厳しい残暑も去って久しく、過ごしやすい昼下がりだ。うろこ雲やらサバ雲やらと秋の雲すら一つもない快晴の空だったけど、見上げると街路樹のイチョウの黄色が綺麗なコントラストでしっかりと季節の到来を感じさせていた。
隣を歩く蒼髪ロングの女の子はベージュのニットにダークブラウンのハイウエストなロングスカートを装い、落ち着いた雰囲気がとてもよく似合っていた。いや、誰この美少女?いやー、こんな美少女とイチョウ並木をお手々つないで歩いてるとか、あたしも鼻高々!まわりのシングル共すまんね!超美少女だろ!コイツあたしの嫁なんだぜ!
噓だけど。
ていうか姉だった。ていうかサミ姉だ。
「なんか変なにおいするー、便所臭い?」
相変わらず見た目に似合わない発言が残念な姉をつれております。どーも涼風です。
「イチョウの実の匂いだろー、銀杏だったっけ?」
「あーこれかぁ、散らばってる丸っこいの」
などと言いつつサミ姉はガシガシとちらばった丸い実を踏みつぶしてキャラキャラと言った感じで笑っている。え?誰コイツ、バカなの?よけい臭いじゃん、ていうか銀杏って食べ物だぞ、食べ物粗末にすんなし。と思い他人のフリをして離れようとしたけど、右手をがっしりと掴まれていたので無理だった。
それはさておき、(バカ姉はさてに置いといて)今日は夕張と三人デートなのだ。この先の公園で夕張が待っているはず。
先の戦いが終わって1か月ほど経過していた。あの後夕張たち深海棲艦の艦隊は別コースで進出していた艦娘の連合艦隊と合流して、天津沖で大陸の人民解放軍と激突し、勝利していた。その際大陸で現出した艦娘を数人保護したらしい。この辺の話は極秘事項とされていたようだったが、作戦終了後に夕張と会った時しれっと喋ってしまっていたのだ。その艦娘はミサイル巡洋艦に積まれた核ミサイルの中から救出されたと。この話を聴いた当初は、なんでそんな事をするんだ?と思ったものだが、後々からよく考えてみるとその行為の恐ろしさに戦慄せざるを得なかった。あれは艦娘のフィールドを使ったのだ。艦娘をミサイルに押し込めることにより、深海棲艦側のフィールドを無効化しようとしていたのだ。
未だに思い出すとぶるっと震えが走る。あの時爆艇群はあたし達を包囲して、攻撃せずに何かを待っていた。あれはたぶんミサイルに詰め込む艦娘として捕獲する事を考えての行動だったのだろう。これは確かに極秘にしたくなる。ただこの辺深海棲艦側がかなりゆるい集団なので、夕張とか平気で喋ってくれちゃうわけだけども。
深海棲艦はその後天津に拠点をおいて、夕張や由良もそこに常駐となったし、夕立まで由良について行ってしまった。市ヶ谷もそれには相当な難色を示したが、深海棲艦側がまったく違うとらえ方をしていて、感性が違うというか、結構適当でいい加減な集団なので、問題なく受け入れられているらしい。
そして沖縄の潜水艦も天津に配備されていた。ミサイル防衛を担うことになったらしい。そのあたりの勢力間の条約などには、夕張も詳しくなく、経緯についてはよくわからない。それでもとにかく、一応は大陸の軍も大人しくなってくれたようだった。
こう言うと、深海棲艦は人類の味方となり、脅威は去ったかのようにみえるかもしれないけど、そうではない。味方となったのは北方棲姫が率いてる一部の集団だけで、その支配の及ばない大多数の深海棲艦は相変らずの脅威なのだ。
深海棲艦側としたら全く好意でしていた事が脅威となっている事実を伝えることができたのは幸いだが、コミュニケーションが上手くとれたのが北方棲姫率いる一団だけだけであり、姫殿下としては他の集団群にこれを働きかける気はサラサラないという事らしい。市ヶ谷としては腹立たしい話ではあるが、このあたりも感性の違いが如実にでている所なのだろう。
ほのかに薔薇の花の香が漂う公園にに到着すると間もなく、海沿いにしつらえられた欄干にもたれかかる夕張が見えた。落ち着いたパンツルックだ。胸元に掲げたタブレットを真剣な眼差しで操作していた。ははっ、深海棲艦になっても夕張は夕張だなぁ。
「夕張さん!」
サミ姉が駆けだすと、夕張が顔を上げた。大きく手を振り、もう見慣れたあの凶悪な笑顔を見せる。
あたしもその後に続いた。