隣の席の美竹さん   作:烏丸男

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Cleaning in school!

「校内清掃の班、黒板に貼っといたから見とけよー」

 SHRの終わり際に担任が言ったその言葉にで、僕は暗い気持ちになった。

 この学校には校内清掃、というものが存在している。普段やっている掃除とは別の、簡単に言ってしまえば大掃除だ。これは定期的に行われるもので、僕たち一年生にとってはこれが二回目になる。校内清掃の班は先生たちが学校混合のクジ引きで決めるらしいのだが、これが僕の悩みの種だった。前回の僕の班は、一年生は僕一人で、他が全員三年生というクジちゃんと混ざってんのかこれ、と言いたくなるような、酷い有様だった。まあそもそも、クラス内と部活にしか交友関係を持たない僕にとって、知り合いと一緒になるほうが珍しいのだけど。

「起立、礼」

 SHRが終わり、みんなが一斉に黒板に集まる。僕もその一人で、カイと一緒に後ろの方から見ようとしていた。

「今回は誰となんのかなー」

「頼むから全員三年生はやめてくれ……」

「はは、前回悲惨だったもんなあ、ケイ」

 確認し終わった人たちが徐々に自分の席に戻って行き、ようやく僕たちも紙を確認できるようになった。

 まだ少し残っている人の間から、紙をのぞき込む。A4サイズのそれの下の方に、僕は自分の名前を見つけた。掃除場所を確認すると、三年のB組だった。校舎の外まで掃除の範囲になる校内清掃では、教室が掃除場所というのは比較的当たり、だと思う。冬とか夏とかに外になったら大変だな、とまだ先のことに思いを馳せながら、一番大事な班員を確認するために、一歩前に出た。

「うわ、こっち一年俺だけかよ~! ケイはどうだった?」

「ちょっと待って。えっと……あ」

「どうしたよ?」

「……僕、美竹さんと同じ班だ」

 

 *

 

 最近、何かと美竹さんと一緒になることが多い気がする。別に嫌というわけではないけれど、一緒の席になるまで話したこともなったのに、不思議なもんだな、とは思った。

 今回の僕の校内清掃の班は、僕と美竹さんの他に三年生が一人、二年生が二人だった。男子は僕しかいなかったが、知り合いがいる分、前回よりは確実にマシと言える。

 そんなことを考えながら、僕は廊下を歩いていた。校内清掃は掃除場所によって集合する場所が違っているのだけど、教室が掃除場所の場合は基本的に現地集合になっている。

 B組の前まで行くと、二年生一人、三年生一人が既に来ていた。僕は先輩方に挨拶する。

「よろしくお願いします」

「うん、よろしくね」

 それから少しして、美竹さんが来た。

「……よろしくお願いします」

 そう言う美竹さんの声は明るくはなかった。

 程なくして全員が集まり、掃除が始まった。指示は先輩方がしてくれたので、僕と美竹さんはそれに従って、教室内を箒で掃く。流石に無言でやるわけにもいかず、僕と後藤先輩は適当な世間話をしながら掃除をしていた。といっても、主に話題を提供してくれたのは先輩で、僕はそれに合わせただけだが。

 そして全く話に入ってこない美竹さんを見兼ねた、のかどうかは分からないけれど、先輩が美竹さんに話しかけた。

「美竹さん。そういえばさ、こないだのライブ見たよ~」

 ライブ。ライブって、歌手とかバンドがやる、あのライブだろうか。

「……あ、ありがとうございます」

 その言葉が予想外だったのか、美竹さんは顔を赤くしていた。可愛い。

「後藤さーん。ちょっと来てくれない?」

「あ、はーい」

 後藤先輩が三年生に呼ばれたことで、この話は打ち切りになった。

 しかし、美竹さんがどうしてライブの感想なんて言われているのか気になった僕は、本人に聞いてみることにした。もしかしたら、音楽活動か何かをやってるのかな。

「ねえ美竹さん、ライブって──」

「そ、その話はいいから。ほら、掃除しよ」

 まだ顔が赤いままの美竹さんにそう言われてしまったので、今度こそその話は終わった。

 

 *

 

 校内清掃もあまり時間がかからずに終わり、僕は自分の教室に向かっていた。廊下にはまだ掃除中の生徒が見られた。カイはもう終わっているだろうか。

 教室に向かう最中、ちょうど保健室の辺りで、僕は羽沢さんと会った。あの喫茶店での一件以来、僕と羽沢さんは軽く話をするくらいの関係にはなっていた。

「あ、羽沢さん」

「篠原くん。掃除はもう終わった?」

 羽沢さんの両手には掃除用具があり、まだ終わっていないことは見て取れた。

「うん。羽沢さんはあとどのくらい?」

「もう少しかなあ。最後の仕上げところ」

 羽沢さんから疲れは一切感じられず、僕は凄いなあと感心すると同時に、暇だし、手伝おうかな、とも思った。

「羽沢さん、」

 手伝おうか、と口に出そうとしたところで、つぐー、と恐らくは羽沢さんを呼んでいるであろう声が、保健室の中から聞こえた。

「あっ、ひまりちゃん、今行くね! じゃあ篠原くん、またね!」

「……ああうん、またね」

 少しテンションの下がった僕は、保健室に入って行く羽沢さんを見てから、教室への道のりを歩き始めた。

 A組前の廊下に着くと、そこには窓側の壁に寄りかかっている美竹さんがいた。僕はひとまず美竹さんに話しかけてみる。

「美竹さん、中入らないの?」

「まだ終わってないから」

 会話はそこで途切れてしまった。でも僕と美竹さんの間には特に気まずさはなかった。することがなかった僕は、美竹さんから少し離れたところで寄りかかる。

 すると、今度は美竹さんが僕に話しかけてきた。

「篠原」

「ん?」

 僕を見る美竹さんの目には、緊張や期待の色があるように見えた。

「普段、どういう音楽聞いてるの」

 そんな突拍子のない質問に、僕は面食らったけれど、すぐさま返答する。

「ゲームミュージックかな」

 なんだろう、この前もこんな会話をしたような。

「ロックは好き?」

「別に嫌いではないけど、好きって程でもないかなあ。全然詳しくないし」

「じゃあさ」

 美竹さんはそこから、一拍置いた。

「ガールズバンドって、知ってる?」

 ガールズバンド。言葉の意味も、それがどういうものかも知っているが、美竹さんが言っているのはそういうことではないだろう。

 だから、僕は素直に知らない、と返した。

 美竹さんはそっか、と短く返事をすると、今度は深呼吸していた。

「篠原、あたしね──」

「お前ら。そんなとこで突っ立ってないで手伝えよ」

 美竹さんは何かを言おうとしていたが、教室から顔を出した担任の声によって、それは遮られてしまった。

「はい、すぐ行きます」

 僕はとりあえず、そう言って、美竹さんの話の続きを聞こうとする。

「じゃあ美竹さん。続きをどうぞ」

 僕は担任に向けていた顔を、美竹さんの方に戻す。そして驚いた。

 そこには、口を尖らせて拗ねたような顔をしている美竹さんがいた。

 ──めっちゃ可愛いですねその表情。

 僕は動揺しながらも、なかなか話そうとしない美竹さんに続きを促す。

「あ、あの、美竹さん?」

「……中、入ろ」

「え? でも……」

「いいから。掃除手伝うんでしょ」

「あ、ああうん」

 僕のその言葉を聞くと、美竹さんはずけずけと教室に向かった。正直言って、ちょっと怖かったです。

 その日は一日中、ろくに口を利いてもらえなかった。

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