The Knight Of DRAGON   作:龍牙

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第十六話

SIDE 輝

 

…目の前で戦っている赤と金…二人の仮面ライダー…その光景は間違いなく現実の光景じゃない…。だって、一人はオレ自身で、もう一人は既に死人になっているはずの相手なのだから。

 

龍騎オレの振るうドラグセイバーを鋏をイメージさせる武器『シザースピンチ』で受け止めている金色の装甲グランメイルにその身を包まれた蟹をイメージさせる戦士ライダー…『仮面ライダーシザース』。

 

それは最初の脱落者であり…………オレが殺してしまった相手。

 

相手の防御を『左腕』に持ったドラグセイバーを力任せに十字を描く様に振るう事によって、弾くと相手の顔に向かってドラグクローを持った右手で殴りつける。

 

その一撃で相手は倒れ、許しを請う様に龍騎オレへと謝っている。その光景の中の龍騎オレは『決着は付いた』とでも言う様な態度でシザースへと背中を向け、立ち去ろうとする。

 

だが、シザースは背中を向けた龍騎オレにシザースピンチを構え後ろから襲い掛かってくる。それに反応し、龍騎オレはドラグセイバーを振るい、シザースを迎え撃つ。それによって二人のライダーの戦いは再開される。

 

そして、シザースが新たにカードデッキからカードを抜き、それを左腕に装備されたハサミ型の召喚機カードリーダー『シザースバイザー』に差し込む。

 

シザースの後ろに現れた契約モンスター『ボルキャンサー』が両腕でシザースを掴み、上空へと投げつける。龍騎オレもそれを迎え撃つようにカードを抜き出し、ドラグバイザーへと差し込む。

 

『やめろ!!!』

 

大声で叫んでも声になってはいなかった。オレはそれを『ボルキャンサー』だけを狙って放った筈だった。だが、ほんの僅か…一瞬だけ、タイミングがずれてしまったのだ。そう………龍騎オレとボルキャンサーを結ぶ直線状に本来なら、不発に終わるはずのファイナルベント『シザースアタック』の軌道が運悪く重なってしまう。

 

『FINALVENTファイナルベント』が外れて無防備なシザースの背中に龍騎オレの『ドラゴンライダーキック』が吸い込まれていく。そして、ボルキャンサーとシザースを巻き込み…………爆散する。

 

そうして、龍騎オレはライダーバトルの最初の勝者になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!? 夢…か。」

 

目を覚ましたオレはそう叫ぶ。何故今になってあの戦いの光景を思い出してしまうのか、今になって思えば………それは予知夢のような物だったのかもしれない。

 

SIDE out

 

 

 

 

 

 

(何やってんだ…オレは?)

 

現在、冷静になった後、つい先日のオリHiME隊との一件の際の自分の行動を鑑みて、心の底から自分の行動を反省中の輝君でした。

 

(…それに何か最近、妙な感じがするんだよな…。なんて言うか………誰かに見張られてるような、そんな感じが…しかも、時々増えるんだよな。)

 

自分が気付いていなくてもドラグレッダーなら気付くだろうと考えつつ、ドラグレッダーへと視線を向けるが、ドラグレッダーから帰ってくるのは『分からない』と言う意思だけだった。

 

自分はおろか、ドラグレッダーさえもその正体どころか姿形さえも掴めない相手。仮にそれが自分の気のせいだったら、それはそれで問題ない。だが…本当にそんな相手が存在しているとすれば…警戒してし過ぎると言うことは無い。

 

(…でも、この感覚は前に…それもここ数日じゃない…ライダーバトルの終盤にも感じたような気が…。…あんまり考えすぎない方がいいか…ライダーバトルの関係者がオレとドラグレッダー以外には…『あのデッキ』以外には存在しないはずだしな…。)

 

『気のせいだろうが、一応、警戒する必要は有り』と考えを纏め上げて、視線を前方に向けると

 

「こーなったら、特ッ訓よッ!!!」

 

明らかに怒っていると言う様子でヒートアップした舞衣がそう宣言していた。話の前半部分は考え事をしていたので聞いていなかったが、その言葉から特訓するらしいのは辛うじて理解できる。

 

「オリHiME部隊だか、Aランクだか知らないけど、あいつらには任せておけないわ!!」

 

「それには同感だな。」

 

舞衣の言葉に頷きながら、腕を組み壁に背中を預けながら今まで考え事に没頭していた輝は彼女の言葉にそう返す。

 

「でもォ……執行部に逆らったら…。」

 

おずおずと茜が手を上げながらそう言うが、

 

「あんなの許せると思う!?」

 

「それに少なくともオレは完全に手遅れだよな…オレは。あれは完璧にケンカ売ったし、間違いなく目を付けられただろうな。」

 

今まで没頭していた考え事の一つはそれなのだ。あれは今になって思うと、完璧に自分が悪い。しかも、それが原因で彼女達にまで迷惑を掛けてしまうと言う可能性も考えずに取ってしまったバカな行動。

 

「今日の放課後から裏山でやるわよ!!!」

 

「今日の放課後から!?」

 

「舞衣がやるなら私もやるぞ!!!」

 

「ん! ミコトはいい子ね!!」

 

「じゃあ、敵役はオレがやる。領域テリトリーから外れなければ問題無さそうだし、オレとドラグレッダーが敵役に回ればいい訓練になるだろう。」

 

「ありがとう、楯先輩! じゃあ、がんばろーね!!!」

 

「ああ。」

 

彼の言葉に嬉しそうに答える舞衣。それを微笑ましく眺めながら、ふと、窓に視線を向けると輝は…。

 

「ッ!?」

 

一瞬だけ視界の中に映った存在に驚いて思わず目を見開いてしまう。

 

「ど、どうしたんですか、楯先輩?」

 

「あ、ああ…なんでもない。」

 

そんな彼の様子を不信に思ったのだろう、舞衣は彼の顔を除きこむようにして、心配そうに聞いてくる。そんな舞衣に対して心配させまいと必死に表情を作りそう答えを返す。

 

後になって思えばその時の輝の顔に刻まれた表情は『幽霊を見た顔』とでも言った所だっただろう…。

 

何故なら、輝が見たのは…すでにドラグレッダー以外にはたった一体の例外を除いて存在しないはずの……しかも、唯一の例外の姿さえも未だ確認していなかった……ミラーモンスターの影だったのだから。

 

一瞬だけの記憶、金色の装甲を持ったミラーモンスターの姿が輝の視界の中に一瞬だけ映ったのだから。

 

輝は授業開始の時間が近い事を確認して教室を出て行く。そして、動揺していた彼は教室に戻ると無造作に自分の机の上に出ていた教科書に気がつき、それを中に押し込んだ。

 

(そう…だ…オレは何も見ていない…。居る筈が無い…居る筈が無いんだ!!!)

 

それが原因で机の中に入っていたある手紙の存在に気付かずに終わってしまう事になるのだが、それはそれで些細なことだろう。そう、それだけで済んでくれれば…。

 

 

 

 

放課後を告げる鐘の音…だが、裏山に有るのは舞衣の姿だけだった…。

 

「………みんな遅いなァ、休憩の時の飲み物まで用意したのに…。」

 

人数分の飲み物が入ったビニール袋を提げながら彼女はそう呟く。

 

「ミコトは牛乳であかねちゃんはクリームソーダ…………。」

 

そう呟いたところで、何かに気が付く。

 

「………そう言えば、楯先輩って何が好きなんだろ?」

 

飲み物や食べ物の嗜好だけでなく、彼が自分の事は何も話さない事に気が付く、特に話題が自分の転校前の事やライダーバトルの事になるとすぐにはぐらかしてしまう事に。前者については仕方が無いと言えば仕方ない、何も知らないのだから…本人も。

 

そう…舞衣は同居人となってからも明の事は知らない事の方が多い事に気がついたのだった。

 

 

 

 

 

さて、その頃の輝はと言うと…

 

「…ここ…何処?」

 

……道に迷って『第四体育倉庫』と書いて有る建物の前にいた…。どうでもいいが、有っても二つくらいと思っていた『体育倉庫』が四つもある事に感心してしまう。規模が大きいと体育倉庫は四つも必要なのだろうか?

 

「完璧に迷ったな。」

 

ふと、後ろを振り向いてみるとそこには目的地のはずの裏山が見える。それによって…途中から目的地とは正反対の方向に進んでいた事に気がつくと、さっさと後ろに振り返って歩き出そうとする。

 

(あまり遅れない方がいいだろう、ごめんで済む範囲じゃ無くなる前に行こう。)

 

「楯 祐一さん?」

 

後ろから聞えてくる聞き覚えの無い声に一瞬の間の後、反応し後ろを振り返ると、そこ…第四体育倉庫の入り口にいつの間にか風華学園中等部の制服を着た少女が立っていた。

 

「…そうだけど…君は?」

 

「中等部三年の結城奈緒です……。すいません呼び出したりして…でも…あたし…その。」

 

顔を薄らと紅く染めて、モジモジとした様子で話す彼女-結城奈緒-に一つの疑問と、微かな違和感を感じ取る。

 

初対面の相手に対してかなり失礼だが、彼女の言動から違和感を感じ取る。そして、彼の疑問とは…

 

「呼び出したって…何の事だ?」

 

「え? て、手紙の事ですけど…。」

 

「………そんなの有ったっけ?」

 

冷静さを失って教科書を机に押し込んだ時、一緒に奥まで押し込まれて、哀れ彼女の手紙は全然気が付かれていませんでした。

 

 

 

そして、暫くの間沈黙と呆然とした空気が流れる…。

 

 

 

先に再起動した輝が彼女に対して感じた違和感から生まれた『近づかれたら拙い』と言う警戒心に従い、彼女から距離を取り始める。

 

それに合われるように奈緒も距離を詰める。それに合わせて輝も距離を開ける。

 

暫くに間それを繰り返すと背中に何かが当たる。体育倉庫の入り口の扉だ…。鍵は掛かっていないのだろう、輝が軽くぶつかっただけで簡単にその扉は開く。

 

幾つ有るのかは知らないが、長い間使われて居なかったのだろう、第四体育倉庫の中には蜘蛛の巣が張られている。そして、輝は体育倉庫の中へと追い詰められてしまった。

 

(ん?)

 

視界の端に光の反射する何かに気が付く、部屋の暗さと位置関係から普通なら見逃してしまうであろう、それに気が付くのは流石と言えば流石だろう。

 

(…何と言うか…蜘蛛の巣に捕らわれた哀れな獲物って感じの状況だな…。)

 

近くに有った蜘蛛の巣を見て、自分もそれと同じ物に引っかかった事を…その獲物が他でも無い自分だと本能的に感じ取る。

 

(はあ……完璧に遅刻だな……。あとで埋め合わせしないと…。)

 

オリHiME隊との一件で迷惑を掛けた上に居候として散々迷惑を掛けている舞衣に対してこれ以上迷惑を掛けるのは避けたかったと考えながら、後で謝罪をしようとそんな事を考えていた。

 

 

 

夕焼けに染まる裏山…そこに有るのはたった一つの人影だけ…

 

「みんな…来てくれると思ってたのに………あたし一人でバカみたい。」

 

悲しげに呟く舞衣の脳裏に浮かぶのは…きっと来てくれると思っていた同居人の顔…。

 

「楯先輩のバカ…。」

 

 

 

 

つづく…

 


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