隣の席の美竹さん   作:烏丸男

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読者の皆様。大変長らくお待たせして、本当に申し訳ございませんでした。2週間に1回は更新すると言っておいて、この有様です。ですが、ようやくいろいろなことが落ち着いて来て、また小説を書く時間が取れるようになってきました。なのでこれからまた、週一のペースでの更新を再開していきます。この度は本当に申し訳ございませんでした。


ぶらぶら歩く

「研修会、ですか?」

 あたしは有村先輩の言葉に首を傾げた。

「そうそう。年に何回かあるんだけど、そのうちの2回目が再来週の金曜なの」

 そのまま先輩の話を聞いていると、どうやらちょっと規模が大きめな研修会らしく、丸一日かかるみたいだった。

「でね美竹さん、その日って学校来れないーっとかってない?」

 頭の中にカレンダーを思い浮かべるが、特にそんな予定はなかったはずだ。

「いえ、大丈夫ですよ」

「そっか! ならよかったよー」

 先輩は満足げにうなづいている。

「それで、研修会って何をするんですか?」

「ああそうだった! ちょっと待っててね……」

 そう言うと先輩はリュックからクリアファイルを取り出して、1枚のプリントをあたしに渡した。

 プリントにざっと目を通すと、今回の研修会の概要みたいなことが書いてあった。その中で気になったことを先輩に聞いてみる。

「先輩、このプロット提出って……」

「そう。今日はその事を伝えようと思って。本当は昨日に伝えられたら良かったんだけどね」

「すいません、休んでしまって」

「いいのいいの。気にしないで。私こそ、わざわざ呼び出しちゃってごめんね。それで、プロットなんだけど……」

 それからの先輩の説明で、プロットのことはだいたい理解出来た。

 要は、小説のプロットを考えて、来週の火曜日まで提出する、とのことだった。

「わかりました。ありがとうございます」

「うん、詳しいことはまた次の部活の時に説明されると思うから、とりあえずプロットを忘れずにね」

「はい、ありがとうございました」

「うん、篠原くんによろしく! じゃ、またねー」

 先輩は手を振りながら去って行った。あたしも先輩の姿が見えなくなったのを確認してから、部室から出た。

 

 

 ***

 

 

 本当は放課後になったらライブハウスに直行するつもりだったのだが、さっきの件があったために来るのが遅れてしまった。

 当然だけど、もうみんな練習を始めている。

「ごめんみんな、遅くなった」

「おっ、蘭〜。やっときたね〜」

「大丈夫だよ蘭ちゃん。部活のことだったんだし、しょうがないよ」

 あたしはつぐみにお礼を言ってから、練習の準備を始めた。

「しっかし、蘭が部活に入るとはなあ」

「かなり驚きだったよね。これも篠原くん効果かー」

 巴とひまりが何か言っているけれど、気にしてはいけない。

「最近は通話もしまくってるみたいだしね〜」

 気にしては──いやこれは気にしないとまずい。

「そ、それは関係ないでしょ」

「でも〜、篠原くんとLINE交換してからの蘭って、凄くるんって感じになってるし〜」

「い、いや、前からそんな感じだったって! 絶対気のせいだから!」

「ええ〜? そうかな〜」

「そうだよ、前からるんってしてたから! さあさあ練習しよう!」

 必死すぎて自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。

「なんか最近、朝とか眠そうにしてるなあって思ったんだけど、そういうことだったんだね」

「余計なこと言わなくていいからぁ!」

 

 

 ***

 

 

「……はあ」

 あれから、無事にとは言えないが、取り敢えず練習は終わった。携帯を取り出して時間を確認すると、19時になるところだった。

 ──ご飯、どうしよっかな。

 いつもなら家に帰れば用意してくれているけれど、今日はそうではない。自分で作るという選択肢もあるが、はっきり言って面倒だ。

 外食にするのは確定として、どこで食べよう。篠原はもう済ませてしまっただろうか。

 LINEを開いてメッセージを送る。

『もう晩ご飯食べた?』

 すぐに既読がついた。

『まだだよー。今から食べに行く』

『外で食べるの?』

『うん。今日は家に誰もいなくてさ。自分で作るのも面倒だし』

 あたしと一緒だ。そうだ、いいことを思いついた。

『ね、篠原さえ良ければ、一緒に行ってもいい?』

『もちろん大丈夫だよ! 美竹さん今どこ?』

『商店街。釣具屋の辺り』

『おっけー。すぐ行くね』

 それから、近くのベンチに腰掛けて篠原を待っていると、ほどなくして篠原はやってきた。

「お待たせ美竹さん」

「ううん、大丈夫」

 篠原はあたしのその言葉にほっと一息ついた。

「それで篠原、どこに食べ行くの?」

「それなんだけど、実はまだ決めてなくて。適当にぶらついて決めようと思ってたんだ」

 そうだったのか。それは悪いことをしてしまった。

「……ごめんね。急にあんなことは言っちゃって」

「いやいや、全然気にしなくていいよ! 美竹さんに誘ってもらって凄く嬉しかったから」

「そ、そっか。ならいいんだけど」

 あたしは赤くなった顔を見られないように咄嗟に下を向いた。

「美竹さんは? どこで食べるか決めてた?」

「ううん、あたしもまだ」

「じゃあどうしよう。2人で歩いて決める?」

「うん、だね」

 

 

 ***

 

 

 それから商店街を歩き回って、目に付いた定食屋で食べることにした。中に入って、2人並んでカウンター席に座る。店内はそれなりに混雑していて、家族連れや友達同士で来ている人がたくさんいた。あたし達は、どういうふうに見られているのだろうか。

「美竹さん、ほんとに羽沢珈琲店じゃなくてもよかったの?」

 そう。歩いてるときに、篠原から羽沢珈琲店でも構わないという提案があったのだが、モカや巴がいるかもしれなかったから、それはやめておいた。篠原と2人でいるところを見られたら、なんて言われるか分からない。

「うん。モカとかいるかもだし。それよりほら、何にするか決めよっ」

 メニューを手に取って、篠原と一緒に眺める。思っていたよりも種類が多くて、何にするか悩んでしまう。

「篠原はどれにする?」

「うーん……。とんかつ定食にしよっかな」

「じゃあ、あたしもそれで」

「わかった。すいません──」

 料理が来るのを待つ間に、篠原にプロットのことを聞いてみる。

「篠原、プロット終わった?」

「プロット?」

「ほら、研修会に出すやつ」

「あー……」

「忘れてたの?」

「うん、忘れてた……」

 篠原は苦笑いを浮かべている。彼はしっかりしているように見えて、意外と抜けているところがある。そういうところが可愛いんだけどね。

「あれって火曜日までだよね?」

「だね」

「なら、まあ大丈夫かなあ。ちょうど書きたいと思ってたのあったし」

「どんなの?」

「えっとね──。あっ、先に食べてからにしよっか」

「うん、そうだね」

 ちょうど料理が運ばれて来たので、あたしは篠原の提案に素直に頷いた。

 

 

 ***

 

 

 それから黙々と料理を食べ、商店街を2人でぶらぶらしながら、小説のこととか、いろいろなことを話した。

 歩きながら、デートしてるみたい、なんて1人で勝手に思って赤くなってしまって、篠原に心配されてしまった。

 気が付いたらもう辺りはすっかり暗くなっていた。彼と一緒にいると、本当にあっという間に時間が過ぎ去っていく。みんなと一緒にいる時間は大事だし、楽しいし、大好きだ。

 彼と一緒にいる時間も、それと同じくらい──。

「美竹さん?」

「えっ、ああなんだっけ」

「大丈夫? 疲れてない?」

「うん。ごめんね、心配かけちゃって」

「気にしないでね。それよりも、ほんとに送っていかなくて平気?」

「うん。ここからそんなに遠くないし。平気だよ」

 篠原の言葉はとても嬉しいものだったけど、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないので、断った。

「わかった。気をつけてね」

「ありがと、篠原。じゃあまたね」

「うん、またね」

 そして、互いに背を向けて歩き始めた。

 当たり前だけど、あたしと篠原の帰る家は違う。でもいつか、いつかは──。

 

 

 ***

 

 

 家に帰ってすぐにお風呂に入って、そのまま布団に潜り込んだ。これはまずい。やらなければならない課題があるのに、このままでは寝てしまう。

 無理、寝る。あたしは意識を投げ出す決意をして、携帯を充電し、寝る体勢を取った。さあ寝るぞ、と目を瞑ったところで、携帯に通知が来た。ひまり辺りからのラインだろうか。いつもならこういうときは、見ないでそのまま寝てしまうところだけど、今日は何となくその気にならなかった。携帯を手繰り寄せて、画面を見る。

 そこに表示されていた名前は、ひまりではなくて、篠原だった。あたしは驚いて、思わず布団から飛び上がった。

『美竹さん、今日は誘ってくれてありがと! 楽しかったよ!!』

 もう、本当に──。あたしは思わず枕に顔を埋めたくなったが、そういうわけにもいかない。

『こっちこそありがと。あたしも楽しかった』

 こんな無愛想な文章しか打てない自分が嫌になってしまう。今度みんなに聞いてみようかと一瞬考えたけれど、その考えはあたしの脳内ですぐに却下された。

『うん。でさ、美竹さん。古典の課題終わった?』

『ううん、まだ』

『じゃあもしよかったら、一緒にしない?』

『やります』

 その一言で、眠気なんて吹き飛んでしまった。

 課題自体はすぐに終わったけれど、結局夜遅くまで話してしまって、またモカ達にイジられるハメになってしまったが、それはまた別の話。

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