研修会が終わって、すぐの日曜日。あたしは駅で篠原が来るのを待っていた。
この三連休のうちの今日、あたしは篠原と遊ぶことになった。昨日は研修会の疲れもあって、ずっと家で小説を読んだり、映画を見たり、篠原と話していた。
その時に、今日どこに行くか、ということも話した。2人でいろいろと考えたけれど、ちょっと遠出して、研修会で行った街に行ってみよう、ということになった。
あの時はそんなに長い時間ブラブラ出来なかったし、じっくり見てみたかったから。
そんなわけで、あたしは篠原を待っているのだけど、待ち合わせの時間よりも大分早く来てしまった。
別に篠原と遊びに行けるのが楽しみだから、こんなに早く来たわけではない。ただ単に待たせてしまうのが申し訳なかっただけだ。
そうだ。本当に楽しみだったとか、そういうわけじゃ──。
「美竹さん、おはよ。待たせちゃった?」
あたしが自分との闘いを繰り広げているうちに、篠原も駅に来ていた。
あたしはすぐさま不毛な闘いを終わらせ、篠原の方を向いた。
「おはよ、篠原。全然待ってないよ」
「ならよかった。早めに行こうと思って駅に行ったら、美竹さんがいたから驚いたよ」
電車が来るまではまだ時間があるので、あたしたちは駅構内のカフェで時間を潰すことにした。
篠原はコーヒーを頼んだので、あたしも同じのにした。
「2人で遠出するのって初めてだよね」
コーヒーを飲みながら、篠原があたしに言ってきた。
「だね。それに、篠原から誘ってくるのも珍しいんじゃない?」
「ええ? そうかな」
「そうだよ。いつもはあたしから。誘うときちょっと迷ったでしょ?」
「う、うん。まあね」
「ふふ、だよね」
そういう所が可愛い。
そんな話をしてるうちに、だんだんと時間が近づいてきた。あたしと篠原は、会計をして駅のホームに向かう。
車内は日曜日ということもあって、それなりの人がいた。幸いなことに席は空いていたので、あたしと篠原はそこに座った。
ガタンゴトンと、電車に揺られる。
前はこの揺れに、眠気に誘われたけれど、今回はさほど眠くならなかった。カフェで飲んだコーヒーのおかげだろうか。
それは篠原も同じみたいで、隣を見ても、平気そうに窓の外を眺めていた。
あたしも、彼と同じように景色を見る。
子供の頃から、ずっと見てきた景色。
あたしにも、いつか、この街を出ていく日が来るのだろうか。
もしそうなったとしても、あたしはみんなと、そして彼と一緒にいたいな。
***
研修会の時と同じように、1時間ほどで駅に着いた。あの時とは違って、篠原は起きていたが。
駅から出て、改めて街並みを見てみると、既に1度見ている風景なのに、なんだか新鮮な気持ちになった。
篠原はあたしの横で伸びをしていて、やっと着いたね、とあたしに向かって言った。
あたしはそれに、そうだね、と返す。
一応ではあるが、どこに行くか、何を見るかは大まかに決めておいたので、それに従って歩く。
「それじゃあ行こう、篠原」
***
「そろそろご飯にする?」
あたしは篠原の提案にうん、と返し、2人で近くにあったパン屋に足を運んだ。人気店なのか、店内はそれなりに混雑していて、座れる席を見つけるのは大変に思えた。
とにかく、食べるものを決めよう。何にしようか。陳列してあるパンをざっと眺める。どのパンも美味しそうで、決めるに決められない。
あれでもないこれでもないと、店内を右往左往していたが、ずっと悩んでいても仕方ないので、あたしは、『当店イチオシ!』と書いてあったカレーパンにすることにした。何個かとってトレーにのせ、篠原の後ろに並んで会計をする。
あたしたちが会計を終えたタイミングで、ちょうどよく席が空いたので、そこに座ることにした。
「ひとまずお疲れ様、美竹さん」
「うん、篠原も」
あたし達はそう言って、互いに選んだパンを食べ始めた。
うん、美味しい。
「中々大変だったね」
あたしが篠原にそう言うと、彼も苦笑いを浮かべた。
「あはは……。だね」
午前中は主に、神社とか、そういう観光地的な場所を見て回ったのだが、まあ、いろいろあった。詳しくは言わないけれど。
午後からも歩き回るのは変わらないが、午前ほど疲れはしないはずだ。
あたしと篠原は昼食をすませて、パン屋を後にした。
***
午後からは、街のショッピングモールに立ち寄って見ることにした。当たり前だけど、外観が違うだけで、中身の方は普段あたし達が利用するところと大差なかった。
それでも、あたしも篠原も欲しいものがあったので、行っておきたかった。
まずは篠原から。
篠原は新しいイヤホンが欲しいらしくて、モール内の家電を取り扱っているところに足を運んだ。
「美竹さん、何かおすすめのある?」
「えっとね……。これがいいよ、あたしも前に使ってたから」
本当は、現在進行形で使っているのだけど、それを言うと篠原が買いにくくなってしまうだろうから、言わないでおいた。品質がいいのは本当だし。
それに、これで篠原とお揃いだ。自分でも気持ち悪いことをしている自覚はあるけれど、止められなかった。
「うん、じゃあそれにするね。ありがとう、美竹さん」
「うん、どういたしまして」
ものすごい眩しい目で見られてしまったあたしは、どうしていいか分からなくて、適当にお茶を濁した。
閑話休題。
次はあたしの番。
最近は少しづつ暑くなってきたから、帽子が欲しい。
2階の洋服屋に移動して、あたしはいくつか帽子を選ぶ。
どれも悪くないけれど、いまいち決め手がない。篠原にも聞いてみよう。
「篠原はどれがいいと思う?」
「うーん……。全部似合ってて可愛いと思うけど」
その言葉が嬉しくて、選んだのをすべて買ってしまいたくなったけれど、そこまでしている余裕はない。
「ど、どれか1つって言われたら?」
「そうだね、それじゃあ……。これかな」
篠原が選んだものを被る。
「どう? 似合ってる?」
「うん、可愛いよ」
いよいよ我慢の限界に近づいてきたので、あたしは篠原に顔を見られないようにそっぽを向いた。
***
「いろいろあったけど、楽しかったね」
帰りの電車を待つ間に、あたしと篠原はそんな会話を交わした。
「うん、楽しかった」
あまり知らなかった街で新鮮だった、というのもあるけれど、それを抜きにしても、篠原と出かけるのは、最高に楽しいし、幸せだ。
「ね、篠原」
「ん?」
「また、来ようね」
あたしは、今日1番の笑顔でそう言った。
***
そして次の日。篠原から選んでもらった帽子を被り、集合場所の羽沢珈琲店に向かったあたしは、店内でみんなを待っていた。さすがに店内で被るのはどうかと思うので、帽子は横に置いているが。
今日は珍しくあたしが一番乗り──つぐみを除いて──だった。
つぐみと話しながらみんなと待っていると、ひまりが店にやってきた。
「あれ、珍しいね蘭。いつもは遅いのに」
「そういう時もあるでしょ」
「そっか。あ、その帽子可愛い! どうしたのそれ?」
やはり篠原のチョイスは正しかったみたいだ。あたしよりもよっぽど女子力があるひまりが言うのだから、間違いない。
「それは秘密──」
「あ、分かった! 篠原くんに選んでもらったんでしょ?」
秘密にしておきたかった事実は、一瞬で見破られてしまったが。