―————時はデス・アダー達が第五階層にて階層守護者達を集めている前よりも遡る。
「うーむ‥‥なんだかなー」
月明かりと左手に持っている松明の明かりで照らされている中、夜空を見上げてため息をつく。警戒して外を探索しているのだが、思った以上に拍子抜けてしまった。かれこれ森の中を歩き続けた結果この辺りは俺達にとっては思いのほか危険ではなさそうだ。
ただ変わっているとすればモンスターか?オーガやワイルドウルフ、ワイルドボアのようなモンスターが滅茶苦茶湧いていることだ。しかしレベルは俺達よりも遥かに低いようで一刀のもとで切り伏せられていく。
「モンスターは消えずに死体が残る‥‥」
先程暗い森の茂みから襲い掛かって来てノコギリナタで葬ったワイルドウルフの死骸を見下ろす。倒した敵は消えることなく残り、クリスタルやアイテム、お金をドロップしない。ユグドラシルのアイテムがドロップできなくなるというのは問題だ。アイテムボックスやルルイエ地下迷宮の倉庫には大量に残っているが、いずれは尽きてしまう。この世界でユグドラシルのアイテムやらを作成できるかどうか実験をする必要があるな。
「おぉーい、ブラッドー!」
「ノッブ、ユグドラシルとは違うからといってあまり離れて行動をしないで‥‥って、そのキノコなに?」
エネミーがバンビの援護が必要がないくらいあまりにも弱く単純作業と化していったので退屈になったノッブは少し離れて苔やら植物やらを興味深く調べ出していた。そして今、ノッブは可愛らしい笑顔で真っ赤な色をしたキノコを俺に見せた、というかそのキノコ食いかけなんだが。
「ノッブ、それ何?」
「うーん、何じゃろうな!食べてみたがあんまり美味しくなかった!」
「いや、いくら毒無効のスキルがあるからといって無暗に拾って食べちゃダメでしょうが」
先程からノッブはそこら辺に生えてる派手な色をしたキノコだったり、明らかに毒草みたいな草だったり、食欲が失せるような色合いの木の実だったりとよく見てから食べていく。危険は無さそうなのだが見ているこっち側とすればハラハラドキドキしてしまう。
「お腹壊してもしらねえぞ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!そんな時はバンビの回復魔法で何とかしてもらうから!」
「いやいや‥‥バンビもノッブが変なの食べようとしてたら止めてもいいんだからな?」
襲い掛かってくるモンスターは俺が先立って片付け、ノッブはあちこち歩きまわって草木を調べたりと援護もする必要がなくなっていたバンビに声を掛ける。俺達を守らんと辺りを見回しながら張り切っていたバンビはあわあわと焦りながら首を横に振る。
「と、とんでもございません!ブラッド様やノッブ様…至高の御方々の邪魔になるようなことをするなんて、も、以ての外です!」
「真面目過ぎるのぅ、そんなに畏まる必要なないぞ?ほれ、バンビも食べる?」
「やめなさいって」
まったく、フィールドワークを堪能しすぎだ。アイテムの調合の検証するいい機会かもしれない、ノッブにいくつかキノコや木の実を採取してもらおう。
さて森の中はあらかた探索はできただろう。モンスターがこのレベルならアダー達や他の守護者達も外へ出すのも大丈夫かもしれないな。だがこの周囲だけが比較的レベルが低い可能性もある、シュマゴラスが言っていた湖や荒野地帯にも赴いて調べるべきだろうか‥‥
「‥‥む?」
遠くから茂みを搔き分ける音が聞こえてきた。激しく連続的に草木を搔き分ける音が響く、恐らく何かが急ぎ走っている。しかもその音は段々とこちらに近づく。先ほどまで採取し続けていたノッブは手を止めていつでも提げている刀を引き抜けるよう身構え、バンビも警戒態勢に入っている。
先程と同じように腹をすかしたワイルドウルフか、気性の荒いオーガか、一体何が現れるか。モンスターが来るのかと、先制をとるために気配を察知‥‥したのだがどうも野性的獰猛な気配も、相手を殺さんという勢いの殺気も感じられない。どちらかというと何かから逃げている恐怖と焦りを感じられた。
しかも敵意も感じられない。もしかしたら人に友好的な種族がモンスターに追われているのだろう、ここは俺に任せておいてくれとノッブに手で合図する。ノッブは頷いて刀を下した、よしこっからは俺にry
「はぁ‥‥はぁ…っ!助け――――っぱあああああっ!?」
「「えっ?」」
何という事でしょう。茂みから飛び出して来たのは青い布の服を着たちょび髭の少しふくよかな人間の男性だったのだが、『助けて』と叫ぶその瞬間に世紀末な断末魔を上げて上半身が水風船のように吹っ飛んでしまった。刹那の事だったので俺とノッブは思わずポカンとアングリ。
もしやと後ろを振りかえれば、ドヤ顔で魔法を放っていたバンビの姿があった。あれは第8位階魔法『破裂<イクスプロ―ド>』、内部から肉体を破裂させる魔法だがミンチよりもひでえや。
「ふん、下衆な人間が。至高の御方々に触れようなんて万死に値するわ」
「ええええええっ!?ちょ、バンビ!?今の明らかに殺しちゃダメだっただろ!?」
「明らかにさっき『助けて』って言おうとしてたよねあれ!?」
間違いなくこちらに助けを求めていたし、しかも折角この世界で初めて出会う人間だ。この世界の事を色々聞き出せるチャンスだったというのに‥‥って俺達に叱られたと思ったバンビがポロポロと涙を流し始めて泣き出した!?
「も゛…申し訳あ゛り゛ま゛ぜん゛!この失態、この命を絶って詫びます!」
「待て待て待て!?大丈夫!大丈夫だから、ね!?俺達全然気にしてないから‼」
「そ、そうじゃぞ‼失敗は誰だってあるもんじゃ!次の機会で返上すればいい。ほ、ほれ泣くな泣くな」
グスグスと泣くバンビを懸命に撫でて励ます。忠誠心が高すぎてちょっとミスしただけで死んで詫びようとするNPC、これは意識改革を考えておかないと今後大変になるな…一先ず意識改革は置いといて、今は爆散して血肉を飛び散らしている死体をどうかしないと。
「えーと‥‥これ、どうしよっか?」
「うーむ、どうすっかのぅ…」
先ほどまで生きていたこの人間は俺達に助けを求めていた。一瞬でしか見えてなかったが藁にも縋る勢いだった。この人間を助けて色々と情報を聞き出す手もありかもしれない。
「ノッブ、俺はこの人間を助けて色々と聞き出そうと思うのだが」
「ワシもそう思っていたところだ。ましな人間ならこの先も生かす、そうでなければ利用し尽くして斬り捨てる」
この人間を生き返らせてこの世界の情報を聞き出し、俺達の今後の活動の方針を決める。見た目が商人らしかったでこの世界のアイテム、流通も知ることができるかもしれない。中身がクズな人間だったら商業やら金銭やら利用できるだけ利用してその後は捨てておこう。
「んじゃ決まりだな。えーと、蘇生アイテムはっと」
空間に現れる穴、アイテムボックスから手探りで蘇生アイテムを探す。バンビの蘇生魔法で蘇らせるのもいいが、ユグドラシルのアイテムが有効かどうか試しておく。ユグドラシルの蘇生アイテムは課金アイテムだが制作陣のこだわりなのか異形種用だったり亜人種用だったり全種族共通だったりと意外と種類が多い。取り出したのは3つに分かれた手のひらよりも大きな葉、『世界樹の葉』。
「ユグドラシルとは勝手が違うが、うまく蘇生できるか試してみるか」
「というかミンチより酷い事になってるけど生き返るのかこれ?」
蘇生魔法『死者復活<レイズ・デッド>』よりも高位的でデスペナをある程度軽減する効果もある世界樹の葉、この世界の人間しかも肉体が爆散してしまった状態でも蘇生できるかどうか。残された下半身の死体に世界樹の葉翳す。
ユグドラシルの時と同様に世界樹の葉は仄かな緑の光を発して消えると爆散していた上半身の肉体が時間を巻き戻すかのように見る見ると復元されていく。飛び散った肉、臓器、骨、身に着けていた服が再生されていき数秒で元の姿に戻った。
「う‥‥」
意識も戻ったようだ。ちょび髭の男はまだ重い瞼をこすりながら起き上がる。しだいに意識がはっきりしてくるとようやく俺達の存在に気づいた。
「わ、私はどうして気を失って…それに貴方達は‥‥?」
よかった、バンビの魔法でミンチよりもひどい最期を迎えてたことは覚えてないみたいだ。これで覚えてたら悲鳴を上げて逃げてただろう。ちらりと横目でノッブを伺い、ノッブは静かに頷く。自分達の素性、別の世界から来てしまった事とかルルイエ地下迷宮のことは伏せておこう。怪しまれるか、警戒されるか、なるべく折角であった人間に敵対されたくはない。
「俺達は遥か遠くの僻地から来た只の世に疎い旅人です。あての無い旅をしている最中に貴方が俺達に助けを求め倒れたので介抱していたところですよ」
「ワシの名はノッブ、こっちはブラッド、そして従者のバンビじゃ。して商人殿、他に痛むところはあるか?」
「い、いえ大丈夫です…寧ろ体が軽くなったような‥‥」
世界樹の葉は戦闘中の蘇生でもHPを全回復させ死ぬ前にかかっていた状態異常やデバフを解除させた状態で蘇生をしてくれる。商人の男は手指や腕の動き、顔を触って確認すると深々と平伏した。
「か、介抱していただきありがとうございます。わ、私はペルガ・ミーノ、羊皮紙や毛織物の生産や売買をやっておりました」
羊皮紙と聞いて俺とノッブはピクリと反応する。これは大当たりだ、羊皮紙は事前に魔法を込めておくとで一度だけその魔法を行使できるアイテム『巻物<スクロール>』の材料に必要な物。移転した世界でいの一番に欲しい材料が手に入りそうになるとは。
「だがその商人殿がなぜこのような森の中に?」
ノッブが不思議そうに首を傾げる。確かにその通りだ、見る限りこんなモンスターが潜む森の中に羊皮紙の材料となる羊がいる気配もないし、彼の屋敷もあるはずがない。羊皮紙、毛織物の商人ことペルガは思い出したかのように身を震え、両手を強く握り絞めた。
「ここまでの経緯になるまで話は長くなりますが‥‥私は竜王国、その都市の一つ『アッタロス』で商いを行っておりました」
「「竜王国‥‥!?」」
竜王国と聞いて俺は目を丸くするがノッブは目を爛爛と輝かしていた。あ、これ絶対行きたがるやつだ。まさか国が存在しているとは、しかも竜王国‥‥ドラゴンか竜人が治めている王国なのだろか。もしそうならノッブだけじゃなくアダーの奴も行きたがるだろうなぁ。
「のうのう!りゅ、竜王国とやらはドラゴンがおるのか!?」
「あー、ペルガさんすいません。こういった世の中の情勢を知らないもので、あははは‥‥」
俺は苦笑いしながらはしゃぐノッブをアイアンクローで押さえる。ちょ、バンビが『至高の御方々を謝らせるなんて‥‥』と殺気を込めてペルガさんを睨んでるし!?ちょ、やめなさいって。
「い、いえ、竜王国は竜人である女王陛下が治めておられる人間の国で生粋のドラゴンは‥‥」
「そっかー‥‥すまんの。話を逸らした、続けて続けて」
こらノッブ、露骨にがっかりしない。だからバンビ、『至高の御方を落胆させるなんて…』と殺気を込めて睨むんじゃない。ペルガさんキョトンとしているじゃないの。構わないで続けてと頷いて促しておく。
「ですが‥‥竜王国は近隣の国に住むビーストマン国家の侵攻に悩まされており、遂にアッタロスにまで攻め込んできたのです」
内心驚きを隠せない、竜王国だけではなくビーストマンという種族がいる国があるとは。しかもその国と戦争中‥‥これはいち早く情勢や周りの国の事等の情報を収集する必要があるな。知らないままじゃいつかは俺達のホームの存在に気づき攻め込んでくる恐れがある。
「ビーストマンの侵攻は激しく、この侵攻で屋敷や生産場だけでなく家内と娘達を失ってしまいました‥‥」
惨状と大事な家族を失ったことを思い出して震えていたのか。ペルガさんは頬に伝う涙を拭きとり話を続ける。
「アッタロスが陥落した後もビーストマンの侵攻の勢いは止まらず、近隣の2つの都市も攻め落としていったのです。竜王国はアダマンタイト級の冒険者を中心に防衛しているのですがもう侵攻を食い止める事ができない、毎年救援に来てくれているスレイン法国もこの頃救援に来ていないようで竜王国が滅ぼされるのも時間の問題‥‥私はリ・エステーゼ王国、王都リ・エスティーゼにいる弟を頼りに残された財と従者達を連れて王都へと向かおうとしていました‥‥」
ああ、この話だけで情報がごっちゃごっちゃと出てきた。王国に法国に冒険者やらやら、あとで詳しく聞いて整理しておこう。バンビはもう何が何だかと混乱して目をグルグルしてるし‥‥ポンコツかわいいなおい
「王都へと向かう道中の夜の事でした、幾十人もの野盗が襲ってきてきたのです。護衛として雇った者がならず者だったようで‥‥従者は皆殺され、私も殺されそうになり私は必死に森の中へと逃げたのです‥‥」
そしてその逃げている最中に俺達を見つけて藁にも縋る勢いで助けを求めたというわけか。野盗も存在しているとは、まあ俺達の現実世界でもアーコロジー内で強盗やら暴動やら頻繁にあったもんな。ん、待てよ?野盗に襲われて逃げてたってことは‥‥察した通り、バンビが何かの気配を察して暗い茂みの方を睨む。
近づいてくるポツポツと灯る光と足音、茂みからできたのは松明を片手に剣やら斧やらと武器を持った人相の悪い輩共。ペルガを殺しに追って来た野盗のようだ。
野盗を見たペルガは「ひっ…‼」と悲鳴を上げ腰を抜かして後ずさる。野盗達の方はペルガには興味がなく、ノッブとバンビの方を見て低く笑っていた。
「へへへ…商人の奴を仕留めに追ってたらまさかこんな上玉に出くわすなんてなぁ」
「ひょろそうな見た目のくせにいいもんもってるじゃねえか。野郎を殺して金品奪った後でたっぷり可愛がってやるよ」
こいつら、俺とペルガを殺してノッブとバンビでよろしくやろうと考えてんのか。片方見た目美少女だけど中身おっさんだぞ?というかノッブは状況がつかめずキョトンとして俺の方を見ていた。
「え?何?こいつらワシのこと可愛いと思ってんの?」
「ああ、お前とバンビでスッキリーしようとするつもりだぞ?」
「ふーん‥‥あっそう」
ノッブは興味なさげに呟き、ペルガの方に顔を向けるとニっと笑みを見せた。
「のう、商人殿。ワシらを雇わないか?」
「え?」
「え゛っ」
「???」
ノッブの突然の案にペルガは驚き、俺はギョッとし、バンビは何の事やらと首を傾げる。イヤイヤイヤ!?状況を打開する手でもあるがこの世界に魔法はあるのか、国やらを相手する時は俺達でも通用できるものか、まだ右も左も分からないのだぞ!?ノッブは構わず笑顔でペルガに話を続ける。
「こう見えてワシらは強いぞ?野盗を蹴散らし、おぬしを無事に王都やらへと安全にお連れしよう。それだけではない、おぬしの故郷をも取り戻してやってやろう!」
「えっ!?」
「え゛えええっ!?」
凄くでっかく出たなおい!?商人の護衛は兎も角、竜王国とやらを救う気か!?まだアダー達に報告してないというのに‥‥楽しい事はすぐにしたい、ノッブの悪い癖がでちゃったなこれ。
「で、で、できる、というのですか‥‥!?」
「じゃがタダではないぞ?金は勿論、この竜王国をはじめ他の国の事や魔法の事‥‥そして商売のことも、ワシらの知らない事全てを教えよ」
あの楽しそうな愉悦っぽい笑み、ああもうスイッチついちゃってんな。まあ商人に出会ったのだからラッキーと思えばいいか。
「おい、俺達を無視してんじゃねえよ‼」
野盗の一人が背を向けているノッブに触れようとした。こいつらはやってもいい、俺はバンビに目で合図を出す。バンビが片手を翳し、『破裂<イクスプロード>』を唱えるとノッブに触れようとした野盗が「バワッ!?」と断末魔を上げて肉体を爆散した。目の前で仲間が爆散してどよめく野盗の前に立ち、ノコギリ鉈を構えて睨み付ける。
「大事な交渉をしてんだ、邪魔をすんじゃねえよ‥‥」
人間ではなく月の魔物であるからだろうか、普段よりも畏怖の迫力を放っている気がする。異常さに気付いた野盗達は後ずさるをしている。
「‥‥妻や娘達の分まで生きるつもりだったのであろう?商人殿、答えを聞きたい。悪い提案ではないと思うのだが如何かな?」
ノッブはニッと笑ってペルガに手を差し伸べた。ペルガは少し迷っていたのか暫く俯いて考えていたがすぐに勢いよくノッブの手を取り何度も頷いた。生きたいと願い、必死に生に縋る表情だった。ま、そうでなくても助けるつもりだったけどな。交渉成立となるとノッブは満足そうに頷き、不敵な笑みで俺の横に立つ。
「さあブラッド!手始めに蹴散らしてやろう‼」
「いいけどさ‥‥あんな取引しちゃってラクーンさんに怒られても知らねえぞ?」
「‥‥‥‥是非もないよね♪」
「あっ、てめっ、可愛く言って誤魔化してもダメだからな!」
【前回の続き】
オーンスタイン‥‥皆大好き心折ゲーム、ダークソウルから。金ぴかの雷属性と何処か『牙狼』っぽい見た目だけど、スモウさんという巨漢とタッグを組んで挑んでくる。スモウを先に倒すと巨大化する。鬼畜すぎぃ‼
アルトリウス‥‥同じくダークソウルから。見た目がかっこいい、強い、BGM好きと三拍子(?) シフという親友の狼がいるようで、アルトリウスの墓を守らんとプレイヤーに襲い掛かってくる。体力が減ると足を引きずり弱っていく。もう別の意味でプレイヤーの心を折ってくる(血涙)