この空の果てまで   作:飛び出す絵本(りみてっど)

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城塞都市アルビオン Ⅳ

 

「旦那ぁ、こりゃぁもう駄目だ。手の打ちようがねぇよ」

 

「そうか……」

 

 差し出した真っ二つの『クロノスの剣』を様々な方法で検査してくれていた鍛冶屋の親父が、きっぱりと断言した。

 

「一介の鍛冶師にゃ過ぎねぇ俺が、今後一生関わることはねぇレベルの逸品だってこたぁ分かるんだがなぁ…… 金槌で軽く叩きゃぁ分かる、こいつは()()()()()()

 

「そこまでか? もう少しは手の施しようがあるかと思ったんだがな…」

 

 彼はこのアルビオンで随一の鍛冶師だ。彼が言うからにはそうなんだろうが、ケルベロスの防御力がいくら高かったとしても、一度使った程度で果たしてそれほどの結果が生まれるのだろうか、という疑問が残る。

 

「そうですねぇ、こいつは俺の感覚みてぇところからの推測になるんですが…… 本来の力が使えねぇ状態で、力を引き出さざるを得ねぇような相手を切りつけたことで、無理やり能力を発動しようとした結果自壊した、みてぇな感じを受けまさぁ」

 

「あぁ、うん。そっかぁ…」

 

「……お兄様、やはり今からでも遅くはありません。あの男、処刑することに致しましょう」

 

 隣で話を聞いていたヴィーラが表向き冷静な態度でそう告げるが、俺には分かっている。ここ最近で一番と言ってもいいほど、この妹がキレているということが。

 ちなみに、ケルベロスとミミココのコンビは検査の待ち時間が退屈だったのか、少し散歩してくると告げてどこかへ行ったためこの場にはいない。

 

「いや、いいさ。宝物庫の管理に問題があることも比較的ましな段階で分かったし、この剣も最近は一度として使う機会がなかったからな。それに何より、領主ともあろう者がいかに少数と言えども、人前で一度下した判断をすぐさま翻すというのは好ましくないからな。そのあたりはヴィーラも分かっているんだろう?」

 

 ヴィーラを落ち着かせるためというのも確かにあるが、これは割と本音だ。あの時はあまりにも予想外の出来事だったため呆然としてしまったが、そもそも『クロノスの剣』は偶然手に入れたものであって、苦労して探したものではない。その上、使ったことが数えるほどしかないので、自分の物だという感覚があまり無いというわけだ。

 もちろん選択肢は多いに越したことはないので、痛くも痒くもないとは言えないが。

 

「……ええ、そうですね。しかし、このままあの者たちがお兄様の優しさの上に胡坐をかき、これまで以上の厄介ごとをお兄様に押し付けるようなことがあれば…」

 

「あぁ、そうなった時には頼む。それと……いつもありがとう、ヴィーラ。お前が常日頃から俺のことを思って行動してくれていることは、俺も十分に理解しているつもりだ。妹頼みなのは兄として少しばかり情けないが、やはり領主としての立場ゆえに目の届かないところも出てくるからな…… これからもよろしく頼む」

 

 そう告げてヴィーラの髪をリボンが解けない程度の強さでゆっくりと撫でると、彼女から出ていたピリピリとした空気は瞬く間に離散した。

 こういった切り替えの早さは、妹の美点の一つである。

 

「そんな……勿体ないお言葉です。お兄様の脅威を排除することこそ、妹である私の役目なのですから……」

 

 それから少し経ったあたりで、趣味の散歩に行っていたケルベロスが戻ってきたのでヴィーラの髪から手を離した。

 

ちっ…… 犬っころが余計なことを……

 

「たっだいまー♪ マスターの用事も終わったかしら?」

 

「ああ、ちょうどいいタイミングだ。直せないということも分かったし、これ以上の長居は無用だろう。店主、今回はただ働きさせて済まなかった。次は仕事の話をしに来よう」

 

「いえいえ、とんでもねぇです! また何かあった時にはお待ちしてまさぁ」

 

 そうして鍛冶屋を後にして表通りへ出ると、そこかしこの料理店から食欲をくすぐる匂いがしていたことで、すでにお昼時になっていたことに気付いた。

 

「ちょうど良い時間だし、昼食はここらで済ませるか。どこか行きたい店はないか?」

 

「そうですね…… でしたら、最近この辺りに新しくできた飲食店はいかがでしょうか? 中々の評判であると耳にしておりますが……」

 

「ふむ…ケルベロスたちもそれでいいか?」

 

「もちろんいいわよ♪ お外での食事なんて久しぶりね♪」

 

「ウチらもお腹ぺこぺこだわん!」

 

「食えればなんでもいいわん!」

 

 こいつら食事そのものは好きなくせに食うものは何でもいいのかよ、と若干呆れながらミミココを眺めつつ、よし、と呟く。

 

「ならそこへ行こうか。ヴィーラ、案内してくれ」

 

「ええ、了解致しました! お兄様、こちらになります!」

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

「くっそ強ぇ…… バケモンかよこいつら!? もういい、ずらかるぞ!」

 

「くっそぉ! あったりめぇだ、こんなん割に合わねぇよ!」

 

「あっ! てめぇら、逃げてんじゃねぇ!」

 

「最近はどこの島でもお前らみたいなのが出るらしいしな、ここらで少しばかり減らしておこうか…… ヴィーラ、逃げた奴らを頼む」

 

「了解致しました、お兄様。……私はともかくとしてお兄様まで化け物呼ばわりとは、聞き捨てなりませんね。一匹たりとも逃がしはしません!」

 

 店での昼食は一同大変満足なものだった。人気が出るというのも頷けるし、機会があればまた訪れたいと思わされる良店だった。しかし、そんないい気分も長くは続かなかった。

 帰り道の途中で、人通りの多い大通りであるにもかかわらず大量のチンピラが襲い掛かってきたのだ。てめぇが領主か、お前を殺せば大金が云々、みたいな説明をご丁寧にも添えたうえで。いいぞ、雇い主の情報もその調子でぽろってくれ!

 

「馬鹿な真似をしたな。ここに残っていたのはお前で最後だ。後でじっくりと話を聞かせてもらおう」

 

「ちくしょうが! ……へっ、ただ俺らの方が一枚上手だったようだな! こんなこともあろうかと、狙撃手を3人も雇っておいたのさ! もうとっくにロックオン済みだろうよ、引き金を引くだけでお前は終わりだ!」

 

 雇われが雇われを雇うとはなかなか珍しい。それに標的の情報から対策を練る程度の考えは持っていたようだ。確かに、近接戦闘を得意とする俺やヴィーラは、近づけない状況で遠距離タイプと戦うのは好ましくない。

 ただ、それは()()()()()()()()の話だが。

 

「むしろお前らが終わりわん!」

 

「牢獄で許しを請えわん!」

 

「そういうこと♪ アタシのマスターには、傷一つ付けさせないわよ♪」

 

 そう言って現れたのは、ケルベロスだ。彼女は基本的に城におり、表に出て動く俺やヴィーラとは異なり、その存在も広く知られてはいない。

 そんな彼女がロープでぐるぐる巻きにされた三人の狙撃手を俺たちの前に投げ出して見せると、粋がっていたチンピラは白目をむいて気絶した。見事なまでの三下ムーブである。

 

「ケルベロス、助かった。ところで、兵士長を見かけなかったか? あいつらあちこちに逃げ込んだからな…… ヴィーラがいかに優秀とは言っても討ち漏らしは出ただろう、兵士たちが捕まえた人数も含めて状況を確認しておきたい」

 

「どういたしまして♪ あと兵士長ならさっき、中央の広場にいたわよ? 慌ただしくはしてなかったから、もう片付いたんじゃないかしら♪」

 

「それならいいんだが……随分早かったな、あの人数相手だともう少しかかるかと思ったんだが。ところで、ケルベロスはどうする?」

 

「んー。どうしよっかなー♪」

 

「もう城にかえるわん!」

 

「お城でおやつ喰うわん!」

 

「あ、いいわねー♪ マスター、アタシはお先に失礼するわ♪」

 

「分かった。あまり食いすぎるなよ」

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

「あ、領主様! 住民たちの目撃証言と照らし合わせた結果、これで全員です!」

 

「ご苦労だったな、兵士長。にしても、ずいぶん早く片付いたな?」

 

「ありがとうございます! ええ、それがですね…」

 

「兵士長、そこからの説明は私が致しましょう。貴方には捕まえた実行犯の方をお任せしたいのですが…」

 

 いつの間にか背後にいたヴィーラがそう告げた。我が妹ながら、相変わらず見事な気配遮断だ。

 気配探知には自信のある俺ですら、精神の集中なしにヴィーラに気付くことは困難を極める。どのようにしてそこまでの技能を取得できたのかをヴィーラに聞いてみたことがあるが、日々の行動の賜物、としか答えなかった。

 

「ヴィーラ様! 了解しました、それでは説明の方はよろしくお願いします!」

 

「ええ、ご苦労様でした。お兄様、兵舎の方へ一緒に来ていただけますか?」

 

「ああ、分かった。…………ん? 何かいつもより機嫌が良いな、どうかしたのか?」

 

 広場から兵舎へと足を進めながら、そう尋ねる。一見すると普段通りのヴィーラに見えるためほとんどの人は気付かないだろうが、いつもより雰囲気が柔らかい。

 予定よりも執務がはかどった日に、二人でおやつを食べる休憩がとれた時などがこんな感じだ。外でヴィーラがこの雰囲気になることはかなり珍しいと言える。

 

「やはりお兄様には分かってしまいましたか。ふふ……その理由については着いてからのお楽しみ、というやつですお兄様。すぐにお分かりになることですから」

 

「なるほど、ヴィーラが喜ぶようなものか。しかし、そんなものが兵舎にあったか……? ……っと、着いたな」

 

「はい、それでは中へ参りましょうか」

 

 そう言ってヴィーラが扉を開けたことで目に入ったのは、中央の大きな円卓の椅子に座っている、騎空団と思わしき集団だった。そのメンバーの中にいたのは……

 

「なるほど、ヴィーラの機嫌がよかったのは君と会えたからか。久しいな、カタリナ」

 

 そう言って対面に座っている女性に声をかけた。長いブロンド色の髪と凛々しい顔つきが特徴の、彼女の名はカタリナ。かつてのアルビオン士官学校の生徒であり、ヴィーラにとっての先輩にあたり――俺にとっても後輩にあたる人物だ。

 

「ええ、お久しぶりです。ヴィーラもそうでしたが、レン殿もお元気そうでなりよりです」

 

「ああ、カタリナこそ。壮健そうで何よりだ。積もる話もあるが……ヴィーラ、こちらの人物たちは? 恰好を見るに、騎空団のメンバーのように思われるが…」

 

「ええ、ご明察の通りですお兄様。こちらの方たちはお姉様の所属している騎空団のメンバーで、先ほどの騒動ではお手を貸していただきました」

 

「そうだったのか…… ではこの場を借りて、お礼を申し上げたい。騎空団の方々、この度の助力に惜しみない感謝を。貴殿らが望まれるのであれば、労力に見合った報酬をお渡しすることを約束します。また同時に、自己紹介もさせていただきたい。私はこの都市アルビオンの領主を務めているレン・リーリエと申します。こちらは領主補佐を務めている妹のヴィーラです」

 

「ヴィーラ・リーリエと申します。お姉様には士官学校で大変お世話になりました。どうぞよろしくお願い致しますね」

 

 ヴィーラがそう言い終えると、それに応えるような形で、綺麗な金色の髪をショートにしている女の子が机に手をついて勢いよく立ち上がった。

 その表情は何故か感動したかのようなもので、その顔を見た周りの年長者と思われる人物たちはこぞって苦笑いを浮かべていた。

 

「私、騎空団『グランブルー』の団長をしているジータって言います。どうぞよろしくお願いします! あの…もしかして、『剣神』のレンさんですか!?」

 

「えぇ、まぁ。たしかに『剣神』の二つ名で呼ばれることもありますよ、未熟な私には過ぎたる称号だとは思っていますが……」

 

「やっぱり! レンさんのこと、お婆さんからたくさんお話聞きました!」

 

 お婆さん。おばあさん。おばあさんだと……? しかも俺のことをよく知る? ここで思い当たるのは一人しかいない。しかしそれにつられて思い出すのは最悪の記憶。頼む……頼むから勘違いであってくれ!

 

「あら、そのお婆さんというのはお兄様の知り合いの方でしょうか。珍しいこともあるものですね。…………お兄様?」

 

「……………失礼。君の出身地を聞いても?」

 

「……? ザンクティンゼル島です!」

 

 すまん、正直吐きそう。

 





次回は土日のどっちかになる予定です。
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