ちなみに各異聞帯後に増えていく予定です。ガバ設定あり
彼ーーカドック・ゼムルプスが目覚めたとき、目の前に広がっていたのは無骨な天井だった。視界のすみには消えたはずの銀髪の王妃がこちらを覗いていた。
「あ…、え…?」
彼女は自分を庇い消えたはず。寝起きの頭であったけどその驚きと同時に彼は体を起こす。
「起きられましたか。仮初めのマスターを呼びますのでお待ちを」
マスター。その言葉を聞いたとき、その視線がこちらに向かなかったとき、彼は察した。ああ、彼女は知らない彼女なんだと。
「もしもし、彼が起きました。…ええ、分かりました。はい、それでは。…今から来る、とのことです」
部屋に備わった電話で連絡をとり、戻ってきてまた座る。知っているけど知らない彼女になんて声をかけたらいいのか躊躇っていると、先ほどの彼女の言葉を思い出した。
「そういえば、仮初めのマスターって?」
「ええ、それは…」
と、彼女に質問したとき、そのマスターが入ってきた。見間違えるはずもない。かつて彼と対峙し、打ち勝ったマスターだった。どういう状況なんだ、と彼が問いただす前にマスターが口を開く。
「とりあえず種火周回と塵集め、どっちがいい?」
「えっ」
そのマスターの目は虚ろだった。
「最近周回しかしてなかったからつい。そういえば後頭部は大丈夫?」
「あ、ああ。逆にそっちは大丈夫なのか?」
(え、なに、カルデアってブラック?)
一緒に付いてきたデミサーヴァント…マシュから「先輩、気をたしかに!」と揺さぶられて復活したマスターが疲れぎみに話す。
「大丈夫。リンゴも食べて休憩してるし」
「なんだろう一切大丈夫な気がしない…っ」
手に持っていた黄金の林檎をかじりながら笑顔で応じているが、目は虚ろなままだった。
「まあ、自分のことはさておいて。…今、君はこの車に捕らわれている。それは分かる?」
「ああ。そして彼女を監視役にした。…何のつもりだ」
カドックは怒気を込めながら、殴りかかりそうになりながら言う。
「…それについては謝る。こっちも人手が足りなくて。まぁ、あと一人いたけど…」
「だったらなんでそっちに!」
「イヴァン雷帝。しかもあっち、異聞帯の」
「へ?」
「呼ぶ?」
「…結構です」
怒る気もそがれ、息をつく。
寝起きに雷帝がいたら二度寝する自信がある。というか、なんで異聞帯の方からきてるのか?などと、彼が考えていると、同じ考えに至っていたのか、マスターが口を開く。
「あっちのイヴァン雷帝が誰とも縁を結べなかったから、かも。ずっと寝てたんだっけ?…一応、戦う前に話をしたし、自分達はそれで縁が結べたのかな」
確かに、彼はあの異聞帯では誰とも縁を結んでいなかった。ほぼ眠り、時折起きても話すのはサーヴァントだった。
なるほど。と思っていると、これも予想だけど、といいつつマスターが話を続ける。
「だから、あっちのアナスタシアは出てこなかったんじゃないかな。だってあっちのアナスタシアと縁を結んだのは君だから」
その言葉を聞き、嬉しさや寂しさなどが混ざり、カドックは無言になった。
「…今ではないけど、もしかしたら、いつか君の力を借りるときがあるかもしれない。その時、召喚できたら…応じてくれるさ」
微笑むマスターはまだ続ける。
「で、こっちで召喚するためには、カルデアのスタッフの信頼を得ないと使わせてもらえないと思うんだ」
その微笑みはどんどんと影のあるものになっていく。
「どうやって勝ち取るかというと…第一歩としては、サーヴァント強化のための種火、もしくは素材集めかな?取っても取っても足りなくて」
マスターがカドックの肩に手を置き、笑顔でそう告げる。その手には割と力が入っていた。
「そこで、最初の質問に戻るけど…。どっちがいい?」
仮に彼の立場にいたら、世界を救えたかはわからないが、胃が大変なことになっていたのは間違いのだろう。カドックはその微笑みに最後のマスターの大変さの一端を見たような気がした。
「…それで、なんでアナスタシアさんを付けたのですか?」
た、種火で、と答え、周回に行こうとしていたカドックにアナスタシアを付けたことに疑問を持ったマシュはマスターに質問した。
「んー。そっちの方がいいと思ったから、かな?」
「はぁ」
「違う人ってわかっていても気分的にはNTRだし…」
「え?なんかおっしゃいました?」
「いや、何も」
そうやって種火周回を重ね、カドックと絆を結んだのちに本契約を結んだこっちのアナスタシアと、カドックが召喚したあっちのアナスタシアがかち合い、板挟みになったカドックが胃を痛め、それを見た(マスター含む)不特定多数が2828したり、止めに入ったり、ものすごい威圧感をだしたり、後押ししたりするのはだいぶ先の話。