この空の果てまで   作:飛び出す絵本(りみてっど)

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城塞都市アルビオン Ⅵ

 

 翌日の朝、執務室にて。

 俺はソファーに座って騎空団『グランブルー』のメンバーらと向かい合っており、その代表としてカタリナから話を聞いていた。

 

 ジータが騎空団を結成するに至った経緯について。ルリアという少女とエルステ帝国の因縁について。そして―――彼女が星晶獣の力を取り込むことが可能であるということも。

 

「……つまり、ルリアちゃんは俺がアルビオンから離れられないという()()()()()()()()を書き換えることができる、と?」

 

 望外の知らせに驚きを隠せないものの、何とか言葉を紡ぐ。

 そしてカタリナから視線をずらして他の団員たちを見るが、誰一人として嘘を吐いているという様子は見られない。最終的にぐるっと見回してからジータと目が合うと、彼女は力強く頷いた。

 

「はい。カタリナから、レンさんが島から出れなくて困っているっていう話は聞いてます。私たち、力になれると思うんです!」

 

「……なるほど、そういうことだったのか。…本当にありがとう、カタリナ。君のような人を後輩に持てた俺は幸せ者だな」

 

「…ということは?」

 

「あぁ。その話、ありがたく受けさせてもらおう。……しかし、困ったな。これでは、今持っている帝国の情報を渡す程度のことでは報酬が到底釣り合わないぞ」

 

 提案を承諾したことで笑顔になるカタリナとジータを見て、苦笑しながらも呟く。

 そう、全くもって釣り合わないのだ。ヴィーラはとある用事を任せたためにここにいないが、物事をシビアに見る傾向のある彼女であっても、間違いなく同じことを言っただろう。

 

 ―――それほどの奇跡なのだ。星晶獣との契約を書き換える力というのは。数年にわたって領主の契約を解除する方法を探していた俺たちには、それが痛いほどに理解できている。

 

「そんなことないですよ。私たちも空図の欠片っていう貴重な物をもらえますから!」

 

 ジータはそう言ってくれるが、正直なところあれ(空図の欠片)を有効活用する機会とかまずないんだよなぁ、と思う。

 ファータ・グランデだけでいくつ集めないといけないというのか。せめて単体でも何かしらの使い道があれば良かったんだが。……要するにこれ(空図の欠片)、無用の長物である。さすがにこれで等価交換とは言えない。

 

「いや、そういうわけにもいかないな。空図の欠片はアルビオンにとって重要な物ではないし、第一俺たちのもつ帝国の情報はあまりにも少ない。……そこでだが、一つ提案したいことがある。このアルビオンにおける滞在期間をあと5日、延ばしてはもらえないだろうか。無論、昨日と同じように食事や宿泊場所などはこちらで提供させてもらう」

 

「……? あの、昨日のお食事もとってもおいしかったので嬉しい申し出ではあるんですけど……どうして5日なんですか?」

 

「もちろん、無理にとは言わない。だが、5日といったのにも二つの理由がある。一つ目は、最近になって帝国がこのアルビオン周辺できな臭い動きを見せているからだ。ここ数日は特にな。なので数日あれば、より詳しい情報が入ることもあるだろう。…そして二つ目だが、5日後アルビオンに俺と旧知の間柄であるゼタと言う女性が訪れる予定になっているからだ。彼女は仕事柄多くの島を渡っているからな、帝国についても深いところまで掴んでいる可能性は高いだろう。なので彼女と面会する約束をどうにかして取り付けよう。……どうだろうか?」

 

「えっと……そ、相談タイム、ください!」

 

「あぁ、構わないとも。好きなだけすると良い」

 

 そう告げてから、手持ち無沙汰になったことでテーブルに置かれたカップを手に取り紅茶を口に運んだ。……美味いな、これ。さすがはヴィーラが選んだ茶葉、とでもいうべきか。相変わらず、我が妹ながら実に多才なものだと感心せざるを得ない。

 ……っと、終わったようだな。思ったよりもずっと早かったが。こちらを向いたジータが口を開いた。

 

「決めました、レンさん。あと5日間、お世話になります!」

 

「はは……そうか。提案を受けてくれたこと、感謝する。このことは後でヴィーラにこちらから伝えておこう。君たち側から何か要件があった場合、彼女が請け負うことになるだろうからな。勿論俺でも構わないんだが…… 俺はこの会談が終わり次第、アルビオンの住民たちに領主退任を報告する準備に入るのでな。あちこち移動するだろうし、タイミングが合わずに行き違いになりかねない」

 

 そう言い終えたところで、カタリナ以外のメンバーは呆気にとられたような表情になった。……ああ、うん。そうだ。俺も大分毒されているようで、アルビオンでの常識は外での非常識だということを忘れていた。急ぎ追加の説明を行わなくてはならない。

 

「アルビオンには力あるものを尊重するという風潮がある。そして君たちも知っている通りここの領主というのは、武芸大会にて最も力あるものであることを証明できた者だからな。結果的に、領主の意見はほとんどが通るというわけだ。それに、この件に関しては着任時に既に承諾を得ているからな」

 

 俺の言葉に、騎空団の中で唯一アルビオンの住民に向けた着任時の挨拶を知っているカタリナが頷く。

 

「ああ、レン殿のあの時の挨拶には驚かされたな。彼は『俺はアルビオン領主の契約を解除できた時、後任の着任を確認した後この島を離れる。……しかし! その時を迎えるまで、俺は全力を以ってこのアルビオンの領主の務めを果たすことをここに誓おう!』と仰ってな。……あの宣言に対して大量の拍手が巻き起こっていたのを見た時に、私はここがどれほど変わった都市であるのかということを再認識させられたものだ」

 

「おいおい、マジかよ! 領主が着任早々に条件が揃ったらやめるなんて宣言、普通認められないだろうに」

 

 彼、ことラカムの言うことは全くもって正しい。他の島であればまず許されない行為だろう。だが、ここアルビオンでは許される。

 さらに言えばこのことは民衆に話すよりも以前に、アルビオンで立場の高い人物のみを集めた上層部会議でも承諾を得ていたのだから、アルビオン極まってやがると言わざるを得ない。

 

 アルビオンの住民というのは上から下まで、どいつもこいつも馬鹿ばかりである。誰だよこんなんばっか集めて都市作ろうとした奴。そいつら絶対頭おかしいよ。

 

「まぁ、そういうわけだ。おそらく3日ほどで退任及び次の領主決めのための武芸大会の準備ができるだろう。滞在期間中のことだ、時間があったら観ていくといい。それと参加資格は大会が周知された時にこの島にいる全員に与えられるからな、或いは参加していくというのもありかもしれない」

 

「あれ? でもそれって、領主を決めるための大会なんでしょ? 領主になりたい人しか参加しちゃいけないんじゃないの?」

 

 イオちゃんの疑問に、俺は前回のひどさを思い出して苦笑しながら答える。

 

「以前は、というより俺が知っているのは前回のみだが。前回はある程度強いことが周知されている人物は強制参加、棄権も認めないというあまりにあんまりなものだったからな。今回は完全任意参加かつ途中棄権もありとして、腕試し目的の参加も受け入れるつもりだ。……まぁ、棄権は準決勝戦より前で締め切りにするがな。トップ4に選ばれた人物から棄権者が出るなんて、さすがに興ざめだろう」

 

「ほぅ……色々考えてんだなぁ、おい。まだまだ若ぇってのによ」

 

「ふふふ……そうね。貴方のような人が領主の座に就いたのは、この島の人々にとっては幸運なことだったでしょうね」

 

「はは……そう言って頂けて光栄、で……す……?」

 

 思わず言葉に詰まり、疑問形になってしまった。その理由は、こうしてロゼッタさんと向き合ったことで『彼女の気配、何かおかしくね?』ということに初めて気付いてしまったからであった。

 なんというか、この感じは…………そう、うちのケルベロスに近いぞ。まさかこの人、そういう感じか?

 表情が固まったままロゼッタさんを見ていると、その視線とその意味の両方に気付いたらしい彼女は小さく片目を瞑ってウィンクをしてきた。……内緒にしておいて、ってことか? 誰に対してなのかは分からないが。

 

「おーい… どうかしたのか、領主の兄ちゃん? 突然ぼぉっとしちまってよ」

 

「…あぁ、いや。何でもない。……ただ、そうだな。ここからは現状でこちらが持っている帝国の情報について話させてもらおう。そちらの役に立つものがあればいいのだが……」

 

 まぁ、とりあえず誰にも言わなければいいだろう。即座に判断を下して話題を切り替えると、ロゼッタさんはあ・り・が・と・うという形に小さく口を動かした後、満足そうに微笑んだ。

 





次回は、武芸大会とそれに集う馬鹿共の話をお送りする予定。

また、私事になりますが作者名が決まったので匿名設定を解除しました。
逆にいえば、今まで匿名だったのは名前が決まってないからというアレな理由だったりします。

あと投稿に関してですが今月の古戦場の期間はお休みします。書いてる余裕ないからね、ちかたないね。


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