この空の果てまで   作:飛び出す絵本(りみてっど)

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※ちょっとした注意
♪は普段は使いませんが、今回から出るキャラは原作の台詞準拠で使います



城塞都市アルビオン Ⅲ

 

 朝、轟音で目を覚ました。

 

「……最悪の目覚めだな」

 

 そう呟いてから体を起こしてベッドに座るような体制になり、精神を集中する。侵入者や魔物の気配はなく、地下の方から見知った気配の慌ただしい動きを感じ取り、どこのどいつがやらかしたのかを大まかに把握すると、深いため息を吐いた。

 

 それからすばやく着替えて身支度を整えていると、コンッ、コンッ、と配慮を感じさせる控えめなノックが私室のドアから聞こえてきたので、手を止めて扉越しに返事をする。

 

「ああ、いつもの君か。おはよう。さっきのアレについての話か?」

 

「おはようございます、レン様! ……はい、ご明察の通りです。朝早くから誠に申し訳ありませんが…… この騒ぎの元凶のところへご案内いたしますので、ご支度を終えるまでここで待たせていただいてもよろしいですか?」

 

「構わない。あと2分ほどで終える」

 

 この兵士、以前の虎の魔物の時から被害報告担当みたいになっている。なので日々、彼は胃の痛みを感じているのだろう。今もそんな雰囲気を感じる。そして俺も胃が痛くなるのを感じている。

 嫌な仲間意識もあったものだと思う。

 

 それから彼を連れて地下へと向かいつつ、到着してからの説明時間を短縮するために道すがら大まかな話を聞いてみることにした。

 

「で、地下と言えば魔法使い達の研究地区だろう。あいつら今回は何をやらかした?」

 

「それがですね…… 昨夜魔法構築についての議論をする会を開いていたようなのですが、白熱した結果深夜まで続いたそうです。ここまでは普段通りでした」

 

「あぁ、うん。…それで?」

 

「そんな中どなたが言い出したのか『なぁ、前々から思ってたんだけどお前らの使い魔弱すぎひん?』との煽りがきっかけで……」

 

 あぁ、もう十分理解できた。深夜特有のテンションのせいもあり、そこから使い魔同士を戦わせる流れになったんだろう。非常に残念ながら、こういった魔法使い同士が軽いノリで被害を出すことは割と日常的な出来事だ。

 

 もういっそ城から離れた場所にでも隔離してやりたいのだが、手元に置かなければ今よりもっと大きな騒ぎを起こすことは明白だ。そのうちゾンビパーティとかを引き起こしそうで夜も眠れなくなるだろう。

 しかし一方で、対魔物用のスペシャリストや魔法の神髄ともいえる領域に足を踏み込みかけている優秀な奴らばかりなのもまた事実である。こいつらはアルビオンが都市として得ている収入額と支出額の両方でトップをとっているのだから、実に頭の痛い存在だと言える。

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

 地下に到着した辺りで、ここまで連れてきてくれた兵士には礼を言って返した。ここから先で待つ胃痛を味わうのは、俺一人で十分だろう。

 

「……ふぅ。よし、開くか」

 

 一度深呼吸をして覚悟を決めてから扉を開くと、我が妹に向かって男女合わせて6名の魔法使いが扇形になって土下座していた。

 そのあまりに異様な光景に言葉を失っていると、扉を開けた音に反応してこちらを振り向いたヴィーラが、満面の笑みを浮かべて口を開いた。

 

「あぁ、お兄様! ご足労いただきありがとうございます! ……それで、この羽虫たちの件ですが。今日という今日はお兄様の寛大な慈悲も必要ございません。私が責任をもって処理致しますので、ご許可をいただけますか?」

 

 処理、という露骨に死を連想させる語句にビクッと肩を震わせた6人だが、顔を上げることはしなかった。……おかしい。こいつらは使い魔の乱闘騒ぎを起こした程度でそんなに反省するような殊勝な奴らだっただろうか。いや、ありえん。普段のこいつらならすでに開き直っているはずだ。

 

 非常に、嫌な、予感が。

 

「……まさか、使い魔騒動の他にも何か?」

 

 その問いに対して、ヴィーラは笑顔で答えた。目は一切笑っていなかったが。

 

「ええ、それはもう。……よりにもよってこの虫ケラたちは!お兄様の至宝たる剣を!真っ二つに折ったのですから!」

 

「………………は?」

 

 呆然とした声が思わず漏れる。それも仕方のない事だろう。

 ヴィーラのいう至宝の剣と言えば、『クロノスの剣』でまず間違いない。

 『クロノスの剣』というのはゼタの持つ『アルベスの槍』並みに貴重な武器で、その能力は()()()()()()()()()()()()()()()()こと。あまりにも強力であり、能力を任意で抑えるの事のできないこの剣を危険だと判断した俺は、それでもいつか使わざるを得ない状況に陥った時のことを考え、とあるツテを用いて俺以外にとってはただの剣になるよう能力を封印し、地下の宝物庫に厳重に保管しておいたのだが。

 

「………よし、話だけは聞いてやる。誰でもいい、説明しろ」

 

「では私めが! 是非とも!」

 

「……分かった、お前でいい」

 

 その言葉を聞いたシルクハットと杖が特徴の男はゆっくりと立ち上がると、それまで土下座していた人間の表情とは思えないほど晴れやかな顔で口を開いた。

 

「さすがは聡明にして慈悲深き領主様! さすがの私も、例の剣が折れた時には『あ、これは殺されるわ』と思いましたが! まさかお話を聞いていただけるとは!」

 

「お兄様が素晴らしいのは当たり前の事です。ところで、優秀で立場のあるお兄様は当然、あなたたちのような羽虫とは違い予定が詰まっているのですが……? これ以上余計なことを話して時間をとらせるのであれば、お優しいお兄様に免じて与えた弁明の時間はここで終わりにしますが、よろしいのですね……?」

 

 ヴィーラが威圧感たっぷりにそう言い放つと、未だに正座を崩すことを許されていない5人は、てめーのせいで巻き添えになるだろ、とばかりに一斉に男を睨みつけた。

 それを横目に見つつ、仕方がないので助け舟を出すことにした。

 

「今はそういうのはいいから。さっさと話せ」

 

「かしこまりましたぁ! 確かに、初めこそ領主様のおっしゃる通り、ただ使い魔を1対1で戦わせて強さを競わせているだけでした…… そう、使い魔たちの戦闘で生じた音を耳にしたケルちゃん様が『使い魔同士のバトル? なんだか楽しそうね♪ アタシも使い魔なんだし、参加してもいいわよね♪』と言っておもむろに乱入してくるまでは!」

 

「あぁ、うん……」

 

「そしてそれを目にした瞬間、我々は即座にアイコンタクトを交わし、緊急会議を行いました!『星晶獣ktkr』『6対1でも勝てんぞ!』『無理ゲーすぎぃ!』『……いや、逆に考えるんだ。私たちも参加して12対1なら勝てるのでは?』『それな』『それな』 と」

 

「お、おう……」

 

「そしてついに始まった激闘ぅ! 我々の息の合ったコンビネーション技の前には、ケルちゃん様といえども防戦一方という具合でした! しかしっ、残念ながら! 我々の中には対魔物のプロフェッショナルこそ居れども、対星晶獣のプロは居りませんでした…… 勝負を決め切れることは叶わず、一名が魔力切れで脱落してからは、徐々に押し返されてしまい…… くっ……」

 

「あ、はい」

 

「しかしあわや残り三名でこちらの敗北となったときに、私はふと思いました!『これはもしや……私の秘められし力がこの窮地に覚醒して、奇跡の勝利を掴むパティーンでは!?』と! それから私は、宝物庫へと走りました。そしていつかここぞという時に披露しようと、20年もの時をかけて用意していた『宝物庫の全ての仕掛けを指パッチンで解除する魔法』を用いて悠々と中へ入りました! そこで私が見たものとは! そう、まさに封印されし剣、といった見た目をした武器でした!」

 

「うわぁ……」

 

 考えうる限り最悪の連鎖反応が起きてやがる。どうなってんだ。

 

「そしてそのやたら重い剣を持って決戦場へと舞い戻った私は、その剣でケルちゃん様に切りかかりましたが……はっはっは! まるで駄目でしたな! ミミ殿にあっさりと受け止められた挙句、その場でぽっきりと折れてしまいました!」

 

「説明ご苦労。お前、10年減給な」

 

「何ですと!?」

 

 むしろお前、本来なら牢屋ぶちこみ確定だから。

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

 ヴィーラを連れて宝物庫の扉を開けると、両手に犬のような生き物を付けて露出度の高い恰好をした女性が居り、真っ二つに折れた剣を前にしてうんうんと唸り声を上げていた。

 この女性の名前はケルベロス。魔力関係はからっきしな俺が、とある事故で彼女を召喚して以来、責任をもって面倒を見ている使い魔である。

 

「うーん、この剣よねー。どうにか直せないかしら?」

 

「無理に決まってるわん!」

 

「専門外にもほどがあるわん!」

 

「でもでもー。これが直せたらマスター、ぜっったいに喜んでくれるわ♪」

 

「ウチとココには何の関係もないことわん!」

 

「全くもってその通りだわん!」

 

「えー? そんなことないわよ♪ ご褒美は、マスターとのお散歩にするんだから♪ お散歩なら好きでしょ?」

 

 両手の犬ーミミとココという名前らしいーと会話を続けるケルベロスに、後ろから声をかける。

 

「ケルベロス。その剣、ちょっと見せてくれ」

 

「あら、マスター来てたの? いらっしゃい♪ 待ってたわ♪」

 

「……あまり私のお兄様に、近づかないでいただけますか?」

 

 こちらに近づいてくるケルベロスと俺の間に滑り込むような形で入り込んだヴィーラは、ケロべロスに鋭い目を向けながら話しかると、剣を取ってこちらに手渡してきた。

 それからも俺の背後ではミミココとヴィーラ達が言い争っていたが、その声も耳に入らないほどに集中して、俺は二つに折れた『クロノスの剣』をしばらくの間じっと見つめていた。

 

「これは確かに……どうしようもないか。 いや、加工して短剣に生まれ変わらせたりできるならまだワンチャンあるか…?」

 

 次に向かうべき目的地は、どうやら鍛冶屋になるらしい。

 今日という日はまだまだ長い一日になりそうだ。そんな予感を抱きつつ、未だに言い争っている二人と二匹を連れて城下町へと足を進めた。

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