「ふー、ここも修理完了だ」
今日で45件目の屋根の修理と掃除が終えた。
あれからギルドでは一日に3つのクエストを受注することをやめ、普通通りにクエストを受けることにした。そのおかげかギルドの人達の心配している眼差しが消え、どこか安心したような視線を感じるようになった。
クエストを受ける数を減らしたから貰える報酬は前回よりも減ってはしまったが時折蒼の薔薇のガガーランさんやラキュースさんがクエストを誘ってきたりしてくれるのでそれなりに報酬は貰える。それに彼女達との話を聞いてて楽しく、おかげで誰かと話す楽しみが得られた。
またまわりではアイアンのクラスなのにあのアダマンタイト冒険者と同行しているからそれなりの実力を持っていると感心する人や羨ましがる人や、彼女達にこっそりついていって報酬を貰っている腰巾着だと卑しい目で見てくる人が増えた。話しかけたりすると卑しくみられ相手にされなかったり、唾を吐かれ追い払われたり(その直後バンビがその人を半殺しにしようとして焦った)、気軽に話してくれたりしてくれたりと様々だ。
話は逸れてしまったが、ある時討伐や採取クエスト以外に何かあるのかと調べていたら王都の街内の屋根の修理及び掃除とかいうクエストがあった。興味本位で受けてやってみたらこれが意外と楽しかった。瓦詰みや汚れ落としやら最初は戸惑ったがやり方さえ分かってしまったらあっという間にできてしまう。おまけに屋根から一望できる王都の景色はいいものだ。
最近はついついこれをやり過ぎてしまったせいで、沢山の街の人から頼まれたり街中で声をかけられたりと余計目立ってしまった。でもまあ屋根の修理と掃除は楽しいから仕方がない。でもなんか最近は壁の修理とか掃除とかやらされているような‥‥気のせいだよね?
さてと後はギルドに報告をして報酬を貰ってと‥‥おや?今日はいつもより冒険者の数が多いしざわついてるな。こういう時は受付嬢にでも事情を聞けば分かるかな?
「なにやら騒がしいようですけど何かあったんですか?」
「あ、ブライさん‥‥遠方の探索から戻って来た冒険者や旅人の話でアベリオン丘陵に凶暴なモンスターが出現したみたいですよ?」
「‥‥はい?」
話を詳しく聞いてみると、アベリオン丘陵は法国の領土にある場所でそこにはオークやオーガをはじめ様々な亜人達が住んでいるとのこと。その場所で山が崩れていたり、一部の集落が全滅したり、森林地帯が荒らされていたり甚大な被害が起きていたようだ。更に詳しく聞けば、集落にいた亜人の体が何か貫通されたかのようにぽっかり穴が開いていたり、山という山がチーズのように穴が開けられていたり、森が一直線に荒らされて何か通った跡のようになっていたりと珍妙な話だった。
更に受付嬢曰くその似たような被害が王国領土内でも起きており、アベリオン丘陵からどんどん北上し王都へと近づいているとのこと。ギルド本部はそのモンスターの調査クエストを出したようだ、だからこんなに人が多いわけか。もしかしたら蒼の薔薇の人達も受けるのかな‥‥?
「ブライさん、調査クエストを受けてみませんか?」
「いえいえ、今は屋根の修理と掃除が楽しいので俺は遠慮しておきますよ」
今はまだこの世界のモンスターや人達がどの程度強いのかじっくりと観察すべきだ。アダマンタイトの冒険者は英雄の域に片足ついてると聞くが、個々がどのレベルなのかがはっきりしない。ガガーランさんから聞いた話では蒼の薔薇のメンバーであるイビルアイさんはかなり強いとか。そういえば彼女とはあまり話をしてないな‥‥今度会えたら話をしてみよう。
「おぉーい、ブライ!」
さてどうしようかと考えていたところへノッブがバンビを連れて上機嫌にやってきた。そういえば今日は『やっとワシもクエストが受けれるぞ!』と張り切ってたな。
「ほほぉー、ここがギルド本部かぁー!ついにワシも冒険者デビューというものじゃ!新たなる旋風を巻き起こすからよう見ておけよ!」
「お任せください!このバンビめがノッブ様の神々たるご活躍を一部始終見届けます‼」
楽しそうで何よりです、はい。でもね、結構目立ってるからね?なんだこの女の子はという目で見てる人もいるから。あ、いやらしい目で見てる人もいたわ‥‥中身おっさんなんだよなぁ
「よぉーし!ブライよ、このなんか強そうなモンスターの絵が描かれてるこのクエストを早速受けよう!」
「ノッブ、それカッパーの冒険者じゃ受けれないクエストだから」
「なん‥‥じゃと‥‥」
「ちょっとそこの受付嬢!ノッブ様にも受けれるようにしなさいよ!」
オーバーに驚くな、あとバンビちゃん受付嬢を脅さないの。ルールはルール、ちゃんと規定に則ってクエストを受けないと。
「わ、ワシなら第3位階魔法以上も唱えられるしそれなりの腕があるんじゃが、ダメかのう?のう?」
「あんた、首を縦に振りなさい。じゃないと‥‥爆破させるわよ?」
「だから脅すな」
とりあえずノッブとバンビにげんこつを入れる。受付嬢さん、本当にごめんなさいね?
「しゃあない、俺が選んでおくから。まずは簡単な討伐クエストでいいか?」
「むぅ‥‥止むを得ん。ローマは一日にして成らずというからのう」
こうして俺はノッブとバンビを連れて王国から北東で出没しているモンスターの討伐へと向かうことにした。
王都を揺るがす事件が起きたのはその後の事だった。
___
今夜もただただつまらない湧きつぶしになりそうだ。
王都の南にある無駄に広い花畑が広がっている養蜂場。あちこちに大きな篝火がついてありその炎の明かりに群がり焼け死ぬ虫達を眺める。
今夜は湧きつぶしの作業。要は蜂蜜の香りにやってくる昆虫型モンスターの討伐だ。貴族直属の養蜂場もあって湧きつぶしのクエストは行事の様で報酬もそこそこあり多俺達の様なカッパーやアイアンの底辺冒険者が多く集まっている。
受ける冒険者の数も多いので討伐数とモンスターの大きさで報酬の量が決まる。しかし大抵の昆虫型モンスターは蜥蜴くらいの大きさで全くと言って程弱い。たまに兎程の大きさの虫がいるが先を越される。
くそっ、見つかるのはちっさくて弱っちい虫ばかりだ。何か大きい虫がいないか探さないと今日の貰える報酬は少ないぞ‥‥!
焦りが募りだしたその時、どこかでバキバキと何かが壊された音が聞こえた。恐らく巣箱を昆虫型のモンスターが壊したのだろう。巣箱が壊されたとなると怒られるのが山々なんだけど、折角虫モンスターを見つけたチャンスなので無視はできない。
気づかれないように慎重に近づいて正体を探る。剣を持って慎重に慎重にモンスターの様子を伺う。
「‥‥なんじゃこりゃ?」
4つの角がついた兎くらいの大きさの昆虫型モンスターだ。しかしこんなモンスターは見たことがない、これは新種か?黒い光沢のある甲殻だがあちこち傷だらけで角の一本は先端が折れている。そしてこのモンスターは只管巣箱の蜂の巣を食べてこちらに気づいていない。
余程弱っていたのか腹が減ってたのか。だがこれはチャンスだ。新種っぽいしこれは高額報酬が得られそうだ。俺はニヤリとほくそ笑んで、剣をそのモンスターにめがけて振り下ろした。
ガッキィィィン
え!?ちょ、堅っ!?振り下ろされた剣が大きな音を立てて弾かれた。冗談とは言えないくらいの頑丈さで剣が振動し腕まで震動が伝わった。
そしてその昆虫モンスターは俺の存在に気づくとこちらに体を向けて物凄い勢いで飛んできた。一本の鋭そうな角を突き立て、俺の体を貫通して飛んでいく。
胸に大きな穴がぽっかり開き、そこから大量の血が噴き出て全身に激痛が走る。悲鳴を上げたいが口まで血が逆流してもう大きな声が出せないし意識がもう遠のいていく‥‥畜生‥‥だから湧きつぶしはいやだったんだ‥‥
一人の冒険者が何やら昆虫型モンスターに殺されたらしい。そいつの近くに冒険者が気づくがその冒険者も体に穴を開けられて殺された。
あのパタパタと飛んでいる黒光りする4本角の昆虫型モンスターの仕業のようだ。そいつが勢いよく飛んでつぎつぎと冒険者達の体を貫通して穴を開けていく。もしや‥‥噂にあったあのアベリオン丘陵に出現したという凶暴なモンスターか!?
一人の冒険者が指示を出して来た。あのモンスターは危険だ、全員で協力して倒せと。本当なら誰がお前なんかの命令なぞ聞くかと思うが今はそれどころじゃない、下手したらあのモンスターに皆殺しにされる。俺の様な魔法職の冒険者も何人かいるから補助したり魔法で攻撃していこう。
「『速度低下《スピードダウン》!」
まずはあいつの飛ぶ速度を遅くさせなくては。勢いよく飛んでいたモンスターは徐々に遅くなっていく。その隙に剣やハンマー、弓で攻撃をするが弾かれる。何という頑丈なやつなんだ。
だが魔法は効いているようだ。幾人かのマジックキャスターが『魔法の矢《マジック・アロー》』を唱え、放たれた光球が直撃していく。
傷だらけのこともあって『魔法の矢』を当て続けていくとようやく剣や弓矢が刺さるようになった。飛び回るあいつがだんだんとフラフラと飛ぶようになった、相手は弱っている。これはチャンスだ。
誰かのマジックキャスターが『火の粉《ファイヤー》』を唱えたようで、あの昆虫モンスターは火だるまになった。パタパタともがくように飛んで暫くするとポテッと地面へと落ちた。
これがあの噂の凶暴のモンスターの正体だったのか?何というか楽勝だったな‥‥いや結構な数の冒険者が殺されたからかなり凶暴だったと言うべきか。
なんとも呆気ない幕引きだったな‥‥
って、あれ?火だるまになってたあのモンスター‥‥なんか、でかくなってない?いや気のせいじゃない、でっかくなってる!?
纏っていた炎が勢いよく消し飛ぶと姿を現したのはオーガ程の大きさの赤銅色に輝く甲殻を持った4つの角を持つ昆虫モンスターだった。え?さっきの昆虫モンスターがでっかくなったのか!?
エメラルド色に輝く目がギラリと光る。やばいやばいやばいやばい‼もう見ただけで分かる、あれはやばすぎる‼俺の様なちんけな冒険者じゃ勝てねえ‼
何と言うか本能的に俺は一目散に逃げ出した。全力疾走で走っていくと後ろ遠くから大きな音が響いた。恐る恐る後ろを振り向けばあの赤銅色の昆虫モンスターが魔法を唱えたようでそいつの周りから地面から鋭く尖った岩があちこち飛び出して冒険者達を次々とぶっ飛ばしていき、広大な花畑に尖った岩があちこち突き刺さり地獄絵図となっていた。
あれ‥‥本で読んだ事があるぞ、確かあれは‥‥第5位階魔法『巨石の刃《ストーン・エッジ》』!?あ、あのモンスターはそんな高位な魔法も唱えれるのか!?
赤銅色に輝くそいつは邪魔者が失せたことがわかると翅を広げた。赤銅色の翅と茶色いガラスの様な薄翅をはばたかせ、低空飛行して飛んでいった‥‥って、あいつ王都の街へと飛んでいくぞ!?
あんな化け物が王都へ暴れたら‥‥間違いなく、王国が一夜で滅ぶかもしれん
「‥‥こいつは‥‥まじヤバス」
どうしてだろうか、呆然とした俺は思わずわけのわからない言葉が出てしまった。
どこかの宇宙の帝王さんのようにあと3回進化するタイラントマジヤバスオオカブトさん
まずは一段回目、赤銅色に進化。
イメージとしてはカブトムシの中でも気性の荒いコーカサスオオカブト
個人的にヘラクレスより好きなカブトムシです