隣の席の美竹さん   作:烏丸男

15 / 21
 読者の皆様、お久しぶりです。つくねです。先週は更新できず、申し訳ありませんでした。実は今、リアルの方が大分忙しくなってきてしまい、なかなか執筆の時間がとれない状況です。なので、しばらくは週1更新ができない状況が続くと思います。楽しみにしてくださる皆様、本当に申し訳ありません。なんとか2週間に1度は更新できるようにします。
ではでは、本文の方をどうぞ!


初仕事

 美竹さんの文芸部電撃加入から、数日が経った。

 あの日はあれから、先生の話があった後に、美竹さんの歓迎会をやった。歓迎会といっても、大したことをするわけではなく、ただお菓子を食べたりしながら駄弁っているだけのものだけど。

 それでも、美竹さんはクラスにいる時よりもずっと笑顔で、僕はそれが嬉しかった。

 それはともかくとして、今日は美竹さんの文芸部としての初仕事だ。といっても、やることはさほど大変じゃない。ただ紙を印刷するだけだ。

 以前にもこの作業をやったことがあるが、その時は僕一人だったので、大変というよりかは、精神的に辛かったことを覚えている。

 今回は美竹さんがいるから、全然大丈夫だ。

「篠原、いつもこんなことしてるの?」

 隣でコピー機とにらめっこをしている美竹さんから声がかかった。

「いつもじゃないよ。たま〜にかな」

 印刷が終わった原稿を取り出して、次の原稿に差し替える。

 今僕達が作っているのは自己紹介誌というもので、本来なら僕が入った時に作るつもりだったらしいのだが、いろいろあって先延ばしになっていた。それを、美竹さんが入ってきたこの機会にやってしまおう、ということになったらしい。

 だからこれが、一応美竹さんの文芸部としての処女作ということになる。

「でも、美竹さんが入ってきてくれてよかった」

「? どうして?」

「どうしてって、そりゃあ──」

 その続きを言おうとして、僕は慌てて口を閉じた。

 なんてことを言おうとしてたんだ、僕は。しかし、このまま黙っているわけにもいかないので、どうにかしないと。

「1年生は僕だけだけで、肩身が狭かったから。美竹さんが入ってきてくれて、ホントよかった」

「そうなの? 有村先輩とかと、楽しそうに話してたじゃん」

「いや、まあ……確かに先輩たちと話すのも楽しいけど。でもやっぱり、美竹さんといる時間の方が好きだし、楽しいよ」

「ふーん、そっか。そうなんだ」

 誤魔化そうとして言ったことも、結局かなり恥ずかしいことになってしまった。

 美竹さんはというと、そう言ってコピー機の方を見始めたけど、その顔は赤くなっていた。

 

 *

 

 それから原稿の印刷を終え、あとはさっき印刷した紙を折るらしい。紙折りをする場所はいつもの部室ではなく、図書室のようで、1階の印刷室から図書室まで、紙を運ばなくてはならない。

 あたしも手伝うと言ったのだが、篠原はそういう訳にはいかないと言って、譲らなかった。確かにあたしに任せるのは不安かもしれないけれど、それくらいならできるのに。

 あたしが篠原の後ろで不貞腐れているうちに、図書室についた。

 靴を脱いでスリッパに履き替えてから、中に入ると、そこには有村先輩たちが話し合いをしていた。

「おっ、ふたりとも待ってたよー」

「お疲れ様です、先輩。何してたんですか?」

「次の部誌で、対談みたいなのをやらないか、って話になってね。その内容を考えてたの」

「そうだったんですね」

 そして篠原がよいしょ、と机の上にダンボールを置いた。

「よし、それじゃあ紙折りしよっか。篠原くん。美竹さんにやり方、教えてあげてね」

「分かりました」

 部長のその声でみんな作業を始めた。あたしは篠原について行って、篠原の隣に座った。

「じゃあ美竹さん、やり方教えるね」

「うん、お願い」

 それから篠原の説明を聞いてから、あたしも紙折りを始めた。篠原も言っていたけれど、特に何も難しいことはなく、ただひたすらに紙を折っていくだけだ。部誌を作る時は、こういう単純作業ばかりなのだとか。

「そういえば美竹さん、どうして文芸部に入ったの?」

 紙を折りながら、篠原が聞いてきた。あたしが文芸部に入った理由は大きく分けて二つだけど、片方は絶対に言えない。

 でももし、篠原と一緒にいたいから、文芸部に入ったんだよ、と言ったら、篠原はどう思うのだろう。気持ち悪がられるだろうか。

「ここで小説とか、書いてみたら、何かの役に立つかな、と思って」

「ああそっか。美竹さん、作詞とかも自分でやってるもんね。ホントすごいと思う」

「そ、そんなことないって」

「そんなことあるよ。しかも、その歌詞に心を動かされてる人がたくさんいるんだから」

「そうかな」

「そうだよ。僕もその1人だし」

「え、そうなの?」

「うん。美竹さんの書く歌詞、すごい好きなんだ。ほかのバンドのも勿論いいけど、でも、Afterglowの等身大の自分、って感じのがすごく好き」

「あ、ありがと……」

 まさかここまで褒められるとは思ってなかったから、嬉しさよりも恥ずかしさが勝ってしまった。あたしは熱を帯びた顔を見られたくなくて、なるべく俯いて作業した。

 

 *

 

 紙折りの作業も無事に終わって、あとは折ったものをまとめて、ホッチキスで綴じて終わり、らしい。

 ちゃんとした部誌のときはホッチキスでとめるのではなく、業者さんにやってもらうみたいだ。

 紙を順番にまとめて、綴じる。完成した物のページをパラパラとめくってみると、ひとつのものを作り上げた実感が湧いてきた。家に帰ってからじっくり読むとしよう。

「よし、じゃあ今日はこれでお終い! お疲れ様でしたー!」

 部長のその声で、あたしの文芸部としての初仕事は終わった。

「美竹さん、お疲れ様」

「うん、篠原も。お疲れ」

 篠原と一緒に教室に戻りながら、ああだったね、とか他愛のない話をする。

 あたしはこういう時間がたまらなく好きで、幸せで、でもどうしても、不安に思うことがあった。

 篠原は、あたしのことが嫌いではないのだろうか。自分で言うのもなんだけど、かなり篠原に頼ってしまっているし、振り回している自信もある。

 そんな女と一緒にいるのは、どう考えたっていやなはずだ。

 普段なら、こんなこと絶対に聞かないけれど、でも何故か今日は、あたしの口は止まってくれなかった。

「ねえ、篠原」

 もう外も暗くなり始めてきた時間。あたしの隣で、帰り支度をする篠原に、そう切り出した。

「ん?」

「篠原はさ」

 篠原がこちらを振り向く。あの眼に見つめられるのは、いつもはすごく嬉しいけど、今は不安にしかならない。

「あたしのこと、嫌いじゃない?」

「嫌いじゃないよ」

 答えは、すぐに帰ってきた。

「なんで?」

「嫌いだったら、あんな風に話したり、毎日電話したりしないよ」

 篠原が苦笑混じりにそう言った。

「それに、さっきも言ったけど、美竹さんといる時間はすごく楽しいんだ。だから、心配しなくても、美竹さんを嫌いになんてならないよ」

「ほんとに?」

「もちろん」

 あたしは篠原のその言葉に、思わず泣きそうになってしまったけれど、今ここで泣いてしまったら、それこそ篠原に迷惑をかけてしまう。

 だからあたしは、今のあたしにできるであろう、精一杯の笑顔で、こう言った。

「ありがとう」

 

 *

 

 それから家に帰って、あたしは一人悶絶していた。

 本当に、なんで、あんなことを言ったのだろう。あたしのことを嫌いか、なんて、下手したらトラウマもので、まるで、カップルみたいな──。

「〜〜っ!」

 あたしは枕に顔を埋めて、それ以上の思考をやめた。うん、これ以上考えるのはやめよう。

 ああ、でも。篠原がああ言ってくれて、本当に嬉しかったのは事実だ。

 今、あたしの枕元にあるのは、さっき作った自己紹介誌。まだ読んでいないけれど、篠原のも載っていることは、目次を見てわかった。

 それを手元に持ってきて、篠原のページを開く。そこには篠原が自分で書いた自己紹介と、作品が載っていた。

 あたしはそれを、寝落ちするまでずっと読んでいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。