ドゥンケルハイト・トップ   作:サバ缶みそ味

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1杯目 状況整理

「いかがなさいましたか‥‥?何か異常の事態が起きたのですか?」

 

 あっけらかんととられて何を言えばいいのか戸惑っている俺とアダーを見てアルクはさらに不安そうな表情を見せて詰め寄って来た。

 揺れる胸、かすかに聞こえる吐息、ルビーのように輝く瞳、仄かに香る艶めかしい香‥‥単純動作のAIを持つNPCとは思えない。そう、これは生を得て生きているように見える。

 

 いけないいけない、マジマジと見つめている場合ではない。これ以上戸惑っていても埒が明かない。

 

「‥‥俺もよく分からないが予期せぬ事が起きているようだ。アルク、すまないが第六階層『狂気山脈』の守護者シュマゴラスを大至急ここに来るよう呼び、各階層に赴き各階層の守護者達に警戒レベルを最大に迎撃態勢で待機。ミリタリヴァルキュリア達には第七階層『千年城』を守備するように伝えてくれ」

 

「なんと‥‥‼まさか私共が気づていないうちにその様な大事に‥‥守護者統括の身でありながらこの失態、どうかお許しください」

 

 

 いや、ちょ、大失態を犯して死んで詫びますと言うかのような深刻な表情になって膝をついて頭を下げられても困るんだけど。ていうかこんなことをしている場合じゃないってば。

 

「か、顔を上げてくれ。今は事態を収拾することに集中し、挽回してくれればいい」

 

「ブラッド様‥‥御慈悲感謝いたします。では即急に参ります」

 

 

 御慈悲を頂けたと暗かった表情が一変してやる気に満ちた表情になり、アルクは転移魔法である異界門<ゲート>唱える。何もなかった場所から突然紫色の大穴が開き、アルクがその大穴へとくぐっていくと大穴は閉じて何もなかった空間へと戻った。もう何が何だか、情報の整理が追い付かない俺とアダーはポカンとあんぐりするしかなかった。

 

「‥‥なぁにあれぇ」

 

 アダーの言う通り、もうそれしか言葉が出ない。AIでしかなかったNPCが意志を持ち生きているというのはわかったが、恐ろしいほどの忠誠心で逆にめっちゃ引いた。元々NPCはプレイヤーを守る為に設定されている物だから忠誠はあるのはしかたないが、あれはうん引く。

 

「あれは驚いたが‥‥けども魔法は普通通りに使えるみたいだな」

 

 コンソールが表示されないが、どういうわけかこれまで習得してきた技や魔法、消費するMPの量、使う感覚というのは全て頭の中に入っているようだ。

 

「NPC…アルクがあんなにも忠誠心MAXだなんてな。という事は頼めば触らしてくれる!?あのプルゥンプルゥンを触れるってことだよな!?」

 

「やめんかおバカ!」

 

 デヘヘと下衆そうに笑うアダーをジャーマンスープレックスで〆る。18禁に触れるような行為、ましてやセブンミッドナイトさんが3徹して設定したアルクはおろか他の方々のNPCに手を出すようなことはさせん。このバカが変な気を起こす前に止めておかなくては。

 

 そんな事をしていると今度は天井から紫色の大穴が開き、そこから緑色の触手がウネウネと蠢かしながら俺達の前に降り、現れた緑色の太い触手を持った赤い一つ目のモンスターは俺達を見るとペコリと一礼した。

 

「第六階層守護者、シュマゴラス。御身の前に、でシュ」

 

「うひょああああっ!?めっちゃ蠢いてる!?」

 

 ユグドラシルプレイ時よりも更にリアルに蠢く触手とおどろおどろしい姿に思わずアダーがギョッとして悲鳴を上げて驚いた。はて?そんなに驚くものだろうか。俺はちっとも恐ろしくも感じないのだが。

 

 ルルイエ地下迷宮は本来四階層までしかなかったのだが課金して増築及び改築した。その増築した階層の一つ、第六階層『狂気山脈』。Mr.ストレンジさん、殺生inさん、ブラックハートさん、アァマドニさんが作成設定した百年前ぐらいに流行していたクゥトゥルフというホラー系ボードゲームをモチーフにした階層である。

 その階層守護者である『古のもの<エルダー・シィング>』のシュマゴラスは時空間魔法が特化され、ルルイエ地下迷宮外の索敵や近づいた者の襲撃は勿論、階層侵入者を外へと追い出すことだってできる。

 

 

「ブラッド様、デス・アダー様、シュマゴラスに何か御用時でシュ?」

 

「ああ実はルルイエ地下迷宮に何か異変が起きたらしい…お前のスキル、千里の瞳<サウザンドアイ>でルルイエ地下迷宮の外の周り、全階層を隅々まで見てくれないか?」

 

「お安い御用でシュ!シュマゴラスの瞳にかかればコバエ一匹も見逃さないでシュよ!」

 

 シュマゴラスは意気揚々と胸を張って(いや胸と呼ばれる部分があるのかわからないけど)ギョロリと大きい瞳を閉じ、体が緑色に光る。どうやら千里の瞳による索敵を始めたようだ。

 

「なるほど‥‥スキルもしっかりと発動できると」

「なあブラッド、外は分かるがなんで各階層の隅図まで見るんだ?」

「もしかしたら俺達の他にメンバーがいるかもしれないと思ってさ」

 

 なんたってユグドラシル配信最終日だ。アダーと俺は他のメンバーにもその事を伝えていた。もしかしたら名残惜しさに顔を出してたり、忙しい身だけどもかつての事を懐かしんでコッソリ来てたりしていたかもしれない。そうだとすれば俺達と同じように混乱しているはずだ。

 

「でもよぉ、朝からログインして各階層を探したがいなかったじゃねえか。そう簡単に‥‥」

 

 

「うおわああああああああっ!?」

 

 アダーの話を遮るかのように誰かの悲鳴が響いた。お年頃な女の子の声のようだが、俺とアダーは顔を合わせてハテナと首を傾げた。それもそのはず、あんな声のする女性のメンバーっていたっけな?グルグルと記憶を探っているうちにその悲鳴は次第に近づき、逢魔の王間の扉が勢いよく開かれた。

 

「おおっ!?ブラッド‼デス・アダー‼大変じゃ!大変じゃぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 こちらに涙目で駆けつけてきたのは赤いマントを羽織った黒い軍服を着た腰までの長さのある黒髪の女性。その姿を見て俺とアダーは目を丸くし、驚愕した。

 

「の、ノッブ!?」

「ノッブ‼お前いたのか!?」

 

 ノッブは異形種アバター『魔人<デモン>』のシックス・デモンズキングだ。ノッブとはリアルじゃ俺とアダーと子供のころからの仲で、考古学者を務めている。そんなリアルじゃ背の高かったノッブさんが背の低い女の子に‥‥

 

「と、というかノッブ‼どうしたんだ!?」

 

「ぶ、ブラッド‼大変なんじゃよ‼オレに生えてるものが生えてなくて、オレに付いてなかったものが付いてるんじゃ‼」

 

「Oh‥‥」

 

 俺は思わず顔を片手で覆った。ノッブさんがスース―すると言って内股になるわ、胸をわしわしと揉みしだくわ見てられない。けどもアダーはデュフフと下衆そうな笑みを見せて手をワキワキしてた。

 

「へーそいつは大変だ!ノッブ、そのパイ乙が本物かこの俺が試してry」

「やめんかぁっ‼」

「ひでぶぅっ!?」

 

 力を込めたアッパーカットが炸裂。打ち上げられたアダーは天井のシャンデリアに突き刺さり宙ぶらりんになる。シュールな光景だが今はノッブを慰めなくては。

 

「の、ノッブ、気を落とすなって‥‥その‥‥そ、その姿も結構カッコイイぞ?」

「そう?じゃ、是非もないヨネ♪」

「切り替えはやっ!?」

 

 先ほどまでめそめそと泣いていたのが嘘の様に満面の笑みを見せる。ま、まあノッブ本人も『過去にアーサー王とか沖田総司とか歴史人物や神話の神様を女体化させたゲームが流行ってたし』と目を輝かせて言ってたもんな。本人は『その女体化した歴史人物になりきりたい』とかも言ってたし、嬉しそうにしてるし満更でもないようなので問題なさそうだ。

 

 ノッブの事から精神はこのままで肉体はアバターの姿になってしまったという事か。五感があるという事はこの姿で何処か別のところへ転移‥‥考えたくはないが異世界か何かへ転移したのか?

 

「というかノッブ、いつからいたんだ?」

「うーん、5時間前くらいかのう。個室で敦盛ロックに熱中してたから気づかんかった」

「そうだよな…ギタリストの職業も入手するほど好きだもんな…」

 

 大のロック好きだし、ギタリストとかいう超レアで特殊な職業を手に入れそれ専用の武器も作ってたっけかな。てか敦盛ロックてなんだよ。

 

「ノッブ、今度は俺に嬌声ロックを聞かしてくれる?」

「アダー。言っとくがオレは見た目は女の子、中身おっさんだからな?」

「くそっ‼そうだった!ブラッド、俺の夢を返せ‼」

「何で俺なんだよ!?」

 

「ちくしょおおおおおおっ‼‼」

 

 アダーと取っ組み合いしている途中で今度は渋い声が響いてきた。まさかもう一人、他のメンバーがいたのか‼そう思って3人で扉の方へ眼を向けて待っていたのだが一向に姿が見えない。

 

「ちくしょうなんてこった‼気が付いたらシャットダウンできねえし、毛むくじゃらの獣のまんまだし、低かった背が更に低くなっちまったじゃねえか!」

 

「「「???」」」

 

 喧しい程の声がギャーギャーと聞こえるのだが辺りを3人で見回しても何処にも姿がない。透明人間か不可視系モンスターのアバターってあったけかな?

 

「‥‥おいコラ。もしかして見えてねえってか?お前らの足下を見やがれってんだこのすっとこどっこい‼」

 

 声のする方へと下を見下ろす。俺達の足下に、ノッブよりも更に背の低いオレンジ色の宇宙服みたいなスーツを着たこげ茶色の毛むくじゃらの獣‥‥アライグマが二本足で立ち腕を組んで睨んでいた。そうこのアライグマが誰なのかもう見当がついた。

 

「ら、ラクーンさん!?」

「ほ、本当にラクーンさんなのか!?」

「俺じゃなかったら誰だってんだ馬鹿野郎。てかノッブ、お前そんな声だっけか?」

 

 見た目と反して渋く荒い雰囲気のラクーンさん…『狂った獣<クレイジービースト>』のレイダーだ。狂った獣のモデルが何故アライグマなのか。ラクーンさん曰く、噛まれたら100%死に至る病気を持っいるからだとか。

 

 しかしリアルじゃ俺達よりも年上のラクーンさんが俺達よりも小さい姿のアライグマに。本人は激昂しているのだがこれじゃただプンスカと怒ってるようにしか見えない‥‥

 

 

「「ラクーンさん、ちいっ‥‥」」

 

 俺とノッブは思った事そのまんま言おうとしたがラクーンさんの目が鋭くなったのにハッとなって途中で口を閉じた。ラクーンさんに小さいとか背が低いという言葉は禁句だ。自分の身長が低いことにコンプレックスを感じている。その身長が更に低くなっているんだ、言われたら間違いなくブチギレる。

 

「ちっさ‼ラクーンさん、メッチャちっさ‼」

 

 ラクーンさんにその事を伝えたアダー。その刹那、ラクーンさんのドロップキックがアダーの顔面に炸裂。アライグマにしばかれる巨人て‥‥なんかシュールだ。アダーからマウントをとったラクーンさんが虚空に手を伸ばす。すると異界門と同じような黒い穴が現れ、手が穴の中へ。そして戻って来たと思いきやラクーンさんの片手には自分の体よりも大きい銃が握られており、銃口をアダーに向けた。

 

「おいデカブツ…次俺にドス豆ドチビスケとでも言ってみろ、今度はそのドタマに大穴開けてやる‼」

「イヤイヤイヤ!?言ってませんって!?そんな事言ってませんって‼」

 

 流石のアダーも冷や汗をかいて何度も首を横に振る。ラクーンさんを怒らせたら収拾がつかなくなってしまう。急いで止めなくては。

 

「ら、ラクーンさん落ち着いてください。その…ほらアライグマ可愛いですし」

「あぁ!?ブラッドてめえも俺を小動物扱いしようってかゴラァ‼しばくぞ‼」

 

「ねえねえ肉球とかフニフニしてるのか?触らせて触らせて!」

「うるせえ‼ノッブてめえを肉塊にしてやろうか!?」

 

「そんな事よりはやく助けて!?」

 

 ああダメだこりゃ。もうどんちゃん騒ぎで止めらんないぞこれ。一回睡眠をかけ‥‥いや全員耐性ついてたよな。

 

「あ、あのー‥‥ブラッド様、デス・アダー様、ノッブ様、ラクーン様。千里の瞳による索敵はお、終わりましたでシュ‥‥」

 

 

 シュマゴラスは俺達がやんややんやと騒いでる中いつお伝えしようかタイミングを伺って待っていたようだ。シュマちゃん本当にスマン。シュマちゃんの鶴の一声のおかげか他の3人も冷静になった。

 

「それでシュマゴラス、何か変った事があったか?」

「各階層の隅々を見ましたが異常はありませんでしたでシュ。でシュが外の景色が変わっていたでシュ。ルルイエ地下迷宮の周辺は緑の山々に囲まれ、その数キロ先は西に赤茶けた荒野、南に湖、東に山脈が見られ、上空は第5階層と同じ星空が広がっており、月が見えますでシュ」

 

「「「「は?」」」」

 

 

 シュマゴラスの報告を聞いて俺達4人は気が抜けた様な声が出た。そんなばかな、ルルイエ周辺は本来は針の山に囲まれている。緑の山々という事は木々が生えているという事、つまりはルルイエ地下迷宮そのものが全く違う場所へと転移したことになる。本当に異世界とやらに転移してしまったのか。

 

「やべえ、メッチャ見てみてぇ。皆で見に行こうぜ‼」

 

 アダーが遠足を楽しみにしている子供のように大はしゃぎしだした。ノッブもラクーンさんも興味あるようで是非とも見てみたいとのこと。

 確かに俺も気になる、現実世界の空は暗いスモッグのような雲に覆われて青空も星空も見る事できなかった。せめてギルド内で見れるようにと第五階層の設定を担当した宇宙ゴリラさん、あんこく零二式さん、ハルカンドラさんが本や写真、絵を基に一生懸命に作ってたっけな。

 

「それじゃ決まりだな。今すぐ異界門<ゲート>で‥‥」

 

「お待ちくださいでシュ。外へ向かわれるのであれば共をつけた方がよろしいかと思いますでシュ」

 

 む…確かにシュマゴラスの言う通りだ。今は何が起きたのか状況も整っていないし、もしかしたら外は自分達はちっぽけな存在というようはハードな世界かもしれない。警戒しながら外へ出た方がいい。

 

「そうつれないこと言うなよシュマちゃんよぉー。そんじゃシュマちゃん、一緒に来てくれるかなあ?」

 

 先ほどまでリアルに蠢く触手にギョッとしていたアダーが酔っ払いの上司の如くシュマゴラスに肩があるのかわからないけど肩を組む。シュマゴラスは目をギョロギョロしながら戸惑っている。

 

「え、シュ、シュマで宜しいでシュか?」

 

「シュマゴラスが適任だろ。敵が襲撃してきたら相手を遠方へ強制転移させたり空間圧縮するスキルがあるし、危険だったら瞬時に退散できる。だから自信持てや」

 

「ラクーン様‥‥有難き幸せでシュ。ではこれより至高の御方々のお供をさせていただきまシュ」

 

 うん?至高の御方々て。滅茶苦茶畏まり過ぎじゃないか。いろいろとツッコミを入れたいところだが今は外が気になる。異界門を発動させ空間に大きく開いた大穴をくぐっていく。

 

 

 

 

 

 

 大穴をくぐったら、そこは満点の星空が広がっていました。透き通ったような夜空に小さな宝石のように爛爛と煌めく星々、深緑の木々の生えた山々、現実では絶対に見る事がなかった景色に俺達4人は開いた口が塞がらなかった。

 

 

「「「「‥‥まじか」」」」

 

 

 うん、もうそれしか言えないやこれ。




ノッブ‥‥モデルはFGOよりみんな大好きくぎゅうううの方。かわいい、カッコイイ、イケメンと3拍子で個人的に好きな英霊。初めて課金してまでも手に入れたいと思い幾人もの諭吉を生贄にして大爆死。夏の方は手に入ったけど


ラクーン‥‥モデルはアメコミのガーディアンズ・オブ・ギャラクシーより最強のアライグマ。映画の英語の方は迫力があったのに‥‥吹き替えの方はもっと荒い方が良かったような気が。アライグマだけに(オイ
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