立が緊迫感の無い声を漏らす。気が付いたようだ。うなだれていた顔を上げて周りを見回す。後方をみて目が吊り上がった。
「あいつら!」
夕立があたしとさっちゃんを振りほどいて後方に向かおうとしたが、主機を作動させていなかったので、支えをなくしてそのまま水没してしまった。
「夕立!この馬鹿!」
「反転攻勢!」
霞が逃走を諦めて反転の指示を出す。夕立は水没するしサミ姉は単独になってしまっている。もう反転するしかない。
主機を作動させた夕立が浮上してきて砲撃を始める。
「沈めー!」
あたしと霞、さっちゃんが大きく回って反転する。相対的にサミ姉より敵に近い位置に出る。というかもうほとんど敵の目の前だ。
「凉ちゃん!あぶない!」
サミ姉も後進を辞めて反転に入る。
「うわー!!」
あたしは目の前から迫ってくる爆艇をかわしながら乱射砲撃をする。あたらねぇ、すぐによけきれずに爆艇の体当たりをひとつ受けてしまった。
「凉ちゃん!」
爆発する爆艇の火力はフィールドのおかげでかなり減衰したけど、圧力でかなり速度が落ちてしまっていた。後方からきたサミ姉がすり抜けざまにあたしを呼びながら脇にグイっと腕をねじ込ませてきた。スピードに乗ったサミ姉に引っ張られて加速する。夕立と霞、さっちゃんは僅かに前方で砲撃を繰り返している。あたし達はひと塊になって敵集団のど真ん中を割って突き抜けた。
サミ姉が脇にあった腕をスルリと抜いてから肩に手を掛けて顔を覗き込んで来る。
「大丈夫?凉ちゃん」
「へっちゃらでー!まだいける!」
夕立が先頭から反転行動を始める。このまま撤退もありかと思ったけど皆も夕立に続いて反転に入る。
「この海域には夕張さんたちがいるかもしれないし、ろくな調査も出来ずに撤退はないよね」
「だな」
前方の敵は動きが鈍いのか、反転もせずに後ろをさらしたまま加速もしていない。このまま後ろから強襲すれば殲滅もできるだろう、と思った矢先だった。後方から機関砲弾の掃射する音が聞こえた。後ろを見ると敵集団のもう一部隊が迫ってきていた。
「後方敵集団!結構な数だ!」
あたしが先頭に向けて叫ぶように報告をすると、霞とさっちゃんが振り向く。夕立はそのまま前方の敵を睨んだままだ。
「不味いわね、このままだと囲まれるわ」
「連携して囲みにきてたんだね、やられちゃったな」
眉根をよせて渋い顔を見せる霞にサミ姉が小さな声で呟く。霞には聞こえないだろう。
「サミ姉、どうする?」
「反転、はないね、包囲が完成されちゃいそう・・・」
霞はしかめっ面のまま、そう言ったサミ姉を見ている。さっちゃんは不安そうな顔でやはり視線はサミ姉に向いている。頼られてんなー、サミ姉。
「最大戦速!後方の敵が追いついてくる前に前方の敵を後ろから強襲!食い破ろう!」
先頭の夕立にも聞こえるようにだろう、サミ姉が声を張った。
「がってん!」
「了解!」
「了解ですー!」
夕立だけが無言だったけど、速度を上げることで返答としたようだった。