涼ちゃんとさみ姉   作:えーひち

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急行(涼ちゃんが暢気に解説する深海棲艦)

朝焼けがほぼ正面に広がった水平線を見ながら、あたしたちは進む。もう少し日が上がってくると視界に入っている太陽がまぶしくなりそうだなと思った。

まだ戦場には少々遠いが周囲を警戒しながらの大きく広がる輪形陣で進んでいる。

最後方のあたしは皆が引く航跡、海の群青と泡の白のコントラストを眺めながら『きれいだなー』などど暢気に考えていた。

さて戦場に向かうあたしがそんな暢気なことを考えているとか、不謹慎だとクレームを入れる人もいるかもしれないが、だがしかし。

実は深海棲艦というのは艦娘にとっては決して大きな脅威ではないのだ。

挑む相手の艦種を間違わなければ、多少の数的劣勢もあまり問題ではない。

きちっとした手順を踏んで、落ち着いて戦えば負けることはないのだ。

ましてや今回はプラントの守備隊に加えて、あたしたち水雷戦隊と横須賀の高火力艦隊が当たるわけだ。偵察機からの報告では多少数が多いがほとんどが駆逐イ級で大型艦はいないという事なので、特に心配する要素はみあたらない。

 

艦娘にとって脅威となりえないそんな深海棲艦が世界の海と空を封鎖しえたことには、はなはだ疑問を持つ方も多かろうと思う。

確かにそうだ。そう思うのはとても自然なことだ。

 

それは深海棲艦には艦娘の放つ実弾以外の攻撃が全く通用しないためだ。

 

深海棲艦が現れた当初、太平洋で合衆国空母打撃郡の3郡がたった一昼夜で殲滅され、しかもこの時深海棲艦側にほとんど被害が出なかった。

そしてその被害といえば同士討ちによる物だけだったのだ。

深海棲艦は戦艦タイプから輸送艦、魚雷ボートなどの小さな船に至るまで、すべての艦が霊的なフィールドで覆われていると考えられている。このフィールドがすべての攻撃を無効化してしまうのだ。

現在は否定されているが、当時は様々な説が飛び交っていて中には、深海棲艦は高次元の存在で、実は本体はこの次元には存在しない。などという説までまことしやかに語られていたほどである。

当時まだ深海棲艦は太平洋にしか現れておらず、覇権国であった合衆国は国連に働きかけて国連軍による深海棲艦包囲殲滅作戦を立案。加盟国全軍で深海棲艦を包囲して核ミサイルによる飽和攻撃で一気にケリをつけるというまるでハルマゲドンのような作戦だった。こんな無茶な作戦が国連の承認を得たという事実だけでも当時の世界の慌てようが理解できることだろう。

しかしその結果は惨憺たるものだった。切り札であった核ミサイルは全弾起爆すらせずに海中へ没しただけだった。深海棲艦のフィールドは核爆発ではなく、核ミサイル自体を無効化してしまったのだ。切り札を失った包囲艦隊はただ薄く広がった脆弱な陣形の艦隊となり、個別撃破の憂き目に会い、残った艦隊も散り散りとなって遁走していた。

この作戦の失敗により、人類は絶望の淵に叩き落された。

しかし同じ頃、極東の島国で顕現化し始めた艦娘が深海棲艦の物とてもよく似た霊的フィールドを持つことが判明。彼女らの艤装から放たれる実弾兵器がそのフィールドをまとった状態で着弾すると、深海棲艦に打撃を与えられることが判った。

そんな有効な攻撃手段を得たところで判明した重大な事実がある。

 

深海棲艦は頭が悪い。もっと言うとバカだった。

手あたり次第敵に向かって突進する、囮にことごとく引っかかる、誘い出せばノコノコ出てくる。およそ組織的行動など期待もできないお粗末集団だったのだ。

まさに烏合の衆。

しかし脅威がないわけではない。深海棲艦の最大の脅威はその数だ。遠洋に行くにつれ、その数が増す。海が深ければ深いほど多く、さらに大型の物が発生するといわれている。これが深海棲艦と呼ばれる所以でもある。

『数だけが脅威とか、まるでゾンビだよなぁ』

僚艦とは距離があるので、ちょっとつぶやいてみたところで誰も反応しない。

そして深海棲艦に沈められた艦娘は深海棲艦になるという噂もあったりする。

『まさにゾンビじゃん』

朝焼けの色も去り、夏っぽい空に変わりつつあった。

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