隣の席の美竹さん   作:烏丸男

20 / 21
2人で

研修会が終わって、すぐの日曜日。あたしは駅で篠原が来るのを待っていた。

この三連休のうちの今日、あたしは篠原と遊ぶことになった。昨日は研修会の疲れもあって、ずっと家で小説を読んだり、映画を見たり、篠原と話していた。

その時に、今日どこに行くか、ということも話した。2人でいろいろと考えたけれど、ちょっと遠出して、研修会で行った街に行ってみよう、ということになった。

あの時はそんなに長い時間ブラブラ出来なかったし、じっくり見てみたかったから。

そんなわけで、あたしは篠原を待っているのだけど、待ち合わせの時間よりも大分早く来てしまった。

別に篠原と遊びに行けるのが楽しみだから、こんなに早く来たわけではない。ただ単に待たせてしまうのが申し訳なかっただけだ。

そうだ。本当に楽しみだったとか、そういうわけじゃ──。

「美竹さん、おはよ。待たせちゃった?」

あたしが自分との闘いを繰り広げているうちに、篠原も駅に来ていた。

あたしはすぐさま不毛な闘いを終わらせ、篠原の方を向いた。

「おはよ、篠原。全然待ってないよ」

「ならよかった。早めに行こうと思って駅に行ったら、美竹さんがいたから驚いたよ」

電車が来るまではまだ時間があるので、あたしたちは駅構内のカフェで時間を潰すことにした。

篠原はコーヒーを頼んだので、あたしも同じのにした。

「2人で遠出するのって初めてだよね」

コーヒーを飲みながら、篠原があたしに言ってきた。

「だね。それに、篠原から誘ってくるのも珍しいんじゃない?」

「ええ? そうかな」

「そうだよ。いつもはあたしから。誘うときちょっと迷ったでしょ?」

「う、うん。まあね」

「ふふ、だよね」

そういう所が可愛い。

そんな話をしてるうちに、だんだんと時間が近づいてきた。あたしと篠原は、会計をして駅のホームに向かう。

車内は日曜日ということもあって、それなりの人がいた。幸いなことに席は空いていたので、あたしと篠原はそこに座った。

ガタンゴトンと、電車に揺られる。

前はこの揺れに、眠気に誘われたけれど、今回はさほど眠くならなかった。カフェで飲んだコーヒーのおかげだろうか。

それは篠原も同じみたいで、隣を見ても、平気そうに窓の外を眺めていた。

あたしも、彼と同じように景色を見る。

子供の頃から、ずっと見てきた景色。

あたしにも、いつか、この街を出ていく日が来るのだろうか。

もしそうなったとしても、あたしはみんなと、そして彼と一緒にいたいな。

 

 

***

 

 

研修会の時と同じように、1時間ほどで駅に着いた。あの時とは違って、篠原は起きていたが。

駅から出て、改めて街並みを見てみると、既に1度見ている風景なのに、なんだか新鮮な気持ちになった。

篠原はあたしの横で伸びをしていて、やっと着いたね、とあたしに向かって言った。

あたしはそれに、そうだね、と返す。

一応ではあるが、どこに行くか、何を見るかは大まかに決めておいたので、それに従って歩く。

「それじゃあ行こう、篠原」

 

 

***

 

 

「そろそろご飯にする?」

あたしは篠原の提案にうん、と返し、2人で近くにあったパン屋に足を運んだ。人気店なのか、店内はそれなりに混雑していて、座れる席を見つけるのは大変に思えた。

とにかく、食べるものを決めよう。何にしようか。陳列してあるパンをざっと眺める。どのパンも美味しそうで、決めるに決められない。

あれでもないこれでもないと、店内を右往左往していたが、ずっと悩んでいても仕方ないので、あたしは、『当店イチオシ!』と書いてあったカレーパンにすることにした。何個かとってトレーにのせ、篠原の後ろに並んで会計をする。

あたしたちが会計を終えたタイミングで、ちょうどよく席が空いたので、そこに座ることにした。

「ひとまずお疲れ様、美竹さん」

「うん、篠原も」

あたし達はそう言って、互いに選んだパンを食べ始めた。

うん、美味しい。

「中々大変だったね」

あたしが篠原にそう言うと、彼も苦笑いを浮かべた。

「あはは……。だね」

午前中は主に、神社とか、そういう観光地的な場所を見て回ったのだが、まあ、いろいろあった。詳しくは言わないけれど。

午後からも歩き回るのは変わらないが、午前ほど疲れはしないはずだ。

あたしと篠原は昼食をすませて、パン屋を後にした。

 

 

***

 

 

午後からは、街のショッピングモールに立ち寄って見ることにした。当たり前だけど、外観が違うだけで、中身の方は普段あたし達が利用するところと大差なかった。

それでも、あたしも篠原も欲しいものがあったので、行っておきたかった。

まずは篠原から。

篠原は新しいイヤホンが欲しいらしくて、モール内の家電を取り扱っているところに足を運んだ。

「美竹さん、何かおすすめのある?」

「えっとね……。これがいいよ、あたしも前に使ってたから」

本当は、現在進行形で使っているのだけど、それを言うと篠原が買いにくくなってしまうだろうから、言わないでおいた。品質がいいのは本当だし。

それに、これで篠原とお揃いだ。自分でも気持ち悪いことをしている自覚はあるけれど、止められなかった。

「うん、じゃあそれにするね。ありがとう、美竹さん」

「うん、どういたしまして」

ものすごい眩しい目で見られてしまったあたしは、どうしていいか分からなくて、適当にお茶を濁した。

閑話休題。

次はあたしの番。

最近は少しづつ暑くなってきたから、帽子が欲しい。

2階の洋服屋に移動して、あたしはいくつか帽子を選ぶ。

どれも悪くないけれど、いまいち決め手がない。篠原にも聞いてみよう。

「篠原はどれがいいと思う?」

「うーん……。全部似合ってて可愛いと思うけど」

その言葉が嬉しくて、選んだのをすべて買ってしまいたくなったけれど、そこまでしている余裕はない。

「ど、どれか1つって言われたら?」

「そうだね、それじゃあ……。これかな」

篠原が選んだものを被る。

「どう? 似合ってる?」

「うん、可愛いよ」

いよいよ我慢の限界に近づいてきたので、あたしは篠原に顔を見られないようにそっぽを向いた。

 

 

***

 

 

「いろいろあったけど、楽しかったね」

帰りの電車を待つ間に、あたしと篠原はそんな会話を交わした。

「うん、楽しかった」

あまり知らなかった街で新鮮だった、というのもあるけれど、それを抜きにしても、篠原と出かけるのは、最高に楽しいし、幸せだ。

「ね、篠原」

「ん?」

「また、来ようね」

あたしは、今日1番の笑顔でそう言った。

 

 

***

 

 

そして次の日。篠原から選んでもらった帽子を被り、集合場所の羽沢珈琲店に向かったあたしは、店内でみんなを待っていた。さすがに店内で被るのはどうかと思うので、帽子は横に置いているが。

今日は珍しくあたしが一番乗り──つぐみを除いて──だった。

つぐみと話しながらみんなと待っていると、ひまりが店にやってきた。

「あれ、珍しいね蘭。いつもは遅いのに」

「そういう時もあるでしょ」

「そっか。あ、その帽子可愛い! どうしたのそれ?」

やはり篠原のチョイスは正しかったみたいだ。あたしよりもよっぽど女子力があるひまりが言うのだから、間違いない。

「それは秘密──」

「あ、分かった! 篠原くんに選んでもらったんでしょ?」

秘密にしておきたかった事実は、一瞬で見破られてしまったが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。