それは一瞬の油断だった…超常の力を持った存在、ライダー同士のバトルロイヤル…ライダーバトル…それのタイムリミットを迎える直前である最後の一週間…どんな形にせよ、全てが終わるべき瞬間が真直に迫っていた時、僅かな一瞬の油断が命取りだった。
「あ・・ああ…。」
彼、『仮面ライダー龍騎』、『霧島 輝(きりしま あきら)』は油断していた…。自身の影である『仮面ライダーリュウガ』との決着を着け、ミラーワールドを出た瞬間だった。強敵との戦いを終えた後の安堵感が彼に油断を与えていた。
強敵との戦いを終えた後の安堵感、極度の緊張から解放された事により一気に襲い掛かる疲労、普段の戦いならば、暫く相棒であるミラーモンスター『ドラグレッダー』にミラーワールドからの襲撃に対する監視を任せて休む事も出来ただろう。
だが、彼は大切な事を失念していた。現実世界でのモンスターの大量発生により、今の現実世界とミラーワールド…そのどちらにも安心して休める場所など存在していないという事を。
ミラーワールドを出た瞬間、現実世界に大量発生した蜻蛉型のミラーモンスター『レイドラグーン』に襲われたのだ。。
だが、それで死んでいたのは、彼ではなかった…。
死を覚悟して目を閉じていた彼が何時までも痛みが襲ってこない事を疑問に思い、目を開けた時、そこには信じられない者の姿が有った…。
「ミク…?」
刺されていたのは、輝では無かった…。彼を庇って、そのモンスター『レイドラグーン』に射されている彼女、ミクの姿があった…。
「…良かった…輝…。」
崩れ落ちる彼女の体を輝は慌てて受け止める。それと同時に彼等へと再び襲い掛かろうとしていたレイドラグーンはミラーワールドより、その姿を現した龍騎の契約モンスター『ドラグレッダー』により、襲い掛かる前にドラグレッダーより放たれた火球に飲み込まれ、爆散する。
傷口から流れる彼女の血の暖かさとその独特の嫌な感触、それが目の前に有るのは否定できない現実だと彼に告げていた。
「オ・・オイ、何で…なんでお前が…。しっかりしろ、死ぬな!!!」
「アキラ…お願い…これからも…みんなの為に戦っ…て。」
そういい残して倒れる彼女を受け止めたが流れ出る血液に比例して失われていく、彼女の温もり、何度呼びかけても、閉じられた瞳は二度と開かれる事は無い、明るく笑ってくれていた……彼に自分の為ではなく、人の為に戦う事を決意させてくれた彼女はもういない…。
流れ落ちる血が…失われた温もりが…閉じられた瞳が…全てを手遅れだと告げていた…全てが彼女の死を告げていた。
「ミク…ウソだろう…死ぬはずだったのは…オレじゃなかったのか!?」
輝は自分の手の中にある、黒地に金で龍の紋章の描かれたケース…カードデッキを握り、彼はその戦いの中で定められなかった願いを決める。
「…許してくれとは言わない…お前の為とは言わない…これはオレの…単なる自己満足だ…ただの我侭だ…。でも、一つだけ許されるなら、頼む…生きてくれ…ミク。」
彼の部屋に有るベッドに彼女を寝かせる…。死んでいる彼女は眠っている様だった…イヤ、それを死ではなく、眠りにする為に彼は殺し合いの場へと向かう…。
そこに残っているであろう者達は想像出来る。
最低でも自分を含めて、最後の一人……13人目を除いた四人。最後に戦うであろう者達は全員が互いの事を知っている。
全ライダーの中で最強の火力を持つ猛牛のモンスター『マグナ・ギガ』と契約した碧色の銃士『仮面ライダーゾルダ』…『北岡 秀一』
全ライダーの中で最も狂気を纏った三体のモンスターを従え、その狂気により一つへと束ねた紫の狂戦士『仮面ライダー王蛇』…『浅倉 威』
そして、
古い教会…現実世界に溢れるモンスターの大群の中を歩き、彼は最終決戦の場であるそこに辿り着く。
「…遅かったな…オレの一人勝ちだって、思ったぜ。」
最後の一人…先客である輝と同年代程度の高校生と思わせる黒いコートの青年『北川 カズヤ』、『仮面ライダー騎士―ナイト―』は教会の中に入ってきた輝にそう声を掛ける。
「…カズヤ…オレを庇って、ミクが死んだ…。」
「そうか。」
黒いコートの青年、カズヤはそう言葉を返す。
「オレ、願いが決まったよ…ミクを助ける…あいつには生きていて欲しい…オレが恨まれても、オレが死んでも…あいつの居ない世界なんて…オレには、何の価値も無い。」
輝の言葉を聞いて、カズヤは『クックックッ』と笑い出した。
「皮肉だな…ゲームマスターである最後の13人目…そして、オレとお前…結局、みんな同じ願いとはね…。」
「そうだな。」
皮肉にも最後まで生き残った彼等三人の願いは全て同じ、『大切な者の生』
「…あの二人は…? 王蛇とゾルダが生き残っていた…。」
「あの二人の闘いの勝者は王蛇、その王蛇もその後に現実で死んだ…お前と戦ってたシード選手の12人目はどうした?」
「…リュウガは消えた…あいつはオレだ。オレの影…光(龍騎)と影(リュウガ)は一人の『アキラ』になった…。最後に残っているのは…オレとお前とオーディンだけだ。」
「そうか。」
彼は腕時計に視線を移す。
「…無駄話はこの辺にして、タイムリミットまで時間が無いし…13人目の邪魔が入る前に始めようぜ…オレ達の決戦。」
「ああ…。オレとお前の戦いだけは…誰にも邪魔はさせたくない…。」
二人はポケットの中から黒いカードデッキを取り出す。金で掛かれた龍と蝙蝠の紋章が刻まれたそれはとても小さいが何よりも重い。
最初は忌み嫌う力の象徴でしかなかったが…今ならば、その力、もう一人の自分『仮面ライダー龍騎』を受け入れられる。
二人は今までの戦いを思い出すように暫く目を閉じていると、決意とともに目を開き、カードデッキを鏡へとかざす
「「変身!!!」」
鏡の中に映る彼等の姿はそれぞれ、輝は真紅のスーツの戦士へと、カズヤはダークブルーのスーツの戦士へと変わる。
鏡の中に飛び込んだ二人の戦士、『仮面ライダー龍騎』と『仮面ライダーナイト』は相手から距離を取り、ドラゴンの頭を象った手甲型のカードリーダーと蝙蝠を象ったレイピア型のカードリーダーに同じカードを差し込む。
『『ソードベント』』
無感情で無機質な声が響き、龍騎の手の中に一本の剣が…ナイトの手の中に一本の槍が現れる。
『『ガードベント』』『『アドベント』』
二枚目、三枚目となるのも同じカードだった。龍騎の両肩に盾が現れ、ナイトの背中にマントが現れると二人の背後に紅い龍と黒い蝙蝠が現れる。
相手を威嚇するような龍と蝙蝠の咆哮が響く中、二人の戦士は武器を構え、睨み合いを続ける…二人の中に迷いは無い、決心はついていた…友を殺す事への…。
二人の戦士は、ほぼ同時に武器を構え駆け出した、二人の戦士の殺し合いが始まる。
龍騎の振り下ろす剣『ドラグセイバー』とナイトの持つ槍『ウィングランサー』が激突する。それと同時に二体のモンスターの戦闘も始まっていた。
龍騎の剣がナイトの体を薙ぎ、ナイトの槍が龍騎の腕を刺し、龍の炎が蝙蝠を焼き、蝙蝠の高速の体当たりが龍を砕く…。共に致命傷を与えられぬまま、ボロボロになった龍騎のドラグセイバーが砕け、ナイトの半分に折れたウィングランサーが床に落ち、レイピア『ダークバイザー』も刃が折れ、武器としての機能を失っている。
二人は決意と共に決着を付けるべく、互いの切り札たるカードをデッキから取り出す。お互いに背中を預けて戦ってきた友で有るが故にお互いの手の内は、他の誰よりもよく分かっている。
そして、そうであるが故に決着を付ける事が出来る方法は互いにその一手のみしか、存在していないのだ。
二人は相手に自分の取り出したカードを相手に翳す。赤と青に互いに対象の翼が描かれたカードを翳すと同時に龍騎を炎が包み、ナイトを風が包む、互いの間では炎と風が拮抗している…。
龍騎の『ドラグバイザー』が銃型の『ドラグバイザーツバイ』へと変わり、ナイトの『ダークバイザー』が盾の中に収められた剣の『ダークバイザーツバイ』へと変わる。
『『サバイブ』』
炎と風が散り、カードデッキが真紅と蒼に染まり、二人のライダーは新たな姿『サバイブ』へと進化し、同時にモンスターも『ドラグレッダー』『ダークウィング』から新たな姿『ドラグランザー』『ダークレイダー』へと進化する。
『『ファイナルベント』』
二つの無機質な音が響き最後の一手を切った…。彼等には目の前の友を倒した後に控える最強の敵との戦いが残っているがそんな物は関係ない。二人のライダーは自身のモンスターの背に乗り、相手に向かうと同時にモンスターはバイク型に変化する。
そして、ナイトサバイブの『疾風断』と龍騎サバイブの『ドラゴンファイヤーストーム』…風と炎を纏った二体のモンスターと二人のライダーは激突した。
爆発、爆炎…二体のモンスターは力を失い大地に落ち、彼等の戦っていた教会は二人の最強の一手の激突により、すでに原形を持っていない一つのクレーターと化していた。
爆炎の中で相手の姿が見えない中、龍騎サバイブ…輝は十代後半と言う心身の成長期に経験してきた一年間の戦いによって養われた直感によって、自身に近づく何かを感知すると意識を完全に確認するために意識を覚醒させるべく、右手で近くに有った何かを手に取る。不運にもドラグバイザーツバイは吹き飛ばされた際に遠くに飛ばされてしまっていたのだ。
龍騎サバイブの意識が現実へと戻った瞬間、視界を遮る煙の中から飛び出してきたのは、全てを捨ててダークブレードを龍騎サバイブに向けて、突撃して来たナイトサバイブの姿だった…。
戦闘経験では圧倒的に先に戦っていたナイトサバイブに分が有った。龍騎サバイブよりも早く意識を現実に戻したナイトサバイブはファイナルベント同士の激突の衝撃によって吹き飛ばされる瞬間、ダークシールドから分離させたダークブレードを最後まで離さずに持ち続け、龍騎サバイブへとトドメを刺すべく向かったのだ。
それも、相手に気付かれない様に自身に最後の力を振り絞らせる叫び声も上げず、一直線に…。
「グ…。あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
とっさに空いている左腕を盾にして、ダークブレードを受け止めると右手に持ったそれで反撃する。
「ガハッ…。」
生暖かく、粘性のある液体が龍騎サバイブの手を濡らす。彼が握っていたそれは正確にナイトサバイブの心臓を貫いていたのだ。
ナイトサバイブを貫いていたそれは皮肉にも折れたはずの彼(ナイト)の武器『ウィングランサー』の先端の部分だったのだ。
「…お前の勝ちだ…アキ…ラ…。」
ダークブレードから彼の手が滑り落ち、彼の体が大地に倒れると同時に鏡の割れる音と共に仮面ライダーナイトサバイブは砕け散り、カズヤの姿が残った。
「カズ…ヤ…。」
カズヤの体が消滅し、残ったのは彼の持つ蝙蝠の紋章の刻まれたカードデッキだけだった…。
龍騎サバイブはそのカードデッキを拾い、左腕に突き刺さる、彼の残したダークブレードを失ったドラグバイザーツバイの代わりの武器にする為に抜き、油断無く最後の一人の出現に備えた。
『……霧島 輝、生き残ったのはお前か。』
その言葉と共に何の前触れも無くその男…ゲームマスター『神崎 士郎』はボロボロになった龍騎サバイブの前にその姿を現す。
「神崎!!! 終わりにしてやる…ライダーの戦いを!!!」
神崎は金色に鳳凰の紋章が刻まれたカードデッキを龍騎サバイブの前に翳す。
「13人目である、この私、本物のオーディンを倒すことなど出来ない。」
「オーディンは大量生産…お前を倒すまで現れ続ける…そう言う事か…。」
『変身』
神崎の姿が13人目にして、龍騎サバイブと同じく、この戦いの勝者を決める決戦へと残った最後のライダー、黄金の戦士『仮面ライダーオーディン』へと姿を変えた。
『オーディン』…北欧の神話における神々の王の名を冠する金色の戦士は構えを取らず、龍騎サバイブの前に存在していた…。ボロボロの龍騎サバイブとは対照的に金色の美しい姿がそこにある。
「くぅ…。」
ナイトとの戦いで傷つき、ボロボロになった体を必死に動かそうとするが彼の体は動かない、立っているのが限界の龍騎サバイブに対して、無傷である最強のライダー、オーディンは無情にも次の一手を出す。
どこからか出現した杖型のカードリーダー『ゴルドバイザー』に向かって、そのカードを投げると自然にカードリーダーに飲み込まれ、発動する。
『ファイナルベント』
サバイブも含んだ全ライダーの中、全ての攻撃力を凌駕する最強の攻撃力を持つ、オーディンのファイナルベント『エターナルカオス』が龍騎サバイブを飲み込んだ。
「ウ、アァァァァァァァァァァァ!!!」
叫び声と共にエターナルカオスに飲み込まれた龍騎サバイブは龍騎へと戻り、力なく、大地を転がる。
「…もう時間が無い…。」
「そ、そうかよ…。」
限界を超えたはずの力で無理矢理、体を動かし、龍騎は立ち上がり、オーディンを睨みつける。
「フン。」
その光景を見て、龍騎は言葉を失った。
『ファイナルベント』
無情にも、二枚目のファイナルベントが発動したのだ。
「な・・にぃ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
再びエターナルカオスの中に飲み込まれた龍騎は空高く巻き上げられ、地面を転がる。
「に、二……枚目…だと…?」
今にも消えて、死を迎えてしまいそうな意識を必死に繋ぎ止め、途切れ途切れに言葉を繋ぐ。
「粘るな…だが。」
「三…枚……目…?」
「言ったはずだ、この私を倒すことは出来ないと。」
「なる…ほど…な……。お前…本物……の…オーディン…には…この戦いだけしか、使われない…だから、オーディンには制限が無いか…。」
「それは違う、本物のオーディンだけではない、量産型を含めて全てのオーディンのデッキには制限が無い。理解した所で死ね。お前はここでゲームオーバーだ。」
『ファイナルベント』
三度発動したエターナルカオスが直撃する瞬間、黒い影が龍騎に激突し、直撃を免れた。
「なに!?」
オーディンも龍騎もその影を見て言葉を失った…。何故なら、龍騎を助けたのはリュウガの契約モンスター『ドラグブラッカー』だったのだから…。
「なぜ契約もしていないモンスターがライダーを助ける!?」
契約モンスターである『ドラグレッダー』が立ち上がり、『ドラグブラッカー』と共に龍騎を守るように周囲を舞い、ナイトの契約モンスターである『ダークウィング』が彼の背中にマントとして装着される。
「これは…?」
「貴様、リュウガとナイトのデッキを回収していたか。」
リュウガのデッキに対しては覚えが無いが…確かにナイトのデッキは龍騎のデッキが破壊された時のために回収している。
「…オーディン、これで終わりにしてやる!!!」
刃を失いカードリーダーとしての機能以外残していないダークバイザーを拾い上げ、カードデッキから抜き出した二枚のカードをドラグバイザーとダークバイザーに差し込む。
「愚かな。」
オーディンも最後の一撃となる最後の一手を発動させる。
『『ファイナルベント』』
二つのライダーのファイナルベントが激突し、その影響はミラーワールド全域に影響し、その世界に残るモノはミラーワールドを作り出す核たる存在『コアミラー』以外何も無かった…
そして、タイムリミットである、誕生日を迎えた『神崎 優衣』の死を持って、ミラーワールドは消滅…皮肉にも、結末は最初に願った輝の願いどおりになったのだ…それを考えれば、この戦いの勝者は彼ともいえない事は無い…
二つのライダーのファイナルベントが激突する。その影響はミラーワールド全域に影響し、その世界に残るモノはミラーワールドを作り出す核たる存在『コアミラー』以外何も無かった…。
そして、タイムリミットである、誕生日を迎えた『神崎 優衣』の死を持ってミラーワールドは消滅…皮肉にも、結末は最初に願った輝の願いどおりになったのだ…。それを考えれば、この戦いの勝者は彼ともいえない事は無い…。
このライダーバトルの勝者は無く、全てのライダーの死と言う結末しか残らなかった…ここは神崎の手により作り出された幾多あるパラレルワールドの最後の一つ…。
神埼はたった一つ見逃してはいけない物を見逃していた。時を戻し、度重なる、やり直しにより、世界は限界を迎えていたのだった…。限界を迎えた世界にはその軋みとも言うべきずれが現れた。
一つは…『神崎 優衣』の死が三年程早くなった事…。
もう一つは…かつてのライダーバトルの参加者達の多く…特にその中でも中心人物とも言うべき『城戸 真司』『秋山 蓮』と言った人物達の多くの存在が無くなり、代わりの人間が現れた事…。
その二つのずれにより、運命は狂い始めた…。別の世界の歴史での『城戸 真司』の役割を演じていた『霧島 輝』が死ぬ瞬間、第三者が身代わりとなり、戦う事を決意した瞬間、神埼が考えていなかった物が運命を狂わせたのだ。
そう、輝と真司は別の人間だと言う一点が…神崎に死と言う名の終末を与えたのだ…。
ここに…多くの犠牲の元にライダーバトルは終焉を迎えた…。…二度と13ライダーズの戦いは起こる事は無いだろう…。
その戦いに正義は無く、有るのはただ純粋な願いのみ。